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2018年2月12日 (月)

続・陸自戦闘ヘリ墜落について(#1350)

前記事(#1349)から続きます。

その後の報道では、事故機のローターヘッド(メインローター取り付け部)は、メーカーで組み立てられたアセンブリを組み付けた状態だったとのこと。

ローターヘッド部の破断が事故の主原因であることがほぼ疑いない以上、部品自体の不良か、組み付け状態の不良があったことは間違いありません。

しかし、現時点ではメーカー側もしくは陸自側の問題かを断定できる状態ではありませんが。


よくもまあデタラメを


事故直後、管理人はたまたまフジテレビのニュースを観たのですが、実に香ばしい大ウソつきが登場しておりました。

”軍事に詳しい”とされる自局の解説委員が登場して、墜落時の映像を見ながらコメントしていたのですが、要約すると、

「テイルローターの機能が失われると、パイロットは操縦棹を前に倒して降下しながら加速して、機体のコントロールをしようとしたかもしれない」と。

資料映像でも、同型機画像のテイルローター部分をアップにして、いかにもそこが主原因の可能性が高いような印象でした。まあ、自局のエラい解説委員様がそう言うのだから、そういう映像になるのでしょうが。

でも、お詳しい方はもうおわかりですよね。前述の通り、テイルローターの機能喪失ならば機体は水平回転を始めますし、事故機はそうならずにすぐに落下を始めている。すなわち、テイルローターが主原因の可能性は無いのです。

なお、解説委員が言う操作とは『オートローテーション』という技術で、これは主にエンジンが停止した場合に、機首を下げてまっすぐ降下しながら速度を上げ、メインローターを風圧で回転させて揚力を得ながら着陸する方法です。

それができれば、かなりの速度で着陸することにはなりますが、人家を避けるなどの操縦は十分可能なのです。

ちなみに、一般的なヘリはメインローターとテイルローターは機械的に連結されているので(事故機もそう)、エンジンが止まればメイン、テイルともパワーがかからなくなるので、トルク反動は発生しません。だからこそ、『オートローテーション』でまっすぐに降下できるのです。

仮に、テイルローターの破損などで機体が回転を始めてしまった場合は、エンジンからローターにパワーを伝えるクラッチを切って、メイン、テールローター両方を自由回転の状態にすることで、『オートローテーション』に入れることができます。

しかし、事故機は水平回転せずに急激に落下を始めているし、それ以前の問題として、頭の上で回転しているメインローターが吹っ飛んだことを、パイロットがわからないわけがない。

この事故においては、パイロットは全く為す術が無かったのです。解説委員の発言は、万策尽きても最後まであきらめなかったはずという、パイロットを擁護するニュアンスがあったのかもしれませんが、事故原因解説としては、噴飯もの以外のなにものでもありません。

要は、映像からわかることを無視したか理解できなかったか(おそらく後者)で、とりあえず『オートローテーション』の半端な、そして全くピント外れの知識をひけらかしただけでしょう。

航空の専門家ではないにしても、解説委員、しかも”軍事に詳しい”とされる人間がこの程度ですよ。それとも、事故原因を粉飾してとりあえずお茶を濁すという、自局の人間ならではの意志でもあったのでしょうか。

何にしても、為す術もなく民家に突っ込んで行く数秒間、乗員の無念を思うと落涙を禁じ得ません。ご冥福をお祈りします。


冷静に考えよう


米軍ヘリの部品落下や異常着陸が続いている最中、今度は自衛隊もかと、誰もが感じるでしょう。

いずれも、機体の整備や運用の問題が根底にあります。それらを是正し、異常事態を根絶しなければなりません。管理人のようなマニアでも、空から何か落ちてくれば死にますし、そんな目には遭いたくない。

なんでこんなことを書くかというと、こういう事故が起こると、マニアは知識をひけらかせるので喜ぶ、という偏見が必ずあるからです。

なにしろ、問題には原因があります。それを正さなければなりません。ただ感情的に米軍が自衛隊がと非難しても、何も解決しません。天災は防げませんが、人災は防げるのです。

こじつけではありませんが、そういう理性的な姿勢こそが、防災の基本だと考えます。

それにしても、これに限らず、一部の『専門家』のレベルの低さには、呆れるのを通り越して悲しくなります。大ウソつきや能力不足の『専門家』をきちんと批判し、ご退場いただくのも我々の声ではありますが、それ以前に、各界の良識ある『専門家』の皆様も、もっと声を上げていただきたいと、切に願う次第ではあります。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2018年2月 8日 (木)

陸自戦闘ヘリ墜落について(#1349)

佐賀県で、陸上自衛隊の戦闘ヘリコプター、AH64D(愛称・ロングボウアパッチ)が民家に墜落して乗員2名が死亡するという、ショッキングな事故が起きました。やはり書かずにはいられません。今回はこの事故の考察と、バカ丸出しの『専門家』について。

航空機、ミリタリーマニアの管理人ですから、かなりマニアックな内容となりますが、基本的にはとてもシンプルなことなのです。


なぜ事故は起きたか


事故の第一報を聞いた瞬間、管理人はローター(回転翼)のトラブルを想像しました。なぜなら、

■AH64型戦闘ヘリコプターは米国を始めとする西側各国で大量に配備されてるが、特に構造、設計上の弱点と言える部分に起因する、ある種の類型的な事故がす多発するようなことは起きていない。

