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新シリーズを始めます。
これまで当ブログでは、主に防災用備品や建物の地震対策について解説してきました。続いて、新シリーズで取り上げるのは「行動」です。大規模地震に遭遇した時にどのような行動をすれば「生き残る確率」が上がるかを、都市生活の様々なシチュエーション別に考えて行きます。
タイトルは敢えて「首都圏直下型地震・・・」としていますが、これは予告でも書いたような“あざとい”理由(笑)に加え、なにより首都圏直下型地震がもっとも大きな被害が想定され、被災する人の数も最も多くなるという理由からです。しかし内容的には、どこの都市部でも共通するものになります。
現実的な問題として、大地震に襲われる都市の規模が大きいほど、「生き残る」条件はよりシビアになって行くのです。世界一のモノとヒトの集積地である我が国の首都圏が大地震に襲われたら、そこにいる人々は世界最大の危険に晒されると言っても過言ではありません。
気休めは言いません。ひとつ間違えれば生き残れない、いや間違えなくても生き残れないことがあるのは、東日本大震災を始め、過去の大災害を見れば明らかです。運ひとつに左右されることも多々あります。そのようなシビアな状況の中で、いかにして「生き残る確率」を上げて行くかが、このシリーズのテーマです。
大災害時の都市は、普段の取り澄ました仮面を引き剥がされた、情け容赦無いサバイバルフィールドです。その中をいかにして安全圏まで脱出するか。語弊を怖れずに言えば、これは命懸けのゲームです。ゲームに勝つためには情報、アイテム、経験値、体力、戦闘力が必要であり、それらなくしては生き残れません。ゲームと違うのは、プレイヤーの予備はおらず、魔法や呪文は何一つ使えないということです。
怖れるばかりでは、何も変わりません。都市に生きる覚悟を決めて、「生き残る」方法を考えましょう。
次回は最初のテーマ、すべての状況に共通する「屋外に逃げるべきか、否か」について考えます。
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本日午後8時00分ごろ、岩手県沖、深さ10kmを震源とするマグニチュード6.4の地震が発生し、宮古市などで最大震度5弱を記録しました。
この地震は、東日本大震災本震の余震と考えられます。震央の位置は、2011年3月11日の午後3時8分、つまり本震の22分後に発生した、マグニチュード7.4の余震とほぼ同じです。
2分後の午後8時02分ごろには、この地震の余震と思われるマグニチュード5.1の地震がほぼ同じ場所で発生し、栗原市などで最大震度4を記録しました。
マグニチュード9.0という人類観測史上4番目の規模で、南北500km近くに及ぶ震源域で発生した超巨大地震である東日本大震災の影響は、地質学的な時間軸で見れば、まだ始まったばかりです。とりあえず発生直後の激烈な地殻変動は収束しつつあり、余震の発生回数が少し減り始めた段階に過ぎません。そして地殻変動自体は今後20~30年に渡って続きますので、まだまだ安心できる段階では決してありません。
その一方で、震災による大規模な地殻変動に誘発される地震が、東日本を中心として日本列島のどこで起きてもおかしくない状況です。今後当分の間、場所によっては最大でマグニチュード8クラス、多くの場所でマグニチュード7クラスの余震または誘発地震が発生する可能性があります。
なおマグニチュード値が1減ると放出されるエネルギーは約30分の一、2減ると約1000分の一になりますので、マグニチュード8でも震災本震よりはるかに小さく、7になれば別物と呼べるくらいの小さな規模です。しかし内陸直下や陸地近くで発生した場合、東日本大震災本震よりも大きな地震被害を発生させることもあります。阪神・淡路大震災はマグニチュード7.3でしたが、内陸直下の浅い場所で発生したために、あのような甚大な被害を発生させました。
東日本大震災でも栗原市で阪神・淡路大震災と同じ震度7を記録していますが、建物の倒壊はあまり発生していません。これは、震源との距離、震源域の広さが「内陸直下型」である阪神・淡路大震災とは異なっているため、揺れ方が大きく違っていたからです。
阪神・淡路大震災では周期1~2秒という浅い内陸直下地震特有の短周期の速い揺れ、通称「キラーパルス」という揺れが発生し、それが建造物に強い共振現象を発生させて、大きな破壊力をもたらしました。東日本大震災では、それよりも短い周期と長い周期の揺れの成分が多かったために、建物に対して大きな破壊力を及ぼさなかったのです。
一般に、地震は震源からの距離が遠くなり、震源域が広くなるほど、揺れの周期が長くなります。東日本大震災は多数の地震が短時間のうちに集中的に起きたため、短周期から長周期までの様々な揺れの成分が混ざっていましたが、「キラーパルス」が強く発生しなかったために、建物被害が非常に少なくて済んだという面があります。
一部に、「震度7」という尺度だけで阪神・淡路大震災と東日本大震災を比較し、東日本大震災での地震被害があまり多くなかったことを指摘して、誇大発表だの事実が歪曲されているのだの、しまいには陰謀が行われているだのというくだらない主張をする輩がおりますが、科学的には何も不思議なことではありません。
「震度」とはあくまで主観的な揺れの目安に過ぎず、震度が同じなら必ず同程度の被害が出るというものではありません。震源の位置などによって、揺れ方は大きく変わり、地上への影響も様々なのです。一番恐るべきは阪神・淡路大震災のような「内陸直下型」地震であり、少し前に「4年以内に70%」で騒ぎになった首都圏内陸地震とは、それと同じようなことが関東で起こるかもしれないということで、非常に危惧されてるわけです。
余談が長くなりましたが、東日本大震災の影響は「現在進行形」の真っ只中であることを、決して忘れないでください。
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これから「首都圏直下型地震を生き残れ!」シリーズと、「宮城・震災から8ヶ月の光景」シリーズを始めます。
「首都圏直下型・・・」シリーズは、敢えて首都圏直下型というネーミングにしていますが、内容は首都圏に限らず、都市部における大地震に対処するための準備、行動などを、シチュエーション別に解説するシリーズです。正直なところ、あざといタイトルにしたという部分ももありますが(笑)、埼玉県南部在住の管理人にとっても他人事ではありませんから、半端はやりません。
「宮城・震災から8ヶ月後の光景」シリーズは、管理人が昨年11月初旬に、宮城県の被災地を訪ねた際のレポートです。既にメディアにはほとんど乗らなくなっている状況をご覧ください。震災からは1年、管理人の訪問から既に5ヶ月近く経っていますが、状況は今でもほとんど変わっていません。雪に閉ざされる直前の、被災地の姿です。写真とYoutube動画でお送りします。
その他、随時いろいろな記事を織り交ぜて行きます。ご期待ください。
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今回で「家に備える防災グッズ」シリーズを終わります。
ここまで、家に備える防災グッズとその付帯情報についてまとめて来ましたが、言うまでも無くこれですべてではありません。本文では、「あって当然」と思えるものについては述べていない部分もあります。たとえば、普段から服用している薬品類などは、当然用意すべきものとして触れていません。ですから、本文にあるものだけを用意すれば良いと言うことではありませんのでご注意ください。
管理人が提唱する「防災グッズの6要素」、■水分、■カロリー、■視界、■防水・防寒、■安全・衛生、■情報と、それに加えて■救護の各要素について、本文の内容をご参考に、皆様それぞれの状況に応じて何が必要かを考えてみてください。ここで標準的な備品リストを出すことは容易ですが、それはあくまで最大公約数的なものに過ぎません。管理人は、「災害対策はオーダーメイドでなければならない」という考えをもっておりますし、自分でセレクトしたものでなければ、いざという時に使いこなせないとも思っております。
災害対策とは、言うまでも無く防災グッズを揃えて終わりでは無く、普段からの意識、行動も含めた総合的なものでなければなりません。それをおろそかにすれば、いざという時にはそれなりの結果を招くだけのことです。皆様が災害対策を考えられる時には、当シリーズ各章に書いた、「その時には何が起きるか」という内容を参考にしてみてください。そして何が起きるか→それを避けるためにはどうすれば良いか→そのためには何があったら良いか、という風に考えて見てください。
最後に、「防災グッズをどこに置くか」という問題について。
基本は、まず「非常持ち出し」と「備蓄」に分けて考えることです。非常持ち出しは、最低でも1日、できれば3日を過ごせる水、食糧を始め、上記各要素に対応するグッズを揃えます。容量や重量は、それを持ち出すであろう人の体力に合わせてください。避難時には、その他にも子供やお年寄りと一緒だったり、手近にあった他のものを持ち出したりすることも考えて、無理の無い分量で。
それを、ある程度の防水性能のあるリュックにつめて、基本的には玄関に置いてください。リュックに限定するのは、両手を空けておくためです。それに、何か不測の事態が起こった際に、背中方向からの衝撃を緩和する有効なプロテクターにもなります。
緊急避難中に他の部屋に入って荷物を取り出したりすることは、事実上不可能です。これは阪神・淡路大震災を始め、過去のあらゆる災害で証明されています。管理人は、地震の際には、一戸建て、集合住宅ともに完全倒壊の可能性が比較的少ない玄関に移動し、ドアを開けて脱出のタイミングを図ることを推奨しています。その時、大抵は目の前にあるものしか持ち出せません。ですから、非常持ち出しは玄関に置いておくことを強くお勧めします。
次に備蓄ですが、建物の耐震強度が低く、完全倒壊する最悪のケースを考えれば、その場合でも外からアクセスしやすい場所に置くことが必要です。基本的にはやはり玄関側の、通りに面した窓の近くなどの、外部からできるだけ到達しやすい場所に、ペール缶、スーツケース、衣装ケースなど、できるだけ強度があってつぶれにくく、防水性能があり、瓦礫の中からでも引き出しやすい容器に入れて置くことをお勧めします。阪神・淡路大震災では、完全倒壊した家の奥まった場所にしまってあったせっかくの備蓄が、全く取り出せなかったという例が多く発生しました。
家の耐震強度が不足していて、完全倒壊の可能性が大きい二階家の場合は、二階の窓の近くに置くべきです。一階が完全倒壊しても二階までがぺしゃんこになる可能性は小さく、外からアクセスできる可能性が大きいからです。耐震強度が高い家の場合でも、家の中がどんな状況になるかわかりませんから、できるだけ外からアクセスしやすい場所に備蓄することが必要です。
なお、耐震強度が低い一戸建て家屋は、一般に開口部が大きい方向である南側の縁側方向、商店などの場合は通りに面した方向へ向かって倒壊する可能性が高くなります。建物は、柱や壁の少ない方向に向けて倒れやすいのです。ですから、できるだけ柱と壁の多い部分、一般には玄関方向が、倒壊時にも比較的スペースが残りやすい部分となります。
最後にもう一度繰り返しますが、災害対策とは防災グッズを揃えて終わりではありません。日頃から、災害に関する正しい知識を集め、その時何が起こるかを正しく知り、それを自分の居場所、行動範囲に当てはめ、その対策を具体的に考えることです。そして、できるだけ実際に身体を動かして訓練してください。実際にやってみないとわからないことが、たくさんあります。
例えば、ちょっと身体が大きめのあなた、普段使ってる机の下に素早く全身が入れられますか?
