まだ何も始まっていない。旧警戒区域の今【4】
国道6号線を離れ、海岸方向へ向かいます。海岸までの距離は2km以上。この辺りはほとんど海抜高度が無く、ほぼ全域が水深2~5mの濁流に襲われました。
国道と海岸の間は、田畑の中に集落が点在する農村です。すぐに破壊されたビニールハウスのフレーム、赤錆びたトラクターや車が目に飛び込んで来ます。ほとんどが「あの日のまま」なものの、それがみな深い夏草に覆われているのが、放置された時間の長さを感じさせます。
後方に見える瓦礫は、集められたものではなく、津波の引き波で盛り土に引っかかったまま放置されているものです。
他の津波被災地に比べて、破壊された車にナンバープレートがついたままのものが多いのが目に付きます。これは持ち主や関係者が現場に戻り、廃車手続きのために外していないことを意味しています。
震災直後からこの場所を追われた被災者は、この1年4ヶ月の間に避難所から各地の仮設住宅、または新たな居住地へ散り、警戒区域が解除されたからと言って、すぐに戻れる状態では無い人が大半なのです。まず、車が無ければこの辺りには来られませんし、旧警戒区域内では、実は現在でも宿泊が禁止されています。避難先から日帰りで後片づけに来られる人など、ごく限られているのです。
海沿いの集落に近づくと、さらに異様な光景が目に飛び込んで来ました。
この集落は、家が比較的新しく頑丈だったことと、木立に囲まれているせいで瓦礫の直撃が少なかったのでしょう。残っている家が多くありました。しかしほとんど片付けは行われておらず、ただ、長い時間が経過したことだけが感じられました。
各地の津波被災地では、復旧・復興作業が進んで、大災害の痕跡は徐々に形を変えています。すぐ隣の旧警戒区域外でも、表面上はかなり「普通」になっています。しかしここでは、時間が止まっています。
画像は掲載しませんが、残った家の中を見ると、破壊されなかった部分に家財や生活の痕跡がそのまま残っています。比喩ではなく「あの日のまま」なのです。その後、一時帰宅の措置も取られましたが、2時間程度の滞在しか許されず、多少の家財を持ち出すのが精一杯だったのです。そして、この1年4ヶ月の間、雨に、風に、雪に晒され、今は夏草に覆われています。これら多くの家の住人は、このような自宅の現状を知ることさえできないでいるはずです。
もちろん、跡形もなく破壊され、土台だけ残る家も数多くあります。それらの瓦礫はかなり撤去されていますが、その住人たちには、後片づけに戻る場所も、探すべき生活の痕跡さえありません。
海から100mほどの草の中に、おそらく最後の瞬間まで避難を呼びかけて走り回っていたであろう、消防団の消防車がその骸を晒していました。
あまり酷くない破壊の程度から見て、この近くで津波に呑まれたのでしょう。乗っていた消防団員は、どうなったのでしょうか。
あの日、この堤防を数メートルも超える津波が襲ったのです。画像の奥の方に見える、海に突き出た岬のように見える場所に、福島第一原発があります。
この集落では、後片づけをしている人の姿は、二人の老夫婦だけでした。あとは夏草の中で静まり返っていて、消波ブロックに打ちつける波の音だけが響いています。
堤防周辺のあちこちに、遺体が発見されたことを示すピンク色のリボンが残されたままです。
内陸の犠牲者も、引き波で海岸まで流され、堤防で止まった瓦礫に絡まったせいでしょう。その数に、戦慄を覚えます。海にまで流された行方不明者も、いまだ少なくありません。
あの日、ここで何があったのか。そしてなぜ、今でもそのままなのか。理屈だけの理解を拒否するような、凄惨な現実があります。その場所に実際に立っても、想像することさえできません。何もかも、普通に生活する人間の理解の範疇を超えています。
この後は、内陸の市街へ向かいます。
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