■墜落地点周辺にはに空き地が多いのに民家を直撃していることから、瞬間的に深刻な操縦不能に陥ったことが明らか。

ヘリコプターがそのような状態に陥る原因は、ひとつしか考えられません。それは、ローターの破損です。

そのような事故は、低空飛行時に電線などとの接触によって発生することが多いのですが、報道によればかなり飛行高度があったとのことで、その可能性は排除できました。

そして、近くの自動車教習所で撮影された墜落時のドラレコ画像を見て、それは確信に変わりました。映像から読み取れることは、

■通常の水平飛行をしている最中に突然姿勢を崩し、その後はあたかも“石のように”ほとんどまっすぐ落下し、最後には“木の葉のように”不規則な回転をしている。最初にテイルローター(機体尾部の小回転翼)の機能が失われれば、機体はトルク反動ですぐに水平回転を始めるので、事故機のトラブルはメインローター(主回転翼)に発生し、瞬間的にメインローターが失われたと考えられる。メインローターが機体に残っていれば、竹トンボが姿勢を保つのと同じ原理(ジャイロ効果)により、“木の葉のような”不規則な回転はしない。

ちなみに、トルク反動のわかりやすい例は、回転椅子に座って両手を広げ、例えば時計回りに身体を回転させようとすると、回転椅子は反時計方向に回る、ということです。

ヘリコプターは、メインローターから離れた尾部でテイルローターを回し、メインローターの回転と逆向きにかかる回転力であるトルク反動を打ち消しているから、機体は回転せずに飛べるのです。(二重反転式ローター、圧縮空気噴出式など例外もありますが、トルク反動を打ち消している点で同様です)

■落下の最中、薄い黒煙のようなものが見える。通常のヘリならば、飛散した部品がエンジンカバーを突き破ってエンジンを損傷することも考えられるが、戦闘ヘリであるAH64Dのエンジンカバーは、23ミリ機関砲弾の直撃に耐えられる以上の装甲が施されているので、その可能性は排除される上、破断したローター部品がエンジン吸気口から吸い込まれてエンジンを損傷する可能性も、構造的にまず無い。よって、異常姿勢での急降下によってエンジンへの吸気が乱れ、コンプレッサーストール(異常燃焼の一種)が発生して黒煙が出たものと考えられる。または、急に負荷を失ったエンジンが異常回転して損傷したかもしれない。いずれにしろ、エンジントラブルが原因ではない。

目撃者の証言からも、空中でローターが飛び散ったというものが複数ありました。これらのことから、ヘリにとって最も恐るべき事態、空中でメインローターを失うという、信じられないようなことが起きてしまったことがわかります。


整備不良か?


その後の報道では、事故機はメインローターのマスト(取り付け軸部分)を交換した後の試験飛行だったとのこと。交換した部分にトラブルが起きたのですから、組み付けもしくは部品の不良によって、ローター破断が起きた可能性が非常に高いということがわかります。

手前味噌ながら、専門家ではないただのマニアの管理人でも、これくらいまではわかるのです。航空機に詳しい皆様も、ほぼ同様のご見解になるかと。

しかし、そうではない輩もいるのです。

次回はさらなる考察と、やはり現れたエセ『専門家』についてです。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2018年2月 6日 (火)

スター☆誕生www(#1348)

我々は今、新たなスターの誕生を目の当たりにしてます。その一方で、落ち目の芸人再生への努力も見ることができます。


世の中が求めている?


スターとは、有り体に言えば大衆が求めている姿が具現化したものです。ですから、本来はスター足るべき実力を備えた人間が自然に見いだされ、多くの人が感動、共感、納得することで、いわばボトムアップの形で世に出て来るのです。

しかし一方で、スターの存在によって収益をアップしたい”業界”と、スターになりたいから”業界”にすり寄る人間の存在によって、『スター生産』活動も行われる。

最近の防災関係メディアにおいては、今まさに『スター生産』が成果を上げつつあり、そうなると「バスに乗り遅れるな」とばかりに周囲も後追いに走り、露出が急増することによって”スターらしきもの”が造り上げられる。

そんなのの筆頭が、立命館大学教授、高橋と言えるかと。


魂を売るということ


この高橋、災害・防災関係の報道において、以前から何かとメディアにコメントを求められる存在ではありました。その頃からウソばかり言って、批判の声は常にあったのです。同様の存在として、島村、長尾というのもいます。

この辺りの方々は、科学的には当たり前のことを針小棒大に言って災害の恐怖をアオる、くらいのうちはまだかわいいものでしたが、最近は平気で大ウソをつきます。全く科学的根拠の無いことをいかにも科学の常識のような、ましてや自分の研究成果のような物言いもします。

特に、全くサプライズだった白根山噴火の後がヒドい。例えば高橋は、東日本大震災後に加速した太平洋プレート(これは事実)の摩擦によって地下のマグマが増え、それが白根山噴火に繋がった、というような物言いです。

しかも、年間数cmという太平洋プレートの動きが震災後は30〜40cmになっているという、地球物理学も現実の観測結果もどうでもいい、完全にエセ科学というかほとんどオカルトみたいなことも言う。現役の大学教授がですよ。それが事実ならガチで日本沈没するわw

そもそも、プレートが地下深くに潜ってマグマになるという話自体がデタラメもいいところなのですが、そんなことをしたり顔で断言したりもしています。自分のエセ理論を補強、粉飾するためのネタとして。

要は、インパクトと大衆向けの単純化を求めるメディアの要求に乗っかり、事実も科学も吹っ飛ばして言いたい放題なのです。科学者としての魂を売り飛ばした哀れな『スター』が、また誕生したようです。どうせ使い捨てなんですけどね。

もちろん、管理人みたいな素人だけじゃなく、まともな科学者からは非難轟々ではありますが、『スター』の勢いと露出の前には、正論はなかなか広まらない。


拡大再生産に走れ!