まず、あなた自身が生き残るためには何が必要で、何をしなければならないか、それが原点です。あなたが生き残らなければ、あなたの大切な人や財産を守ることは出来ないのですから。
【「家に備える防災グッズ」シリーズ・おわり】
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今回は「クラッシュ症候群」への対処方法です。
まず「クラッシュ症候群」が疑われる場合は、最重症患者となります。トリアージは「赤」です。一見元気でも、突然致命的な状態になるのです。とにかく一刻も早く医療機関へ搬送し、医療機関に着いたら、すぐに「クラッシュ症候群の疑いあり!」と伝えます。
医療機関では、点滴によって脱水症状の改善を図ります。理想的には緊急に人工透析を行うべきなのですが、大災害時にそれが可能かどうかはわかりませんし、それは医師の判断です。
では「素人」である我々は、何ができるでしょうか。
まずは、救出したらとにかく水をたくさん飲ませ、脱水症状を改善します。これはもう「飲ませられるだけ飲ませる」ことです。スポーツドリンクなど吸収が早いものならば、より効果的です。そうしながら、医療機関への搬送を急ぎます。
クラッシュ症候群が疑われる場合、医療機関ではすぐに「クラッシュ症候群の疑いあり!」と伝えます。トリアージは「赤」、速やかな処置が必要な最重症患者となります。
もうひとつの対処法は、非常に難しい判断を迫られます。
破壊された細胞からカリウムが全身に拡散するのを防ぐために、壊死部より心臓に近い部位に止血帯を施すのです。しかし、効果的に動脈の血流を止めるのは、十分な訓練を受けていないと困難です。さらに、強い圧迫によって新たに組織の損傷を引き起こしてしまうこともあります。
仮に動脈の血流を十分に止められなくても、体表に近い静脈の血流を止めるだけでも、短時間ならばカリウムの拡散を防ぐ効果はありますが、その時間が長くなると新たな壊死を引き起こして、命が助かっても最悪の場合は手足の切断が必要になるかもしれないのです。
ひとつの基準として、「1時間以内に確実に医療機関に搬送できる場合」は、止血帯を施せというものがあります。しかし大災害下では、医療機関に着いたからといって、すぐに処置が受けられるかどうかもわかりません。混乱と情報不足の中、的確な判断ができる可能性は、非常に小さいと言わざるを得ないのです。
これは管理人の考えですが、「クラッシュ症候群」の発症がほぼ確実で、医療機関へ搬送する目処が全く立たない場合は、「すぐに助け出さない」のも選択肢のひとつなのかもしれません。もちろんその場合は要救護者を保温し、水と食糧を与え、明かりを灯し、すぐそばについて励ます必要があると思います。過酷な選択ですが、むざむざ死なせるよりはましというものです。
余震による二次崩壊の可能性がある中でそのような行動をすることは、とてつもない決意と勇気を必要とすることでしょう。そしてそれが本当に正しい選択なのかは、後になるまで誰にもわからないのです。そのような場合には、二次崩壊をできるだけ防ぐために、危険な場所をジャッキで支えたり、バールや金テコなどを突っ張り棒にするなどで、安全性を上げることができるでしょう。
もし、挟まれているのが自分の大切な人だとしたら。でも、いま助け出したら、急死するかもしれないとしたら。仮に、手足を失っても確実に生き残れるのなら良いのですが、それすらもわかりません。そんな場合の正解など、誰も持ち合わせていないのです。
ならば、少なくとも自宅にいる時にそのような状態にならないように、建物の耐震補強や家具類の転倒防止をしっかりやっておくことが、そんな「究極の選択」から逃れられる、一番確実な方法であるのは間違いありません。
次回は、このシリーズのまとめです。
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今回は、「防災グッズ」に関してではないのですが、災害救護の際に、絶対に知っておかなければならないことについてです。
あなたは、倒壊した建物に生き埋めになった人を助け出しました。要救護者は長い時間手足を挟まれていたものの、意識ははっきりとしていて元気そうです。
挟まれていた部分に麻痺がある他は大きな外傷も無かったので、安全な場所で休ませておくことにしました。ところがしばらくすると意識が混濁しはじめ、そのまま心臓が止まり、死亡してしまいました。
何が起きたかおわかりでしょうか。これが「クラッシュ症候群」(=クラッシュシンドローム、挫滅症候群)です。阪神・淡路大震災では372人が「クラッシュ症候群」と診断され、そのうち50人以上が死亡しています。しかしこれは医療機関で診断された数に過ぎませんので、実際にははるかに多くの人が助け出された後に発症し、死亡した例も多数あったはずです。
この恐るべき「クラッシュ症候群」とは、どのようなものなのでしょうか。
人体、特に手足に長時間に渡って血流が止まるような強い圧迫が加わると、その部分の細胞が破壊されて壊死します。その状態ではすぐに危険では無いのですが、救出されて圧迫が取り除かれると、破壊された細胞に体内の水分が吸収されてしまい、極度の脱水状態から急性腎不全を発症します。
さらに破壊された細胞からカリウム、ミオグロビンなどが回復した血流によって全身に拡散します。すると高濃度のカリウムが、急性的に心室細動から心停止を引き起こすのです(高カリウム血症)。
このように、長時間に渡って生き埋めなどで圧迫を受けていた人が、せっかく救出された後に重篤な状態になったり、死亡する例が多発しました。しかしその教訓は、あまり一般的になっているとは言えません。助け出された命をむざむざ亡くさないために、この「クラッシュ症候群」については、是非覚えておいてください。
では「クラッシュ症候群」を疑わなければならないのは、どんな場合でしょうか。
ひとつの目安として「2時間以上、特に手足に強い圧迫を受けていて、圧迫された部分やその先に麻痺がある」場合です。麻痺とは、感覚が無い、自分の意志で動かせないというような状態です。
圧迫を受けている最中は、意識混濁などの症状が出ないのが普通なので、意識が清明で元気そうだからと安心してはいけません。問題は、圧迫が取り除かれた後なのです。
なお、血中に拡散したミオグロビンにより、赤ワインのような色の尿(いわゆる血尿)が出たら間違い無いのですが、極度の脱水状態になっていて尿自体が出ないことも多いため、これは参考程度と考えてください。
「クラッシュ症候群」が疑われる要救護者への対処方法は、次回へ続きます。
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「救護」編、続きます。
管理人からのひとつの提案として、こんなものがあります。
これは空気膨張式の簡易ギプスです。チューブ状になったビニールバッグに手足の骨折箇所を通し、息を吹き込んで膨張させることで患部を固定する、登山用品として開発されたものです。
足など自分で息を吹き込めない場合に備えて、延長チューブが付属していることからも、これは山への単独行時に負傷した場合に、自分自身で処置するためのものです。簡易ギプスの作り方は「救急ハンドブック」のようなものでは良く見かけますが、実際にはそれほど単純なものではありませんから、こんなグッズで処置できるなら、かなり負担が軽くなります。画像のものは登山用品店やネットショップで入手できます。商品名「応急ギブス君」で検索してみてください。価格は3個パックで2400円前後です。画像の値札は1600円となっていますが、実は管理人がこれを購入したのは10年ほど前なのです(笑)現在、ネットショップで売っているセットは、当時のものと内容も違うようです。
早朝に発生した阪神・淡路大震災での最多死因は、「窒息死」でした。その多くが倒壊した自宅建物に挟まれ、呼吸ができなくなって死亡したものです。しかし、もしこれが昼間や夕方など、市街地が賑わっている時間だったらどうなるでしょうか。
繁華街での建物倒壊、ビルの外壁、看板やガラスの落下、交通機関の重大事故などが発生し、出血を伴う外傷が発生する比率が急激に高まるでしょう。その場合にできることは、事実上「止血」しかありません。そしてその方法は、ほとんどの場合「圧迫止血」しか無いのです。
つまり、出血部を強く圧迫したり、縛ったりすることで止血する方法です。縛ると言っても圧迫のためであり、いわゆる「止血帯」とは異なります。近年では、素人が止血帯をすることは、効果が不十分だったり他のリスクが増すために推奨されていません。しかし圧迫止血も、首や胴体など出血部位によっては不可能ですし、動脈出血している場合は、噴き出す血液との格闘になります。事実上、血液感染防止などとは言っていられません。技術以前に、そのような状態の人に近づくことだけでも、相当な覚悟が必要です。
そこまで厳しい状況でなくても、大半の人は遠巻きに眺めているだけです。これは実際に経験された方も多いでしょうが、管理人が遭遇した事故現場でも、すべて例外なくそうでした。しかしその一方で、誰かが動き始めると、勇気をふりしぼってついて来てくれる人が必ずいました。「なんとかしてあげたい」という気持ちは、大抵の人が持っているはずです。しかし、どうして良いかわからない。
ならば、学んでください。日本赤十字社や消防、各種団体が主催している救命救急講習に参加してください。初級講習を受けるだけでも、命を救う力は飛躍的に高まります。正しい応急処置をして医療機関に引き継ぐことで、救命率の上昇はもちろん、傷病の予後もずっと良くなるのです。もっとも、大災害時には医療機関に引き継げるかどうかもわかりませんが。それでも可能性のある限り、できることはやりたいと管理人は考えています。
次回は、災害救護の際に知っておくべき、非常に大切な問題についてです。
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今回は、特別編「救護」です。
ここまで、管理人が提唱する災害対策の6つの要素である■水分、■カロリー、■視界、■防水・防寒、■安全・衛生、■情報という各ジャンルごとに、備えるべきグッズや関連する情報を紹介してきました。最後に、これはだれにでも必要というものでは無いものの、大災害時には遭遇する可能性が高い、他を救う行為、つまり■救護のためには何が必要かを考えます。
1995年の阪神・淡路大震災では、発災直後に建物の倒壊に巻き込まれた、つまり「生き埋め」になった人の数は、約35000人でした。そしてその77%、約27000人が近隣の住民によって助け出され、残りの約8000人が、警察、消防、自衛隊などに救出されました。近隣住民による相互救援が、最大の力になったのです。東日本大震災でも、結果的に津波の犠牲になってしまったものの、それまで非常にたくさんの人々が、「他を生かすため」に尽力していたことは間違いありません。
これは、見方を変えれば大災害時に自分が無事だった場合、近隣で危険な状態にある人を救護しなければならない可能性が高い、ということでもあります。
大地震の際に最も危惧される倒壊家屋からの救出のためには、まず要救護者を物理的に危険な状態から引き離す必要があります。そのためには、当ブログの「本当に必要な防災グッズ」シリーズの筆頭で述べた、大型バールやジャッキなど、救助器具の準備が必要です。そして救出した要救護者は、多くの場合、傷を負っています。
そこから、「素人」である我々に、何ができるのでしょうか。
基本的には、素人は素人としで出来ることを増やすために、日本赤十字社や各地の消防が実施している、救急救命講習を受講されることをお勧めします。これだけでも、目の前の命を救える可能性が一気に拡大します。
とはいえ、やはり素人ができることはあまりに少ない。具体的には、外傷の止血・保護、単純骨折の固定、心肺蘇生くらいなものです。患部が大きく変形するほどの複雑骨折や、折れた骨が皮膚をつきやぶるような開放性骨折となると、ほとんどお手上げなのです。技術以前に、そのような重篤な傷を処置すること自体が、かなり勇気を必要とすることです。余談ながら、長年バイクに乗っていた管理人は、多くの事故現場に遭遇し、かなり厳しい状況に対応してきた経験がありますが、重傷者を救護するのは、本当に「気合い」がいることなのです。
さておき、大災害時には、基本的には外傷への応急処置技術と用具が必要となります。さらに、特に地震災害において多発する状況に関する重要な知識があるのですが、これについては後述します。
管理人の、非常持ち出し救護セットがこれです。これは出来合いのセットで、特に工夫はしていません。
どこの家庭にも大抵ある、絆創膏、ガーゼ、三角巾、液体傷薬などです。要は傷口の洗浄(消毒ではない)と周囲の清拭、傷口の保護や止血のための圧迫ができるものだけです。なお、救護をするときは、血液感染防止用に「普段持ち歩く防災グッズ」で紹介したラテックス手袋か、ゴム手袋を着用します。
レスキューシートは、要救護者の保温、処置中の目隠しなどの他、非常に重要な使い方があります。それは「空気感染の防止」。傷口が深部まで開いた解放性骨折や表皮が剥がれる第三度以上で広範囲のやけどの場合、空気中の細菌による空気感染の危険がありますので、速やかに患部を覆って、空気との接触を遮断しなければなりません。しかし、ガーゼや包帯などは傷と一体化してしまい、あとではがせなくなることがあるので、レスキューシートのようなものが理想的です。無い場合は、ビニール袋、ポリラップなどでも代用できます。
負傷者の患部を見るときに、衣服を切らなければならないことがあります。ナイフは使用に慣れていないと危険なこともありますので、この場合最適なのは、「キッチンハサミ」です。非常に汎用性が高いので、非常時には是非持ち出してください。専用のものが用意できれば理想的です。
いろいろ考えても、これ以上の用意はいらないのかなと。要は傷の清浄、止血、保護、固定「しか」できないのです。むしろ、そのための資材の「量」が必要になるでしょう。
次回へ続きます。
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いつも「生き残れ。Annex」をご愛読いただきまして、ありがとうございます。
本日3月19日、おかげさまで当ブログのページビュー(PV)が、20000件を突破いたしました。(アクセスカウンターはPC、スマホのアクセスのみ表示)今年1月12日のスタート以来、68日目です。こんな長文ばかりのブログをじっくりお読みいただいている皆様に、心から感謝いたします。
今回は、ちょっとブログの管理画面をご覧いただきたいと思います。
画面撮りの不鮮明な画像で恐縮なのですが、これは1月12日スタート以来の、日別のページビューを現したグラフです。左から1月、2月、3月ですが、ご覧の通り、日ごとに多くの方に読んでいただけるようになって来ました。ありがとうございます。
グラフの緑の部分は当ブログを訪れていただいた方の数、黄色の部分はページビュー数を表していますが、管理人としてとても喜ばしいのは、訪問者数に比して、ページビュー数の伸びが非常に大きいことなのです(もちろん訪問者もどんどん増えて欲しいのですが 笑)
これは訪問者の方が、最近の記事だけでなく過去の記事までたくさん読んでくださっているからです。防災に関する知識を体系的に知っていただきたいと願う管理人としては、たいへんありがたく思っております。今後は、より多くの方に当ブログを訪れていただけますよう、さらに凝縮した内容をお届けして行く所存です。
ここで今後の予定ですが、まず大地震に遭遇する前、遭遇した時、そしてその後の行動をシチュエーション別に考えるシリーズ「首都圏直下地震から生き残れ」(仮)シリーズを始めます。
さらに、管理人が昨年11月に宮城県の被災地を訪問した際のレポート「宮城・震災から8ヶ月」シリーズもお送りします。管理人の被災地訪問から既に5ヶ月近く経ちますが、被災地の様子は、基本的には現在もほとんど変わっていないのです。雪が降る直前の実態をご覧ください。
その他、定番のシリーズに加えて、随時必要な記事をアップしてまいります。今後とも、「生き残れ。Annex」をよろしくお願いいたします。
記事内容にご満足いただけておりましたら、各記事文末にありますアクセスランキングのタグをクリックしていただき、ランキングアップのご支援いただけましたら幸いです。そちらの方も、どうぞよろしくお願いいたします。
本日午前11時56分頃、青森県東方沖、深さ60kmを震源とするマグニチュード4.7の地震が発生し、青森県下北半島で最大震度3を記録しました。
規模的には大したことの無い地震ですが、この地震は発生場所、震源深さ、推定される発震機構などにより、先日3月14日に三陸沖で発生した、マグニチュード6.8のアウターライズ地震と関連がある、言うなれば「対になった」地震と思われます。
東日本大震災震源域付近の模式図をご覧ください。
この図の1番が、14日に発生したアウターライズ地震です。震災によって北アメリカ、太平洋プレートが固着していた部分が破壊され、太平洋プレートの西向きの動き(図では右から左)の抵抗が少なくなって移動速度が上がった結果、図の「アウターライズ」の表面近くが引っ張られて起きるのが、正断層型のアウターライズ地震です。なお「アウターライズ」とは、プレート沈み込み帯の海溝より沖側になる、地殻が盛り上がった部分のことです。
これに対し、太平洋プレートが沈み込む地殻の内部では、プレートの早い動きによる圧縮力が強まり、それによって発生するのが、図では3番の逆断層型スラブ内地震です。今日の青森県東方沖地震は、14日の三陸沖地震の震央に対し、太平洋プレートと北米プレートの接触面を挟んだほぼ反対側(陸側)の深い部分で起きているため、管理人は逆断層型スラブ内地震と判断しています。
なお、模式図ではスラブ内地震が内陸直下で起きているように描かれていますが、海底下で起きることもあります。要はプレート沈み込み帯の陸側の深い部分(50~80kmくらい)で発生するのです。
管理人が何故この地震を取り上げたかというと、このような地震を発生させるメカニズムが、三陸北部沿岸及び内陸から、北海道の太平洋沿岸に連なる震源域を動かす可能性があるからです。津波を発生させるような大規模地震になることもあり得ます。
アウターライズ地震は震源が陸地から遠いために、地上の揺れがあまり大きくなくても大きな津波を発生させることがある一方、スラブ内地震は陸地近くまたは陸地直下で発生しますので、地上の揺れが比較的大きくなりやすいのです。しかし震源が深いために海底の変形を伴いずらく、津波が発生する可能性は比較的小さいものの、もし発生した場合には、短時間で陸地に到達します。
この震源域で震災本震のような巨大地震が発生することは考えられないものの、震災で地盤が沈下し、防波堤も沈降したり破壊されている場所が多い被災地には、2~3m程度の津波でも大きな脅威になります。北海道の太平洋沿岸沖も、過去大きな地震が繰り返されてきた震源域ですので、この動きによって地震が誘発される可能性があります。
北海道の太平洋沿岸も含めて、当分の間は警戒を強める必要があると、管理人は考えています。
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世の中には、地震なんかに備えても仕方ないから何もしないよ、などとうそぶく人が結構います。まあ、それは個人の自由ですが。
でも、ちょっと考えて見てください。今震災では2万人近くの方々が犠牲や行方不明になっていますが、それは被災地人口の何パーセントですか?
