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2013年1月17日 (木)

【ニュース解説】787の問題とは@ヲタ目線

最新鋭のボーイング787型機に連続トラブルが発生しています。燃料漏れ、コクピット窓破損も看過できないものですが、最も重大なトラブルは、バッテリー過熱(事実上の火災)の連続発生です。

787型機の最大のセールスポイントは、従来型機にくらべて最大20%も燃費が改善されていることなのですが、このトラブルはそのために採用された新システムの根幹に関わることだからです。

787型機で初めて採用された燃費改善の方法は、エンジンの負荷軽減です。従来型機では、機内の与圧(高空でも機内の気圧を高く保つこと)や空調を、エンジンから圧縮空気(=ブリードエア)を引くことで行っています。高温高圧の圧縮空気を冷たい外気とブレンドして機内に送り、程良い気圧と温度にしているわけです。

余談ながら機内の気圧は地上の1気圧より低く、最大でも高度2500m程度の気圧ですから、機内では1気圧が封入されたお菓子の袋がパンパンに膨らんだり、万年筆のインクが吹き出したりするわけです。また、圧縮空気には水蒸気がほとんど含まれませんから、機内はとても乾燥しています。特に女性の方は、お肌の保湿対策も怠りなきように。

さておき787型機では、この与圧・空調を電気で作動するシステムに代替したためにエンジンの負荷が軽くなり、燃費が改善しました。このため従来型機に比べて多くの電力が必要になり、大容量の発電機やバッテリーを搭載しているわけです。

その大容量バッテリーが過熱する事故が連続したわけですから、これはバッテリーの個体不良というレベルではなく、システム自体に重大な問題が潜んでいる可能性があります。米国のNTSB(国家運輸安全委員会)が、すぐさま全787型機の飛行停止を指示したのも当然です。事故原因が究明されて対策が施されるまでの間、しばらく787型機は空から消えることになりますが、短期間では原因究明できないのではないかとも思います。


ところで、機内で煙や火災が発生するということは、どんな事態につながるのでしょうか。

航空機の火災事故は、おおむね三種類に分けられます。まずエンジン火災。この場合は燃料をカットして、エンジンに装備されている消火装置を作動させれば大抵は消火できますし、エンジンがふたつ以上の機体ならば、残ったエンジンで飛行を続け、着陸することができます。

あとのふたつのうちひとつは、貨物室で可燃物が発火する事故。これも燃え広がれば確実に墜落に至りますが、貨物や手荷物の事前チェックが徹底されるようになり、ほとんど起きなくなりました。そしてもうひとつが今回起きたような電気系統の火災であり、これが最も重大な結果を招く可能性があります。

実は、電気系統の火災による墜落事故は過去に多発しています。電気系統とはすなわちシステムの血管であり、それが焼けることで、操縦不能など致命的な結果となる可能性が高いのです。しかも、天井裏や床下を走っている電気系統は、一旦火が出ると消火が困難です。もちろん、現代の航空機には二重三重のバックアップシステムが備わっていますが、出火する場所によっては効果が薄いこともあります。

このため、電気系統に関しては多くの対策が施されて来ました。電線被覆材や周囲の断熱材、内装材の不燃化、万一出火しても、他のシステムに影響を及ぼしにくい配置などです。その効果で従来型旅客機での機内火災による重大事故は激減し、管理人の記憶では、ここ20年以上起きていないはずです。

それが今回、最新のシステムで発生してしまったということに、重大な意味があるのです。もっとも、過去の教訓を生かした徹底的な対策と現代のハイテクにより、この程度で済んだということもできます。バッテリーが過熱しても周囲を焦がしただけでそれ以上拡大せず、コンピュータの自己診断機能によって出火場所と機能不全がすぐに把握されたので、最短時間で対策が行われました。

過去には、出火場所を探しているうちに操縦不能に陥ったり、緊急着陸が間に合わずに墜落してしまった例もあるのです。

今回、宇部山口空港から羽田空港に向かったANAの787型機が、一旦通過した高松空港にUターンして緊急着陸したのは、そのような教訓を生かした最良の判断だったと言えます。つまり、機内出火したらとにかく最短時間で下ろす、ということです。乗客の利便性やその後の対応を考えれば、関空、伊丹、中部国際、県営名古屋辺りに下ろす方が良いと思われますが、一旦通過した高松空港に戻るのが最短時間と判断されたために、このような対応となったはずです。

