続・「死者32万人」の読み方
8月31日にアップした『「32万人」の読み方』の続編です。前回は、あくまで発表された想定に沿いながらその内容を考えて見たのですが、今回は違った方向から。
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「32万人」は、想定される最大級の南海トラフ地震が発生した場合の、最悪の想定死者数として発表されました。十分にインパクトの強い数字ですから、イメージとしては「そんなに犠牲者が出るかもしれないのか」という感じだと思います。
しかし逆の意味でも、これはあくまでも、ある条件下における「想定」に過ぎないのです。つまり、さらに多数の犠牲が出る可能性もあります。想定される南海トラフ地震では、関東から九州までの非常に広い範囲に被害が及びますが、それぞれの予想被災地域の条件は多種多様であり、もちろんそれらが十分に考慮された数字とは言え、すべての危険要素を完全に網羅し切ったものではありません。
例えば、首都直下型地震に関する想定では死者数が11000人とされていますが、その中には、650万人に上るとされる帰宅困難者が、余震や火災の拡大などで二次的に犠牲になる数は含まれていません。何故なら、それは「想定のしようがない」からです。前提となる条件があまりにも多岐に渡り、しかも過去の「実績」が無いために、統計的手法で算出することができないのです。
南海トラフ地震の想定にも、それは当てはまります。大災害における複合的な不確定要素が悪い方に傾いた場合、被害はさらに拡大する可能性があるのです。もちろん、その逆もあります。最悪の規模の地震や津波が起きても、想定より少ない被害で食い止められる可能性です。いずれにしろ、「32万人」という数字だけをひとり歩きさせるべきではありません。それはあくまでひとつの指標に過ぎないのです。
当ブログでは、何度か「大災害下では、人間の命など確率の前にひざまづかされる数字に過ぎない」という表現をしました。しかし我々は、ただの数字では無い。「意志を持った数字」なのです。自分や大切な人の命を守るために、能動的に行動することができます。
人間が左右できない要素については、その帰趨はまさに「神のみぞ知る」ことです。極端に悪い状況の中では、手の打ちようも無いこともあるでしょう。でも、すべての場所がそうなる訳ではありません。少しでも「生き残る」ための選択肢が残されている状況では、それを見抜く知識を持ち、正しくて効果的な行動ができ、有効な装備を備えているかどうかで、運命を変えられる可能性が生まれて来ます。
語弊を承知で敢えて乱暴な言い方をすれば、周りで何万人も犠牲になろうとも、あなたが生き残ればそれでいい。もちろんそれは他の犠牲をいとわずに他人を蹴落としてでも生き残れということでは無く、あなた自身が地獄の中で一筋の光明を見いだし、自らその明かりへ向かうための「正しい力」を身につけよということです。混乱と恐怖の中で右往左往するだけの群衆から抜け出し、意志と目的を持って行動する、人としての尊厳を保った存在になっていただきたい。
さらにきれいごと抜きで言えば、他を救うための行動は、「使命」か「余裕」がある場合だけです。「使命」のためには、命を賭さなければならないこともあります。しかしその必要が無く、しかも「余裕」が無いのならば、まずあなた自身が生き残らなければ、他を救うこともできません。そしてその「余裕」を生むのが、普段から正しい知識を得て、正しい行動を知り、正しい備えをすること、それ以外にはありません。
正しい知識を得るとは、「本当に必要な情報を吟味する」、「正しくない知識を排除する」ということと同義でもあります。例えば、野球が上手くなりたいのなら、野球選手のゴシップなど知っている必要はありませんし、「練習中に水を飲んだらバテる」(管理人はその世代の人間です)というような誤りを排除しなければならないということです。
しかし、現実には災害に関してもゴシップに類するようなものや、明らかな誤りや不十分な知識の方が、はるかに人気があるようです。オカルトやエセ科学、根拠も実績も無い「予知」など言うに及ばず、「32万人」にしても、ただその数字だけで騒ぐのならば、ゴシップ情報に等しいものに貶められます。
そのような不良情報のカオスの中から、本当に必要な情報を見いだし、それを正しく身につけること。大災害から「生き残る」確率を上げるには、それしかありません。当ブログをご愛読いただいている皆様はそんなこと百も承知で、日々災害対策をお考えかと信じておりますが。
最後に、敢えて極論しましょう。想定死者数が32万人だろうと100万人だろうと(早くも一部に350万人とかの煽りも出てきていますが)、そんなことはどうでも良いのです。あなたの居場所で何が起きて、その時何ができて、あなたはどうするか。知るべきなのは、それだけです。
「生き残る」ために、あなたは何をしていますか?
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