阪神・淡路大震災では6434人の方々が犠牲になりましたが、それは神戸市の人口の何パーセントですか?
詳しい数字はさておき、「ごく一部」と言える割合に過ぎないのです。つまり大災害が起きても、「大半が生き残る」のです。
もし、巨大隕石が地球に接近しているとか、どうあがいても生き残れそうに無い状況なら、泰然自若と構えるのも良いでしょう。しかし一般的な自然災害においては、何も対策していなくても、全体から見れば、実は高い確率で生き残れるのです。
そこで、何も備えないとうそぶく人々にお聞きしたい。
あなたが生き残った時、自分は自らの意思で備えを放棄したのだから、備えをしていた人から水や食糧を分けてもらうことまで拒否しますか?生き埋めになった時、救出を拒否しますか?怪我をしても、治療を拒否しますか?
災害に対して、敢えて何も備えないという態度を取るということは、そのような覚悟が無ければやるべきではない。
でも、実際に援助を受けないなどということは不可能でしょう。結局、備えていた人々に負担をかけることになるだけです。心情的には「勝手にしろ」と言いたくても、そうは行かない。
例えば自衛隊は、倒壊家屋一軒の捜索に、約20人を投入します。大変な員数です。捜索場所が一軒増えるごとに、その他の場所で助けを求めている人の救助が遅れて行きます。
そのように、徒手空拳で災害に遭遇することは、近隣の人、救助隊、医療、行政など周囲すべてへの負担を大きくして、本当に援助が必要な人々への手当てを遅らせる結果になるのです。
だから、防災屋としては「勝手にしろ」とは言えない。
ここを読んでいただいている方の中には、そのような考えの方はいないと思いますが、もし周りにそのような方がいましたら、「何が起きても他からの援助を受けない覚悟はあるのか?」と問うてみてください。きっと明確な答えが無いか、場合によっては逆ギレされることもあるでしょう。
でも、それで災害の実際を真摯に考え、できる備えを進めるように変わってくれる方がひとりでもいれば、それが何よりなのですが。
ちょっとうんざりしつつ、独り言でした(笑)
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今回は、「情報」編の最後に、情報の運用について考えます。「防災グッズ」ではありませんが、大切な事ですので、ここで再確認をしておきたいと思います。
まず、発災(読みはハッサイでもホッサイでも可。ハッサイという人が多いかな?)直後に、いかにして家族や関係者と連絡を取るかという問題です。
これはとにかく選択肢を多く持てば、それだけ可能性が上がります。固定電話、公衆電話、携帯電話、IP電話、スカイプ、ツイッター、ミクシィ、フェイスブック等各種SNSなど、回線さえ繋がればいろいろな方法が選択できる時代です。さらに災害伝言板、災害掲示板、Google等のパーソンファインダーなど、災害対応情報システムの使い方も、連絡を取りたい人と相互で打ち合わせをしておく必要があります。選択肢が多いだけに、優先順位を決めておかないと、膨大な情報の中でお互いの情報になかなか行き着きません。
東日本大震災では、東京近郊の音声通話が通常の約40倍、データ通信は通常の約4倍になりました。このため、通信キャリア会社は最大95%の通話規制を行い、システムの致命的ダウンを防ぎました。データ通信では、特に規制は行われませんでしたが、多量のデータの輻輳により、ネットに繋がりにくい状態が長時間続きました。
音声通信は一通話で一回線を占有してしまいますが、データ通信は多数のデータを小さく区分し、一本の回線で高速分割送信する「タイムシェア方式」のため、通信量増加の割にはシステムにかかる負荷は少ないのです。ただ、その後のスマートホンの爆発的普及により、データ通信量も飛躍的に増加し続けていますので、当分の間は、メールやネット接続に関して、今震災時よりも困難になることが予想されます。
そこでハイテクに頼らない、原始的な方法も考えておきましょう。それは「情報集約拠点」の設置、などと言うと大袈裟ですが、要は関係者に伝言を頼んでおくということです。
大幅な通話・通信規制下で繋がる可能性が一番高いのは、被災地から被災していない遠隔地への発信です。普段から遠隔地の実家、親戚、友人などとお互いに情報集約拠点として打ち合わせしておき、どちらかが被災した場合に、被災地の関係者がその拠点に向けて各自の安否を発信し、同時に他の人の安否情報を受け取れるようにしておくのです。これは遠隔地との相互通信が必要になりますので、音声通話か伝言板機能のようなものが必要です。遠隔地というのは海外でも全く問題無いというか、繋がる確率を考えたら、その方が望ましいくらいです。管理人は日本時間の3月11日夜に東京と米国ワシントンD.C.の間で携帯電話からメールを何度もやりとりしましたが、全く遅滞なく送受信できましたし、電話も問題なく繋がりました。
さらに、関係者とのすべての通信手段が失われた場合に備えて、普段から被災時の行動を打ち合わせしておかなければなりません。例えば、「安全が確認されるまで勤務先に留まり、それから歩いて帰宅する」、「学校へ子供を迎えに行き、家にいられない場合は○○避難所、もしくは△△避難所へ移動する」、「安全が確認されるまで、学校で待機する」という様にです。
これは「帰宅困難」対策の基本です。移動の安全が確保されないうちに、関係者の安否を知りたいばかりに帰宅行動を始めるのは、せっかく災害の第一撃を生き残った命を無駄に危険にさらすことです。安全が確認されるまで、とにかくお互いを信じてじっと待つことです。あの3月11日に帰宅できたからと言って、安心してはいけません。あの時は、交通が止まって通信が困難になった「だけ」なのですから。
今震災で知られるようになった教え「津波てんでんこ」とは、時間的余裕が無い津波の際には、それぞれの判断ですぐに逃げろということですが、管理人は「地震てんでんこ」も必要だと考えます。大地震の場合はそれぞれの判断で身を守り、それぞれが安全を確認し、関係者が合流できるまで、それぞれが状況を判断して最適な行動をしなければならないのです。
最後に、ちょっとだけ「防災グッズ」絡みのものを。
通信途絶下で最後にものを言う情報伝達方法は、究極のローテク「貼り紙」です。まず、自宅から避難場所へ移動する際には、自宅玄関ドアに移動する人の氏名、避難所や親類宅等の行先、連絡先電話番号などの貼り紙を残します。これで家族や関係者があとから家に来ても、スムースに行先を知ることができます。
避難場所が決まっていなかったり、詳細を書き残したく無い場合でも、「避難完了」と氏名の張り紙を残せば、近隣の人や警察、消防、自衛隊などが、家の中に人が残っていないことを確認できますので、行方不明者の検索に無駄な時間を取らせません。
そのために用意するものは、油性のサインペンとノート等に、ガムテープです。油性に限定するのは、紙が無い場合にガムテープや壁などに直接書き込めるようにです。また、避難所ではガムテープに名前を書いて名札代わりに服に貼るのが一般的ですので、そのためにも油性でなければなりません。
次回は、特別編「救護」です。
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【シミュレーションストーリー】地震・通勤電車の解説編です。
このシリーズの登場人物は、いつもは誤まった初動をしてしまったために最悪の結果になってしまうのですが、このストーリーの主人公、羽島氏は、特に問題のある行動はしていません。むしろ、安全性が高い部分もあるくらいです。
なお、このストーリーをmixiコミュにアップしたのは2009年8月で、既に携帯電話の緊急地震速報サービスは開始されていました。でも当時は管理人自身が一度も発報を経験したことが無かったため、それに関する記述は含まれていません。緊急地震速報が受信できれば、より早いタイミングで防護行動に移ることができます。
大地震発生時、鉄道はまず「非常ブレーキ」で停車します。このブレーキは、普段のブレーキよりはるかに高い減速度です。さらに激しい震動や線路の変形(=軌道変位)によって、脱線する可能性もあります。その際に発生する急激な「減速ショック」から身を守ることが、最大のポイントになります。
通勤電車でどなたも経験があると思いますが、ちょっときついブレーキ程度でも乗客がドドドっと将棋倒しになりかかることがあります。あるシミューレーションでは、時速80km/h程度からの脱線時に想定される減速ショックがかかると、いわゆる「スシ詰め」状態の乗客が、車輌の長さの三分の二にまで瞬間的に圧縮されてしまうそうです。鉄道車両一両の長さは20m程が多いのですが、その中に詰まった乗客が、一瞬で13m程度にまで圧縮されたらどうなるでしょうか。そしてその中で転んだりしたら。特に車輌の進行方向前半部の乗客は、危険極まりない状態になるでしょう。
一方で、ストーリーでは最後まで書いていませんが、長い編成の電車がすべて高架から落下することは、ほとんど考えられません。このケースでも、最悪でも5両目くらい以降は高架上に留まったでしょう。脱線・転覆する場合でも、長い編成のすべてがひっくり返るという可能性は非常に小さいということは、過去多くの鉄道事故事例からもわかります。
画像は2005年に発生した、JR西日本福知山線脱線事故のものです。時速116kmでカーブを逸脱するという大事故でも、7両編成の4両目以降は線路上に留まっています。つまり、それだけ前方車輌に比べて衝撃が小さかったということです。特に最後尾の2両は脱線もしていません。
つまり地震に限らず、鉄道事故に対する安全性は、編成後方の車輌になるほど増すことが明らかです。さらに車輌後方のドアから乗ることが、より安全性を高めます。
車内では、シートには座れないものと仮定すれば、車輌のドア部分のドア側から二列目くらいまでの間にいるか、車輌のできるだけ後方にいるべきです。急減速時に起きる「人のなだれ」は、車輌中央の通路を中心に発生しますから、ドア付近のドア側にいれば、その流れに巻き込まれない可能性が大きくなります。そして車輌の後半部、できるだけ後ろにいればいるほど、人のなだれに巻き込まれた場合でも、ダメージが小さくなる可能性が増すわけです。
車内がすし詰めで無い場合は、強い揺れを感じたら床に膝を付くくらいに姿勢を低くして踏ん張り、手すりなどに身を寄せてしっかりと掴むことで、急減速時や脱線のショックで飛ばされ、手すりやシート側板などに激突する危険を減らします。
もっとも、もちろん混雑時にはドア付近から車内中ほどにまで詰めるのがマナーですから、「自分だけは生き残る」とばかりに、無理にドア付近に陣取ることなどありませんように。
最後に、余談ながら本文の用語解説を少し。「ラーメン構造」の高架橋という、なんとも言えない語感(笑)の言葉が出てきます。この場合のラーメンとはドイツ語の「枠」のことで、橋脚と橋桁が枠のように一体化した構造のことです。この構造の間を、短い橋桁(ゲルバー桁)で繋ぐ構造が高架橋では良くあるのですが、阪神・淡路大震災では、新幹線や在来線高架橋のゲルバー桁部分が落下したケースが見られましたので、同様の想定をしました。阪神・淡路大震災では新幹線が始発前で、在来線は落橋部分にさしかかる列車が無かったということは、ただ幸運だったとしか言いようがありません。
【おわり】
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今回は携帯電話、スマホ関係です。
管理人は当分の間スマホ移行はせずに、いわゆる「ガラケー」で行くことにしました。スマホの情報量は確かに魅力ですが、こと災害時対応を考えると、個人的にはまだまだ問題が多いと思うからです。次善の策として、Wi-Fi対応のアンドロイドタブレットPCを使用しています。
災害時における携帯やスマホの最大の問題は、停電中にいかに充電するかということ。携帯に関しては、既に手回し式充電器が一般化しています。これは音声通話の場合、ほぼハンドルを回した時間分の通話ができる充電能力がありますし、その便利さは実際の災害現場で証明されています。防災グッズの定番として、できれば一人に一台備えておきたいものです。
手回し式充電器は大抵ライトとラジオが一体になっていますが、他の用途に使っている間にラジオが聴けなくなると、避難生活中には大きなストレスになります。ですから、最低でも一家に2台は欲しいところ。これは阪神・淡路大震災の教訓ですし、おそらく東日本大震災の被災地でも同様だったはずです。電池式のトランジスタラジオと電池の備蓄をしておけば、その問題は解決できます。
管理人は、いつも「電池は入手しやすい単三に統一」をお勧めしているのですが、こと長時間、被災直後にはおそらく一日中聴いているはずの自宅用ラジオと強力なサーチライトだけは、より長時間持つ単二仕様で、そのための備蓄もしてあります。
一方スマホは、以前の記事で「スマホ対応の手回し式充電器はほとんど無い」と書いたものの、ここへ来てスマホ対応充電プラグつきの安価な手回し式充電器が、一気に市場に出てきました。しかし「iPhone」に対応していないものもありますので、「iPhone」ユーザーの方は、購入の際には注意が必要です。なお、スマホも充電プラグが「microUSB」のものに限られます。
なお、対応機種でも、「iPhone」充電時は、安定した電圧を保つためにハンドルを高速で回転させてください」という注意書きがありました。消費電力が大きい「iPhone」の手動での充電は、他のスマホに比べてかなり大変そうです。他のスマホでも、音声通話は「ハンドルを5分間回して、約3分間通話可能」ということで、やはり消費電力の大きなスマホは、携帯より大変そうです。
というわけで、管理人も最新のスマホ対応手回し式充電器を入手してみました。
これは「iPhone」も対応しています。価格は1500円前後
こちらは、「iPhone」対応していませんが、「iPod」、「DS Lite」、「3DS」、「PSP」にも対応しています。価格は1800円前後。どちらもホームセンターで良く見かけるものです。
これで家族共々ガラケーユーザーの管理人も、スマホの人に貸してあげることもできます。例としてはどうかと思いますが、現状は同じ部隊の中に口径の違う銃を持った兵士が混在しているようなもの。しかも威力が大きいものの弾の消費が早い、機関銃の弾だけが補充しずらい状況です。それを改善しないと、非常時には戦力になりません。
とりあえず位置情報の取得やアプリの自動更新など、非常時に必要の無い自動通信機能はオフにするか、必要の無いアプリを削除するかして、できるだけ電池を温存するべきでしょう。最近は外付けソーラーバッテリーなどの電源補助グッズもありますが、比較的安価な定番グッズで考えてみました。
充電に車の電源も利用しない手はありません。車のシガーライター電源を複数に分岐させるカーグッズには、USBコネクタつきのものがあります。カーショップで入手できます。
画像がピンボケで申し訳ありません。USBコネクタつきの充電コードがあれば、携帯、スマホやUSB充電対応機器が車で充電ができます。画像の充電コードは、コンビニで売っている乾電池式の充電器から外したものです。なお購入の際には、念のため充電できる機器を確認してください。
■2016年4月30日追記■
この記事を書いた2012年当時は、管理人はまだガラケーユーザーでした。スマホも、どんどん普及率が上がっている最中で、“大食い”のスマホに対応できる充電デバイスは、ほとんど無かったのです。
