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2013年2月

2013年2月28日 (木)

防災科技研成果発表会に参加しました

去る2月25日、管理人は都内で開催された防災科学技術研究所の第8回成果発表会に参加して来ました。いろいろ興味深い話が聞けましたので、当ブログにも順次フィードバックさせて行きたいと思います。

実はあの日、発表の真っ最中に栃木県北部で震度5強が発生し、会場付近は震度3でした。会場の一橋大学講堂には300人以上の参加者がいたと思いますが、さすがというかなんと言うか、揺れを感じた瞬間にも誰ひとり微動だにしなかったどころか、小さな声を上げる人ひとりもおらず、静まり返ったままでした。

なにしろ参加者は普段から自然災害関連の研究をしていたり、興味を持っている人ばかりですから、最初のひと揺れを感じた瞬間に「問題ない」と判断したのでしょう。発表中だし、騒ぐには及ばないと。


管理人はとりあえず天井に吊した照明を見ながら、もし揺れが大きくなったら椅子の間に伏せようと、跳ね上げ式のテーブルに手をかけて様子を見ていました。しかし初期微動は感じなかったから震源は近くなく、主要動の立ち上がりも減衰も早かったから震源浅いな…ならば連鎖するようなこと無いだろうとも考えていました。会場の天井構造が、当ブログでも何度も危険を指摘している「吊り天井」では無いことは入場時に確認済みでしたので、大きな照明設備だけがちょっと気になったのです。

ちょっと驚かされたのは、地震から数分して発表が終わった後に、司会者が「先ほど栃木県北部、深さ10kmでマグニチュード6.2、最大震度5強が発生しました」と言っても、ざわめきひとつ起きません。シーンとしたまま。これが一般の集会ならば、震度5強と聞けば多少はざわめきますよね。でも管理人の印象では、「とんでもない場所で起きやがった」というような、憮然とした空気が支配的だったような気がします。さすが「慣れた」人たち。

もとより、地震の大きさで驚くような人たちではありません。どこで何が起きようとも、想定の範囲内なのでしょう。情報を聞いた瞬間に、それぞれが地震のメカニズム、具体的な被害の可能性や今後の行動などに思いを馳せていたのではないかと思います。管理人もそうでした。内陸の深さ10kmなら正断層型、震源直上付近では建物被害が出たはずだ・・・とか。(実際には正断層型ではなく珍しい横ずれ断層型だったのは、前記事の通りです)さらに、これも前記事にも書きましたが、数日前から栃木県北部での散発的な小規模地震を気にしていただけに、「やっぱりそこで起きたか!」という思いでもありました。と同時に、この会場の様子をブログに書こうと(笑)

今回の地震では、都内では緊急地震速報は流れなかったのですが、速報が流れていたらどうだったのか、ちょっと見てみたかったなどと言ったら怒られるでしょうか。


もうひとつ、面白かったけれど腹の立つ話。防災科技研の火山チームと気象チームの研究者が、奇しくも同じ事を言っていました。立場上、マスコミの取材を良く受ける方々です。

火山関係の取材では、ほぼすべて「富士山は噴火するか?」と聞いてきて、「その兆候は無い」と言うと、取材自体をキャンセルされる。他の取材を長時間受けても、最後に必ず「富士山は?」と聞かれ、問題無いと答えると、記事がすべてボツになると。

しかも、富士山は過去2200年も山頂からの噴火はしておらず、山腹からの中小規模の噴火しかしていないのに(1707年の宝永噴火も富士山としては中規模)、何がなんでも山頂からの大噴火の可能性があると言わないと「許してもらえない」ような圧力を感じるそうです。

気象チームには、「温暖化の影響で竜巻が増えていますよね」と、断定的に聞いてくるそうですが、確かに最近は増える傾向があるものの、長期的評価やメカニズムの解明無しには「増えた」とは言わないのが科学者です。だから「なんとも言えない」と答えると、やはり記事はボツになるとのこと。

当然ながら「真っ当な」科学者はいいかげんな事は言いませんが、マスコミはなんとしても権威のある科学者に怖いことを言わせる方向で決め撃ちして来て、望むような答えが得られないと、「大丈夫だ」という記事にさえしないということです。

それは言うまでも無く、恐怖を煽るのが一番「数字」になる、つまり売り上げや視聴率を稼げるし、権威ある人の発言ほど説得力があるからなのです。災害の場合の最強のブランドはやはり「東大教授」で、次がこの防災科学技術研究所という感じでしょうか。

しかしマスコミは、「権威」から望む答えが得られないと、はっきり言って「え、そんな大学あったの?」と言うようなところの「教授」にコメントを求めるわけです。「教授」はそれだけで強力なブランドです。そして、そのような人は、マスコミの望みに迎合した「怖い」コメントをしてしまう人もいるんですね。

当ブログでも過去に噛みつきましたけど、富士山の山体が三分の一吹っ飛ぶような噴火の可能性があるとか、富士山が噴いたら日本に飢饉が起きるとか、結構言いたい放題だったりする。とにかくも、多くのマスコミに流れているような派手な災害関連情報は、そんなバイアスがかかりまくったものであり、それに一番心を痛めているのは、「真っ当な」研究者なのです。

こうも言っていました。富士山の地震計や傾斜計のデータはウェブで公開されていますが、機器の不調で少し変わったデータが出ると、すぐに「某巨大掲示板」(実際にははっきり名指ししてましたけど)辺りで「これはおかしい!」と「祭り」が始まると。

さらに富士山地震計のデータはリアルタイムではなく、オペレーターによって適正な処理をしてからウェブに掲載するので、掲載までに数日かかるそうなのですが、マスコミなどからは「なんですぐに掲載しないんだ」と「苦情」が来るとも。こういうのは「陰謀論者」も喜ばせます。データが改竄されているとかのネタになって。

日々、防災・減災のために真摯に研究している人たちは、そんな状況に心底うんざりしているのです。しかしこれは文句を言っても、大地震や大災害の恐怖が「数字」に繋がるうちは、変わりはしないでしょう。せめて、正しい情報を追い求め、正しく理解し、正しく利用するという姿勢を、管理人は追求して行こうと思っています。当ブログを通じて、そんな姿勢が少しでも広まるのならうれしいのですが。

でも、こういうのを「ゴマメの歯ぎしり」って言うんでしょうね(笑)


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2013年2月27日 (水)

【補足・栃木県北部震度5強】地震関連情報【2/27】

前記事で、『今回の栃木県北部地震が発生した震源域は、震災後も目立った動きは無かった』と書きましたが、それについての補足記事です。

下に添付の画像は、東京大学地震研究所がWebで発表しているデータ画像をお借りしたものです。この画像は、東日本大震災から6ヶ月半ほど経った、2011年9月20日から26日までの7日間に発生した地震の震央や規模、震源深さなどをプロットしたものです。
Photo
ご覧のように震災から約半年後くらいには、膨大な数の余震や誘発地震が発生していたことがわかります。なお、この図にはマグニチュード1クラスの無感地震も含まれています。

図中、青い○の中心が2月25日の震央ですが、ご覧のように周囲で膨大な数の地震が発生している中でも、特に集中して発生していることは伺えません。この図だけでなく、管理人は震災後の地震発生状況を継続的にモニターして来ましたが、この付近で有感地震が発生することはほとんどありませんでしたし、発生しても震度1~2レベルの小規模のものでした。

○の中心の南側に、ピンクの点が集中している部分がありますが、その部分は今回の震源となった断層とは異なると考えられます。2月26日のNHKテレビ「ニュースウオッチ9」の中で、「今回の震源は震災後に地震が多発するようになった場所」と言っていましたが、それは恐らくこの部分のことでしょう。

しかし今回の本震及び現在までのすべての余震は、上図の青○の中心付近のごく狭い範囲で発生しており、上記の多発震源域にはかかっていません。このことからも、今回動いた断層とはほぼ無関係と考えて良いと思われます。つまり、25日の地震は、震災後もほとんど動きが無かった断層が突然動いた、ということができます。


ところで、前記事をお読みいただいてお気付きになられた方はあるでしょうか。今まで当ブログで、震災後の誘発地震発生パターンのひとつとして、便宜的に「内陸の地震」と呼んでいたタイプがあります。これは比較的内陸部の深さ10kmより浅い場所で起きるもので、下図の2に当たります。
Photo
今回の地震は、一見このタイプに見えますが、実は根本的に異なるものなのです。

「内陸の地震」とは、震災後の地殻変動によって日本列島が東向に引っ張られる力で正断層がずれて発生するものです。一方今回のタイプは、気象庁発表にもある通り、西向きの圧縮力によって横ずれ型断層が動いたのです。横ずれ型断層は、引っ張り力で横ずれすることはありません。常に圧縮力か、文字通り横方向にずれる力で動きます。

最初に掲載した震源図で、内陸部で発生している浅い地震(ピンク色の点)の大半は、引っ張り力による正断層型地震、つまり「内陸の地震」ですが、今回は全く逆の圧縮力による地震なのです。

管理人が得ただけの情報では断定はできませんが、震災後少しずつ溜まって来た圧縮力によるひずみが、ここで一気に開放されたと考えられそうです。ただでさえ動きづらい横ずれ型断層を動かすほどの大きな圧縮力によって断層面がより大きく破壊されたのならば、それが落ち着くまでに非常に多数の余震が発生していることも説明がつきます。

メカニズムはともかく、今回の地震で、内陸で発生する浅い誘発地震は、引っ張り力だけでなく圧縮力で発生するものがあるということがわかりました。そして、それは日本列島各地の断層に、今回の断層と同じような圧縮ストレスがかかっている場所も少なくない、ということでもあります。