そうなると、メディアはさらに大きな『数字』を生むスターに育てあげようと、大ヨイショ大会が始まる。

なんでも、高橋センセイはここ1〜2年に噴火する可能性のある火山を10も”予言”していて、そのひとつに白根山が入っていたと大騒ぎ。

でもその10火山、元来活動が活発な山と、震災後に火山性微動の増加などが観測された山ばかり。そんなもん管理人でも挙げられるわw 誰も予測していなかった御嶽山の噴火など、もう遠い過去なのです。

でも教授という肩書きと、サプライズ噴火で高まった不安の相乗効果で、『数字』になってしまう。そしてメディアは『数字』の拡大を図るため、セオリー通りにあの『キラーコンテンツ』に走っているわけですよ。

次は富士山か?と。

なんともアホくさい話です。もっとも、当ブログをご愛読いただいている皆様は、こんなアオりネタには振り回されないとは存じますが。

で、白根山噴火後に高橋がスター化の流れに乗ったおかげもあり、島村や長尾といった”メディア芸者”的学者の露出も増えているという流れ。

こうなると、いいかげん甘い汁を吸った本人たちに自重を求めても、どうなるものでもないでしょう。というか、素人としては、大学や他の科学者が、SNSで批判するくらいで放置していることが悲しすぎる。

そんな、メディア芸者の暴走を止めるのは大学や科学者の仕事ではないでしょうが、そろそろなんとかしてくれませんか。


やることやったところもある


皆様は覚えていらっしゃるでしょうか。東日本大震災後しばらく、『巨大地震前には電磁波の放射によって電離層が変化してFM電波の伝播状態が変わる』という理論で、さらなる巨大地震が近いと主張し、盛んにメディアが持ち上げた北海道大学教授がいたこことを。

あの方は、メディア芸者というよりは自分の理論に自信がおありだったようですが、北海道大学側は根拠なしとして公式HPの閉鎖などの措置を取り、その後教授も辞められたようで。

そして現実はやっぱり何も起きなかったわけで、氏の理論は誤りだったことが証明されたわけです。もしかしたら100%誤りではない、そういうことが起きることもあるという可能性は排除できませんが、少なくとも地震予知ができるレベル、こういうことが起きたから近々でかいのが起きる、という話ではなかったわけです。

もう今は、誰も話題にもしない。こうやって、使い捨てられた対象の代わりに、世の中というかメディアは常に新たなスターを渇望しているのです。

でもほんと、なんとかしてくださいよ良識の府の心ある皆様。


長くなりましたので、”落ち目芸人の再生”についてはまた次回に。


■当記事は、カテゴリ【エセ科学・オカルト排除】です。

2018年1月 9日 (火)

新年のごあいさつ(#1347)

今更ながらではございますが、皆様あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

かなり長いこと更新できずにおりましたが、決して自然消滅させたりはいたしません。もし終了する時は、その旨をきちんとお知らせいたします。

これからも、かなりスローペースになりそうではありますが、ぼちぼちと更新して行きたいと考えております。

当ブログは、2012年1月12日に第1号記事をアップして以来、まもなく7周年を迎えます。

正直なところ、これだけ長くやると、ひと通りの内容を書き切ってしまったという感が、無きにしもあらずではあります。

それでも、世に防災の間違い、ウソ、インチキのネタは尽きませんし、状況もいろいろ変化していますので、またボチボチとやって行こうと考えております。

改めまして、本年もよろしくお願いいたします。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2017年10月30日 (月)

【ミサイル攻撃の基礎知識12】できることはごく僅か(#1346)

前回は、核爆発の際に起きることをざっくりとまとめました。今回からは、小説の登場人物の行動を例に、核爆発への対処方法を考えます。


大前提として


これは言わずもがななのですが、実際に核攻撃を受けた場合、爆心から比較的近い距離で被爆したら、何をやってもほとんど無駄、というのが現実ではあります。

爆心付近では、深さ数十メートル以上で、NBC(核、生物、化学兵器)防護性能のある専用シェルター内にでもいない限り、生き残ることはほとんど不可能でしょう。

市販の家庭用シェルターなどではひとたまりもありませんし、仮に最初の爆発を生き残っても、その後の大火災や濃密な残留放射線から生き残ることは困難です。

これから述べる対策は、あくまで爆心からある程度の距離があった場合に効果を発揮”するかもしれない”というものです。

その『ある程度の距離』とは、核爆発の規模や周囲の地形、地物などの状況に左右されるもので、何km離れたら助かる、という話ではありません。

現代の核爆弾は、15〜20キロトン(TNT火薬1万5千〜2万トンと同等の爆発エネルギー量)と言われる広島型原爆の何十倍、何百倍ものエネルギーを放出します。

それはもちろん、爆風の威力だけでなく、熱線や放射線の威力もはるかに大きい、ということでもあります。

マニアックなことに触れれば、最先端の核爆弾は、放射線、熱線、爆風の威力が用途によってある程度コントロールされているものもあります。

しかし、少なくとも現在の我が国に飛んでくるかもしれない核爆弾は、そういうタイプでは無いことは確かです。


ある程度の距離が前提


前記事で述べた通り、核爆発において最初に放出されるのが放射線です。それとほぼ同時に火球が発生し、超高温の熱線が放射されます。そして、音速を超える爆風(衝撃波)と、吹き飛ばされたものが襲ってきます。

広島や長崎で、原爆が『ピカドン』と言われた所以です。火球が放つ閃光がピカっと光った直後に、爆風がドンと襲って来たわけです。

まず、この段階をいかに生き残るか。繰り返しますが、これから述べる方法は、”たまたま”あなたの居場所が爆心からかなりの距離があり、放射線も熱線も爆風も、ある程度減衰した状態で効果を発揮するものです。


