家の中の地震対策【10】
今回は、家の中の火災対策です。
「グラっと来たら、火の始末」という標語を見なくなって久しくなります。これが実は危険な行為だということは、すでにかなり浸透しているのではないでしょうか。最近のガスメーターには、強い地震を感じてガスを止める機能が普及していますし、暖房器具にも自動消火装置が当たり前になり、昔ほど地震の揺れによって火災が発生する危険が、かつてほど大きく無くなって来たからです。
それより、歩くのも困難な強い揺れの中で無理に火を消そうとして、煮えたぎったお湯や油をかぶってしまう危険の方がはるかに大きいのはもとより、実際には激しい揺れの中で火を消す行為自体が、かなり困難なのです。これは起震車でも体験できますので、機会があったら是非やってみてください。震度6クラス以上では、ほんと無理です。
管理人が指導するときは、「コンロなどのすぐ脇にいて、地震の最初の揺れを感じてから2秒以内に消火できるならばすぐに消火。さもなくばまず、お湯や油が飛散しないだけの距離まで離れよ」と言います。感覚的には、グラっと感じた瞬間、あ、火消せないと感じたら、まず逃げちゃいましょう。その場合どこへ逃げるかということも、普段から考えて、実際に何度も動いておきましょう。日ごろから意識と訓練をしていないと、反射的に身体が動かないものです。
17年前に発生した阪神・淡路大震災では、同時多発的に火災が発生し、広い範囲を焼き尽くしました。午前5時46分の発災から15分の間に発生した火災は、46件と言われています。
この写真からも、火災が同時多発的であったことがわかります。
当時の神戸市消防本部の同時火災対応能力は10件とされていましたから、その時点ですでに能力の約5倍で、火災はさらに増加して行きました。しかも激しい渋滞によって消防車が現着できず、断水によって消火栓もほとんど使えず、現着しても遠くの水利からホースを引かなければなりませんでした。伸ばしたホースが道路を渡る部分では、車に踏みつけられて水が止まったりホースが破れたりするトラブルも多発し、さらに消火活動を困難にしました。(現在は、車がホースを乗り越すためのスロープが装備されています)
そしてほとんどの消防隊は、現場急行の途上で周辺住民から人命救助の要請を多く受けたため、神戸市消防本部は活動方針を変更、人命救助優先の体制を取ったのです。このため多くの火災は、下画像のように燃えるに任せられる結果となりました。もっとも、そうでなくても全く対応できない火災の方がはるかに多かったのです。
このような状況は、大都市圏で巨大地震が発生した場合、確実に繰り返されることになるでしょう。根本的な解決策は、存在しないのです。状況はかなり異なりますが、東日本大震災でも気仙沼市を始め多くの場所で、火災は燃えるに任せられました。
阪神・淡路大震災の例で注目すべきことは、まず午前5時46分という時間の発災でも、直後にそれだけ多数の火災が発生したということです。これがもし街の活動が活発な時間帯だったら、さらに多数が発生したでしょう。特に繁華街の状況は、全く違っていたはずです。
そして発災直後の火災の多くが、倒壊家屋からの出火だったことがわかっています。実はここが大きなポイントです。家が倒壊しなければ、火災にならなかったケースがかなり多かったと考えられるのです。つまり家屋の耐震強度アップは、倒壊による犠牲者を激減させると共に火災の発生も抑止する、最も優先しなければならない対策だということです。
倒壊家屋から出た火は、火元に接近することが困難なため初期消火がほとんど不可能というのが、阪神・淡路大震災の火災に関する最大の教訓です。倒壊家屋から一旦火が出ると、消火器程度ではほとんど手がつけられないでしょう。さらに道路の障害や激しい渋滞で、消防の対応はほとんど期待できません。阪神・淡路大震災では、初期消火が可能と思われた火災でも、119番通報したからと放置され、そのまま燃え広がった例も少なくありません。
大地震の時は、消防も救急も警察も「来ない」のです。そんな中では、自力でできることを、できるだけやるしかありません。
それは具体的にはどんなことでしょうか。次回に続きます。
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