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2013年2月26日 (火)

【栃木県北部で震度5強】地震関連情報【2/26】

昨日2月25日の午後4時23分頃、栃木県北部の群馬・福島県境付近、深さ10kmを震源とするマグニチュード6.2の地震が発生し、栃木県日光市湯元で最大震度5強を記録しました。その後、非常に多数の余震が発生しています。

この地震を起こした断層は、気象庁の速報によると西北西ー東南東に圧力軸を持つ横ずれ型断層です。つまり、太平洋側からの圧縮力によって、ほぼ南北方向に走る断層が横向きにずれたことで発生したものです。

東日本大震災後、太平洋プレートの動きが加速して、東日本に対する西向きの圧縮力が強くなっていますので、この地震も広義において東日本大震災による誘発地震と考えられます。

しかし、この震源域付近では、平常時でも地震が発生することはかなりまれであり、震災後も、今までは特に目立った動きはありませんでした。(このことについては、後ほど資料を添付して続報します)

なお、25日の本震以前にも、数日前からこの付近での小規模地震が散発的に発生しており、珍しい場所で起き始めたと管理人も気にしておりました。今にして思えば、「前震」と言えるものだったのです。しかし、ある地震がより大きな地震の前震であるかどうかを事前に知る方法は、全くありません。起きて初めて「そうだったのか」と言えるのみです。


震災後の誘発地震の発生をモニターしてきた管理人の記憶では、震災後に少なくとも横ずれ型断層で震度5レベルが発生したのは初めてではないかと思われます。

我が国においては横ずれ型断層自体が少なく、上下方向にずれる正断層や逆断層に比べてメカニズム的に動きずらいこともあって、震災前でも横ずれ型断層による大規模地震はほとんど発生していません。

今回、そのような断層が突然動いたということは、それだけ日本列島にかかっているストレスが大きいということの証左と言えます。そして、より「動きやすい」断層よりも、確率的に動きずらい断層が突然動いたということが、「いつどこで起きてもおかしくない」という事実をも証明していると言えます。


震災後に「動くかもしれない」とされている横ずれ型断層の代表的なものに、福島県の沿岸部、福島第一原発の近くを南北に走っている「双葉断層」や、東京都青梅市から立川市を通って国立市に至る「立川断層」があります。なお、「立川断層」は北西部の一部のみ左横ずれ型です。

しかし現在のところ、両者とも震災後に特に目立った動きはありません。その前に、ほとんど警戒もされていなかった栃木県北部で大きな地震が発生したということが、確率によって地震を警戒することの困難さを示しています。

どの震源域で何パーセントという発表はいろいろあり、メディアではそればかりが取り上げられますが、やはりつまるところ、「いつどこで起きてもおかしくない」のです。日本中どこでも「ここは大丈夫」という場所は無いと考えるべきで、すなわち地震への備えに地域差があってはなりません。

阪神・淡路大震災前には、関西で大地震が起きるとはほとんどの人が考えていませんでしたが、実際に起きました。日本列島の地下には、そんな地震を起こす断層が無数にあります。そして東日本大震災後、それら無数の断層に、過去には想像もしていなかったようなストレスがかかっているのは確かなのです。


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2013年2月22日 (金)

【一周年記念企画】小説・生き残れ。【10】

玲奈は、白い大理石が張られたエントランスの床に叩きつけられて呻いている、数人の男女に駆け寄った。衛は足元がまだ覚束ず、少しよろめきながら後に続く。玲奈はまずLEDライトの白い光で全周と上の方を照らしながら、指をさして危険が無いかを確認して行った。幸いにして、余震で落ちてきそうなガラスや壁材などは見あたらない。

倒れているのは四人だった。うち三人は意識がはっきりしており、
「頭を打っていませんか?」
という玲奈の問いかけに、皆しっかりと頷いた。ひどい打撲か、どこか骨折しているかもしれないが、大きな出血も身体の変形も無いので、さし当たって生命の危険は無いと玲奈は判断した。問題は、うつぶせに倒れたまま苦しげに息をしている、40歳くらいに見えるスーツ姿の男だ。短く刈った髪の毛の中から流れ出る血が、白い大理石の上に濁った紫色の血だまりを作っている。頭を強く打っている可能性が高い。

頭の皮膚のすぐ下には毛細血管が密集しているので、小さな怪我でも血がどっと出て慌てやすいが、普通なら止血もそれほど難しくはない。傷口をしばらく圧迫すれば、大抵は大丈夫だ。しかしこの男の出血は小さな傷のレベルをはるかに超えている。傷はかなり大きそうだ。

玲奈が男の脇にかがんで、肩口を叩きながら
「もしもし、わかりますか?」
と耳元で言っても、わずかに手足を動かして呻くだけだ。・・・意識レベル200。玲奈はつぶやくと、衛を振り返って
「衛、レジ袋と、ペーパーナプキンと、タオル・・・できれば手ぬぐいをできるだけたくさん探して来て!」
と鋭く言った。任せとけとばかりに駆け出そうとした衛だったが、ビルの中に戻ろうにも、停電で真っ暗闇だということに気づいた。思わず
「無理だよそんなの・・・」
と泣き言が出る。

すると玲奈は、自分のハンドバッグから何かを掴み出した。
「これ、使って」
と手渡されたものを見て、衛は驚いた。なんと、二本目のLEDライトだった。少し小振りなものだったが、点灯すると10メートルくらい先まで見通せて、これなら暗闇のビル内でもなんとかなる。その白い明かりに勇気づけられた様子の衛に、玲奈は言った。
「余震が来たらすぐに頭を守って、姿勢を低くして落下物を警戒してね」
ただ"余震に気をつけて”とか漠然としたことを言わないのが、実に玲奈らしい。

でも、衛にはわかっていた。玲奈の本心は、衛を危険な場所へ戻らせたくはないのだ。衛を見る玲奈の瞳は、あの"毅然”モードがそこだけほころんだように、少し潤んでいるように見えた。でも今は、玲奈ひとりだけでは対処しきれない。いいよ玲奈、わかってる。なんだかいつも情けない姿ばかり見せちゃってるけど、ここで少し挽回させてもらうよ。正直言うとかなり怖いけど、よし、ここは行っとけ!

衛は螺旋階段を見上げてひとつ大きく息を吸い込むと、意を決してLEDライトをかざしながら駆け上がった。半分開いたレストランの自動ドアをすり抜けると、暗闇の店内ではもうひとつのライトの光がうごめいている。客のひとりが、店員と一緒に店内で怪我をした人の手当をしているようだ。
《玲奈みたいな人、いるんだな・・・》
怪我をして動けなくなった時、そばにそんな人がいてくれるかどうかで、その後は大きく変わる。生死を分けることがあるかもしれない。でも他人を頼るより、自分でできるようになった方がいいよな・・・。

そう思いながら、衛に気づいた白衣の調理師に言って、開封前のペーパーナプキンの包みをふたつ、レジ袋の束と、調理用の木綿布を数枚出してもらった。木綿布は、怪我の手当ならこれがいいだろうと調理師が選んでくれたものだ。衛はその調理師の落ち着き払った態度を見て、自分が異様に興奮していることに気づかされた。今まで自分では意識していなかったが、心臓がどくどくと早鐘を打っている。

いけない。なに慌ててるんだ。おれも落ち着かなきゃ。そう思ってひとつ深呼吸すると、調理師に礼を言った。そして、今何が必要かもう一度頭を巡らせて、戻り際に
「できたら下も手伝ってください!」
と、付け加えた。いいぞ、おれ。そうだ。慌てるな。慌てずに考えるんだ。

衛がエントランスへ駆け降りると、玲奈は男の脇にひざまづいて、頭の傷を自分のハンカチで圧迫していた。淡い色のハンカチは大量の血を吸ってどす黒く変色し、玲奈がはめているラテックス手袋も血まみれだ。駆け寄る衛の姿を見て、玲奈はわずかに微笑んだ。しかしその目には困惑の色が浮かんでいる。
「出血が・・・止まらないの・・・」
そう言う口調には、つい先ほどの鋭さは無い。
「これ、持ってきた」
衛が抱えてきたものを床に置くと、それを見た玲奈の表情が少し明るくなった。
「ありがとう。すごくいいわ」

玲奈は続けた。
「衛、傷の圧迫を代わって。レジ袋を二重にして手にはめてから、ハンカチでここを圧迫するの」
「わ、わかった!」
衛はレジ袋を手に被せようとしたが、急に手が震えだしてうまく行かない。血まみれの怪我人に触ると思うと、いきなり怖じ気が頭をもたげて来た。自分が触った途端に容態が悪くなり、急に死んでしまうんじゃないか、そんな考えに囚われる。

それを見越したように玲奈が言う。
「大丈夫よ。出血を押さえるだけだから。でも、あまり力を入れすぎないでね」
その加減がわからないから怖いのだが、とにかくやるしかない。衛は腹を決めた。血を直接触って血液感染しないように、レジ袋を被せた手で玲奈から血まみれのハンカチを受け取ると、頭の傷を圧迫し始めた。

出血はまだ続いている。血液の温度が、レジ袋を通して手に伝わってくる。血って、こんなに暖かいのか。衛は、その暖かさに"命”を感じた。すると、怖さがふっと消えた。そして、この流れ出す"命”を押し止めたい、見ず知らずのこの男の命をなんとしても救いたいという気持ちが沸き上がって来て、圧迫する手に少しだけ力がこもった。どこかにこの男の"命”を、待っている人がいるんだ。