ある事実から学ぶ


以下は、広島で起きたひとつの事実です。

爆心から何kmも離れたある学校では、始業前に(広島原爆の起爆は午前8時15分)、教員が職員室に全員集まっていました。

その時、広島市の中心部の方角で、強烈な閃光が発せられました。『ピカドン』のピカです。すると、ひとりを除いた全員が、「何事だ?」とばかりに席を立って窓を見ました。

その数秒後、爆風が襲いました。コンクリート造りの校舎自体は爆風に耐えたものの、窓などの開口部から突入した超音速の爆風が室内を吹き抜けて立ち上がった全員を吹き飛ばし、全滅しました。

その中でひとりだけ生き残った教員は、閃光を見た瞬間、反射的に窓の下に身を伏せたのです。

その教員は、中国戦線での従軍経験があったので、攻撃(らしきもの)を受けたと判断した瞬間、まず遮蔽物の陰に身を伏せるという行動が身についていたために、爆風に吹き飛ばされず、ガラスなどの破片も浴びなかったのです。

加えて、当時は全く意識されていなかったことですが、コンクリート壁の陰に伏せたことで、起爆後1分ほどの間に照射される、強い放射線もかなり遮蔽されていたはずです。

この人の行動が、不時の核攻撃における唯一絶対の対処方法と言っても過言ではありませんが、これも、熱線が致命的ではなくなり、爆風がある程度減衰する距離と、それに耐えた校舎という遮蔽物があってこそだったわけです。

次回は、この事実を前提として、小説の中での防護方法を解説します。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2017年10月16日 (月)

【ミサイル攻撃の基礎知識11】核爆発で何が起きるか(#1345)

ここまで、弾道ミサイル攻撃下における3つのシチュエーションを小説形式で書いてきましたが、小説はここまでにします。

バッドエンドはいくらでも想像できますが、それを描くことにあまり意味は無いし、胸くそ悪くなるだけです。かと言って、下手なハッピーエンドはもっと意味がありませんし。

というわけで、ここからは小説で描いたシチュエーションの解説編とします。

なお、管理人は子供の頃から広島・長崎への原爆攻撃に関する興味を持っており、手前味噌ながら、蓄積した知識は、かつて広島の平和記念資料館を訪れた際、案内の語り部と同等以上の解説ができると感じたくらいではあります。


核爆発の効果


原爆や水爆など、核爆発が起きた場合の被害は、主に下記の6つの要素によります。
■放射線
■熱線
■爆風(衝撃波)
■電磁波 (EMP)
■放射性降下物(フォールアウト)
■残留放射線

それぞれについて、ざっくりと解説します。


放射線


起爆の直後、百万分の1秒から約1分の間に、強力な中性子線やガンマ線が照射されます。

中性子線やガンマ線は生物の細胞を破壊して、死亡または重篤な障害を発生させるため、爆心地付近で強力な放射線の直射を受けた生物は、瞬時に死滅します。

広島型原爆の場合は、爆心から1km程度で直射またはそれに近い状態だった人は、致死量をはるかに超える放射線を瞬時に浴びました。

中性子線やガンマ線を効果的に防ぐ物質は、身の回りのものでは水だけと言っても良いでしょう。厚いコンクリート壁は、中性子線やガンマ線をある程度減衰させる効果があります。


熱線


起爆直後には、いわゆる『火球』が発生します。

広島型原爆の場合、火球は起爆1秒後に直径約280mに拡大し、その中心温度は約100万℃、表面は太陽の表面とほぼ同じ6000℃で、猛烈な輻射熱により、爆心付近の地表温度は3000~4000℃に達しました。

広島では、原爆は『原爆ドーム』のほぼ直上577mで起爆しましたが、火球は最終的に地表にまで達して、猛烈な圧力と高温で、爆心付近のすべての可燃物を瞬時に焼き尽くしました。人間は、文字通り“蒸発”したような例もあったのです。

火球からの輻射熱により、爆心から1.2km程度以下で直射を受けた人間は瞬間的に内臓にまで達する重度の火傷を負い、その多くが死亡しました。

3~4km離れていても、木材が瞬時に黒こげになるレベルで、ほとんどの可燃物が発火、人間の素肌は重い火傷を負いました。


爆風


次に起きるのが、爆風(衝撃波)です。

その速度は音速を超えて秒速440m程度に達し、頑丈な鉄筋コンクリート造りなどの建物以外は、ほとんどのものを吹き飛ばします。破壊され、吹き飛ばされたものは超音速で他のものに衝突し、連鎖的に破壊を拡大します。

頑丈な建物でも、窓などの開口部などから爆風が突入し、内部を破壊します。

広島の『原爆ドーム』は、ほぼ直上のごく近くから爆風を受けたため、屋根と床のほとんどが吹き抜けてしまったものの、垂直の壁だけが辛うじて持ちこたえた状態です。

なお爆心付近は、衝撃波の拡散によって気圧が極端に低くなるため、次の瞬間には爆心に向かって吹き戻す、逆向きの爆風も発生します。 爆心に立ち上るキノコ雲は、この吹き戻しの爆風が爆心で衝突して起きる、強い上昇気流によるものです。

爆風の威力は、爆発の規模によって大きく異なります。現代の核爆弾は、広島型の数倍から数十倍以上の威力を持っていると考えられます。


電磁波


核爆発に伴って、強力な電磁波が発生します。

これはEMP(Erectric Magnetic Pulse)と呼ばれ、これを受けた電子部品は不可逆的に損傷します。すなわち、現代ではあらゆるものに搭載されてる集積回路が一瞬で全滅してしまい、交換する以外に対処方法は無いのです。

広島・長崎の時代には集積回路が存在しなかったので大きな問題となりませんでしたが、あらゆる機器やインフラに集積回路が使われている現代社会では、EMPこそが恐ろしい問題です。

