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2013年1月31日 (木)

【一周年記念企画】小説・生き残れ。(仮)【4】

千葉県北西部を震源としたマグニチュード6.8の地震は、東京都内にも小さくない被害をもたらしていた。揺れの大きかった場所では最大震度6弱に達し、古い建物の倒壊や交通機関への被害によって犠牲者も何人か出ていた。しかし大規模な火災やインフラへの重大なダメージはほとんど無く、地震から数日が経つと、街は急速に落ち着きを取り戻して行った。

衛はあれから、どのタイミングで三崎麗奈に連絡をしようかと、そればかりを考えていた。早すぎてもなんだかがっついているようだし、遅すぎてあまり興味が無いとも思われたくない。結局、地震の次の週の木曜日、昼休み中に電話をすることにした。名刺に書いてある番号だから、きっと仕事用の携帯だろうし。

穏やかに晴れた木曜日、衛は外回りの途中で早めに昼食を済ませ、ビルの谷間にある小さな公園のベンチに陣取った。時間は、12時45分。普通なら、彼女もそろそろ昼食を済ませている頃合いだ。衛は名刺入れから彼女の名刺を抜き出し、ひとつ大きく深呼吸してから、携帯のボタンをプッシュした。心臓の鼓動が、少し早くなる。

二回コールしたあと、繋がった。
《はい、MCコーポレーション総務課、三崎でございます》
やっぱり仕事モードだ。取り澄ましてはいるが、確かに良く通る、あの声だ。
「あの…先日お目にかかった、岩城です。今、大丈夫ですか?」
《あ…あの…ちょっとお待ちいただいてよろしいでしょうか?》

仕事中だったのか、周りにだれかいるのか、なんだか少し慌てた様子だ。声が少し素に戻っている。衛は彼女があたふたしている様子を想像した。かわいらしい人だ…。
「すいません。お忙しければ、またあとでかけ直します」
《…申し訳ございません。後ほどこちらから折り返させていただきます。お電話番号頂戴できますでしょうか?》
彼女の声はすぐに仕事モードに戻った。衛は自分の携帯の番号と、返信の時間はいつでも大丈夫だと伝える。
《…承知いたしました。申し訳ございません》
「いえ、お忙しいところすいませんでした」
《いえ、大変失礼いたしました。では後ほど…あの…》
「はい?」
彼女は、少し声をひそめるようにして、言った。
《…お電話、ありがとうございます》

衛はその声に、あの朝地下鉄駅で別れる時の、彼女の笑顔を思い出した。身体全体がじーんと熱くなる。でも声が上ずらないように、意識して低い声で答える。
「いえ、こちらこそ。では、お待ちしています」
《はい、失礼いたします》
電話を切った衛は、木立越しの冬の太陽を見上げて、大きくひとつ息を吐いた。そして思わず頬が緩んでしまうのを自覚しながら、呟いた。
「これって…脈アリだよな…」

その日の午後7時過ぎ、西新宿のオフィスに戻っていた衛の携帯電話が震えた。彼女の番号からの着信であることを確かめた衛は、すぐに席を立って人気の無い応接ブースに向かって歩きながら、少し大袈裟な声で応える。
「あ、どうも、岩城です。いつもお世話になっております!」
静かな時間帯に馴染みの顧客から電話がかかって来た時には、よくある行動。ごく自然に決まったはずだ。こんな電話をうわさ好きの女子社員に感づかれると、ろくなことが無い。

衛はパーティションで仕切られた応接ブースのひとつに入り、声のトーンを落として、それでも思い切り意識した低い声を作った。
「お待ちしてました、ありがとうございます。こちらは大丈夫です」
《まだお仕事中ですよね。ごめんなさい》
彼女はもう会社を出たようだ。声の後ろに、街の喧騒が聞こえる。
「いえ、大丈夫ですよ。もうすぐ上がりますし」
本当は、まだ当分帰れそうにも無いが。
《あの時は、本当にありがとうございました》
「いえ…なんだかバタバタしてしまって…」
《岩城さんに最後までお手伝いしていただいて、本当に心強かったんですよ》
少し強張ってた頬が緩む。
「そう言っていただけると…」
《あの後、大丈夫でしたか?》
「ええ。会社の中が少しやられましたけど、大した事も無くて。そう言えば、いただいたあれ、昼メシにいただきました。助かりました」

実際、あの地震の日はどこも店を閉めていて、弁当を持ってきている女子社員以外は、衛を除いて誰も昼食にありつけなかったのだ。
《お役に立ててよかった》
そう嬉しそうに言う彼女の笑顔が、衛の頭の中いっぱいに広がった。そろそろ、頃合か。あまりのんびり話してもいられない。衛は目をつぶって鼻から息をひとつ吸い込むと、切り出した。

「…あの…一度ゆっくりお話できたら…なんて思ってます」
ほんの少し、間が空いた。心臓がひとつ、どくんと大きく打つ。
「はい、喜んで…ってなんだか居酒屋みたいですね」
自分の言葉に突っ込みを入れてクスクス笑う彼女につられて、衛も声を上げて笑いそうになるが、それを慌てて呑み込みながら、調子を合わせる。
「では、そんな流れで」
「そうですね」
彼女の笑顔が、目に見えるようだ。ああ、12月なのにやたらと早い春が来たかも。

その後さらに声を潜めながら話し、明後日、土曜日の夕方に彼女と食事をすることに落ち着いた。展開が早い。こういう時は、きっと上手く行く。電話を切った衛は、小躍りしたいような気持ちをぐっと堪えて自分の席に戻ろうとすると、三期上の先輩がパソコンに目を向けたまま、仏頂面で声をかけて来た。
「岩城」
「はい?」
「女か」
しまった、ばれたか。とりあえず、誤魔化す。
「いえ…得意先と食事を…」
聞く耳を持たずに、先輩は続ける。
「ほどほどにしとけよ」
衛は、無理に半笑いになって言った。
「…決め付けてるし」
やり取りはそれで途切れたが、衛はあまり風采の上がらない先輩に向かって、心の中で毒づいた。
《うるせえっての。そっちこそ早く嫁もらえって》
なんだか、強気だ。


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