その間に、玲奈はペーパーナプキンの袋を開けて束を取り出し、それを白い木綿布で包む。見かけは、文字通り木綿豆腐のようなものが出来上がった。そして自分の柿色のスカーフを広げ、三角形にふたつ折りにした。そして衛に声をかける。
「ありがとう。もういいよ」
「わ、わかった」

衛が手をどけると、玲奈は"木綿豆腐"を頭の傷口に当てた。そしてスカーフの三角布を鮮やかな手つきで男の頭に巻いた。結び目をきつく縛って、しっかりと傷口が圧迫されていることを確かめる。そして、大きく息をつきながら言った。
「とりあえず、これで大丈夫」
「本当に大丈夫なのか?」
「出血は止められると思うわ。でも頭を強く打っていたら・・・これ以上は、ここでは無理・・・」
玲奈の眉間に、苦悩の皺が刻まれる。目の前の坂道を埋めた渋滞の車列はほとんど動いておらず、救急車を呼んでも来るはずもない。それ以前に、固定電話も携帯も繋がらなくなっていることが、周りから聞こえて来る声でわかっていた。

「できるだけ身体が冷えないようにしないと」
玲奈はそう言いながら周りを見回すが、保温に使えそうなものは見あたらない。そこへ、先ほどの調理師が畳んだ段ボール箱の大きな束を抱えて、螺旋階段を降りてきた。渡りに船とはこのことだ。玲奈が声をかけるより早く、
「これを保温に使ってください」
と言いながら、調理師は野菜や調味料の名前がプリントしてある段ボールの束をどさりと置いた。


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2013年2月20日 (水)

【一周年記念企画】小説・生き残れ。【9】

激しく揺れる暗闇の中、最初にレストランのエントランスへたどりついた男が停電で開かない自動ドアに手をかけて力ずくで半分ほど引き開けると、身体をねじ込むようにして通り抜けた。そのまま続く何人かは通り抜けられたが、一人が転ぶと次々に折り重なり、真っ暗なドアの前で文字通り黒山になった。背中を踏みつけられた女が、絶叫する。

ドアを出られた客は表の螺旋階段を下りようとしたが、激しい揺れで手すりにしがみついていることしかできない。そこへ後ろから駆け下りようとした数人の客がつまづき、悲鳴と共に階段を転げ落ちて、大理石貼りの床に叩きつけられた。どすっという鈍い音が続けざまに響く。

衛と玲奈は、テーブルの下で必死に耐えていた。正確には、恐怖で身動きができない衛の頭を玲奈がしっかりと胸に抱いて、脱出のタイミングをはかっていた。衛は頬に玲奈の胸の柔らかさと重量感を感じながら、
「玲奈ぁ…助けてくれ…」
と搾り出すように繰り返していた。身体が、全く動かない。と言うより、恐怖に混乱した頭が、身体を動かす指令を出すことを完全に放棄していた。
「玲奈ぁぁ…」

頭上で狂ったように跳ね回っていた豪奢なシャンデリアの鎖がついに切れ、二人のテーブルの上に落ちて派手な音を立てて砕け散った。さすがの玲奈もそのはじけるような大音響に全身をビクっと固くしたが、すぐに
「大丈夫!、もう少し、もう少し待って!」
と、自分に言い聞かせるように声を絞り出した。息が荒い。壁にかけられた大きなリトグラフの額が吹っ飛び、観葉植物の鉢が床を転げ周る。

狂ったような揺れが少しずつ収まって来るのを、二人は感じた。衛はやっと少しだけ我に返り、一刻も早くここから逃げ出さなければと思った。玲奈から身体を離そうとすると、しかし玲奈は衛の頭をさらに強く抱き寄せながら、叫ぶように言った。
「バカっ!まだ、まだよっ!」


やがて揺れは潮が引くように小さくなって行き、完全に収まった。辺りに静寂が戻る。玲奈は肩にかけていたハンドバッグから小型のLEDライトを取り出し、点灯した。あの地下鉄の中で放たれたのと同じ、白く強い光の束が辺りを走る。衛はその光がなんだか懐かしくさえ感じたが、店の中はあの時の車内どころでは無い。あちこちで人が倒れ、椅子やテーブルが散乱しているのが見える。その様子を見た玲奈は一瞬迷ったようだったが、
「とにかく一旦出ましょう」
と言い、ふたりはテーブルの下から這い出した。

すぐに自動ドアを目指そうとする衛の腕をつかんで、玲奈は
「こっちよ!」
と、店の奥へと衛を引っ張って行った。

店の一番奥まった場所に来た時、衛はそこに非常口のサインが緑色に点灯しているのを見た。二人の席からは全く見えていなかった。衛は、その時初めて気付いた。玲奈は、席に座る前に奥の非常口の場所を確認していたのだ。そして大きな地震が来たら、店の出入り口と表の螺旋階段からの脱出は困難だと考えて、裏手の非常口に近い席をリクエストしたのだ。

この店に入る前に玲奈が立ち止まったのは、こんな時のために建物の造りを見て、脱出路を考えていたのだということにも気付いた。食事の内容を考えていたんじゃないんだ…
《玲奈…すげえよ…》
衛はライトで非常口ドアの周囲を照らしている玲奈の真剣な横顔を見ながら、心の中でつぶやいた。
 
すると玲奈は、非常口のドアノブにそっと、右手の甲で触れた。そして
「大丈夫ね、熱くない」
そう言うとドアノブを回して、装飾のために木製のラティスで覆われた鉄製のドアを開けた。一階へつながる非常階段は真っ暗だったが、煙や異臭は無い。ふたりはライトを持った玲奈を前にして、階段を下りて行った。

店の外は、大混乱だった。ビルが大きく損傷するほどの被害は無いようだったが、袖看板やガラス片が路上に散らばり、あちこちで人が倒れている。螺旋階段から転げ落ちた客が、何人もうずくまって呻いている。周辺のビルから続々とあふれ出てくる人々が、車のライトの明かりだけの暗い路上で、右往左往している。あちこちから消防車や救急車のサイレンが聞こえて来るが、一体どこへ向かっているのかわからない。

衛は厳しい表情で周りを見回している玲奈に言った。
「は、早く逃げよう!」
すると玲奈はキッと衛を振り返って言い放った。
「バカ!負傷者救護が先!」
見ると、玲奈はもう、半透明のゴム手袋をはめている。血液感染防止用のラテックス手袋だ。それを見て、衛はひとこと、今度は声に出してつぶやいた。
「玲奈…すげえ…」


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【気になる地震】地震関連情報【2/20】

昨日2月19日、午後9時27分頃、千葉県東方沖の深さ30kmを震源とするマグニチュード5.8の地震が発生し、茨城県神栖市で最大震度3を記録しました。

規模的にもマグニチュード5.8とかなり大きめだったのですが、それ以上に気になることがあります。

この震源域は、1677年に推定マグニチュード8以上とされる地震が発生し、その後335年間も大きな地震が発生していない、いわゆる「空白域」なのです。今回の震央は、その震源域の南端部に当たります。

この震源域は宮城県沖から茨城県沖に続く東日本大震災震源域の南側に隣接しており、震災による地殻変動の影響を非常に強く受けているのは疑いありません。もしこの場所に約300年分の大きなひずみエネルギーが蓄積されていた場合、震災の影響で連鎖的に動く可能性が指摘されています。

しかし震災後もこれまでは特に目立った変化は見られず、小規模の地震もあまり発生していませんでした。今回は、その場所で「久しぶりに」発生した中規模地震なのです。

過去の例を見ると、世界的に大規模地震、特にマグニチュード9クラスが発生した後には、近隣の震源域で連鎖的に大規模地震が発生する確率が非常に高く、ほぼすべての場合でそれは5年以内に発生しています。

東日本大震災後には、直後の3月12日未明に長野県栄村地震、3月15日に静岡県富士宮地震が発生していますが、これらは内陸の断層が動いたもので、プレート境界型(海溝型)の連鎖地震はまだ発生していません。

震災の影響でプレート境界型地震が発生するならば、この千葉沖震源域の可能性がかなり高いのではないかと、元東京大学地震研究所の都司先生も指摘されています。

では、この震源域に果たして地震を起こすひずみエネルギーが蓄積されているのか、すなわちひずみエネルギーを蓄積するプレートの「固着域」(=アスペリティ)が存在するのでしょうか。

残念ながら、現代の科学ではそれを知る方法はありません。ただ、335年前にプレート境界型大地震が発生している場所ですから、その後再び大きなエネルギーが蓄積されていると考えるのが自然ではあります。プレート境界型地震には、周期性があるのです。

もしこの場所でマグニチュード8クラスの地震が発生したら、関東から東北南部の太平洋沿岸は震度5強〜6弱、場所によっては6強クラスの揺れになり、福島、茨城、千葉の沿岸部には、場所によっては10mクラスの津波が到達することが考えられます。千葉県沿岸部の調査結果によると、実際にそのクラスの津波が到達した痕跡が確認されています。

今回、そのような場所で中規模の地震が発生したわけで、まずはこの地震が大規模地震の「前震」であることを疑うべきではあります。震災直前の3月9日と10日に発生した、大きめの地震を思い出してください。そしてしばらく警戒レベルを上げてつつ、今後の動きに注意する必要があります。


一方、2月19日から20日にかけて、鹿児島県のトカラ列島付近で深さ10km以浅での小規模地震が8回連続して発生しています。この場所は、特に震災後に小規模地震が連続して発生することが増えた場所ですが、震災直後を除けば、8回連続というのはかなり集中した多発状況です。