地表近くでの核爆発では、EMPが影響する範囲はある程度局限されますが、上空数万mで核爆発を起こした場合、地上への被害は事実上無いものの、強力なEMPの影響が地表付近の起爆よりもはるかに広い範囲、爆発の規模によっては国家レベルの範囲に影響し、電磁波防護されていないあらゆる電子機器を破壊します。

コンピューター制御によるほとんどの機器やインフラが停止し、迅速な復旧もできなくなった時に何が起きるかは、想像を絶します。


放射性降下物


地表付近で核爆発が起きると、放射能汚染された物質が上空に大量に吹き上げられ、後にそれが広い範囲に降り注ぎます。これを放射性降下物(フォールアウト)と呼びます。

典型的なものが、広島に降った『黒い雨』です。これは核爆発と大火災で発生した強い上昇気流が積乱雲を発生させ、局地的な豪雨となったものです。 その際、上空に吹き上げられた、放射能汚染された塵埃が雨に混ざって降り、黒い雨となりました。この雨により、直接の被害が無かった地域にまで、放射能汚染が広がったのです。

福島第一原発事故の後、上空に吹き上げられた放射性物質が自然の雨に混ざって降ったのも、フォールアウトの一種と言えます。

雨が降らなくても、上空の気流に乗って拡散した放射性物質が広い範囲に降下します。旧ソ連のチェルノブイリ原発事故では、気流に乗った放射性物質がヨーロッパの広い範囲に拡散・降下して汚染が広がりました。


残留放射線


地表付近での核爆発後は、一帯の地物が強い放射能を帯びますので、その地域に留まったり、外から入って来た人に対しての放射線障害が拡大します。

このため、十分な防護装備が無い場合は外部から救援に向かうことも難しくなり、被害を拡大することになります。

■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。


2017年10月13日 (金)

【ミサイル攻撃の基礎知識10】シミュレーション・X day03(#1344)

【ミサイル攻撃の基礎知識09】シミュレーション・X day02(#1343)からの続きです。


破綻


近年は外国人観光客が必ず立ち寄ると言われる人気スポットとなった、渋谷駅前のスクランブル交差点にも、“その時”は突然やってきた。

午後8時過ぎ、その人混みがピークを迎えようとしていた時、街の雑踏を圧するような音量であの警報音が鳴り響き、交差点を見下ろす巨大スクリーンに、黒字に白い文字が浮き上がった。

『ミサイル発射。ミサイル発射。この地域に着弾の恐れがあります。』

青信号で交差点を渡りかけた人々が巨大ビジョンを呆けたように見上げて立ち止まり、ポケットやバッグの中で不気味なうなりを上げるスマホを取り出しては、それが訓練でも間違いでもないことを確かめた。次の瞬間、海外では「なぜ誰もぶつからないのか不思議」と言われる秩序が、一気に破綻しはじめた。

スクランブル交差点上は、呆然と立ちすくむ者、急に走り出す者、逆方向に戻る者、完全に混乱して右往左往する者が入り交じり、ぶつかり、押し退け合い、転び、叫び、つかみ合った。

歩行者信号が赤になってもパニック化した群衆は道路上に留まり、我先に突っ込もうとする車のホーン音が渦巻いた。

多くの者は広大な渋谷地下駅へ逃げ込もうとして階段に殺到したが、混乱を極めた階段の前は、ほとんど前へ進むことができなくなっていた。


衝突


道玄坂では、スマホの警報を聞いた人々が坂の両側に並ぶ店から飛び出して車道上にまであふれ、ここでもホーンの嵐になった。

一部の者は、道玄坂上の首都高3号線の高架下や、国道246号を挟んだセルリアンタワーに逃げ込もうとして坂を駆け上がり、また一部はマークシティビルに続く登り坂に殺到し、また一部は道玄坂下のビル群に逃げ込もうと坂を駆け下り、無秩序の流れがあちこちで衝突した。

公園通りでは、坂下のビル群に向かおうとする者と、坂上の代々木公園やNHKに逃げ込もうとする者の流れが衝突した。

ビルの上階にいた者は、その多くが地下を目指した。エレベーターは無理に乗り込もうとする者で定員超過となって動かず、階段に殺到した。

しかしほとんどは階段にたどり着くことさえかなわず、幸運にも階段を降りられても、すでに地下は人であふれ、殺到する者と押し戻そうとする者が衝突し、絶叫が渦巻いた。

誰もが地下、そし“頑丈な”遮蔽物を求めて駆けた。しかし、今回はミサイルの部品が降って来るだけではない。誰もリアルにイメージはできなかったが、核爆発に晒される可能性が高いのだ。


理由


日本本土へのミサイル攻撃に、この時間が選ばれたのには理由があった。

多くの人が自宅、学校やオフィスにおらず、逃げ場が少なく危険物にあふれた繁華街に最も出ている。そしてまだ日が暮れたばかりで、夜明けまで長い時間の暗闇が続く時間帯。

暗闇はそれだけで避難も対処も救援も遅らせ、混乱に拍車をかけて、自動的に被害を拡大する。最も“効率的”に被害を極大化する時間帯、それが今なのだ。

そんなことに気付く者はほとんどいなかったが、少なくとも攻撃者の目論見は、おそらく想像した以上の効果を上げつつあった。

残された時間は、あと2分もない。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2017年10月 1日 (日)

【ミサイル攻撃の基礎知識09】シミュレーション・X day02(#1343)

