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2012年3月14日 (水)

【シミュレーションストーリー】地震・通勤電車

この物語は、様々な災害に直面し、最悪の結果になって しまった状況を想定したフィクションです。 しかし今回の主人公は、特に間違った行動は取っていません。でも、どのような行動をしていれば、この状況で生き残れる可能性が出てきたかを考えて見てください。

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20××年 12月19日 午後6時20分
東京都板橋区某所
通勤快速車内
羽島孝之 42歳 デザイン事務所代表
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本当に久しぶりだった。小さなデザイン事務所を切り盛りする羽島にとって、いわゆる通勤ラッシュ帯の電車で帰宅できることなど年に数回程度だ。普段は良くて終電近くだし、電車が無くなってタクシーを使うことも、徹夜さえも稀ではない。今日は大きな仕事がアップして、その後時間がぽっかり開いたので、スタッフを早く帰して自分もさっさとオフィスを後にした。久しぶりに子供と話ができそうだ。

東京都心部から埼玉方面を結ぶこの路線は、ひどい混雑で有名だ。今日も10両編成の車内は、どの車両も満遍なく身動きできない程の混雑だ。前から2両目、前の方のドア近くに立っていた羽島は、この電車でどれだけの人数が「家に帰れる」のかぼんやり考えていたが、電車が揺れた弾みで手すりのポールに押し付けられ、胸を強く圧迫されて呻いた。電車は都心部を抜け、郊外の高架橋の上を走っている。あと15分もすれば、羽島の降りる駅に着く。もうすぐ都県境を流れる川を渡る鉄橋にさしかかる筈だ。窓の外はもうすっかり暮れて、遠くの街の明かりがゆっくりと流れて行く。

その時、羽島は電車の揺れとは明らかに異なる、縦方向の重力加速度を感じ、身体がふわっと浮いたような気がした。すぐに今度は下から突き上げられるような強い振動を感じた。車内にざわめきが走る。
「地震だ…大きいぞ!」
揺れはどんどん大きくなり、このままでは電車が脱線するのではないかと思い始めた時、電車に非常ブレーキがかかった。普段、駅に停まる時の数倍の減速度だ。車内の全員がたたらを踏むようなドドドという音と共に、車両の後方から、文字通り黒山のような人の固まりが押し寄せて来た。車内に悲鳴と怒号が渦巻く。何人がが支えきれずに床に転び、後ろから崩れ落ちて来た人の波にのしかかられ、踏みつけられた。ドア近くにいた羽島は、ポールにしがみついてなんとか人の波の直撃は避けられた。このまま止まれれば、助かる…。

運転席では地震発生と同時に、全列車即時停止を指示する運行指令からの無線が飛び込んで来た。
「運行指令から管内全列車運転士、大地震発生、全列車は直ちに抑止、列車防護措置を取れ。繰り返す…。」 
運転士は時速80キロから非常ブレーキをかけた。すぐに襲って来た猛烈な横揺れに振り回され、脱線する前に止まれるか自信がなかったが、歯を食いしばってブレーキハンドルを押し込み続けた。

その時、運転士は前方の光景に目を疑い、声にならない叫びを上げた。
「軌道変位!」
まっすぐ続いているはずの高架上の線路が、150メートルほど前方でS字状に曲がっている。さらに目を凝らすと、鉄筋コンクリートラーメン構造の高架橋が、その間を繋ぐ桁の部分で水平に2メートルくらいずれているのが見えた。桁はおそらく大きく破断するか落下していて、線路は約15メートルに渡ってS字状にうねりながら宙に浮いているのだ。

運転士は、落橋している場所までに自分の列車が停止できないことを悟った。おそらく時速40キロくらいで突っ込んでしまう だろう。その時になって、自分の背後の車両から悲鳴と怒号が聞こえて来るのに気づいた。超満員のこの列車が突っ込んだら…。この状況を車掌に連絡し、車内放送する時間の余裕など既に無く、自分自身の逃げ場も無いこともすぐに悟った。

羽島は電車の速度が落ちるのに合わせるように、地震の揺れも収まって行くのを感じた。車内では何人かの重傷者も出たようだが、電車の速度が緩んで揺れが小さくなるにつれて、極限まで高まった不安と恐怖が、なんとかなりそうだという期待に置き換えられつつあった。

その時、先頭車両から、短い警笛が連続して響いて来た。何を意味するかはわからなかったが、その緊迫感から、何か差し迫った危険に対する警告だろうということは想像がついた。羽島は本能的にポールを両手で抱きこむと、衝撃に備えて身構えた。

電車はゆっくりと、落橋部分にさしかかった。すぐに先頭の台車が脱線し、宙ぶらりんの線路から外れてがくんと頭を下げ、その瞬間電源が落ちて全車両の照明が消えた。先頭車両はそのまま後方の車両に押されて前進し、高架から角度を増しながらずり落ち、反対側の高架橋に激突した。先頭車両のすし詰めの乗客は、車両がずり落ちるにつれてどんどん前方に押し込められ、激突した瞬間には激しい減速ショックで車両の長さの3分の2くらいまで瞬間的に圧縮された。車両前方からおよそ人間の声とは思えないような苦痛の呻きが這い上がってくる。そして、状況はさらに悪化していった。

先頭車両はさらに後方の車両に押し出され、ほとんど垂直になって高架橋から転落し、約20メートル下の地面に激突した。羽島の乗った2両目も続いて押し出され、先頭車両に引きずられるように、ほとんど棹立ちになって高架橋から転落して行った。一瞬無重力状態になった暗闇の車内で、羽島は自分の身体が夢の中のように軽々と浮き上がったあと、悲鳴の渦の中へ飲み込まれて行くのを、最後に感じた。


【おわり】

※後ほど、解説編を掲載いたします。


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