河川敷避難場所の危険【対災害アクションマニュアル 14】
■第1章 危険を知れ(その12) 河川敷避難場所の危険
今回は、避難場所における具体的な危険を考えます。
防災フィールドワークに出たあなたは、まず最初に避難するであろう場所に着きました。そこが学校や体育館などの避難所ならば、前回記事にも書いた通り、まずあなたの居住地が避難所の収容対象区域になっているかを確認しておきましょう。
その他「一時(いっとき)避難場所」、「広域避難場所」、「津波避難場所」のこともあるでしょうが、これらは多くの場合屋外です。特に悪天候下や寒さ、暑さがひどい季節には、屋外で軽装のまま長時間持ちこたえることは困難です。いずれはどこか「雨露がしのげる」場所に移動しなければなりません。
ですから避難場所を決める際には、「とりあえず危険を避けられる場所」と「避難生活を送れる場所」を、徒歩圏内で複数箇所選んでおく必要があります。
しかし、いわゆる「避難所」でも、発災後1~2日の間には、様々な危険が襲いかかる可能性があります。東日本大震災でも少なくない避難所が津波に呑まれてしまいましたし、火災で焼かれた場所もあります。
まず、避難場所なら安全、避難場所に着いたら安心という意識を捨てることから始める必要があります。その上で、あなたが行くべき避難場所の危険を詳細にチェックし、「最悪のケース」の対処方法を考えておかなければなりません。
避難場所での危険の主なものは、津波と火災です。津波浸水危険区域では、東日本大震災での気仙沼市のように、それらが同時に襲って来ることもあります。かなり内陸部でも、条件によっては津波の危険が全く無いわけではありません。
では、具体的に考えてみましょう。まず津波です。管理人が最も危惧するのは、河川敷に指定された「広域避難場所」です。もっとも、避難場所に指定されていなくても、下流域の広い河川敷には、数万~数十万人の避難者が集まるでしょう。
そこへ津波が遡上してきたらどうなるでしょうか。今震災のように数メートルの津波が遡上しなくても、例えば河川敷が50cmくらい冠水するような津波の遡上は、関東地方をはじめ大都市圏の河川でも十分に考えられます
今震災では、東京湾南部の木更津市や船橋市沿岸で2m以上、最大2.83mの津波を観測しました。東京湾最奥部では2m程度だったと思われますが、それでも荒川を埼玉県志木市付近まで、約35kmも遡上したのです。しかも、志木市の堰で止まったとのことで、もし堰が無ければ50kmは遡上したのではないかと言われています。
今回は河川敷の冠水はほとんどありませんでしたが、これが仮に3m以上の津波だったら、下流域の河川敷の多くが冠水するのは間違いありません。
50cm冠水すれば、津波が遡上する流速ならば人間は簡単に流されます。30cmでもあまり変わらないでしょう。河川敷で一旦流されたら、大抵は何もつかまるものも、流れ着く場所も無いのです。今震災で九死に一生を得た人のように、「木にしがみついて助かった」というような可能性はあまりありません。
しかし現実的にはそれ以上に恐ろしいのが、パニックです。数万人が密集している場所に津波が来たら、たとえそれが河川敷に溢れるほとではないにしても、群衆は一斉に堤防上に駆けあがろうとするでしょう。
たとえ本当に津波が来なくても、だれかが「津波だ!」と叫んだだけで、高い確率でパニックを誘発します。特に発災直後の夜間、停電下の暗闇ではそれだけでも不安感が強いところに、津波が事実かどうか確認することもできません。昼間でも、水面が見える人などわずかです。ですから、とりあえず逃げ出します。それも水面に近い場所にいる人から、群衆を押しのけて堤防を目指すのです。
どうでしょうか。もしあなたが暗闇の川沿いにいて津波が迫ったとしたら、そのような行動をしますよね。そしてそれは、ほとんどの人が同じなのです。さらに、群衆心理がそれに拍車をかけます。数万人がパニック状態になった中で、あなたは無事でいられるでしょうか。
今震災の津波からすんでのところで逃げ切った被災者の方の言葉に、恐ろしいけれどとても示唆に富んだものがあります。
「大勢が逃げる方にただついて行った人は、みんな死んでしまった」
これが現実です。群衆は、とにかく早く、たやすく逃げられそうな方角に、やみくもに移動しがちです。そして大きな人の流れは、群衆心理によってさらに膨らみます。みんなが行く方向なら、たぶん大丈夫だろうという心理が働くのです。しかしそれは、津波にとっても「流れやすい」、つまり流速、水深ともエネルギーが集中しやすい方角なのです。
しかしあなたがいるのは河川敷で、大抵は堤防が近くにあります。ならばそこに逃げた時何が起こる可能性があるかを知り、堤防上に最短時間で逃げるためにはどの辺りに位置を取るか、津波が来たらどの方角へ行くか、パニックの流れに呑まれないためにはどうするかを、十分に考えて行動を決める必要があります。
津波だけではありません。堤防沿いの街が大火災になっていることもあるのです。そのような危険がある場所は、都市部にはいくらでも存在します。そんな場合はどこへ移動し、津波が来たらどうするかなどの「オプション」を、十分にシミュレーションしておくのです。
群集心理に呑み込まれやすいのは、「自分の考え」を持っていない人です。どうすべきかの判断を急に迫られたとき、とりあえず大勢に依存してしまいやすくなる。そしてそれは、自分の運命をも他人に委ねてしまうことでもあります。
戦争映画で(そんなの見ない人はごめんなさい)、初陣で緊張する兵士に上官がかける定番の言葉に、「訓練通りにやれば大丈夫だ」というのがありますが、そういうことです。初陣の戦場=大災害下では、普段やっていないことなどろくにできません。ほとんどの人が、恐怖におののく初陣の兵士と同じです。ただ、事前の訓練=シミュレーションが十分だったかどうがが、生死を分ける可能性が高いのです。
もちろんシミュレーションだけでなく、移動にはどれくらい時間がかかるか、どれくらい疲労するか、どれくらいの荷物を運べそうか、子供やお年寄りが一緒だったらどうかなどを、実際に身体を動かして体感、つまり訓練しておく方が良いのは言うまでもありません。条件によって、出来ること出来ないことは、大きく変わります。
兵士だけではなんですからスポーツ選手の言葉に例えれば、「練習は裏切らない」のです。
余談ながら、「防災マニュアル」やブログなどの表現で、例えば「海沿いでは津波に注意する」とか「住宅密集地では火災に注意する」、「繁華街では落下物に注意する」なんてものが良くありますが、注意ってなんですか。
それを、実際にはどう行動するかという部分にまで具体的に落とし込んでおかなければ、「その時」には何の役にも立ちませんよ。世間には、そんなお気楽「防災」情報がやたらとはびこってますよね。
次回も「避難所の危険」です。
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