【ミサイル攻撃の基礎知識08】シミュレーション・X day01(#1342)からの続きです。


呼集


玲奈は、その時東京郊外の自宅にいなかった。

現在は米軍軍属となって米空軍横田基地に勤務している陸自時代の友人を訪ねて、東京の福生市内にいた。

彼女の部屋があるマンションの三階からは基地こそ見えないが、航空機の離発着音がほど近くから聞こえるくらいの場所だ。

そこで玲奈と彼女、そして彼女の友人の米空軍女性メディック(衛生兵)の三人で彼女の手料理を堪能したあと、食後のコーヒーを楽しんでいた。

午後8時過ぎ。基地の方角から、腹の底に響くような重々しいサイレンの音が突然、沸き上がった。三人には、それが何を意味しているのか説明の必要は無かった。皆が弾かれたように立ち上がると、それぞれの行動を始めた。

ほぼ同時に、玲奈以外のスマホから聴き慣れないアラームが鳴り響いた。ふたりは自動配信されたメールを開いて文面を一瞥すると、それでも息を呑んだ。彼女が叫ぶように言う。
「非常呼集だわ!」

メディックは目をむくと、普段の可憐は雰囲気とは似つかない、下品な言葉が口をついた。
「Shit! The command said this is not a drill! What's a hell!」(くそっ!司令部は『これは訓練ではない』って!なんてことなの!)

数秒後、玲奈のスマホからはJアラートの警報音が鳴り響いた。玲奈は文面を見ることもせず、衛の携帯へ何度目かの発信をしたが、やはりもう、繋がる気配もなかった。

でもそれは想定されていた事態であり、衛とは普段からどう行動すべきか話し合っている。だから、衛もやれることはすべてやっているはずだ。


轟音


米軍人であるメディックは、すぐに基地へ向かわなければならないが、軍属の彼女は、その必要はない。

コーデュラナイロン製のグリーンの大きなダッフルバッグを肩にかけて、厳しい表情で玄関に向かうメディックの背中に、玲奈は思わず、日本語で言った。
「どうか、ご無事で!」

すると彼女は靴を履きながら半分だけ振り向くと、軽くウインクをして日本語で言った。
「アナタタチモネ!」

その時、基地の方角から、雷を何百もまとめて落としたような轟音が押し寄せてきた。彼女が基地の方角のカーテンを開けると、思ったよりはるかに近い場所から、オレンジ色の光跡が真っ暗な西の空に向かって伸びて行くのが見えた。

それは数秒おきに次々に輝き、6発を数えた。メディックは玄関のドアを開けながらまた振り向くと、轟音に負けずに、叫ぶように言った。
「That's our patriots.It will save us!」(米軍のペトリオット(ミサイル)よ。私たちを守ってくれるわ!)

でも、最後にひとこと付け加えると、きびすを返して駆け出して行った。
「May be!」(たぶん、ね!)

残された玲奈と彼女は、状況を整理した。横田基地のペトリオットが発射されたということは、ミサイルの迎撃可能範囲からして、基地から半径約30kmの範囲にミサイルが着弾する可能性があるということで、それは核弾頭である可能性が高いのだ。

極東における米空軍の拠点である横田基地は、相手にしてみれば“最優先目標”のひとつだから、最初に狙われて当然だ。だから防御体制も厳重を極めているが、果たして。

弾道ミサイルの命中精度がどれほどのものかわからない以上、下手に逃げ回っても安全性が高まるとは限らないし、それ以前に、そんな時間は無い。ミサイルが迎撃をすりぬけて着弾するとしたら、残された時間はもう3分も無いのだ。


待避


“最悪の事態”になったら、もう何をしても手遅れかもしれない。 でも、生き残れる可能性がある限り、今できることを全力でやるだけだ。怖れおののいている暇は無い。

ふたりはリビングからバスルームに向かった。地震でも竜巻でも、そしてミサイル攻撃でも、この家の中でそこが一番安全であることは、普段から想定している。

重要なポイントは、爆風が突入してくるはずの窓からの動線に対して、バスルームの入り口は横を向いているということだ。

もしここが一般家屋で地下室でもあれば、そこが一番安全だ。しかし爆風による建物の倒壊と、その後高い確率で起きる火災を考えると、脱出できなくなる可能性も高い。

彼女はバスルームに入る前にエントランスへ行ってレインブーツを二足とリュックサックを、クロゼットから取り出した。そして玄関ドアを開くと、ドアクローザーで閉まらないように、ドアと枠の間にスニーカーを押し込んだ。このマンションを爆風が襲ったら、部屋の中を吹き抜けさせて圧力を逃がすためだ。

彼女はリュックサックとレインブーツを、バスルームに持ち込んだ。緑と茶がまだらになった陸自迷彩色のリュックの中には、ふたりで節約すれば2日分になる水と食品やトランジスタラジオ、強力なLEDライトなど通常の防災備品に加え、放射線環境下を移動しなければならない場合に備えて、ツナギタイプのレインウェアと大型の防塵マスクが、それぞれふたり分入っている。

もしここから脱出できなくなってもしばらくは持ちこたえられるし、脱出する際のリスクも、多少は抑えられるかもしれない。

ふたりは、風呂の残り湯が張ってあるバスタブの脇に、身を寄せて伏せた。 残された時間でできることは、ここまでだ。


祈り


玲奈は、すぐ隣で唇を噛んで蒼白な表情の彼女に、少し微笑みながら、言った。
「いろいろ、ありがとね」

彼女は、玲奈の眼をじっと見つめ返したが、言葉が出ない。それでも、しっかりと大きく、頷いた。玲奈の言葉から、深い意味を汲み取ったのだ。

それは覚悟の言葉でもあったが、決して諦めた訳ではない。玲奈は続けた。
「きっと、大丈夫。幸運を、祈りましょう」


【つづく】


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2017年9月28日 (木)