現在でも、機構的にはスマホに充電できる手回し充電器はありますが、発電量が少ないので、あまり現実的とは言えません。
A4サイズくらのソーラー充電器でも、スマホをフル充電するのに夏の快晴で十時間以上は必要と言われ、補助用には良いですが、十分とは言えません。
残念ながら、2016年現在では、停電下でスマホを十分に使うための電源は、事実上存在しません。今後、アルコールを使う燃料電池などが普及して来ると思われますが、まだ時間がかかりそうです。
次回は情報の運用についてです。
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気象庁から、本日の二つの地震についての発表がありました。
(以下転載)-----------
発生日時 3月14日18時09分頃
マグニチュード 6.8 (速報値)
場所および深さ 三陸沖(えりも岬の南東、約210km付近)、深さ約10km(速報値)
発震機構等 南北方向に張力軸を持つ正断層型 (速報)
震度 【最大震度5強】北海道釧路町(クシロチョウ)、青森県八戸市(ハチノヘシ)、青森県南部町(ナンブチョウ)、岩手県普代村(フダイムラ)で震度4を観測したほか、北海道から中部地方にかけて震度3~1を観測しました。
津波注意報 青森県太平洋沿岸、岩手県(14日18時12分発表)
北海道太平洋沿岸東部、北海道太平洋沿岸中部(14日18時35分発表)
発生日時 3月14日21時05分
マグニチュード 6.1 (暫定値)
場所および深さ 千葉県東方沖、深さ15km(暫定値)
発震機構等 西北西-東南東方向に張力軸を持つ型 (速報)
震度 【最大震度5強】茨城県神栖市(カミスシ)、千葉県銚子市(チョウシシ)で震度5強、茨城県日立市(ヒタチシ)、千葉県旭市(アサヒシ)で震度5弱を観測したほか、関東地方を中心に、東北地方から中部地方にかけて震度4~1を観測しました。
(転載終了)-----------
午後6時09分の三陸沖地震については、特にアウターライズ地震との表記はありませんが、太平洋プレート沈み込み帯の沖側であるアウターライズ部分で発生していること、震源深さが10kmの正断層型と発震機構も合致していることから、管理人としては、アウターライズ地震と考えて良いと思っております。
以前にもこのシリーズ記事で書きましたが、東日本大震災震源域の南北端に接する三陸北部沖-青森沖及び千葉県北東沖-房総半島沖は、震災による東向きの地殻変動に引きずられるように、東向きの張力がかかっています。そのため今後も長きにわたって、地震が誘発される可能性が大きいと思われますので、警戒すべき震源域と言えます。
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↓ 3/14現在、自然災害系ブログ第1位です。
↓ 3/14現在、地震・災害系ブログ第2位です。
本日午後9時05分頃、千葉県北東沖、深さ10kmを震源とするマグニチュード6.1の地震が発生し、千葉県神栖市で最大震度5強を記録しました。
この震源域では、東日本大震災震源域の南端に接している部分で、震災後ずっと深さ10km程度の地震が群発しています。今日の地震は、今年になってから最大の規模でした。
ここ一ヶ月半程度の間に、茨城県北部内陸及び沿岸部、茨城県南部内陸、千葉県北部内陸、今回の千葉県北東沖で起きる地震の頻度が目立って上昇している中での、この震源域としては最大規模の地震でしたので、一連の活動と何らかの関連がある可能性もあります。
周辺の震源域も含めて、今後の活動を注意深く見守る必要があります。
なお、本日午後6時09分頃の三陸沖の地震とは、震災震源域の南北端付近という共通項はあるものの、直接的な関連は無いと考えられます。
いずれにしろ、関東付近での地震活動は、このところ活発化の傾向が見られます。いざという時のための備えと、取るべき行動を今一度確認してください。
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本日午後6時09分ごろ、三陸沖、深さ10kmを震源とするマグニチュード6.8の地震が発生し、釧路市で最大震度4を記録すると共に、北海道の太平洋沿岸及び牡鹿半島より北の三陸海岸、下北半島の太平洋沿岸に津波注意報が発表されました。
この地震は、震央の位置、震源の深さから、東日本大震災後の地殻変動による、正断層型のアウターライズ地震と推定されます。規模がさらに大きくなれば、「津波地震」となる可能性が大きかった地震です。しかしマグニチュードがそれほど大きくなかったため、津波注意報レベルで済んだようです。
引き続き、東日本大震災震源域の沖側で、アウターライズ地震が起きる可能性が高くなっています。震源が陸から遠いので地上の揺れはあまり大きくなりませんが、震源が浅いため海底の変形を伴いやすく、揺れの割には大きな津波が発生する「津波地震」の正体です。
沿岸部で強めの揺れを感じたら、すぐに避難体制を取り、情報が入手できない場合は、様子を見ずに、ただちに避難行動に移ってください。
詳細について気象庁からの発表がありましたら、続報をアップいたします。
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この物語は、様々な災害に直面し、最悪の結果になって しまった状況を想定したフィクションです。 しかし今回の主人公は、特に間違った行動は取っていません。でも、どのような行動をしていれば、この状況で生き残れる可能性が出てきたかを考えて見てください。
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20××年 12月19日 午後6時20分
東京都板橋区某所
通勤快速車内
羽島孝之 42歳 デザイン事務所代表
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本当に久しぶりだった。小さなデザイン事務所を切り盛りする羽島にとって、いわゆる通勤ラッシュ帯の電車で帰宅できることなど年に数回程度だ。普段は良くて終電近くだし、電車が無くなってタクシーを使うことも、徹夜さえも稀ではない。今日は大きな仕事がアップして、その後時間がぽっかり開いたので、スタッフを早く帰して自分もさっさとオフィスを後にした。久しぶりに子供と話ができそうだ。
東京都心部から埼玉方面を結ぶこの路線は、ひどい混雑で有名だ。今日も10両編成の車内は、どの車両も満遍なく身動きできない程の混雑だ。前から2両目、前の方のドア近くに立っていた羽島は、この電車でどれだけの人数が「家に帰れる」のかぼんやり考えていたが、電車が揺れた弾みで手すりのポールに押し付けられ、胸を強く圧迫されて呻いた。電車は都心部を抜け、郊外の高架橋の上を走っている。あと15分もすれば、羽島の降りる駅に着く。もうすぐ都県境を流れる川を渡る鉄橋にさしかかる筈だ。窓の外はもうすっかり暮れて、遠くの街の明かりがゆっくりと流れて行く。
その時、羽島は電車の揺れとは明らかに異なる、縦方向の重力加速度を感じ、身体がふわっと浮いたような気がした。すぐに今度は下から突き上げられるような強い振動を感じた。車内にざわめきが走る。
「地震だ…大きいぞ!」
揺れはどんどん大きくなり、このままでは電車が脱線するのではないかと思い始めた時、電車に非常ブレーキがかかった。普段、駅に停まる時の数倍の減速度だ。車内の全員がたたらを踏むようなドドドという音と共に、車両の後方から、文字通り黒山のような人の固まりが押し寄せて来た。車内に悲鳴と怒号が渦巻く。何人がが支えきれずに床に転び、後ろから崩れ落ちて来た人の波にのしかかられ、踏みつけられた。ドア近くにいた羽島は、ポールにしがみついてなんとか人の波の直撃は避けられた。このまま止まれれば、助かる…。
運転席では地震発生と同時に、全列車即時停止を指示する運行指令からの無線が飛び込んで来た。
「運行指令から管内全列車運転士、大地震発生、全列車は直ちに抑止、列車防護措置を取れ。繰り返す…。」
運転士は時速80キロから非常ブレーキをかけた。すぐに襲って来た猛烈な横揺れに振り回され、脱線する前に止まれるか自信がなかったが、歯を食いしばってブレーキハンドルを押し込み続けた。
その時、運転士は前方の光景に目を疑い、声にならない叫びを上げた。
「軌道変位!」
まっすぐ続いているはずの高架上の線路が、150メートルほど前方でS字状に曲がっている。さらに目を凝らすと、鉄筋コンクリートラーメン構造の高架橋が、その間を繋ぐ桁の部分で水平に2メートルくらいずれているのが見えた。桁はおそらく大きく破断するか落下していて、線路は約15メートルに渡ってS字状にうねりながら宙に浮いているのだ。
運転士は、落橋している場所までに自分の列車が停止できないことを悟った。おそらく時速40キロくらいで突っ込んでしまう だろう。その時になって、自分の背後の車両から悲鳴と怒号が聞こえて来るのに気づいた。超満員のこの列車が突っ込んだら…。この状況を車掌に連絡し、車内放送する時間の余裕など既に無く、自分自身の逃げ場も無いこともすぐに悟った。
羽島は電車の速度が落ちるのに合わせるように、地震の揺れも収まって行くのを感じた。車内では何人かの重傷者も出たようだが、電車の速度が緩んで揺れが小さくなるにつれて、極限まで高まった不安と恐怖が、なんとかなりそうだという期待に置き換えられつつあった。
その時、先頭車両から、短い警笛が連続して響いて来た。何を意味するかはわからなかったが、その緊迫感から、何か差し迫った危険に対する警告だろうということは想像がついた。羽島は本能的にポールを両手で抱きこむと、衝撃に備えて身構えた。
電車はゆっくりと、落橋部分にさしかかった。すぐに先頭の台車が脱線し、宙ぶらりんの線路から外れてがくんと頭を下げ、その瞬間電源が落ちて全車両の照明が消えた。先頭車両はそのまま後方の車両に押されて前進し、高架から角度を増しながらずり落ち、反対側の高架橋に激突した。先頭車両のすし詰めの乗客は、車両がずり落ちるにつれてどんどん前方に押し込められ、激突した瞬間には激しい減速ショックで車両の長さの3分の2くらいまで瞬間的に圧縮された。車両前方からおよそ人間の声とは思えないような苦痛の呻きが這い上がってくる。そして、状況はさらに悪化していった。
先頭車両はさらに後方の車両に押し出され、ほとんど垂直になって高架橋から転落し、約20メートル下の地面に激突した。羽島の乗った2両目も続いて押し出され、先頭車両に引きずられるように、ほとんど棹立ちになって高架橋から転落して行った。一瞬無重力状態になった暗闇の車内で、羽島は自分の身体が夢の中のように軽々と浮き上がったあと、悲鳴の渦の中へ飲み込まれて行くのを、最後に感じた。
【おわり】
※後ほど、解説編を掲載いたします。
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今回から、「情報」編です。
いきなり一般的でないもので恐縮なのですが、家に備えるものとして、管理人が絶大な信頼を寄せるグッズから。
ケーブルテレビ回線を使った緊急地震速報受信機です。利用のためにはケーブルテレビ契約が必要ですので、どなたもという訳には行きませんが、実に有効なシステムなんです。
何がすごいかというと、そのスピード。管理人宅では、テレビ、携帯電話、パソコンと、このケーブル受信機の4つで緊急地震速報を受信できるのですが、ケーブル受信機の発報速度は、いつもテレビより3~4秒は早いのです。次にテレビと携帯がほぼ同時、その次にパソコンという順で発報します。ケーブルのシステムは常時稼働していますから、いつでも確実に受信できるのも大きなメリット。
発報は合成音声で、こんな感じ。
「ピロロ ピロロ(注意喚起音)地震 震度3 ピロロ ピロロ 地震 震度3・・・・ご・よん・さん・に・いち・・・」
テレビや携帯は震度5弱以上が予想されるときに発報しますが、ケーブルは居住地の予想震度が3以上。さらにテレビや携帯には無い震度予想と、地震波到達時刻を予告するカウントダウン機能があります。
大元の情報は他のシステムと同じ気象庁からのものですが、とにかく反応が早い。地震直前の1秒は、それは貴重なものです。震度3から発報しますから、被害が予想されなくても、発報した瞬間に火を消す、安全な場所に移動するというように、抜き打ちの予行演習を繰り返しながら「本番」に備えることができます。
実際、震災後しばらくの間は鳴りまくっていて、夜など何度もたたき起こされる状態でした。しかしいつ大きいのが来るかもという状態の中、ほとんどの場合で揺れる前に地震の規模を覚知できるのは何にも代え難い安心感でしたし、今は発報の瞬間に自然に行動が起こせるまでに、家族全員が「訓練」されてしまいました。
もちろん震源がごく近い地震の場合は、発報と同時に揺れ始めたり、揺れの方がわずかに先に来ることもあります。でもそれは緊急地震速報システム自体の限界であり、それでもケーブルのシステムが最速であることに変わりはありません。
受信機レンタル料とシステム利用料がかかりますが、併せて月額1500円くらいです。この性能を考えたら、決して高いものでは無いと思います。
どなたも利用できるものではないものの、可能な方には是非ともお勧めしたいシステムです。例によって、管理人はケーブルテレビ屋さんとは一切の利害関係はありません。あくまで自身の経験からのお勧めです。
他に速報の常時受信が可能なシステムとしては、FMラジオの緊急地震速報を受信していて、発報と同時に警報を流す受信機が、数千円程度で市販されています。これは管理人自身が試していないのであまり詳しくは書けないのですが、少なくともケーブルの方がテレビ・ラジオ放送より発報が早いのは確かです。なお、FMラジオ局によっては緊急地震速報に対応していない局もありますので、受信局を選ぶ際には確認が必要です。
次回は、携帯電話、スマホ関係です。
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日頃より当ブログをご愛読いただきまして、ありがとうございます。
おかげさまで、当ブログは昨日3月12日、今年1月12日のスタートの累計ページビュー(PV)が、61日目にて15000PVに到達いたしました(アクセスカウンターはPC、スマホのPV数のみ表示)。
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改めまして、多くのご支援に感謝いたします。
これからも、皆様に本当に役に立てていただける防災情報を厳選してお届けして行く所存です。内容にご満足いただけておりましたら、引き続きランキングタグのクリックにてご支援をよろしくお願いいたします。
「生き残れ。Annex」管理人 てば拝
しばらく滞ってしまったこのシリーズ、再開します。お待たせしました。今回は、トイレとその他の衛生です。
停電、断水した災害被災地で最も問題になるのは、いわゆる「トイレパニック」ですが、その実態はあまり伝わって来ませんし、ものがものだけにビジュアルも出てきません。しかし特に発災直後の避難所では、想像を絶する状況になることは多くの証言から明らかです。トイレがあまりに辛い状態のために、トイレに行くのを少なくしようとして無理に水分を控え、脱水症状や肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)を発症することも、特に高齢者に多く報告されています。