震災後も今のところそれほど大きな地震には繋がっていないものの、昨年末くらいから西日本各地での地震が増える傾向でもありますので、こちらもしばらく警戒レベルを上げておく必要があります。


東日本大震災から間もなく二年になりますが、日本列島全域は未だその影響のまっただ中にあり、地下の状況は日々変化を続けています。このまま何事もなく静穏化して行くと考えるべきではありません。

改めて「いつどこで起きてもおかしくない」という意識を持って備えを進め、日々の警戒も怠りありませんように。まだ備えが不十分だとお感じの方、いつやるんですか?それは「今でしょ!」

いえ、決して笑い事ではなく。


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2013年2月18日 (月)

【ニュース解説】隕石についてのいろいろ

ロシアに大きな隕石が落下しました。これで被害が出ていなければ、メディアは「壮大な天体ショー」くらいのノリだったのでしょうが、当初の想像以上に大きな被害が出ているようです。

管理人的に気になるのは、以前から予告されていた小惑星が地球に最接近する前日に、突然「巨大」隕石が落下したということです。両者の軌道は全く異なりますから、接近した小惑星の破片が飛び込んで来た訳でもありません。

宇宙的な時間軸で見たら、二日連続でこのような事態が起こることは、ゼロに等しいほど小さな確率なのです。しかし実際に起きました。それが究極の偶然なのか、それとも、地球に接近しているけれど観測できないほどの、しかし燃え尽きずに地上にまで達する大きさの小天体が他にもたくさんあることを表すのか、どちらなのでしょうか。

もし仮に、地球の周囲を観測できない規模の小天体が無数に通過していたとしても、次に地表まで飛び込んで来るのは数十年、数百年先でもおかしくはありません。宇宙の時間軸とはそのようなものですから、大隕石の落下と小惑星の大接近というイベントが二日連続という異常な短時間内に起きたということが、何より驚きではあります。今後の分析に注目したい思います。


さておき、今回の隕石が爆発したエネルギーが広島型原爆と比較してどうのとかいう報道も多いのですが、今回の隕石落下における被害の大半は爆発によるものではなく、隕石が極超音速で落下して来ることで発生した、強力な衝撃波(=ソニックブーム)によるものです。

衝撃波とは、大気中を超音速で移動する物体の前方に発生する圧力波のことです。低速ならば物体を避けて流れる空気も、物体が超音速になると避けきれずに、一部が物体前方で圧縮されるようになります。その圧力波が音速で拡散して地上に到達したものが衝撃波で、物体が高速になるほど圧力が高く、すなわち衝撃が大きくなります。

これは超音速の飛翔体にはつきものですから、超音速戦闘機などは、基本的には海上でしか音速に入れません。陸地上空だと、隕石ほどでは無いにしても大音響とガラスを割るほどの衝撃波が地上に到達してしまうのです。

今回の隕石は落下速度が秒速約30km、マッハ10に近い速度で成層圏を通過するという、人類の技術で言えば大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭が落下する速度以上という極超音速に達したため、建物を壊したり、窓枠ごと吹き飛ばすような強力な衝撃波が発生したのです。

ただ、最大の衝撃波が発生したのは、隕石が高度20~30kmで爆発する直前のはずです。そのような高空で小さく割れたため、この程度の衝撃波で済んだとも言えます。もし大きな塊のまま地表近くにまで達していたら、さらに強力な衝撃波によって被害が拡大していたでしょう。

報道でよく引き合いに出されている、1908年にシベリアのツングースカに落下した隕石は今回の隕石よりはるかに大型だと思われ、さらに地表のごく近くで爆発したために、広大な範囲の木々が同心円状になぎ倒されるという痕跡を残しました。これは爆発による圧力波(圧搾空気界)が木々をなぎ倒したもので、核爆弾の効果に近いものですから、今回の衝撃波被害とは本質的に異なります。もっとも、隕石が上空を通過した地上部では、今回よりはるかに強力な衝撃波に見舞われていたと思われますが。


一方で、隕石の落下から数日経って、あまり本質とは関係ないような報道も出てきました。その中でも噴飯ものをひとつ。敢えて直接は引用しませんが、ロシアの旅客機が隕石と「ニアミス」したというもの。ニアミスとは即ち、回避行動をとらないと衝突につながる可能性が高い距離にまで接近してしまうことです。

あるロシアの機長によれば、
『着陸のために高度を落としたら、まばゆい火の玉を見た。ぶつからずに通り過ぎるのを願うしかなかった』
そうです。これだけ見れば、危機一髪に思えないこともないですね。

でも「まばゆい火の玉」は恐らく爆発時の閃光で、その時の高度は低くても20km(20000m)以上でした。ジェット旅客機が飛ぶ高度は、一番高くて12km(12000m)です。しかもこの機体は、着陸のために降下中だったそうで。報道には隕石に遭遇した高度はありませんが。

もし隕石が自分の飛行方向に対しての衝突コース(コリジョンコース)に近かったのなら(パイロットならすぐ判断できます)、この機長の心配もわかります。直撃しなくても、細かい破片を浴びるかもしれません。でも、そのような証言もありません。要は、空の高いところから隕石を見たという、レアな証言に過ぎないのでしょうし、衝突の心配もあくまで機長の心情的な言葉でしか無いのでしょう。もし本当に危険を感じたら回避機動をするでしょうし。

他にはこんなのもあります。「隕石が機体の右側を落下して、爆発した。その時、副操縦士は窓越しに爆発の熱を感じた。(中略)非常に危険な状態だった」と。

前述の通り、ジェット機の飛行高度と隕石の推定爆発高度には最低でも10kmの差があります。それがコクピットの窓から見えたのですから、水平距離を加味すれば何十kmも距離が開いていたでしょう。それに、小型核爆弾並みの爆発だというのに、この乗務員は大音響や衝撃波の到達などは一切報告していません。つまり、事実上全く危険は無かったのです。隕石の爆発で数十キロ先まで熱が届くかは知りませんが、それも強烈な光による勘違いの類の可能性が大きいかと。

少なくとも、「非常に危険な状態」というのは乗務員の印象に過ぎず、物理的危険は皆無だったのです。いくらパイロットでも、巨大隕石を間近に見れば大袈裟な感想も抱く、ということでしょう。でも、「プロ」の言葉は、事実として独り歩きを始めます。

さらにそれがメディアの手にかかると「ニアミス」ですから。どうしても危機一髪の印象を持たせたいという意思が見え見えではあります。こんなおまけみたいなニュースなど、話題になってナンボですからね(笑)

とまあ、隕石について思いついたことを、いろいろ記してみました。

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自動車の危険・追突02【対災害アクションマニュアル 28】

■第1章 危険を知れ(その26) 【自動車の危険・追突02】

今回は前回に続き、車が「停まってから」の危険について考えます。今回も高速道路を中心に考えます。

前回は、大地震発生時に車を停めるまでについて述べました。今、あなたの車は左路肩に停まったところです。左路肩に停めるのは、言うまでもなく緊急自動車が通行するために本線を開けるのが目的です。

ただし高速道路の盛り土区間では、路肩が崩落することもあります。実際に震災直後の東北自動車道では、路肩の崩落があちこちで発生していました。ガードレール、ガードロープ、防音壁などが完全に崩れ落ちるほどではありませんでしたので、車ごと土手から転げ落ちるようなことは無いでしょうが、タイヤがはまって動けなくなったり、大型車を横転させるくらいの段差は普通にありました。

これが一般道だと、盛り土区間や崖沿いではさらに大きく崩落することも考えられます。車を停める際には周囲の状況を良く見て、高い崖の上や下、路面に大きなヒビが入っている場所、切り通し区間、橋や高架の真下などは避けるなければなりません。とは言うものの、そのような障害が発生するのは今まさに揺れている最中ですので、相当シビアな判断になります。でも「可能な限り」そうすべきです。

さて、路肩に車が停まった後も、しばらくは追突の危険から逃れられません。必ず「おかしな動き」をする車がいるはずです。それがドライバーの意志か否かは別にして、動いている車があるうちは、突っ込まれる危険が常にあります。

そこで、停止した直後にやるべきことは、車からの脱出です。停まったら周囲、特に後方をすぐに確認します。この場合はミラーではなく、身体と首を回して「目視」し、より広い範囲を確認します。

安全が確認できたら、同乗者と一緒にすぐに車外に出て、速やかにガードレールの外へ出ます。車の周りをうろついていたら意味がありません。余計危険なだけです。ガードレールやガードロープをまたぐのは、特に子供、女性、お年寄りには難しいものですから、補助も必要でしょう。その時ドライバーは周囲を警戒し続け、危険があれば同乗者に知らせます。それがドライバーの役目であり、責任です。

そして自車や周囲の車に衝突されても安全が確保できそうな場所で、しばらく待機です。上記のような状況にご自分がいると考えて、目を閉じてイメージしてみてください。


そこで皆様に質問です。皆様のイメージの中で、「雨降ってますか?」

多くの方が想像されたのは、最悪でもせいぜい寒い夜くらいのイメージだったのではないでしょうか。もし暴風雨、暴風雪の闇夜とかをイメージされていたら、あなたは危機管理の達人です。「最悪の状況」を自発的に取り入れることができる。そしてそのように視界が悪い時ほど、追突される可能性が高まっているということをも忘れてはないりません。