【ミサイル攻撃の基礎知識08】シミュレーション・X day01(#1342)

【このシリーズ最後は、“その日”のシミュレーション小説形式にしました。登場人物は、過去シリーズで(一部の方には)おなじみのふたりです。言うまでもなく、フィクションです】


異変


201X年X月X日夜、岩城衛は西新宿の高層ビルにあるオフィスで、書類と格闘していた。時刻は午後8時を少し回り、それでも今日はそろそろ切り上げなけりゃなと思った、その時。

オフィスに残っている数人のスマホから、あの不気味な警報音が、一斉に鳴り響いた。でも、今年に入ってからも、もう何度目か忘れるくらいで、すっかり聞き慣れてもいる音だった。だからだれもが「ああ、またか」くらいで気にも留めず、仕事を続けていた。

なにしろ、この『頑丈な』高層ビルにいれば、もし本当に何かが降って来ても 、十分に安全な場所でもある。

しかし、フロアのスピーカーから突然流れ出した、これも聞き慣れてしまった無機質な男性の声に、皆が一斉に仕事の手を停めた。ミサイル発射が常態化した頃から、Jアラート警報が発表されると、自動的に館内放送にリンクされるようになっていたのだ。

その日は、“いつも”と違っていた。

『ミサイル発射。ミサイル発射。この地域に、着弾のおそれがあります』


標的


皆が一斉に、天井を見つめた。すぐに席を立って、窓に駆け寄る者もいる。しかし窓の外には、いつもと変わらない、きらびやかな新宿の夜景が拡がっていた。

衛も、デスクに近い東側の窓から思わず外を見た途端、あんぐりと口をあけたまま、固まった。

かなり離れた場所から、オレンジ色のまばゆい光の筋が、空へ向かって伸びて行ったのだ。最初の光から少し間をおいて、2本目、3本目、4本目と続き、6本目を数えたところで、誰かが叫んだ。

「市ヶ谷のPAC3だっ!」

東京、市ヶ谷の防衛省に配備されたペトリオットPAC3ミサイルが、迎撃射撃を始めたのだ。衛の脳裏に、何かの戦争映画で聴いたセリフがよみがえった。

《これは訓練ではない。繰り返す。これは訓練ではない!》

誰もが、自分の置かれた状況を悟った。東京が、狙われている。衛は、今までに何度も報道を聴いたり、関連のブログを読んだりしているうちに、すっかりと身についてしまった知識で、一瞬のうちに考えた。

『市ヶ谷のPAC3が発射されたということは、イージス艦のSM3ミサイルで撃ち漏らしたミサイルが、東京の中心部に向かっているということだ、PAC3が命中しなかったら、東京にミサイル、もしかしたら核弾頭が落ちてくるかもしれない!』

しかも、PAC3は合計6発も発射されたようだ。ひとつの目標に対して2発が発射されるそうだから、東京を焼き尽くそうとしているミサイルは、1発ではない!

衛は、ズボンのポケットからもがくようにスマホを取り出すと、家にいるはずの妻、玲奈のスマホにかけた。しかし全く無音のまま、繋がらなかった。Jアラート警報の発表と同時に発信が激増して、システムがパイルアップしているのだ。あの、巨大地震の時と同じだ。

それでも、衛にはわかっていた。陸上自衛隊出身の玲奈は、こういう場合の対処法は誰よりもわかっているはずだ。衛とも、折りに触れて“本番”ではどうするかを、話し合っていた。

だから、大丈夫だ。できることは、すべてやるはずだ。でも、状況はあまりにも厳しかった。

東京が、複数のミサイルに狙われている。すなわちこれは脅しではなく、本気の攻撃なのだ。となれば、弾頭も“本気”―おそらく核弾頭―が搭載されていると考えなければならない。


Take cover!


衛はすぐさま同僚に声をかけて、オフィスを駆け出した。

衛のいる高層ビルは、中心部が空洞になっている。何度も繰り返した避難訓練の通り、ビルの最も内側の廊下に駆け込み、空洞部に面した窓ガラスの無い壁に身を寄せると、ジャケットを丸めて頭を覆いながら、べったりと伏せた。

あちこちのオフィスからも皆が駆けだして来て、廊下はパニック状態になった。悲鳴と怒号が飛び交う。伏せる場所が見あたらず、呆然と立ち尽くす者もいる。

一部の者は、オフィスの頑丈なデスクをひっくり返し始めた。天板を窓に向けて、その後ろに伏せることで、爆風と破片から身を守ろうとした。

それができない者は、そのままのデスクの下に潜り込んだり、太い柱の陰に伏せたりして、とにかく窓から死角になる場所を探しては潜り込んだ。

ここは高層ビルの45階だ。かなり離れた場所で核爆発が起きても、強烈な爆風と熱線を受けるのは間違いない。

しかし、最初の爆風と熱線の直射さえ避けられれば、生き残れる確率は大きく上がる。その後の放射線や火災などのリスクも大きいが、とにかく頑丈なカバーをとって爆風と熱線の直射、さらには放射線の直撃を、できるだけ避けなければならない。頑丈な鉄筋コンクリート壁は、そのいずれをも効果的に遮蔽する。

広島と長崎の被害を大きくしたのは、原爆投下時には空襲警報が解除されていて、ほとんどの人が地上に出ていたからだ。もしあの時、皆が防空壕に避難していたら、少なくとも人的被害ははるかに少なくなっていたはずなのだ。

ビルの最も奥にあり、窓も無く外部と最も遮断されている非常階段室には、我を忘れた人々が殺到した。決して広くないドア前は我先に飛び込もうとする人で溢れ、怒号と悲鳴の中で、つかみ合いも始まった。