ちょっとうがった見方をすれば、緊急着陸の影響を考えれば、トラフィックの少ない高松の方が影響が小さいという判断もあったかもしれません。緊急事態が宣言されると、その機体を最優先で下ろすために他の機体は滞空させられるか他の空港に回され、出発機も制限を受けます。さらに滑走路脇には消防隊が待機するなど、空港全体が非常体制に移行します。さらに今回は乗客の緊急脱出の必要があったため、長時間の滑走路閉鎖も予想されたわけで、その影響は甚大です。いずれにしろ、最良の対応だったと言えるでしょう。


このような緊急対応は、すべての災害対策に通じるものでもあります。つまり、危険が迫った時には、今できることを最短時間で全力で行うということです。そこに「大したことはない」や「なんとかなるだろう」という根拠の無い希望的観測を、絶対に差し挟んではならないのです。今回のANA機でも、着陸までにもっと時間がかかっていたら、操縦不能に陥る可能性も十分にあったということです。

管理人はしばらく飛行機に乗る予定はありませんが、もし乗る機会があっても787型機は当分避けますね。飛行再開時にはそれなりの対策が施されているでしょうが、過去に例の無い新システムの根幹に関わるトラブルですから、しばらくの間は様子見という感じです。

こんな「臆病」な考え方も、フェイルセイフ(=予防安全)のひとつと言えます。航空機は、フェイルセイフの考え方が最も徹底された分野のひとつと言えますが、乗客側ができることはごく限られます。そんな中、航空会社や機体を選ぶということは、数少ない対策のひとつなのです。

最後にちょっとえげつない、しかし大切なことを付け加えれば、万一墜落など重大事故に巻き込まれた場合、国や航空会社によって補償額は天地の差があります。もちろん日本は最高レベルですが。航空機に乗る時には、その辺も考えておくべきでしょう。

なにしろ、いちヒコーキ好きとしては、このトラブルが重大事故に発展せずに収まったことに胸をなで下ろしています。そして、十分な原因究明と対策が行われることを期待しています。こういうハードルを乗り越えて、技術は進歩して行くのですから。


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コメント

私は飛行機に乗ったことがありません。当然海外にも行ったことがありません。とにかくめんどくさそうという印象が強すぎます。飛行機そのものが危険とは思いませんが、「高いところ」「他人の運転」「しかも揺れる」の三点セットは恐怖ですね…優雅に船旅、というのも海面から海底までの絶望的な「高さ」を考えると恐ろしいです。

めんどくさいイメージは、人から聞く空港での出来事が基本的にトラブルネタが多いからかもしれません。先日敬愛?する伊集院光さんが正月にカナダに行った時も、聞いてるだけでウンザリするほどトラブル続きだったそうで、帰りは話題の787が飛ばず悠長に待ってたら仕事に間にあわない、ということで38万円!払って別便のビジネスクラスで帰って来たとラジオでお話されてました。私なら国内線でもトムハンクスばりにリアルターミナルとかやらかしそうな気がしますw
やっぱり新幹線がサイコーですね。

>tntさん

私は飛行機も含めて自称「のりものマニア」なんですが、実は飛行機に乗るのはあまり好きではありません。乗る回数も決して多いとはいえません。飛行機でも鉄道でも、マニア的には外から眺めている方がいいし、飛行機で楽しいのは離着陸だけで、あとは退屈のひとこと。機体が好きなだけの人間には、空港も含めて運用やサービス面は興味無いんです。

それに、昔から航空事故の研究みたいなこともやってましたから、あらゆる事故のパターンを知っています。だからいろいろ考えてしまって落ち着かないし(笑)最長フライトは例のワシントン行きでしたけど、11時間は死ぬほど退屈でした…小さな画面で映画見てもつまらんし、本読んでもなんか落ち着かないし。真ん中の席で外も見えないし、しかもほとんど夜。

私も飛行機には積極的には乗りたくないですね。確かに手続きもめんどくさい。マニアなのに(笑)

私は、やはり自分で運転するバイクや車で移動するのが好きです。運転自体が趣味みたいなものですし。調子よければ、車なら500キロはノンストップで走りますよ。東北道起点から仙台なら楽勝です。新幹線は、駅のホームにいる姿と最高速度で走り去る姿が好きですね。最高速度が出る駅の通過をわざわざ見に行ったりしますから。マニアってめんどくさいんです(笑)

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