首都圏直下型地震を生き残れ!【20】☆旅行編
※当記事は、過去のシリーズ「首都圏直下型地震を生き残れ!」の第20号記事としてで2012年5月30日付けでアップしたものですが、記事内に一部事実誤認がありましたので、修正の上再アップいたします。記事の主な内容については変更はありません。
■旅行で生き残れ(その5)
今回は、実際に起きた地震による土砂災害を例に取って、その時どのような行動を取るべきなのかを考えます。
2008年6月に発生した岩手・宮城内陸地震では、栗駒山系の山あいにある駒の湯温泉を山崩れと土石流が襲い、多くの方々が犠牲となりました。現場では、その時一体何が起きて、何ができて、何が出来なかったのでしょうか。
まず、生存者の方の証言をいくつか拾ってみます。
■山崩れと土石流は、地震が収まってから10分くらいして襲ってきた。
■地震の後、宿の前の駐車場のアスファルトにヒビが入り、泥水が噴出していた。
■そこにいた皆には、すぐに避難しなければというような緊張感は無かった。山が崩れ始めたのを見て、慌てて避難しようとした。
これだけの情報から、皆様は何がお判りになるでしょうか。あなたがもしそこにいたら、どのような行動を取りますか?問題は、二番目です。斜面の下にある平場で、泥水が噴出しているのです。これが何を意味するのかを知っているかどうかで、結果は大きく変わります。
実は、斜面やその下から泥水が噴出するということは、即ち崩落の危険が目前に迫っているということに他ならないのです。地震によって山体の内部に大きな亀裂が入り、沢の水や地下水がその亀裂に入り込み、内部をさらに削りながら流れ下っている状態です。そうなったら、いつ崩れてもおかしくありません。一刻を争う状況です。
もし噴出しているのが澄んだ水だったら、泥水の場合よりは猶予があると考えられます。水によって亀裂が削られていないことを示しているからです。しかし、このようなケースでは、大抵泥水となるでしょう。なにしろ、山体に大きな亀裂が入っているのは間違い無いのです。これに似たようなケースでは、斜面を流れる、普段は澄んでいる沢の水が濁り出したら危険、というものがあります。これは沢の上流部で既に崩落が始まっていることを示しているからです。
さらに沢や川の水量が減ってきたり、水が無くなったりしたら一刻の猶予もありません。上流部の山崩れで水がせき止められているのは間違いなく、それが一気に決壊して、土石流となって襲って来ると考えなければなりません。
下記に、山崩れ、地すべりや土石流の前兆をまとめます。これは地震に限らず、豪雨災害時にもあてはまります。山あいの温泉地などへ行く場合は、必ず知っておく必要があります。
■斜面やその下から、泥水が噴き出す。
■沢や川の水が濁る。
■沢や川の水が減ったり、水がなくなる。
■斜面や崖から、小石や土くれが落ち始める。
■斜面に亀裂が入る。
■山鳴りがする。
■山からミシッ、バシッというような音が聞こえる(地すべりによって、木の根が切れる音)
■生臭いような、不快な匂いがする(これはあまり多くありません)
これらのような前兆が見られたら、すぐにその斜面、川や沢筋から離れなければなりません。しかし、一旦山崩れや土石流が発生したら、安全圏まで脱出する時間的猶予は、ほとんど残されていません。では、そこで万事休すなのでしょうか。いや、まだ生き残る方法があります。下画像をご覧ください。
これは惨劇の現場となった駒の湯温泉の宿泊施設の様子です。これを見て、なにかお気づきになりませんか。
この建物は、二階建てでした。一階部分は土石流で完全に破壊されていますが、建物ごと流されながらも、二階部分の外形はほぼ完全な形で残っています。山から崩れ落ちる土砂や土石流は、それほど深さがあるわけではありませんので、建物を直撃しても一階部分だけを破壊する可能性が大きく、仮に建物ごと流されても、二階以上の構造はあまり損傷しないことが多いのです。
もちろん、内部には土砂が突入して損傷することが考えられますから、かなり危険な状態なることは確かです。しかし、一階部分は完全に土砂と水に埋められてしまうことが多いので、二階の方が「生き残れる」可能性が高かったのは確かでしょう。それはこの事例に限らず、多くの土砂災害にも共通することです。