一方自宅避難の場合、断水していても下水道設備が損傷しておらず、雑用水が豊富に入手できれば、それほど問題にはなりません。でも都市部ではなかなかそうは行きません。阪神・淡路大震災では、ビニール袋の中に排便した包みが収集が止まったゴミステーションに大量に出され、臭いも衛生面でも大きな問題となりました。
今でもこの問題を根本的に解決する方法は無いのですが、かつてよりは非常用トイレ資材が入手しやすくなっていますので、やはりこれは必須と言えます。
画像はビニール袋と処理剤がセットされたものと、処理剤のみの、管理人の備蓄方法です。かさ張る箱は捨て、取り扱い説明書の部分だけ切り取って、フリーザーバッグに一緒に入れてあります。ビニール袋付きの方は、非常持ち出し用です。
非常用トイレ資材には、大きく分けて、トイレ容器、ビニール袋、便処理剤がセットされているもの、ビニール袋と便処理剤がセットされているもの、便処理剤だけのものの三種類があります。便処理剤だけのものがコスト的にはぐっと下がりますので、管理人は専用ビニール袋つきを10回分、処理剤のみを50回分備蓄しています。ビニール袋はゴミ袋と共用のものを200枚備蓄してありますが、強度に不安がありますので、使用する時は二枚重ねを考えています。
この便処理剤とは、大抵のものが水分を吸収する高分子ポリマー粉末に消臭、殺菌成分を配合したものです。これを代用できるものを探してみると、ペット用のトイレ資材が使えます。室内犬猫用トイレ砂や、ケージ用トイレシートなどで、コストもそれほど高くありません。ただし、人間用ほど吸水能力や消臭能力が高くないので、同様の効果を期待するなら、それなりに量を使わなければならないでしょう。
管理人は動物好きながら、マンション住まいで飼えませんのでこれらの備蓄はありませんが、室内飼いの犬猫がいる方は、非常用に多めに備蓄しておくことをお勧めします。
さて、ここまでは他でもよく見る話です。では次に専用トイレ資材が無かったり、備蓄を使い果たしてしまった場合に、いかにしてトイレを快適に保つかを考えてみます。
水が流せないトイレでは、何が一番辛いでしょうか。それは匂い。袋や容器はなんとかなっても、匂いはどうにもなりません。阪神・淡路大震災でも東日本大震災でも、避難所のトイレの匂いが居室にまで流れ、避難者はじっと耐えるしかありませんでした。自宅でも、個室に匂いがこもります。停電では換気扇が回らないのです。
トイレ資材の売り文句に、袋に入れて口を縛れば匂いも気になりません、なんて書いてあるのものがありましたが、それ以前が大変だと思うのですが。そこで、絶対に備蓄しておきたいのがこれ。管理人宅には常時3本は必ずあります。
トイレ用消臭スプレーです。これは排泄物の匂いの主成分である硫化水素やアンモニアを中和するもので、その効果は絶大です。避難生活の最大の問題を小さくしてくれることを考えると、これも立派な防災グッズのひとつとして推したいと思います。安売りでは1本200円しない時もありますから、まとめて備蓄をお勧めします。これのある無しは天地の差ですよほんと。普段から使って入れ替えて行けばいいわけです。
これがあれば、ビニール袋だけで排便しなければならない場合でも、随分と快適になります。ちなみに、トイレ用資材が無い場合は、袋の中に新聞紙を入れて、少しでも水分を吸収できるようにします。そして排便後には、【14】で紹介した、塩素系キッチン漂白剤の希釈液を袋の中やトイレ内や便座にスプレーすればさらに消臭効果もありますし、細菌、ウイルス感染対策にもなります。
特にノロウイルス、ロタウイルスなどの感染者が排便したあとにこれらの対策を取らないと、手もあまり洗えない状況ではほぼ確実に感染を拡げることになりますし、インフルエンザも同様です。避難所では、前に使ったのがどんな人かわからないですから、感染防止のために自分が使う前に消毒したいもの。できれば消臭スプレーを持参して個室内も快適に。そうすれば後の人も快適です。
そして前述の通り、生ゴミや排便は密封して、ゴミ収集が再開されるまで自宅内で保管しておかなければなりません。できるだけ生活環境と隔離するために、密封できる容器が欲しくなります。
ペール缶は、便座になるものを乗せればトイレそのものにもなる理想的な容器ですが、容量があまりありません。
容量が必要なら、青くて大きなゴミバケツや、プラスチックの衣装ケースが適当でしょう。
非常時のトイレについては、まだ工夫の余地があるのでは無いかと管理人は考えています。また何か新しいアイデアがありましたら、随時当ブログで紹介しますね。ただでさえストレスフルな避難生活で、トイレが快適かどうかは平常時からは想像もつかない重要な問題なのです。
次回は、「情報」編です。
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再び3月11日が巡ってきて、静かに過ぎて行きました。多くのメディア報道などで、あの時の惨状が、やり場の無い悲しみ、怒り、やりきれなさが甦りました。傷口には、まだかさぶたさえろくにできていません。
あの日に起きた出来事の中でどうしても対比されるのが、いわゆる「釜石の奇跡」と、石巻市・大川小の悲劇です。津波被災区域の小中学生の事実上全員が、「間一髪で」助かった釜石と、全校児童の7割が犠牲になった大川小の違いは、どこにあったのでしょうか。
釜石市では、小中学生に対して自主判断で避難行動ができる教育と訓練が徹底されており、それが完全に機能しました。中学生が指定避難場所の危険性を判断し、小学生を連れてそこを離れ、さらに高台へ移動することで難を逃れたのです。これに対し、引率の教員が思考停止状態に陥り、避難のための貴重な時間とタイミングを逸してしまったのが大川小でした。
大人の責任がどうこうとかは、ここで議論することではありません。純粋に、そこから得られる教訓は何か、ということです。
これは、スポーツ選手が良く言う「練習は裏切らない」という事と、なんら変わりはありません。そして「練習で出来ないことは、本番でも出来ない」、言い換えれば「普段やっていることしか出来ない」という事に過ぎません。ましてや、ただでさえ冷静な思考が難しくなる災害時には。
釜石では、子供達がが必要な知識とスキルを身につけていて、それが機能しただけのこと。普段からの訓練の成果です。それは正しい練習をたくさんやってきたスポーツ選手が、試合に勝つのと同じことです。ですから本来は「奇跡」では無く、「釜石の成功」または「釜石の勝利」とも呼ぶべき事例です。
しかし大川小では、肝心の「チーム監督」である大人が、あまりに強大な敵を前にして思考停止していたことが、あの時その場にいた人の証言から明らかになっています。中学生の野球チームが、プロ野球チームと戦ってなす術が無いように。
しかも逃げ場が無かったのではなく、すぐ目の前に高台があったのです。純粋に「生き残る」ことを最優先したなら、山に駆け上がれば良かった。しかし、大人は校内にいる他の避難者、避難中の事故、保護者への引渡しや責任問題など様々な「大人の事情」に捉われ、判断が出来なくなっていたのです。
練習不足では、試合に勝てません。ましてや、本で読んだ知識だけで試合に臨んだら、完膚なきまでに叩きのめされます。ただ、それだけのことです。
残念ながら、災害対策の世界では、そのような事例は山ほどあります。
家具を「固定しろ」、落下物に「注意しろ」、火災を「防げ」、負傷者を「救護しろ」など、やったことも、現実の状況をつきつめて考えたことも無い人間が、上っ面の言葉だけで「指導」しています。机上の空論の、そのまたコピペがはびこっています。せめて内容が正しければマシなのですが、ウソや間違い、実行不可能なことがいくらでもあります。災害対策は、トリビアクイズではありません。
その程度で満足するかどうかは個人の自由ですが、その結果は「本番」で確実に現れるということが、釜石と石巻の事例が教えてくれる、最大の教訓では無いかと思います。
大災害を実際に経験した人は、全体から見ればごく少数ですし、管理人も経験はありません。しかしそこから得られる経験と教訓を共有し、自分の置かれた状況に具体的に当てはめて考え、実際に対策することで、「生き残る」力は確実にアップします。机上の空論、エセ科学、オカルトで生き残れるなら、苦労はしません。
当ブログ及び管理人は、過去の教訓を最大限に生かした、科学的・実践的な個人レベルの災害対策を目指しています。過去の災害で喪われた多くの命が教えてくれたことは、「行政や他人任せではいけない」ということです。管理人が言う「生き残れ。」は、「自分の身は自分で守れ」と同義なのです。
東日本大震災一周年を機に、改めて防災・減災への気持ちを引き締めたいと思います。
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あの日から、1年という時間が流れました。
でも、流れた時間が長いとか短いとか、復興が早いとか遅いとかいうありきたりなコメントはいたしません。
ただ、私たちはあまりにも多くの命が喪われた現実を直視し、あの時何が起きたのか、亡くなった方々は何を見て、どのように行動し、そしてどうなったのかを詳細に知ることで、再びあの惨禍を繰り返さないための努力をして行かなければなりません。
それが亡くなった方々の「声無き声」を聴き取るということであり、生きている我々の責務なのです。
当ブログ及び管理人は、東日本大震災で命を落とされた皆様への哀悼の念を表し、本日3月11日は服喪の日として更新をお休みいたします。
改めまして、亡くなられた皆様のご冥福を、心からお祈りさせていただきます。
合掌。
「生き残れ。Annex」管理人
SMC防災研究所代表・災害サバイバルアドバイザー・防災士 てば拝
※3月11日いっぱいはバックの色を黒に変更し、哀悼の意とさせていただきます。
【1】から続きます。
関東の地下構造模式図を、再掲載します。
1は、内陸の浅い地震、2は、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界で起きる地震。マグニチュード8クラスの「関東大震災」や「元禄関東地震」はこの部分で発生しています(■注1)。プレート境界型地震は、その他のタイプに比べて規模が大きくなる傾向があります。3は、フィリピン海プレート内で発生する地震(スラブ内地震)、4は、フィリピン海プレートと太平洋プレートの境界で起きる地震、5は、太平洋プレート内で発生する地震(スラブ内地震)です。
このうち、2のユーラシアプレートとフィリピン海プレート境界での発生は除外して、過去100年ほどの間に関東で5回発生しているマグニチュード7クラスがどの部分で発生していたのかを、今プロジェクトで推定しました。
長くなりますのでそれぞれの詳細は割愛しますが、そのうち4回は、プレート内で発生したスラブ内地震と推定されましたが、その中で1894年に発生して東京に大きな被害をもたらした、マグニチュード7クラスの「明治東京地震」は、4のフィリピン海プレートと太平洋プレートの境界で発生した可能性があることがわかりました。プレート境界で起きる地震は、他のタイプに比べて規模が大きくなる傾向がありますので、特に4のフィリピン海プレートと太平洋プレートの接触面で地震が発生するケースが、首都圏にとって最も危険なシナリオということになります。
従来、中央防災会議の想定においては、「明治東京地震」と同様の地震が発生した場合、関東南部の地表の揺れが、最大で「震度6強」と推定し、それを基礎とした被害想定及び災害対策を進めて来ました。では、今回なぜ「震度7」の可能性に言及されたのでしょうか。実は、今プロジェクトの詳細な調査によって、関東の地下構造に新たな事実がわかったのです。
今プロジェクトでは、南関東各地296ヶ所に地震計を設置し、首都圏地震観測網(MeSO-net 、メソネット)を構築しました。多数の地震計で地震波を詳細に観測することにより、地下構造を「CTスキャナーで見るような」断面映像として捉えることができるシステムです。
その解析によると、フィリピン海プレート(上図の緑色の部分)が、東京中心部直下では、従来考えられていたよりも10km浅く、東京湾下では5km浅いことがわかったのです。その前提でシミュレートすると、例えば東京湾北部直下のフィリピン海プレート内及びプレート境界面を震源とする地震が発生した場合、地表の揺れは従来想定されていた「震度6強」ではなく、「震度7」となる可能性が出てきた、というのが今回の発表です。震源の水平位置が同じで、マグニチュード値が同じ地震でも、震源深さが10kmも浅くなれば、地表の揺れは当然大きくなるわけです。
しかし注意しなければならないのは、その東京直下を震源とする地震が起きるか、その震源がどの場所なのか、どのくらいの規模になるかの可能性は、今プロジェクト後でも従来の想定と全く変わっていない、つまり、わからないということなのです。「30年以内に70%の確率」というのは、あくまで【1】で挙げたエリア、「南関東のどこか」で発生する確率に過ぎません。
まとめますと、東京直下のフィリピン海プレート内もしくは境界ででマグニチュード7クラスの地震が発生した場合、従来の想定より震源が浅くなるので、地表の揺れは従来の想定における最大震度「震度6強」を超える「震度7」クラスになる「可能性がある」というが今プロジェクトのMeSO-net解析に関する発表内容であり、それ以上でも、それ以下でもありません。
そしてその場所で地震が発生する確率に関しては、今プロジェクトの研究対象では無いというか、現在の地震学で推測できる種類のものではありません。なお、「震度6強」が「震度7」になっても、十分な地震対策をしてある建物などでは極端に被害が増えるものでもありません。しかし耐震基準を満たしていない(既存不適格)建物にはより大きな脅威になりますし、全体的に火災の発生件数が増えることは予想されます。
そしてこれはプロジェクトに関係無く、東日本大震災後ずっと言われている事ですが、震災による大規模な地殻変動と余震活動の影響により、震災前から「いつ来てもおかしく無い」と言われていた南関東直下型地震の発生確率が、より上がっている事だけは間違いありません。報告会でも、その点は指摘されていました。
以下は管理人の意見ですが、どのような状況が待っていようと、我々はそれを無闇に怖れず、しかし怖れるべきは「正しく怖れて」、それぞれができる対策を進めて行くしかありません。怖れを備える力に変えて、「生き残る」力をアップして行きましょう。
■注1:関東大震災の震源は相模湾の海底です。この図では内陸直下のように見えますが、原図を形態をそのまま生かしました。
※当記事の掲載当初、図中と本文中で、ユーラシアプレートと北米プレートを取り違えた部分がありました。既に訂正済みで、現在のものが正当です。
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↓ 3/9現在、自然災害系ブログ第1位です。
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管理人は、3月8日に東京大学安田講堂で開催された、『首都直下地震防災・減災特別プロジェクト・最終成果報告会』に参加して参りました。このプロジェクトは、平成19年から23年までの5年間に渡って実施されたもので、今回はその成果の報告会でした。
その中で、既に多くのメディアに取り上げられて、「関東に震度7が来る」と騒がれている内容について、簡潔に解説いたします。