皆が、文字通り“必死”だった。


記憶


日本人ならば誰もが記憶の中に焼き付いている、広島と長崎の惨状。しかしそのほとんどがモノクロームの印象で、赤い血にまみれた本当のことはほとんど誰も知らないし、現実的なイメージは持てない。

ただ、とてつもなく恐ろしくおぞましく禍々しいことが、ついに我が身にふりかかる、それは世界のどこの人々より、よくわかっていた。


東京が、消滅する。残された時間はおそらく、あと2分もない。果たして我々は、生き残れるのか。


【つづく】


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2017年9月15日 (金)

【ミサイル攻撃の基礎知識07】我々ができること(#1341)

2017年9月15日早朝。またもや北朝鮮の弾道ミサイルが北海道上空を航過しました。


ちょっと変わった


今回も、Jアラートのミサイル警報が、東日本の広い範囲に発表されました。

ニュースにもなっていますが、その文言が前回と少し変わっていることにお気づきでしょうか。

そのひとつが、『建物の中や地下に避難せよ』という部分。前回までは『頑丈な建物の中や地下に避難せよ』という表現でしたが、『頑丈な』がなくなりました。その理由とは。もちろん頑丈じゃなくても実は大丈夫、という意味ではありません。

要は、周りに頑丈な建物もなければ地下もない、という場所が大半のために、「どこへ避難すればいいんだ?」という声が多かったのです。

現実には、警報の発表から避難する時間はほんの数分しかないわけで、その間に避難場所を探してわざわざ屋外に出てしまうと、かえって危険です。

ですから、たとえ一般的な家屋でも、屋外にいるよりは確実に危険が少ないので、とにかく建物に入れ、という表現に変わったわけです。


その瞬間、どう動くか


ミサイル警報が発表されてからの数分間、私たちには何ができるのでしょうか。

現実には、我が国の領域に向かってミサイルが発射された場合でなければ、危険はそれほど大きくありません。あくまで、万一の場合を想定した予防的避難、と考えて良いでしょう。

しかし、とにかく時間が無い。大地震の際の初動のように、普段から“こう動こう”と考えておかなければなりません。

これまでの記事で触れた通り、最も可能性が高いのは、空中分解してコースを逸れたミサイルの破片や部品が降ってくることと、それを迎撃した場合に、さらに広い範囲に“何か”が降ってくることです。


破片の威力とは


燃料タンクやロケットエンジン、無力化された弾頭などの“大物”が降ってきても、直撃さえ避けられれば、その被害範囲は限定されます。

むしろ、細かい破片やビスなど多数の“小物”が、広い範囲にばらまかれる方が恐ろしい。


一部の民族などには、お祝いの花火代わりくらいの感じで銃を空に向けてぶっ放す文化がありますが、あの流れ弾が人に当たって被害が出ることがあります。

ライフル弾の重量は約20gくらい。それが空に向かって放たれると、上空で一旦ほとんど速度ゼロにまで減速してから、自由落下してきます。

その速度がどれくらいかというと、秒速数百メートルに達することもあるようで、強力な殺傷力を持ちます。

たった20gくらいの物体が、空気抵抗がある中をそこまで加速するわけですから、たとえビス1本でも、超高空から落ちてきたら殺傷力があるだけでなく、車のボディ程度だったら、場所によっては貫通する威力を持つわけです。

それがバラバラと降ってきたら。現実には、それが一番の脅威だと考えて良いでしょう。

ならば、そこで『生き残る』ためにはどうすれば良いかが見えてきます。


『頑丈』に越したことなし


ライフル弾は、直接射撃したとしても、普通は厚い鉄筋コンクリート壁を貫通することはありません。

ましてや、ライフル弾と重量が同じくらいだとしても、不定形で空気抵抗もさらに大きなミサイルの部品や破片が、ライフル弾以上の貫通力を持つことは無いでしょう。

ですから、まずは地下が一番安全。地上ならば、やはり鉄筋コンクリート造りなどのできる限り頑丈な建物のなるべく内側で、爆風と破片を防げる窓の無い部屋、というのが理想です。

一般的な家屋の場合は、二階よりは一階で、窓が無くて壁に囲まれた部屋が、より安全だと言えます。地震避難と同様に、風呂場やトイレも良いでしょう。

ポイントは、自分の上や周りの壁の数をできるだけ多くとること。

家にあるもので、破片などからの防護効果が最も高いもののひとつは、ベッドのマットレスです。真綿の布団も、小さな破片などからの防護効果がかなりあります。ナイロン綿でも、何重にも重ねることで防護効果がアップします。

屋外ならば、頑丈で厚い壁に身を寄せる、橋や高架の下に入ることなどで、かなり安全性が高まります。現実には、爆風や破片がどちらの方向から来るか予測しきれませんが、できればまず上方をカバーして、さらに水平方向を一方でもカバーできれば、被害を受ける方向を局限することができます。

車の中で、窓ガラスより下の部分に伏せるのも、かなり効果があるでしょう。現実には、直撃される可能性はとても低いのです。

くぼ地や溝の中に伏せるだけでも、水平方向からの危険をほとんど避けられます。あとは、自分の上に何か落ちてこないことを祈るだけです。

周りに何もなかったら、とにかく伏せること。地面にべったり伏せていれば、地上で起きる爆発の衝撃波と飛散する破片を、ほとんど受けずに済みます。

このような行動が瞬時に取れるよう、地震避難の初動と同じく、普段から『ここにいたらこうする』という行動を考えておかなければなりません。

それにしても、戦争状態でもないのにこんなことを考えなければならなくなったとは、我々はなんとも凄まじい時代と地域に生きているのだなと。

でも、それが現実です。

次回は、最悪のシナリオを考えます。


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