本題からは外れますが、イメージの中で「雨を降らせない」心理こそが、危機管理の敵である「楽観バイアス」や「正常化バイアス」と呼ばれる心理状態です。ある危険を想定したとき、さらに起こりうる危険を積極的に除外してしまうのです。わかりやすく言えば、「まさかそこまでは」、「そんなこと起こるはずが無い」、「あり得ない」などと根拠も無く考えてしまう心理状態です。その究極が、何の根拠も無い「自分だけは大丈夫」という奴なんですが。

人は、自分がひどい目に遭うことを本能的に想像したくありません。だから、恐ろしい事を考える時に、積極的に危険を矮小化し、無意識のうちに精神の平静を保とうとしてしまいます。それが上記のような心理状態なのですが、しかしそんな個人の考えなどお構いなく、現実は襲いかかって来ます。

その時、「正しい想定」や「覚悟」が出来ていなかった人ほど、想像を超える状況に直面してパニック状態に陥りやすくなるわけです。つまり、「生き残る」確率を自ら下げることに等しい。だから勇気を振り絞って、イヤな気持ちを乗り越えて、「最悪」を考えてください。


本題に戻りましょう。では、車を脱出するときに悪天候だったらどうするか。出がけに雨が降っていたら傘を持っているでしょうが、そうで無いこともある。ならば、用意しておくのです。

一番手軽な方法は、ビニールカッパやポンチョを「乗車定員分」車内に備えておくこと。グローブボックスでも、シートポケットやドアポケットに放り込んでおくだけです。トランク内でも良いでしょうが、できるだけ短時間で取り出せるようにしておきたいものです。これなら今日からでもできますね。

さらにグラウンドシートやブルーシートがあれば、より広い用途に応用できます。それでも数百円の負担です。いずれ、管理人がセレクトした車内装備も公開したいと思います。

これが役に立つ状況は、やはり滅多に遭わない大地震よりも、高速道路上でのパンクや故障など普段の運転中の方がはるかに多くなります。何らかの事情で高速道路上で停まらなければならないときは、とにかく絶対に車外の安全な場所に出ていなければなりません。

時々、流れの良い高速道路の路肩に、それも夜間に人が乗ったまま停まっている車を見かけますが、あれなど自殺行為に近いものです。ハザードランプつけていれば大丈夫とか思っていませんか?


恐ろしい事実をひとつ。ドライバーが半分居眠りをしていたり、深い酒酔いなどで正常な判断力を失っている場合、車はドライバーが「見た方向」へ行きます。無意識にそのように操作してしまうのです。つまり、高速道路上にぽつんと停まった車は、そんな最も危険な車を自ら引き寄せているんですよ。ハザードランプなどその誘い水になるくらいです。

高速道路上でパンク修理をしていて突っ込まれるような事故も後を絶ちませんが、他に車がいないのになんでそこへピンポイントで突っ込んで来るかというと、実はそんなメカニズムがあるのです。


地震から話が逸れてしまいましたが、これも普段からの意識と行動があってこそ、大地震の時にも速やかに安全を確保できるのです。まとめますと、普段でも大地震の時でも、高速道路や流れの速い道路で路肩に停止するときは、安全が確認されるまでは車外へ出て、ガードレールの外など安全な場所で待機、これが絶対であり、その時のための防水装備は、常に車内の取り出しやすい場所に備えておく必要がある、ということです。

次回も、さらに自動車の危険を考えます。

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2013年2月15日 (金)

【一周年記念企画】小説・生き残れ。【8】

少し蒸し暑さを感じる6月半ばの週末、衛と玲奈は仕事帰りに渋谷駅前で待ち合わせた。昨年末の地震で損傷した駅前広場に鎮座する緑色の電車はとうに修復されていて、衛は玲奈との初デートの時と同じ、運転席の前で玲奈を待っていた。

そしていつも通り、約束の時間のきっちり5分前に玲奈が現れた。これはどこでも毎回ブレない。ちょっと几帳面すぎないかとも思うけど、大抵は早目に待ち合わせ場所に来ている衛にすれば、安心できるのも確かだ。

衛と玲奈は、駅近くで食事をしようと特に当てもなく良さそうな店を探しながら歩き出した。すると駅前のスクランブル交差点を渡り切った時、玲奈が突然言った。
「ねえ、今度の連休、海行かない?衛の車でさ」
今度の連休と言えば、7月第二週の三連休だ。

衛は《いきなりどうした?》と思ったものの、話を合わせた。
「ん、いいねぇ。でもちょっと気がはやくね?ツユも明けてないだろ」
「うん。でもあまり混まないうちがいいかなって。それにね、あまり日焼けしたくないし…」
ここで歳の話に振ると、玲奈は一気に機嫌が悪くなるのを、衛は今までの経験から学習している。

実は付き合い始めてしばらくしてから知ったのだが、玲奈は衛よりひとつ年上だ。見た目の印象から二十代後半と決めてかかり、自分から玲奈に歳を聞いたことは無かった。でも、ふたりの共通の話題のひとつでもある車の話になった時に、玲奈がどんな免許を持っているかを知りたくて、免許証を見せてもらったのだ。

ためらいがちに差し出された玲奈の免許証を見て、衛は四回も驚かされた。まず、写真。五年近く前の、今よりずっと髪が短かい玲奈の写真は、どう見ても女子大生かと思いたくなるような可憐さだった。

そして、年齢。生年月日を見て、衛はしばらく意味が理解できなかった。自分のひとつ上、31歳?ウソだろ・・・。衛は口をポカンと開けて、免許証と玲奈の顔を何度も見比べてしまった。それは玲奈が実年齢よりずっと若く見えることに対する感嘆からが大半だったものの、玲奈にはその態度がいたく気に障ったらしく、その後しばらく機嫌を損ねていたのだ。

そのゴタゴタのせいでその場では話が及ばなかったが、玲奈が持っている免許の種類に、衛はあと二回まとめて驚かされていた。まず10トントラックとかも乗れてしまう『大型』に加えて、ハーレーダヴィッドソンでも乗れる『大型自動二輪』まで持っている。

自称"車好き”の衛はちょっと嫉妬する気持ちもあって、その後自分からその話題に振ることは無かった。でも、玲奈が過去にどんな暮らしをして来たのか、いつも心の隅にひっかかってはいた。まさか玲奈がトラックドライバーだったわけじゃないだろうし、バイクに乗り始める女性は、結構"彼氏”の影響だったりするし・・・。


そんなこんなで衛は、その後年齢の話は意識して避けて来た。だから今も少しドキドキしながら、そ知らぬ顔で続けた。
「そうだなあ…じゃあ…新潟とかどうよ?」
玲奈はちょっと考え込んだあと、言った。
「ねえ、静岡に来な…行かない?」
そう言えば、玲奈の家は今は東京郊外に引っ越して来ているが、元は静岡の出身だ。でも日頃から東海地震とか気にしている玲奈にしては珍しい提案だと思って、そこは敢えてストレートに聞き返した。
「地震大嫌いの玲奈にしては、珍しいじゃん」
「地元への愛は、地震なんかに負けなくてよ。すごくいい所があるの」
「玲奈がそう言うなら、お邪魔しますか」
「衛も気に入ってくれると思うよ」
そう言いながら目を輝かせて衛を見上げる玲奈の表情に、衛は胸がキュンとする。

《こいつ本当にこれで三十路過ぎかぁ》と、例によって絶対に口には出せない言葉を呑み込みながら、あの日、地下鉄の車内で二人を出会わせてくれた“地震の神様”に、ちょっと感謝したくなった。そんな神様が本当いるのならだが。


「ここにしようか」
衛が見つけたのは、宇田川町のシーフードレストランだった。道路沿いから白い螺旋階段を上がった二階部分の店はほとんどガラス貼りで、そこそこ客が入っている店内が見える。悪く無さそうだ。衛が玲奈の返事を待たずに、螺旋階段を上がろうとして振り返ると、玲奈は歩道から店を見上げたまま、立ち止まっていた。

玲奈は時々、不思議なオーラのようなものを突然発するときがある。今がそれだ。そのオーラを一言で表現するなら、“毅然”が最も相応しい。あの地下鉄の中の混乱をほんの数語で鎮めた時の迫力が、黙っていても全身から放射されているようだ。口元に少しだけ笑みが浮かんでいるものの、ちょっと声を掛けずらいような雰囲気が漲っている。衛は螺旋階段の一段目に足をかけたままの格好で、そんな玲奈を見つめていた。

数秒後、玲奈の表情がほころんだと同時に、玲奈が発していたちょっと硬質のオーラは、街のざわめきに溶け込むかのように、ふっと消え去った。
「ええ、ここにしましょう!」
玲奈は衛に小走りに駆けよると、衛の左腕に自分の右腕を絡めた。衛は左の二の腕に、玲奈の胸の豊かさを感じる。ふたりは腕を組んで螺旋階段を上って行った。

ブラックアウトされたガラスの自動ドアから店に入ると、黒服のギャルソンがふたりを恭しく迎えた。そして二人を従えて店内を進み、
「こちらのお席はいかがでしょうか」
と、一番奥まった窓際の席を勧めたことに、衛は満足した。正解だ。賑わう通りを見下ろす窓からの眺めも良く、他の客の出入にも煩わされない。ゆっくりと食事ができそうだ。

ギャルソンが玲奈のために椅子を引こうとすると、玲奈が突然言った。
「ごめんなさい、あのお席にしていただいていいかしら?」
玲奈が左手を上げて示したのは、窓から離れた奥の通路沿いの席だった。窓際より静かで落ち着くかもしれないが、ちょっと味気ない気もしないでもない。でも衛が言葉を挟む間もなく、玲奈は衛の組んだ腕を引っ張るようにして奥の席へ向かった。