駒の湯温泉で犠牲となった方々は、その多くが屋外か一階部分で土砂に呑まれました。そして生き残ったのは、土石流に流されながらも埋没せずに、その上に向けて脱出できた方々でした。
もし、もっと早いうちに土砂崩れや土石流の前兆を察知できていて、例えば二階に上がっていたとしたら、また違った結果になっていたかもしれないと思うと、残念でなりません。もちろんそれは結果論であって、様々な状況の中で常に最良の判断ができるとは限りませんし、言うまでもなく犠牲になった方々や生き残った方々を非難するものでもありません。
ただ、当ブログのテーマのひとつでもありますが、悲劇の現場から教訓を読み取り、それを伝えることで同じような悲劇を繰り返さないことが、生きている我々の務めではないかと思います。
特に都市生活者とっては、自然の中へ行くことは、完全な「アウェイ」です。都市の常識は通用しません。自然災害の種類も規模も全く異なりますから、それらに対する正しい知識の有無が、生死を分けることがあります。滅多に遭遇しなくても、一度遭ったら命に関わるという現実を、より深く噛み締めていただきたいと思います。
次回は、海へ行きます。
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コメント
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内陸地震から5年経ちました。しかし、工事は秋の台風で被災し、また1年遅れてしまいました。取材はこりごりと言いながら、山の観光に少しでも役に足りたいと取材を受けました。しかし、またもや間違った情報でコメントを出されている専門家の方を拝見し、とても傷ついております。そんな中、この記事を拝見しました。具体的にどうすればいいのかがわかるのと同時に、だからあの時こうすればよかったのだと罪悪感、無力感に襲われることがない記事でした。ありがとうございました。冬になるまでに山に帰ります。その時また地震が起きたら、書いてあることを行動します。
投稿: 菅原 | 2013年6月18日 (火) 21時55分
>菅原様
もう5年になりますか。当記事でも当初は事実誤認があり、大変申し訳ありませんでした。
私も偉そうなことは言えないのですが、メディアの報道はどうしてもインパクト優先になり、耳目を集める部分だけが強調されるきらいがあります。
そして、他の記事でも良く指摘していますが、「専門家」にしても、自分の専門分野のコメントに偏重しがちで、そのために、結果的に事実を歪曲している例も良く見られます。
しかしそれでも、メディアに乗って世間の耳目を集めることがプラスに働く面も大きいですね。それはわかっていても、今震災の被災者の方からも、「報道はありがたいが、内容がひどい」というような声を、何度もお聞きしてます。
当記事が被災者の方のお気持ち逆なでせず、そして実際にお役に立てるのでしたら、それは管理人の無上の喜びです。胸をなで下ろすような思いでもあります。私も震災被災地へ何度も足を足を運びましたが、被災された方の本当のお気持ちは、よそ者には到底理解できるものでは無いと、強く感じていますから。
岩手宮城内陸地震は、個人的に非常に強い印象を持っています。「専門家」の算出では「起こるはずの無い」場所で起きたことはもとより、栗駒山系の大崩落、そして地震による「典型的な」土石流災害と、他の地震災害とはかなり異なっています。地震直後に土石流が起きる危険はいつも指摘されていますが、実際に大規模に起きたのは、あの場所だけですから。
そんなわけもあり、今後もこの災害について、今後も当ブログで微力ながらお伝えして行ければと思っています。いずれ、そちらにもお伺いできればと考えております。私のスタンスとして、「現場に立つ」ことを重視していますので。
一日も早く山に戻られ、再び穏やかな日常を取り戻されますことを、心からお祈りしております。
投稿: てば | 2013年6月20日 (木) 09時36分