まず、これは「関東に震度7が迫っている」ということでは全く無く、「良く調べてみたら、関東で想定されるマグニチュード値の地震が起きた場合、最大震度が7になる可能性もあることがわかったので、被害想定などを見直します」ということに過ぎません。恐怖を煽るような報道や、この話題に絡めたエセ科学やオカルト的な情報には、決して踊らされないでください。
我が国の「中央防災会議」は、様々な研究から「今後30年以内にマグニチュード7程度の地震が南関東で発生する確率は70%である」と評価しています。この「南関東」とは、北は栃木・茨城県境付近、東は千葉県の銚子付近、南は房総半島南端付近、西は神奈川・静岡県境付近を結ぶ線に囲まれたエリアです。過去に大きな地震が繰り返されているエリアを詳細に調査し、それで得られたデータを解析することにより、「このエリア内については」そのように判断したというものです。
まず、関東における地震の歴史からまとめます。関東では、プレート境界型の、マグニチュード8クラスの巨大地震が繰り返し起きています。直近では、1923年(大正12年)の、いわゆる「関東大震災」で、その前は1703年の「元禄関東地震」であり、その間隔は約220年空いています。周期性のあるプレート境界型地震の性質を考えれば、類似震源、類似規模の地震は、まだ当分起きないと考えられています。ただ、東日本大震災の影響が、どのように作用するかは未知数です。
一方、マグニチュード7クラスの地震は、過去100年の間に関東で5回起きています。マグニチュード値は1減るとエネルギーは30分の一、2減ると1000分の一になりますが、阪神・淡路大震災がマグニチュード7.3で震度7を記録したことからもわかるように、内陸の直下で起きると非常に大きな破壊力をもたらします。このマグニチュード7クラスの地震が、関東南部において「30年間に70%の確率」で発生するとされている地震です。
次に、南関東の地下構造についてです。下図は報告会で配布された資料をもとに、管理人が作成したものです。
このように南関東の地下はユーラシアプレート、フィリピン海プレート、太平洋プレートが三層になってぶつかり合う、非常に複雑な構造になっています。
1から5の番号をつけた赤色の部分は、その中でマグニチュード7クラスの地震が発生する可能性が高い場所です。それらの解説は、次回に続きます。
※当記事の掲載当初、図中と本文中で、ユーラシアプレートと北米プレートを取り違えた部分がありました。既に訂正済みで、現在のものが正当です。
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【2】から続きます。
海近くの平坦な場所にいて強い地震を感じたら、どうすべきでしょうか。以下の画像は、管理人撮影です。
宮城県東松島市の東名(とうな)地区、2011年11月初旬の様子です。手前の水面は運河で、まばらな木立(津波で多くの木が流された防風林)の向こうの海と同じ高さの水面ですからほぼ海抜0メートルですが、実は震災時に70センチ程度は地盤沈下しています。なお、ここは家が建て込んだ住宅街「だった」場所です。瓦礫の撤去がほぼ終わり、何も残っていません。
これも東名地区です。遠くの木立の向こうが海。大きな水溜りは、地盤沈下によって排水が悪くなったためにできたもの。ここが住宅街だったと信じられるでしょうか。この辺りでの水深は、一階の軒先くらいだったことが、残った家にある痕跡からわかります。この広大な場所で、見渡す限りの海が4~5メートルも水かさを上げて「移動」して来たのです。それは現場に立ってみても、全く想像できない情景でした。
ここは郊外ですが、建物を取り払ってしまえば、都市部でもこんな地形は普通にあります。これらの画像も、今は見通しが良くなっていますが、本来は海など全く見えない住宅街だったわけです。津波がすぐ近くに迫っても、視覚的にそれを知る術はありませんし、特に都市部ではそれが普通です。
そして震源が陸地の直近だった場合は、津波は数分以内に陸地に到達することもあります。津波警報は、発表までに地震から3分程度はかかると考えると、「警報が出たら逃げる」と思っていても、間に合わないことが十分に考えられます。
このような平坦地では、とにかく内陸の少しでも高い場所へ向けて移動するしかありません。道路の損傷や渋滞を考えると、特に都市部では車は使えません。あなたは、例えば5分の間に、徒歩でどれだけ移動できますか?そして津波は、規模によっては平坦な内陸へ何キロも到達することがあるのは、説明の必要は無いでしょう。その速度は遅くても時速30キロ程度はあり、走って逃げ切れる速度では絶対にありません。
そう考えて行くと、できることはひとつしか残りません。海岸近くにいて強い地震を感じたら、情報を確認する前に、津波が数分以内に到達する前提で、すぐに行動を始めるしか無いのです。特に、近くに高いビルなどが無い場合は、躊躇している時間は全く無いと考えてください。
そして前述の通り、津波が来る前に潮が引くとは限りません。発生の状況によって、最初から「押し波」が来るタイプもあります。「様子を見てから」などとは、絶対に考えてはならないのです。
海辺での津波避難は、ある意味でシンプルです。強い地震を感じたら、とにかく最短時間でできるだけ高い場所か、海からできるだけ遠く離れる、これしかありません。そして、津波は必ず何回も押し寄せます。危険が完全に去ったと津波情報などで確認できるまでは、高台から降りたり、海に近づくのは自殺行為に等しいと考えてください。
【おわり】
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昨日は、予定通り東京大学安田講堂で行われた、首都直下地震防災・減災特別プロジェクト・最終成果報告会に参加して参りました。
内容についての概要は、別記事にてお知らせいたします。実は一昨日7日、プレス向け発表会が先行して行われており、当報告会の内容が、8日のニュースにも多数取り上げられています。
そのほとんどが「首都圏で震度7の可能性」というような、例によってインパクト優先に見える見出しになっていますが、必ずしも震度7クラスが切迫しているという意味ではありませんので、無闇にご心配なさりませんように。詳しくは、本日9日中にアップの予定です。
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【1】から続きます。
2008年当時に書いた津波対策を今見ても、間違いは何一つありません。東日本大震災後にかまびすしく言われるようになった津波対策と何ら変わりません。何故なら、防災知識としては、ずっと以前から「常識」だったことばかりだからです。しかし、あれで不十分なこともあるのは、事実によって証明されてしまいました。
前記事でも言及しているリアス式海岸の危険性は、言うまでもないことでした。なお、関東では三浦半島にリアス式地形の特徴が見られることは、あまり知られていません。特に湾の奥に位置する横須賀、浦賀、逗子周辺は、津波が来る方向にもよりますが、波高が高くなる可能性がある地形だということは、知っておかねばなりません。
その後、2010年2月にチリ地震による津波が日本にも到達しました。その時には3メートル以上の津波を想定した「大津波警報」が、制度制定後初めて発表され、三陸海岸の一部で最大波高2メートルを記録しました。しかしその後の調査で、大津波警報で実際に避難した人の数は、危険地帯人口の約6%程度に過ぎなかったことがわかりました。確かに人的被害はゼロで、物的被害はかなり出たものの、結果的に「大したこと無い」という印象だけ残してしまったのかもしれません。
そして2011年3月11日。逃げなかった人、逃げられなかった人、逃げてから戻ってしまった人、そして逃げてもだめだった人。明治29年の悪夢が、いまこの時代に再現されるなどとは、だれが考えたでしょうか。
津波避難の常識として、「直ちに10m以上の高台か、鉄筋コンクリート建物の3階以上へ避難」と言われます。「以上」と言っているからには間違いでは無いのですが、問題は字面の正しさではなく、「生き残れる」かどうかということです。今震災では、海の近くでも3階が完全に水没する「波高」になった場所もありますし、4階まで水が達し、さらにその屋上にいても助からなかったケースもあります。地震の規模が、人類の観測史上4番目という超巨大なものだったせいもありますが、そのようなことが起きた場所は、それなりの理由があったことが見て取れます。
津波は「波高」と「遡上高」で計測されます。「波高」は、海岸部での水深です。そして「遡上高」とは、波が地面を駆け上がった海抜高です。津波は、海水が分厚くなって移動してきて、そのまま巨大な力で「押し上げられる」のです。今震災で確認された最大遡上高は40.5m。10階建てのビルの高さです。これは、山の斜面をそこまで水が駆け上がったということであり、10階建てのビルが水没するということではありませんが、その場所では、例えば海抜35m地点に家があったら、一階は完全に水没することを意味します。
画像は、管理人が撮影、加工した、昨年11月の宮城県女川町です。赤線は、地物の痕跡から管理人が推定した、水が達したと思われる高さです。左に見える女川町立病院前の土台は、高さ約15m、海抜は17mくらいになります。その病院の1階が、2m近く浸水しているのです。実は管理人が撮影している高台も、3m以上は冠水していた痕跡があり、すぐ横の家が跡形も無く流されています。こんな高い場所にいても、生き残れなかったのです。それは、あまりにも日常感覚とかけ離れていました。そして、画面左方向の街の奥に行くにつれて、水はさらに高い場所、恐らく海抜30m以上に達していた痕跡があるのです。
現場に立った正直な気持ちは、もし自分があの時ここにいても、ここまで水が来るとは、多分思わなかっただろうというものでした。むしろ、「10m以上」という津波避難の常識が邪魔をして、逆に15mも上がっていれば大丈夫という判断ミスを犯したかもしれないと思い、背筋が寒くなりました。
これは、地形によって狭い範囲に集中した津波のエネルギーが、海近くまで迫った山の斜面を、大きなエネルギーを保ったまま駆け上がるという、リアス式地形ならではの現象によるものです。ですから、これが平地でもどこでも起こるわけではありません。ただ、リアス式地形や、海の近くにまで山が迫る地形の場合は、相当な高さにまで水が遡上することを想定して、「10m以上、3階以上」に固執しない、独自の基準で避難場所や避難行動を考えなければいけないというのが、今震災の教訓と言えます。
一方、駆け上がるものの無い平地では、巨大な津波のエネルギーは、とんでもない内陸まで水を押し込みます。特に海に注ぐ川は津波がたやすく遡上し、今震災では河口から6kmの地点で氾濫しました。2010年のハイチ大地震では、平坦な地形を津波が奥深くまで遡上し、5km内陸まで数千トンクラスの大型船が流されました。
高台の無い場所は、津波避難においては、リアス式地形より厳しいものがあります。高くて頑丈な建物が無ければ、とにかく内陸に向けて移動するしかありません。時間的制約は、より厳しいものになります。都市部においては、こちらの方が現実的な問題です。
長くなりましたので、次回に続きます。
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いつもご愛読いただきまして、ありがとうございます。
今年1月12日にスタートしたこのブログも、この記事でちょうど100本目となります。
最近は文字の多い本は売れないご時世だそうで、ブログもやたらと行間を空ける短文が主流(あれって、一画面で読めなくして、再読み込みさせてページビューを稼ぐ目的だって知ってました?)ですが、このブログはひたすらびっしり長文のスタイルですから、最初は皆さんに読んでいただけないんじゃないかとも思っていました。ところが、管理人の予想以上のご支持をいただけていることに、安心するやら驚くやらです。
管理人は、提示する情報にはすべてその理由やバックグラウンドに加え、必要な付帯情報も加えなければ意味が無いと思っていますので、どうしても長文になります。これでも結構簡潔に書いているつもりですので(笑)何卒ご勘弁を。
まだまだ皆さんにお伝えしたいことが、たくさんあります。小出しにすればいくらでも引き伸ばせるのですが、今は悠長な事をやっている時期では無いと、管理人は考えています。できるだけ短時間で、できるだけ多くの情報を皆様にお伝えしたい。本心は、「間に合わなかったらどうしよう」という気持ちです。
災害の第一撃を生き残るためには、装備品よりも正しい知識と心構え、そしてそれに裏付けられた行動が何より大切だと、管理人は考えています。ですから、防災グッズを揃えただけで安心せず、あなたの身に起きうる状況を正しく知り、「正しく怖れる」ことで、皆様の生き残る力をアップさせていただきたいと、切に願っています。
今後は、防災グッズの記事や災害シミュレーション記事に加え、様々な場所で大地震に遭遇した場合に、その時取るべき行動を解説するシリーズも展開して行きます。また、管理人はこれまでに何度か東日本大震災被災地に入っていますが、昨年11月に宮城県に行った際のレポートもお送りして行く予定です。
そんなわけで、ネタがあるうちは(笑)全力で行きますので、今後とも「生き残れ。Annex」をよろしくお願いいたします。でももっとインパクトのあるブログタイトル、例えば
「あなたは騙されている!?“生き残れない防災”の真実を暴くブログ」
とでもすれば(爆)、目先のアクセスを倍にすることも可能でしょうが、まあ、このスタイルで行きます。この「生き残れ。」というのは管理人のテーマそのものですから。記事にご満足いただけましたら、文末のランキングタグのクリックを、是非ともお願いいたします。
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本文をお読みいただき、ありがとうございました。次に、2008年3月当時に書いた、このシミュレーションの解説をアップいたします。その後、解説を補足します。
(以下転載)----------
海辺や河口付近で大きな地震に襲われた 場合に取らなければならない行動は、
『速やかに海抜10m以上の高台もしくは鉄筋コンクリート建築の3階以上へ 避難する』
ということに尽きます。「様子を見る」のは厳禁です。
もし上記のような避難場所が無ければ、とにかく内陸へ向けて移動し、津波の直撃を避けなければなりません。自動車では事故や渋滞によって逃げ切れないことも考えられますので、やはり徒歩が基本となるでしょう。
震源域もしくはその直近では、津波は地震発生から数分以内で襲って来ます。1993年の奥尻島のケースは、これに当たります。奥尻島は、震源域のほぼ直上でした。そして、津波は数回に渡って押し寄せるのが普通です。さらに奥尻の場合で特徴的だったのは、北海道本土へ到達した津波が陸地で反射して、奥尻島の震源とは反対方向の沿岸にも押し寄せたということです。
津波警報・注意報が受信できている場合、警報・注意報が解除される前に低地に戻ったり、海辺や河口に近づくのは厳禁です。情報が無い場合でも、数時間以上に渡って危険な状態が続くことを想定しなければなりません。