食前酒に白ワインを飲みながら、衛は玲奈に聞いた。
「なんでこの席にしたの?窓際は嫌?」
「なんでかなー」
「窓際を避けるのは、狙撃を恐れているから?」
「バカ。ゴ●ゴ13じゃないんだから」
「気になるなぁ」
「ね、それよりワインもう一杯いただいていいかしら?
「おう、のめのめ」
なんだかうまく誤魔化されたようだけど、まあこの席も静かで、それほど悪くは無い。トイレに行きやすいし。

衛がギャルソンを呼ぼうと右手を上げた時、ズボンのポケットに入れた携帯が震えたような気がした。その次の瞬間、突然ドシンという突き上げるような震動と共に、テーブルの上のグラスが少し飛びあがった。衛は一階で何か爆発でもしたのかと感じたが、すぐにドン、ドン、ドンと激しい突き上げが続いて来た。衛は右手を顔の横に上げて口をぽかんとあけたまま、状況を全く理解できずに、固まった。

そのまま、目の前の玲奈が素早く左右と天井に視線を走らせながら一動作ですっと椅子から腰を外し、流れるような動きで床のカーペットに片膝をつくのを呆けたように見つめていた。膝丈のフレアスカートの裾が乱れるのも、全く意に介していない。

そこでやっと、衛は理解した。地震だ。しかも、でかい。衛は
「逃げよう!」
と叫ぶと、椅子から立ち上がろうとした。するといつのまにか衛の右横に移動していた玲奈は、衛の耳元で
「動かないでっ!」
と鋭く言い、衛を椅子から引きずりおろすと、衛の身体を頭からテーブルの下に押し込んだ。自分もテーブルの下にもぐりこむ。その素早さと迫力は、あの時地下鉄の中で見せた、あのままだ。

一瞬の静寂のあと、いきなり激しい横揺れが襲ってきた。横揺れというより、たてと横が混じりあった、沸騰するウォーターベッドの上に乗っているとでも表現したくなるような無茶な揺れだった。食器が砕け散る派手な音が厨房から響いた時、照明がふっと、消えた。いきなり頭から暗幕をかぶせられたような闇に覆われ、何も見えなくなる。

その時、女の引き裂くような悲鳴が暗闇に響き渡った。まるでそれが合図だったかのように、七分ほどの入りだった客の大半は激しい揺れの中で席を立ち、非常口の表示灯だけが緑色に光る出口へと、狭い通路に殺到する。しかしその多くが揺れに足を取られて転び、そこへ後から来た客がつまづき、折り重なった。暗闇に怒号と苦痛の呻きが交錯した。

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2013年2月13日 (水)

Think yourself!【管理人ひとりごと2/13】

ある当ブログ読者の方に言われました。「生き残れ。Annexは読むのが大変だ」と。言外には、「もっと短くまとめられないのか?」という意味合いもあったかと思います。

管理人としては、まず「読むのが大変なのに読んでいたいだいている」皆様に、感謝いたします。


では、なんでこのブログはやたらと長文なのか。それは管理人が文章書くの大好き…だからではなく(笑)、本文タイトルがその理由です。

「Think yourself」(自分自身で考えよ)ということです。

わかりやすいマニュアルは、いくらでもあります。でも、それがすべて役に立つかというと、残念ながらそうではありません。家電の使い方のように、パターン通りの操作や行動を示すのならシンプルに越したことは無いのですが、災害対策、特に災害発生時の初動はそういう訳に行きません。

流動的な状況の中でその場その場の判断が求められ、ほとんどの場合で判断ミスが許されません。判断ミスの結果は、言うまでもありませんね。


そこで最大公約数的な知識だけを流すのは簡単ですし、とてもわかりやすいマニュアルになります。例えば、大地震発生時に運転していたら「急ブレーキをかけずに減速し、左路肩に寄せて停めろ」だけで済ますなら、このブログなど存在する必要はありません。

しかし、現実にはそれだけでは「生き残れない」ことも少なく無いのです。通り一遍の知識しか流さない送り手は、イレギュラーケースには我関せずだとでも?後は自分「だけ」で考えろと?Think "only" yourselfということですかね。

そこで多くの情報を箇条書きにしたり、一覧表にしたり、関連サイトをリンクしておいたりすれば、必要な情報量だけは確保できるでしょう。でもそんな情報、見てもどれだけ記憶に残りますか?

防災の世界はそんな「小奇麗に」まとまった、しかし実際には役に立たない情報ばかりだから、管理人はこのブログを始めたのです。


基本的に、文章で細かく表現します。それは、読みながらその状況を頭に浮かべていただきたいからです。そしてご自分なりの対処方法を、具体的にイメージしていただきたいからです。箇条書きや一覧の情報を見ただけでは、なかなかできないことです。小説形式のシミュレーションをしているのも、その状況をできるだけリアルにイメージしていただきたいからです。

そうやっておけば、たとえわずかでも管理人がお伝えしたいことが皆様の「一部」になる、つまりお仕着せではない、ひとりひとりのオリジナルの能力となる、そう信じてこのスタイルを続けて参ります。


おひとりおひとりに、それぞれの防災を。災害対策は「オーダーメイド」でなければ、その効果を最大限に発揮できません。その基本は、皆様ご自身が、ご自分で考えていただくことにあります。そのためのお手伝いを、当ブログがさせていただけましたら幸いです。

…でもやはり、管理人が文章書くのが好きで、絵心が無いからこうなっている部分もありますが(笑)


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自動車の危険・追突01【対災害アクションマニュアル 27】

■第1章 危険を知れ(その25) 【自動車の危険・追突01】

今回は、自動車運転中に大地震に遭遇した場合の、追突の危険について考えます。特に高速道路では、この危険が最も大きなものと言って良いでしょう。

前前回記事(対災害アクションマニュアル24)で、管理人が高速道路上で緊急地震速報を受信した時のエピソードを記しましたが、その時は皆が申し合わせたような見事さで、一斉に減速しました。しかしあれは走っている車の8割方がプロドライバーで、しかも余震が頻発している震災被災地を走行中という特殊な状況でもありました。

実際には、そんな状況は滅多にありません。現実的な問題は、ほとんどの場合に「ドライバーそれぞれの判断と行動が異なる」ということです。走行中に緊急地震速報の受信や強い地震を感じた時、多くのドライバーの頭の中には、まず急ブレーキをかけずに減速し、ゆっくりと左路肩に停車するという「知識」が浮かぶはずです。

ところがそこで本当に停まるべきなのか、「ゆっくり」がどの程度なのかというだけでも、ドライバーごとに判断が分かれます。さらにパニック状態に陥って頭の中が真っ白になってしまったり、強い揺れや道路の変形などで車のコントロールを失ってしまうこともあり得ます。

そんな状況の中で安全に停止し、その後も完全に無事でいることはかなり困難であるということを、まず認識していなければなりません。「ゆっくりと左に寄せて停まる」とだけお考えだった方、それだけでは生き残れないかもしれませんよ。


ここでは高速道路や郊外の流れの速い道路の場合を中心に考えて行きますが、大地震発生時に安全に停止するための方法として、ふたつの段階に分けます。まず最初は、減速から停止までの段階です。

緊急地震速報を受信した段階ですぐに停止しようとするドライバーは、あまり多くは無いでしょう。まずは減速して「様子を見る」と思います。しかし、停まる人も皆無では無い。慌てて急ブレーキを踏むドライバーもいると考えなければなりません。最初の段階では、まず自分が前の車に追突するリスクを避けなければならないわけです。

最悪の場合は前方で事故が発生し、進路が塞がれるかもしれません。そこで最も大切になってくるのが「車間距離の確保」です。まず直前での急減速を警戒し、それが無ければハザードランプを点灯して前の車より高い減速度を保ち、できるだけ車間を開けるのです。もちろん、バックミラーで後方を確認しながらです。

この「減速しながら後方を見る」という行動はベテランドライバーには当たり前なのですが、普段からやっていないといきなりできる事ではありません。これは高速道路に限らず市街地でも必要なことです。まだやっていない方は、今日から常に意識してください。特に高速道路や流れの速い道路では「停止・減速時には必ず後方確認しながら車間を開ける」のです。


これは滅多に遭わない大地震時よりも、むしろ渋滞の後尾につく時にこそ必要な行動です。でも実際には、前方が渋滞している時にハザードランプをつけて減速はするものの、前車と一気に車間を詰めてしまうドライバーが大半ではないですか?後続車が突っ込んで来たら、逃げ場無いんですよ。うしろが大型トラックだったらどうしますか?

それ以前にバックミラーで後方を見ていなかったら、突っ込んで来る車にさえ気付きません。自分と同乗者の命を見ず知らずの後続ドライバーに委ねるなど、管理人はゴメンですね。

普段でも渋滞後尾への追突事故は絶えないのに、さらにそれが大地震時だったらどうなるでしょうか。判断の迷い、パニック状態、急ブレーキでのスピン、接触、道路の変形や陥没によるコントロール喪失など、後続車が突っ込んで来る理由には事欠きません。それでもあなたは、前だけ見ていられますか?

もちろん見ているだけではダメです。前車と十分な車間があってこそ、初めて能動的に危機から脱出できるのです。普段から、渋滞の後尾に付くときに上記のような行動をすることは、大地震時の予行演習と言っても過言ではありません。それが、追突から「生き残る」近道なのです。


では、どれくらい車間を取れれば良いのでしょうか。これは管理人の運転経験からの判断ですが、例えば前方が完全停止、路肩など本線上から逃げる場所が無い、後続車がいないかはるか後方という条件だったら、最低30mは開けていないと不安です。常に最悪の条件を想定し、この場合は大型トラックがノーブレーキで突っ込んで来ても車線を移動して回避できる、場合によっては路側に飛び出してでも回避できる余地を残しておきます。

そしてバックミラーで後方を見ながらハザードランプはもちろん、管理人はブレーキペダルを断続的に軽く踏み込んでブレーキランプを点滅させ、後続車への注意をより強く促します。そして後続車が渋滞に気づき、ハザードランプをつけて十分に減速し、うしろに停まるまでを見届けるのです(その時、十分に車間を開けて停まる車は見たことありませんが)。

ではそれで安心かというと、まだなんですよ。その後の車が突っ込んで来たら、玉突き追突を食らいます。管理人は後方に10台程度の車が並ぶのを確認してから、ゆっくりと前進して前車との車間を詰めます。それでやっと一息です。


これは平常時の追突事故対策ですが、大地震発生時にはさらに「不測の事態」が起こる可能性もあります。例えば自車の直前で道路が陥没して回避する場所が無くなるとか。その場合でも、管理人なら大型トラックに突っ込まれるよりは、道路の穴に落ちる方を選びます。その他にも考えればいくらでも「とんでもない」状況が考えられますが、一見「あり得ない」とか「大袈裟すぎる」ようなことが実際に起こるから、大災害なのです。

まとめますと、大地震で緊急停止する場合には、後方を十分に確認しながら減速し、できるだけ車間を確保すること。そのためには、普段から渋滞後尾で停まる際はもちろん、街中でも「停止・減速時には後方確認」の習慣をつけておく必要があるということです。繰り返しますが、普段やっていないと「本番」では絶対に無理ですよ。

この方法は大地震対策以前に、普段の運転でのリスクを大きく減らしてくれます。是非実践していただきたいと思います。

次回は、「停まってから」の危険について考えます。


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2013年2月12日 (火)

【ニュース解説・これも人工地震】北朝鮮で核実験実施

本日2月12日、北朝鮮で地下核実験が実施された模様で、日本各地でも地震動を観測しました。震央は北朝鮮国内の核実験場とされる場所に一致し、震源深さは0kmで、マグニチュード5.2に相当すると分析されています。

当ブログでこのニュースをピックアップするのには政治的、民族的、軍事的等の意味合いは一切無く、未だ一部でまことしやかに語られる「人工地震」というくだらない話を否定するためです。

もとより、「信奉者」が言うような人工地震など存在しないものです。しかし一部「信奉者」の主張が、噴飯ものの誤解と無用な不安を拡散している事実もありますので、ここで明確に否定しておきたいと思います。

「信奉者」は、小型核爆弾を地下に埋め込んで、それを起爆させて地震を引き起こすと主張することが多いのですが、自然地震と爆発による地震波は大きく異なります。

地下核実験は、ある意味で「信奉者」が主張する人工地震とほぼ同じものと言えるものの、当然のことながら自然地震とは全く違う波形が観測されています。以下に、気象庁の報道発表を一部引用させていただきます。

(以下引用)-----------------
平成25年2月12日11時57分頃に発生した北朝鮮付近を震源とする地震(マグニチュード(M)5.2)について、気象庁において今回観測された震動波形と、平成21年5月25日9時55分頃に観測された震動波形、平成18年10月9日10時35分頃に観測された震動波形、及び北朝鮮北部で発生した自然地震(平成14年4月17日M4.6)の震動波形の比較を行いました。

今回の震動波形はS波が不明瞭であるなど、平成21年や平成18年の震動波形と類似した特徴があり、これらの波形の比較で見れば、今回の地震が自然地震ではない可能性があります。
(引用終了)-----------------

爆発による人工地震の場合、自然地震で観測される最初のたて揺れ(P波)がほとんど無く、よこ揺れである主要動(S波)が突然始まります。そしてその揺れも不明瞭であるなど、要は見る人が見ればすぐわかるというものです。

この気象庁発表のPDF版をリンクしておきます。こちらには今回の地震波形、過去の核実験時の地震波形、北朝鮮で発生した過去の自然地震の波形が掲載されていまして、専門家でなくても明らかな違いが見て取れます。PDFファイルがご覧いただける環境の方は、是非見比べてみてください。

■気象庁発表(PDFファイル)はこちらから
http://www.jma.go.jp/jma/press/1302/12d/kaisetsu201302121330.pdf
上記リンク先をご覧いただいた上で、大国の陰謀による人工地震とか騒ぐことがいかにバカバカしく、犠牲者や被災者を冒涜するものであるかを考えてみてください。もっとも、当ブログの読者様にはそんなものを信じる方は滅多にいらっしゃらないと思いますが。

なお、このPDFファイルは気象庁ウェブサイトの「報道発表資料」からご覧いただけます。


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【一周年記念企画】小説・生き残れ。(仮)【7】

「ねえ、ちょっと不動産屋さんに寄っていかない?」
5月末の土曜日、郊外のイタリアンレストランで食事をしようと、ふたりは衛の車で出かけていた。店までもう少しというところになって、助手席の玲奈が突然、妙な事を言い出した。

夕方の渋滞を見越して時間に余裕を持って出てきたものの、思いのほか車の流れが良かったおかげで、席を予約した時間にはまだしばらく間がある。衛は運転しながら、ちらっと玲奈を見て聞き返す。
「不動産って…なんで?」
「この辺って、住むのにいいかな…って」
「住むって、誰が?」
玲奈は助手席から前を見たまま、ひとつ小さく息を吸ってから、続けた。
「そろそろ考えていいかな、なんて」

衛は、慌てた。ボクシングの試合をしていたら、いきなり見えないところから繰り出された蹴りを顔面に喰らったようなものだ。完全に想定外だ。ハンドルを握る手に思わず力が入り、車が少しぐらぐらと蛇行する。あの地震の日に地下鉄車内で玲奈と出会ってから半年ほど経ち、ここまでとても順調な交際だとは思っていた。でも結婚とか一緒に住むとかは、正直なところまだ一度も考えたことも無い。
とにかく何か言おうとして口を開いたものの、
「あ…あの…住むなら…いやその…」
しどろもどろだ。

玲奈は少しだけ衛の方に顔を向け、横目で軽くにらむような、それでいてちょっと寂しそうな顔をして、言った。
「そういうこと、考えたくない?」
「いや、だから、そうじゃなくて…」
しばらく沈黙が流れた。車のFMラジオから流れる男性DJの軽快なおしゃべりが、いきなり耳障りに感じる。この場面にふさわしいBGMがあるとすれば、あれだ。チゴイネルワイゼンの、第一楽章。

衛がなんとか取り繕おうと口を開こうとしたとき、玲奈はいきなりけらけらと笑い始めた。
「…?」
あっけにとられる衛を尻目に、玲奈は言った。
「うそ、うそよ。ごめんね。実はね、会社の社宅代わりのアパートを探しているの。この辺なら新宿出るのに便利でしょ」
そういえば、玲奈の仕事は総務担当だった。

衛は大きく息を吐きながら言った。
「なあんだ…おどかすなよ…」
「おどかす?そんなに想定外だったのかなぁ?」
「あーもう、だからそうじゃなくて!」
「でもあの慌てぶり、覚えておこっと」
「いじめるなよお…だって心の準備ってものが…」
「それはどちらかというと、女のセリフね」
「うっ…」
完敗だ。

「あそこ、行ってみようか」
衛の狼狽を尻目に玲奈が指差す先に、大手不動産会社の派手な店舗が見えた。広い駐車場に車を停める。二人で肩を並べて自動ドアをくぐると、揃いの派手な黄色いジャケットを着た数人の店員が、すっと起立して丁寧に頭を下げた。

応対に出た40歳くらいの、髪を七三にきっちりと分けた男は、ふたりをもうすっかり新居を探しているカップルだと決めてかかっているようで、やたらと愛想がいい。こういう客は女を乗せるに限る、そう思っているかのように、まず玲奈に丁寧な仕草で椅子を勧めた。

「どんなお部屋をお探しですか?」
男は二人を見比べながら、満面の笑顔で聞いてくる。お若いカップル向け、新婚さん向け、マンションから一戸建てまで、いろいろ取り揃えておりますよ。
「えーと、この近くで、ワンルームか単身者向けのアパートなんですけど」
玲奈が言うと、一瞬、カウンター越しに微妙な空気が流れた。

「…おふたりのためのお部屋ではなくて?」
「ええ。社員寮代わりのお部屋を探しています」
「そうですか。わかりました」
そう言う男の顔からは、つい先ほどの満面の笑みが見事に消えて事務的な笑顔になって立ち上がると、オフィスの奥から何冊かの物件ファイルを抱えて来た。

男と向き合って立地、価格、契約諸条件などテキパキと確認していく、すっかり仕事モードの玲奈の隣で、完全に蚊帳の外に置かれた衛は実に居心地が悪い。いたたまれなくなってトイレにでも立とうと思った時、玲奈が突然聞いてきた。
「ねえ、あなたならどのお部屋がいい?」

「おれに聞くなよ」
不機嫌丸出しで答える。
「でも、住むのは男の子だから。男性の意見も聞きたいわ」
やっと少し居場所ができた。いや、玲奈が作ってくれたと言うべきか。
…そういえば、今“あなた”って言ったな…