また、一般に「津波が来る前は潮が引く」と思われていることが多いのですが、このストーリーのように、潮位に変動が無くても津波に襲われるということが実際にあります。いずれにしても、海辺にいて潮が引き始めたら、避難する時間はほとんど残されていないと考えなければなりません。とにかく、地震が収まったら一瞬たりとも間をおかず「高台もしくは鉄筋コンクリート建築の3階以上」へ向けて、避難行動を始めなければいけません。
津波と海底地形の関係ですが、まず津波とは、海中を伝わって来る波のエネルギーだと考えてください。海底で起きた地殻変動によって生じた波ですから、一般的な波とは違って、海底から海水面まで続く巨大な海水の波紋なのです。水深が深い場所では、海面上にはゆるやかなうねりが生じるだけですが、水深が浅くなるにつれて、海中を移動してきた波のエネルギーが海面へ向けて押し上げられ、一気に巨大な波が立ち上がります。奥尻島では、被害状況から判断して、最大30m程度はあったと言われています。海岸の潮位計は瞬間的な波高の変化を正確に捉えられないのですが、それでも潮位計の最大値は+16m程だったといいますから、いかに巨大な津波だったかわかります。
さらに、細長い湾や入り江の奥などでは、幅広い湾口に届いた津波のエネルギーが浅くなる海底に加えて両側の陸地にも押し縮められます。津波エネルギーは上に向けて集約され、さらに巨大な波となって襲い掛かります。
三陸海岸のような、外海に向いたリアス式海岸は、津波被害ということに関しては非常に危険な地形です。
現に明治29年の三陸地震の際には、三陸海岸を大津波が襲い、死者2万人超の大惨事となりました。昭和35年には、地球の反対側のチリで起きた大地震による津波が22時間後に日本に到達し、三陸海岸全体で142人の犠牲者を出しています。チリ地震の津波は、もちろん日本の他の沿岸にも到達したのですが、三陸海岸に被害が集中したのは、リアス式という地形の影響が大きかったと言えるでしょう。
このストーリーにおいては、緊急地震速報への理解不足から初動が遅れ、言葉は悪いですが、財産への執着と迷信的な思い込みから避難のタイミングを失うという、負の連鎖によって、最悪の結果となってしまいました。
何よりまず災害の第一撃から「生き残らなければ」なりません。その可能性を大きく膨らますのが、正しい知識、正しい装備、正しい行動であることを、より多くの皆さんに知っていただければと思います。
(転載終了)
次回は、解説の補足です。
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今回は、避難生活中の環境衛生について考えます。
大災害後の避難生活初期には、停電、断水、ガスの供給停止、ゴミ収集の停止が予想され、その中で衛生状態を維持して健康を保つためには、それなりの対策が必要です。病院も十分に機能していない可能性が大きく、重症者優先の「トリアージ」が行われていると、軽症では受診さえできません。とにかく衛生状態を維持し、体調を崩さないようにしなければなりません。
というようなことは、いわゆる「防災マニュアル」で良く見かけますが、ではどうするかという方法はほとんど目にしませんので、管理人流の対策をお知らせします。
ライフラインが絶たれた中で最も注意すべきは、「腐敗」と「感染」です。生ものはすぐに腐り始め、収集されないゴミも腐敗して悪臭と細菌をばら撒きます。トイレの問題も深刻ですが、これは別稿にまとめます。まずは、腐敗するものを生活の場からできるだけ隔離して、必要ならば消毒しなければなりません。
冷蔵庫の中のものは、傷まないうちに食べられる物をできるだけ食べて、あとは思い切り良く廃棄します。放っておくと細菌とカビの巣窟となり、後が大変というより、健康を害する大きな原因となります。とはいえ、ゴミ収集が止まったゴミ集積場所に出してはいけません。収集が再開するまで、密封して自宅内で保管しておくのです。郊外ならば焼却できるかもしれませんが、都市部では困難でしょう。簡易トイレがあっても、便はゴミ収集が再開するまで自宅で保管しなければなりませんから、その衛生管理も必要です。
その場合、まずなにより「殺菌」が必要です。できるだけまとめて用意しておきたいのがこのようなもの。
キッチン用消毒アルコールです。【13】で挙げた消毒用エタノールは医療用品である人体用で、こちらはそれ以外用です。普段はまな板の消毒などに使いますが、管理人は非常時用に詰め替えボトルをプラス2本を備蓄しています。水が使えない環境下では、細菌が付着していそうな場所にシュっと吹いておけば、殺菌効果はもちろん、気分的にも安心で、むしろその効果が大きいと思います。画像のもので300円前後です。
しかし、ゴミや便の消毒に大量に使うのももったいないのも確かです。それに、アルコールはインフルエンザ、ノロ、ロタウイルスなどにはほとんど効果が無いのです。そこで用意したいのがこれ。
キッチン用塩素系消毒剤です。これの主成分は水道水に添加される消毒薬と同じ、次亜塩素酸ナトリウムです。しかし、キッチン用として界面活性剤と水酸化ナトリウムが添加されていますので、飲み水には使用できません。
ですが細菌とウイルスの消毒にはとても効果的です。ただし、下記で紹介する方法は、特にウイルス消毒が必要だけれど、他に方法が無い場合の応急的なやりかたであり、本来の使い方ではありません。安全は保証されていませんので、行う場合には個人のリスク負担にて行っていただくようお願いします。管理人としては多少のリスクを犯しても、非常時にウイルス感染症の蔓延を予防することの方が重要だと考えて、敢えて紹介します。
これは管理人の方法ですが、500ccの水にキャップ1杯(20cc)程度を入れた希釈液をスプレーボトルに作り、消毒が必要な場所に噴霧します。注意点は三つ。プールの匂いがする塩素ガスが発生しますが、これは有毒なので、大量に吸い込むと頭痛や気分の悪化を招くことがありますので、使用後は換気を十分にしてください。また、次亜塩酸ナトリウムは鉄やステンレスを腐食させますので、金属部分に繰り返し使用すると、変色やサビが出ることがあります。ただ、薄い希釈液ならそれほど神経質になることも無いでしょう。特にまな板など食品に接するものに噴霧した場合は、使用前に必ずきれいに洗い流してください(アルコールの場合は洗浄不要です)
安いものだと600ccで80円程度なので、少しまとめて用意しておくと、あらゆる消毒に使えますので便利です。管理人は常時1.8リットルを備蓄しています。災害とは関係ないですが、全自動洗濯機の洗濯槽に水を張り、600cc1本全部入れて10分以上回すと、手軽にカビとりと除菌ができますよ。
次回は、トイレとその他の衛生について考えます。
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今回掲載するのは、当ブログ本館のmixiコミュニティ「生き残れ。~災害に備えよう~」に、約4年前の2008年3月13日にアップした津波シミュレーションです。当時の管理人の津波知識を総動員して書いたシミュレーションがほとんどそのまま、いやそれ以上の規模で現実になってしまったことに、書いた本人が強いショックを感じました。テレビから流れる映像は、管理人のイメージそのままだったのです。
震災後、津波に対処するための知識は、かなり一般化しては来ていると思います。それを踏まえて、登場人物たちはどうすれば良かったのか、考えてみてください。当時の文章をそのまま掲載し、後ほど当時の解説も掲載します。
改めまして、東日本大震災で犠牲になられた方々のご冥福を、心からお祈りいたします。
■ここから本文です。
この物語は、様々な災害に直面し、最悪の結果になって しまった状況を想定したフィクションです。登場人物は、災害の危機に対して、何か「正しくない」行動を 取ってしまっています。 どのような準備や行動をすれば、災害から生き残れる可能性が生まれたかを考えて見てください。
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20××年 12月19日 午後6時○○分
千葉県館山市某所
漁港付近
篠山啓次郎 64歳 漁業
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北風が強い夕方、家の目の前に拡がる海はシケ模様だった。 時折、防潮堤に砕けた波頭が風に飛ばされ、海岸を走る道路にまで、しぶきが霧のように降り注ぐ。 冬型の気圧配置が強まり、テレビの天気予報では、これから夜にかけてさらに北風が強まる予報が流れている。普段なら未明の出漁に備えて準備を始める時間だが、漁協の寄り合いで今日の出漁はシケのために見合わせることになったので、啓次郎は早めの晩酌を楽しんでいた。
一升瓶から湯呑みに二杯目の酒を注ぎ、昨日上がったイカの刺身に箸をつけた時、テレビの音声が急に途切れ、聞き慣れないチャイムの音が二回流れ出た。無機質な男性の声のアナウンスが続く。
《緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください》
「緊急地震…?なんだこりゃぁ?」
啓次郎は初めて聞く速報に一瞬慌てたが、それでも、台所で夕食の準備をしていた妻の久江に向かって叫んだ。
「おい!地震が来るらしい。火を消せ!」
すぐにガスコンロの火を消した久江は、青ざめた顔で居間に駆け込んで来た。
「地震って、どうしましょ…」
「どうするって、おめえ…」
そこまで言った時、海の方から、ジェット機が離陸する音にそっくりな、ゴーッという海鳴りが響いてきた。次の瞬間、床がぐっと持ち上がったような気がしたかと思うと、地中深くから突き上げて来るような激しいたて揺れが襲って来た。台所で食器が棚から落ちて砕ける、派手な音が響く。
久江は腰が抜けて座り込み、声も出せずに啓次郎にしがみついている。啓次郎にしても、久江の肩を強く抱いたまま身動きできない。そのまま数秒が過ぎ、一瞬収まりかけたと思ったたて揺れが、そのままさらに大きな横揺れに変わった。天井を見上げた啓次郎は、居間の電灯が飛び跳ねるように振り回されるのを見た。
「これはやべえかも知れねえ…」
築二十年になる木造二階建ての家が今にも屑折れそうにギシギシと悲鳴を上げる。居間の茶箪笥が突然倒れ掛かってガラスが砕け散ったが、八畳間の反対側だったので助かった。そうするうちに、啓次郎は揺れが次第に収まって行くのを感じ、啓次郎にしがみついたまま目をつぶって震えている久江に声をかけた。
「もう大丈夫だ。収まってきた」
まだ腰が抜けている久江の手を振りほどいて立ち上がろうとした時、啓次郎は突然思い出した。
《津波が来る》
とはいえこの街に生まれ育ってこの方、防潮堤を超えるような津波に遭った事は無かったのだが、今の地震は初めて経験する大きさだった。用心に越したことは無い。啓次郎は立ち上がると、怯えた目で見上げている久江に向かって怒鳴った。
「俺は船を見てくるから、おめえは二階に上がってろ!」
「あんた、気をつけてね…」
久江はやっとそれだけ言うと、啓次郎の手を借りてよろよろと立ち上がった。
啓次郎が家の外に出ると、辺りは暗くなりかけていた。隣の家から僚船の高橋源一が飛び出して来たので、啓次郎は怒鳴るように声をかけた。
「おう、おめえんとこは大丈夫か?」
「ああ、みんな無事だ。船が心配だ。急ぐで!」
二人は港に向かって駆け出した。
「津波が来るかな?」
「なあに、津波の前には潮が引くから、それから逃げても遅くねえだよ。」
港に着くと、防波堤の内側の水面が地震の余波で大きくうねっていた。舷側を接して係留された漁船群は、お互いにこすれ合いながらギシギシと軋んでいたが、見渡したところどの船も大きな破損は無さそうだった。二人は桟橋から自分の船に飛び移って船内を確認しながら、潮の動きにも注意を払っていた。地震の発生から五分ほど過ぎたが、潮位に変化は見られなかったので、啓次郎は源一に声をかけた。
「潮は引いてねえようだ。津波は来ねえな。」
「ああ。今動いてなければ大丈夫だ。いやあぶったまげたな」
すっかり安心した源一は、煙草でくすんだ歯を見せて笑っている。
「さあ、ウチへ戻るか。ウチん中がちょっとやられちまったから、片付けねえと」
啓次郎と源一は、桟橋によじ登った。その時、沖に目をやった源一が声を上げた。
「なんだ、ありゃぁ?」
その声に啓次郎が沖を振り返ると、まだわずかに夕焼けの光が残る黒い水平線がむくむくと盛り上がり、ざわざわと波立つように見えた。その時、二人の耳に遠雷のような海鳴りが届いた。
「来やがった!」
「急げ!」
二人は家へ向かって全力で駆け出しながら、声を振り絞って集落へ向けて叫んだ。
「津波だ!」
「山へ逃げろ!」
「でかいのが来るぞ!」
家まであと100メートルほど残すまでになった時、海岸に近づくにつれて高さ12メートルにまで立ち上がった津波が防波堤を超え、数隻の漁船を渦の中に巻き上げた。桟橋に波頭が叩きつけられる大音響に啓次郎は走りながら振り返ると、すぐ目の前に真っ黒な壁が迫っていた。恐怖に叫び声を上げる形に口が開かれた瞬間、源一と共に巨大な波の壁に飲み込まれて、消えた。
津波はその巨大なエネルギーで地上のすべてを引きちぎり、押し流しながら、集落を呑みこんで行った。荒れ狂う水位は一階の軒先に届くほどもあった。
家の二階に上がっていた久江は、啓次郎の叫び声を聞いて立ち上がり、窓から外を見た途端、真っ黒な奔流が目の前に 迫っているのを見た。見る間に一階を埋め尽くした奔流は家を土台から引きちぎり、そのまま押し流した。
久江は為すすべも無く、呆然と 窓枠にしがみついているしかできなかった。そのまま家は裏山の崖まで押し流され、崖にぶつかって跳ね上がり、猛り狂い渦巻く奔流の中に崩れ落ちた。
【おわり】
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今回は、身体の衛生について考えます。
災害時の停電、断水下で最も問題になるのは、汚れた身体を洗うことが出来ないということです。被害が大きい地域では、水があっても、風呂に入れるのは事実上自衛隊の支援を受けられた時くらいです。それ以前に、屋外作業をやっても、トイレに行っても手も洗えませんし、顔もロクに洗えません。
そんな状況で最も便利なのは、阪神・淡路大震災の教訓としても有名なウエットティッシュです。これで顔や身体を拭くことで、衛生状態を良好に保つことは、何より気分がすっきりする効果が大きいのです。ストレスの多い避難生活では、気分をリフレッシュできることは、とても重要です。
左は100均ショップもので、右のコンビニものと枚数は同じです。ティッシュ自体はだいぶ薄いものの、実用上は問題ありません。容器入りを、家の備蓄にある程度まとめて揃えておきたいものです。パック入りは、非常持ち出しに入れておくと良いでしょう。
代用品としては、赤ちゃん用おしりふきクロスが使えます。クロスが比較的厚く、1000枚単位で販売されているものもありますので、まとめ買いする際には良いでしょう。ただし、商品によっては水だけで湿らせたものもありますので、消毒効果を期待するなら、エタノール(アルコール)を含有したものでなければなりません。エタノール含有のものは蒸発する際に気化熱を多く奪いますので、ひんやりした清涼感もあります。
ある程度雑用水が使えるようになると、タオルを湿らせて身体を拭くことができるようになりますが、その場合でもなるべく身体を「消毒」して雑菌の繁殖を抑え、匂いや皮膚のトラブルを防ぎたいものです。そのために、消毒用のエタノールもあると良いでしょう。
画像のような人体の消毒用は500ccで750円前後と比較的高価ではありますが、何かと便利ですので用意しておきたいものです。もちろん、怪我をした場合に傷口などの清拭にも有効です。
断水下の被災地では、水のいらないシャンプーが好評でした。管理人は災害被災経験はありませんが、怪我で入院したときに使ったことがあります。もちろんお湯で洗うほどの効果は無いのですが、髪の毛のベタツキがかなり取れて爽快感があり、かゆみも抑えられます。風呂に入れない時には確かにとてもありがたいものでしたので、これはお勧めしたいと思います。「水のいらないシャンプー」や「ドライシャンプー」で検索すると、商品サイトがヒットします。
細かいことですが、大抵は非常持ち出しグッズに入っていないものに、「つめ切り」があります。手もロクに洗えない状況では、爪を短くきれいにしておくことは、衛生的にもとても重要です。是非、非常持ち出しに加えてください。被災後の後片付けなど際に、手指にトゲがささることも多いという現場の声もありますので、トゲ抜き、ピンセットもあると重宝します。
断水下で洗濯ができず、下着を替えられないことは、特に女性にとって問題が大きいもの。東日本大震災被災地では、支援物資として届けられた紙製の下着がとても好評でした。また、下着のライナーも衛生状態を保つためにとても有効との声が多くありましたので、女性はこれらを備蓄されることをお勧めします。また、生理用品は最低でも「一回分」の備蓄が無いと困るという声が、被災地の女性から出ています。
避難所では支援物資を平等に分配するため、女性専用のものでも食糧などと同じように申告して必要数を受け取ります。管理者が女性という方がむしろ少なく、受け取り自体が大きなストレスになりますので、自分で備蓄してあれば、気分的にもだいぶ楽なわけです。また、自宅での避難生活時には、避難所に届く物資が十分に分配されない可能性が大きいので、やはり自助努力がモノを言いいます。
実際に、耐震強度が高いマンションや新興住宅街の住人は、建物が住めないほどには損傷はしないという想定のもとに、地域の避難所に「入らない」ことを前提にされているケースが多々あります。学校などの避難所に、全員を受け入れるキャパシティが無いのです。そうなるとどうしても物資が分配されずらくなりますし、管理・分配作業などに参加していない自宅避難組は、支援物資を避難所へもらいに行きずらかったという声もあります。
ですから、水や食品はともかく、衛生用品などの細かいものは、基本的にはある程度自力でまかなえるようにしておきたいものです。
次回は、環境の衛生について考えます。
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今回から、「衛生」編です。
被災後の不自由な生活の中で衛生状態をできるだけ良好に保ち、健康を維持するために備えるべきグッズについて考えます。
災害時に最も問題となるのは、断水下では「水が無い」ということです。仮に飲むための水が確保できても、手洗い、洗顔、風呂、トイレ、洗濯などの「雑用水」までは、水道が完全復旧するまではなかなかまかなえません。その状態に対処できなければ、細菌、ウイルス等の感染症の危険があります。特に大人数が集まる避難所生活では疲労、睡眠不足、栄養不良、ストレスで免疫力が低下しがちで、風邪、インフルエンザ、ノロウイルス、ロタウイルス等の感染危険性が高まります。
風邪やインフルエンザの危険はもちろんですが、下痢になると身体の水分を大量に失い、飲み水が十分で無い状況では、生命の危険さえ伴います。特に老人や赤ちゃんにとっては危険極まりない状態です。それ以前に、水が流せないトイレに何度も行かなければならないだけでも、想像以上のストレスになりますし、トイレ用備蓄資材の無駄遣いにもなります。
避難生活初期には体調を崩しても十分な治療を受けられない可能性が高いので、何より予防措置が最も重要であり、そのための備蓄もしておかなければなりません。この「衛生」というジャンルは、「防水・防寒」と並んでどうも軽視されがちな部分ですので、当ブログとしては特に重視して行きたいと思います。
まず、衛生グッズとして最も基本的なものが、マスクです。一般的な不織布のマスクでももちろん感染防止効果はありますが、できれば抗ウイルスタイプの方がより効果的なのはもちろんです。
一枚10~15円程度とコストは上がりますが、一般用と合わせて、ある程度の数は用意しておきたいものです。薬局、ドラッグストアで入手できない場合は、「抗ウイルスマスク」で検索すれば、通販サイトがヒットします。
濃密な粉塵の中での移動や作業には、さらに防護力の高いマスクが欲しくなります。東日本大震災の津波被災地では、濃密な粉塵を吸ったために、肺に障害が出る被災者やボランティアが続出しました。下記は、そんな状況に対応した管理人の備蓄です。
左は粉塵内での作業に対応した、カップ型マスクです。中央はフィルター交換式の防塵マスクで、フィルターの種類によって防護性能を調整できます。右は、放射性物質防護にも対応できるフィルターマスクです。管理人は、これを福島の某区域で実際に使いました。どれも大きめのホームセンターで普通に入手できるものですので、用途に合わせて選んでみてください。
過去のSARS騒動の時に話題になったN95規格のフィルターマスクは、防護力が強力なだけに息苦しく、作業や移動時用としては、管理人としてはあまりお勧めしません。上画像にあるDS-1規格のものは、マスクをしたまま数時間にわたって移動や中程度の負荷の作業をしましたが、特に苦痛は感じませんでした。
なお、どんなに高性能のマスクでも、顔に密着していなければその能力を最大限に発揮できません。特にフィルターマスクをウイルス、放射性物質防護のために使う場合には、男性はヒゲを良く剃っていないと、密着性が損なわれますので注意してください。不安な場合には、隙間をテープ類や絆創膏でシールするのも有効です。
なお、ウイルス防護用として使用したマスクや、規格で定められた使用時間を経過したフィルターマスク(DS-1規格で12時間)は、再利用しないのが原則です。廃棄する場合は、ビニール袋、レジ袋などで密封してください。放射性物質防護用として使用したものでも、一般人が入れるような場所で使用したレベルのものならば、焼却しても事実上全く問題ありません。
次回は、身体の衛生について考えます。
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昨日3月1日、午前7時32分頃、茨城県沖、深さ60kmを震源とするマグニチュード5.4の地震が発生し、東海村で最大震度5弱を記録しました。
この付近では2月28日にマグニチュード5.1、最大震度4の地震が発生していますが、1日の震源はそれより若干北東にずれており、震源深さも2/28の20kmに対して60kmと、いわゆる「スラブ内地震」の深さであるため、発生メカニズムも異なります。この地震は西方から太平洋プレートが移動する圧縮力による、ほぼ東西方向に圧縮軸を持つ逆断層型地震ではないかと管理人は推測していますが、気象庁の詳細な発表が無いので、正確なところは不明です。
報道では「東日本大震災の余震」とされているものの、震災震源域より陸側であり、深さも30から35km程度深い震源なので、あくまで「広義における」余震と捉えるべきです。管理人の推測通りであれば、震災後の地殻変動の影響によって発生が予測されいたタイプの地震で、昨年11月頃から宮城県沖の震災震源域の陸側で目立ち始めた、深さ50~60kmの地震と同タイプだと思われます。
もっとも、こんなことを書いておきながらなんですが、地震の発生メカニズムなど、防災にはあまり関係ありません。必要なのは、どのような地震がどのような被害や影響を地上に及ぼすかということだけです。
いずれにしろ、このところ福島、茨城、千葉沖で短期間のうちに比較的大きな地震が続いています。より警戒度を上げなければいけない状況だと、管理人は考えています。
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今回は、火災対策編の続きで、このシリーズ最終回となります。
地震の際の火災に関して忘れてはならないのが「通電火災」です。阪神・淡路大震災でも多発し、地震で倒壊しなかった家までが、後になってから焼失しました。「通電火災」とは、地震後に停電になった時、アイロンやこたつ、電気ストーブなど発熱する電気器具のスイッチを入れたまま避難してしまったり、家や家具の倒壊によって電気器具が破壊されていた場合に発生します。
その場合、復旧作業によって通電が回復した際、発熱する電気器具が作動を始めたり、破壊された電気器具から電気火花が発生しすることにより、住人が避難して無人の家から出火する可能性が高いのです。
これを防ぐ方法はただ一つです。停電している家から避難する場合、ブレーカーを「切」に、つまり通電が再開した場合でも、ブレーカーから先は電気が流れないようにしておくことです。さらに、電気器具のコンセントはできるだけ抜いておきましょう。一見どこも損傷を受けていないように見えても、激しい揺れで屋内配線のどこかが損傷していて、通電時に電気火花が発生する可能性もありますので、地震後の停電時に家を空ける時は、必ずブレーカーを「切」にする必要があります。
通電再開後は、まず電気器具のスイッチがすべて切れていることを確認してからブレーカーを「入」にして、その後しばらく様子を見ます。もし、家の中のすべての電気器具が切られているのに電気メーターの円盤が回っている場合は、どこからか漏電している、つまり電気設備が損傷していることが考えられます。その場合は速やかにブレーカーを「切」にして、電気会社に連絡しし、指示に従ってください。なお、冷蔵庫など自動的に電源が入る器具は、コンセントを抜いた上で上記の確認をしなければなりません。
集合住宅では、どこか一軒が出火しても大変ですから、通電回復時は各部屋で声をかけあって、通電火災を防ぎましょう。
ところで、前回記事で、大災害時には消防も救急も警察も「来ない」と書いたのですが、これは「来ないと考えなければならない」と言う意味であり、出火した場合は消防に通報すべきなのは変わりありません。でも、慌てているとなかなか手際よく通報できないものですので、ここで通報手順を確認しておきます。これはもちろん災害時に限らず、平常時でも同じです。
ただ、順番的には、可能な場合には「初期消火」の努力をしてからということになります。複数の人がいる場合は手分けして行います。しかし、決して無理をして消し止めようとしてはいけません。前述の通り、火が天井に届くくらいになったら、初期消火は困難です。
119番通報すると、「こちら消防です。火事ですか、救急ですか?」と応答があります。まずは火事か救急なのかを答えます。
「場所はどこですか?」
通報は、基本的に都道府県の指令センターで受信しますから、まず市区町村から住所を答えます。集合住宅の場合は、建物名と部屋番号まで。できれば近くのランドマーク、例えば「○○スーパーの南側」というように答えられればベストです。携帯電話の場合は、自分の居場所をできるだけ確認して通報します。
「何が燃えていますか?」
家が燃えている、部屋の中が燃えている、建物から煙が出ているなど、状況を伝えます。
これで平常時ならば、普通は
「消防車が向かいます。すぐに避難してください」という言葉で終わりなのですが、災害時にはその限りでは無いということを意識しておかなければなりません。
通報は、慌てているとなかなか手際良くできないものですから、不安な場合は家の電話の近くや、目立つ場所に住所や通報手順を掲示して置くと良いでしょう。手順は、
■通報の種類「火事?救急?」
■住所、地番、建物名、周囲の目立つ建物など
■火災、救急の状況
普通はこのような順番で聞いてきますので、ひとつ深呼吸をして、できるだけ落ち着いて通報するようにしましょう。
なお、初期消火に成功した場合でも、思わぬところに火種が残っている場合があります。事後の処理は、消防に通報して対処を依頼してください。その場合でも、消防は「鎮圧火災」として出場してくれます。特にふとんが燃えた場合には、念入りに消火したつもりでも中に火種が残っていて、長時間経った後に再出火する可能性があります。火事が出た場合は「おおごとにしたくない」という気持ちを捨てて、必ず消防に通報してください。
しかし、繰り返しますが、大災害発生時は、消防も通常の対応ができない可能性が大きくなりますので、まずはとにかく「火を出さない」ということに尽きます。それには普段からの意識と準備がものを言います。大切な命と財産を守るために、できる備えをできるだけ進めてください。
このシリーズは今回で終了しますが、いろいろ書いたものの、つまるところ「家を倒壊させない」、「家具を倒さない」、「火を出さない」の三点に集約されるわけです。そのために出来ることはたくさんあり、それらを進めた分だけ、確実に「生き残る」確率を上げられるのです。
「その時」まで、残された時間は少ないかもしれません。いや、「その時」が一瞬後でもおかしくないのが、今の状況です。出来る対策を、すぐ始めましょう。
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昨日2月29日、東日本でやや強い地震が続きました。
午後6時00分頃、福島県沖、震源深さ40km、マグニチュード5.3、いわき市などで最大震度4を記録。この地震は、場所、深さともほぼ東日本大震災震源域内で発生しているため、震災本震の余震と考えられます。
午後11時32分頃、千葉県東方沖、震源深さ20km、マグニチュード5.8、いすみ市で最大震度4を記録。こちらは、東日本大震災震源域の南端のさらに南側で、震災の震源域に接している部分です。この地域は、当ブログ本館のmixiコミュでも昨年から指摘していますが、今後さらに大規模な地震が発生する可能性もある場所です。
千葉県東方沖は、北方の三陸北部-青森県沖とならんで、東日本大震災による、北アメリカプレートの大規模な東向きの動きに「引きずられた」地域です。このため、地殻に大きなストレスがかかっている可能性があります。
もしこの地域の地下のプレート接触面に大規模な固着域(=アスペリティ)が存在してひずみエネルギーが蓄積されていて、それが一気に開放された場合、マグニチュード8クラスの地震が発生する可能性があります。しかし、固着域が存在するかどうかを知る方法は、現在のところありません。
この付近では、1677年にマグニチュード8クラスと推定される地震の記録があり、大きな津波被害もあったようです。それから300年以上経過していますので、再び大きなひずみエネルギーが蓄積されている可能性は否定できません。その震源域に、震災後の地殻変動による大きなストレスが加わっているのはほぼ間違い無いので、高度の警戒が必要な震源域のひとつと言えます。
言うまでも無くこれは予知でも予言でもなく、科学的に想定される可能性のひとつです。そうでなくても、震災後の日本列島は「どこで何が起きてもおかしくない」とも言っても良い状態なのです。根拠の無いデマの類に惑わされることなく、できる備えをできるだけ進めておいてください。
ただし、災害対策は「防災グッズ」を揃えることだけではありません。「その時」何が起きるか、どのような行動が必要なのかを普段から正確にイメージして、それを行動に移せる準備をしていなければなりません。当ブログは、そのお手伝いをさせていただきます。
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