カウンターの上には、三冊のファイルが開かれていた。どれも間取りは同じような感じで、独身男性向けとしては甲乙つけ難い。ならば駅から近くて、コンビニが近くにあって、バストイレが別で、駐車場があって、当然、家賃も安い方がいい。あと足音とか気にしないでいいから一階がいいな。衛は自分が住むつもりになって考え、家賃が一番安い物件を選んだ。その他の条件も、悪くない。

「やっぱり、そうよね…」
玲奈は納得したような表情を浮かべると、晴れやかな笑顔で男に言った。
「週明けにまた連絡します。それだけじゃあれだから…」
玲奈はハンドバッグから名刺を取り出すと、カウンターの上に置いた。どうやら本気で契約を考えているようだ。きっとおれの選んだ部屋だな…二人はまた全員の礼に見送られながら店を出て、車に乗った。

 
目的のレストランに向かいながら、衛は切り出した。
「おれの選んだ部屋、一番いいよな。安いし。あれで行くんだろ?」
「本当にそう思う?自分で住むならあそこでいい?」
「だって便利だし安いし、どこに問題がある?」
「残念でした。あの中で一番高いお部屋にしようかと思ってるのよ」
「なんでだよ。会社が儲かりすぎて税金対策かよ」
「バカ。今時そんなわけないじゃない」
「バカって言うな」
「じゃあ、考えが甘いわ」
「もっと悪い」
衛はかなりむっとしたが、まっすぐな道の先に、イタリア国旗の色に塗り分けられた看板が見えて来たので、話はそこで途切れた。

ゆっくりと時間をかけてコース料理を楽しんだ後、二人は仕上げのエスプレッソをすすっていた。玲奈が切り出す。「ねえ、さっきの話、正解おしえてあげようか」
「部屋の話?」
「そう。あなたには知っておいて欲しいわ」
…あれ、また“あなた”だ…

「それではお説を拝聴いたしましょうかね」
「もう。茶化さないで。衛さんの選択は、一面では正解でした」
「じゃあどこが甘いのさ」
甘い、はバカよりずっと衛のプライドを傷つけていた。バカは地下鉄で出会った瞬間に言われて以来、何かにつけて言われていた。だからもう挨拶代わりみたいなもので…って、ひょっとしておれ、玲奈に飼い慣らされてきてないか?

構わずに玲奈は続けた。
「衛さんは、見えるところだけしか見ていませんでした」
「先生みたいな言い方するな」
「ごめん。つまり、大切なのは、見えない部分なのよ」
「というと?」
「衛が選んだのは、軽量鉄骨で1979年築の、古い建物なの」
「でも今っぽくリフォームしてあるようだし、いいじゃん」
「表向きはね。でも耐震補強はしてないわ」
「タイシンホキョウ?」

それから玲奈は10分ほどもかけて、建物の耐震性について説明した。どれも衛が知らない話ばかりだった。まとめると、こういうことだ。

1981年(昭和56年)に建築基準法が改正されて新しい耐震強度基準が適用となり、それ以後の建物は地震に対する強度が飛躍的に強くなった。1995年の阪神・淡路大震災では約10万棟の建物が全壊したが、1981年以降に建てられた新耐震基準建物は、そのうちたったの200棟、率にして0.2%に過ぎなかった。また、1981年以前の建物のうちでも、特に1971年(昭和46年)以前の建物に重大な被害が集中した。

建築基準法はさらに2000年(平成12年)に現行(2013年現在)の基準に改正され、耐震強度基準がより強化された。つまり2000年以降に造られた建物が、現在は地震に対して一番安心できる。

6434人が犠牲になった阪神・淡路大震災の犠牲者数を年齢別に見ると、基本的には年齢が上がるにつれて犠牲者数が増えるが、20~25歳の犠牲者数に不自然な突出が見られた。その後の調査で、その部分には仕事や学校に通うために神戸市内に住んでいた若者が多く含まれている事がわかった。

そのような若者は家賃が安く、耐震性が低い建物に住んでいることが多かったので、建物の倒壊に巻き込まれて犠牲が増えたのだという。このような事実があるので、住む家や部屋を選ぶ際は、家賃や利便性だけでなく、耐震性も十分に考えなければならない。

行政は1980年以前に建てられた、耐震強度が低い「既存不適格建物」の耐震補強を奨励しているが、東京都の場合は2012年現在で対象の約40%が未対策であり、南関東直下型地震や南海トラフ地震の発生が危惧されている今、防災上の大きな問題となっている。

そんなことを説明する玲奈の目は、あの地下鉄車内で見せた“毅然”モードに近いと、衛は思った。防災に対して、真剣なのだ。人の命に対して、と言っても良いだろう。衛は、惹き込まれるように聞き入っていた。

一通り説明を終えると、玲奈は急に穏やかな表情になって言った。
「と、いうわけで、わたしが選んだのは一番新しい平成14年の建物の、二階のお部屋でした」
「なんで二階?」
「万が一倒壊するようなことがあったら、一階からが多いから。念のためね」
「そこまで考えてもらえる社員は幸せだな」
「その分しっかり働いてもらいます」
「おまえは社長か」
ふたりは声を上げて笑いあった。

会計を済ませて店を出るとき、衛が思い出したように言った。
「そういや、おれのとこは平成16年築だよ、安心安心」
「うん、知ってる」
「え、なんで?」
「衛のマンション行った時、エントランスに“定礎”ってあるでしょ、あれでチェック済みよ」
「さすが」
「部屋の中もしっかり対策済みだしね」
そういえば玲奈が二度目に部屋に来た時、いろいろ「耐震グッズ」を揃えて来ていて、半日かけて一緒にタンスとかに器具を取り付けたんだっけ。

衛は玲奈の横顔を見ながら、頼りにしてますよ、というような表情で言った。
「玲奈のおかげですっかり安心だな。ありがとな」
すると玲奈は少しうつむいて、口ごもるように言った。
「…大切なあなたの事だから…」

しかし衛の反応が無いので顔を上げると、その言葉が聞こえたのか聞こえていないのか、ひとりでさっさと店の前の駐車場に出て、あーっとか言って伸びをしている。

玲奈はそんな衛の背中を見つめながら、思った。
《本当にこの人でいいのかしら…》
そして思いの最後の一言だけは、小さく声に出して言った。
「バカ」


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ありがとう!30万PV

昨日2月11日、当ブログの通算ページビュー数(PV)が、おかげさまで30万PVを突破いたしました。皆様のご愛読に、心から感謝いたします。

この数字は、アクセスカウンターに表示されているPC、スマホ等からのアクセス数に加え、画面には表示されない携帯電話からのアクセス数(約62000PV)を加算したものです。昨年1月のブログスタートから約1年1ヶ月、20万PVに達した昨年11月1日からは、約3ヶ月半で30万PVに到達しました。

おかげさまで、このところ一日当たりのPV数もかなり増えています。特に過去記事を丹念に閲覧していただける方が急増しておりまして、これは管理人としても非常にありがたく思っております。一連のシリーズ記事では、一般的な防災情報とは異なる、より具体的、実践的な内容をお送りできているものと自負しておりますので、どうぞご利用ください。なお、記事内容の転載・引用をご希望の際は、事前に管理人までメールにてご一報ください。無断での転載・引用はお断りしております。また、ご意見、ご質問等がありましたら、お気軽にメールをいただければと思います。

今後も、シリーズ記事に加えてより多角的な防災情報をお届けできるように、努力して参ります。例によってあまりとっつき易い内容や形態ではありませんが、各シリーズ記事を順番にご覧いただくことで、それぞれのテーマにおける具体的な情報を総合的にご理解いただけるような体裁にしています。「生き残る」ためには何をどうしたら良いのかを、現実的なレベルで突き詰めて行きます。

当ブログは、参加しているブログランキングで長い間上位を維持させていただいていますが、もちろん組織票などは一切無く、これは読者の皆様おひとりおひとりのご支援の賜物です。お読みいただいて、「役に立った」とお思いいただけましたら、是非とも各記事文末か、ブログトップ記事内のランキングタグのクリックをお願いいたします。

なお、同一IPからのクリックは一日一回しかカウントされないシステムですので、当ブログをお読みいただいた時に、どこかで一度だけクリックをいただければ結構ですので、ご協力いただけましたら幸いです。

それでは、今後とも「生き残れ。Annex」をどうぞよろしくお願い致します。


管理人 てば拝

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2013年2月10日 (日)

【西日本で若干増加中】地震関連情報【2/10】

西日本各地での地震が、若干増加しています。傾向としては、昨年10月頃から少し増加傾向が見えてはいましたが、年末くらいからは落ち着いていました。

発生場所は西日本全体に広がっており、どこかで集中的に増加してるようなことはありません。ただ、起きる場所は大体いつも似通っているという傾向が見られます。

2月4日から本日10日までの間だけでも、下記の場所で地震が発生しています。なお、すべての震度は2以下です。
■2/4
徳島県南部、種子島近海、京都府南部
■2/5
伊予灘
■2/6
奄美大島北西沖、愛知県西部、愛知県西部(二回目)
■2/7
広島県南東部、鳥取県西部
■2/10
熊本県阿蘇地方

このように、平常時に比べて明らかに小さな地震が増加している状態ですが、発生地域は非常に広範囲であり、特に目立った傾向は見られません。しかし多発期と静穏期の発生数にかなり明確な差が見られるため、偶然の結果では無いと考えられます。

東日本大震災前は、このように西日本の広範囲で地震が多発するようなことはありませんでしたので、これも広い意味で震災による地殻変動の影響と考えられます。但し、フォッサマグナ(大地溝帯)以西の西日本は東日本とは構造的に不連続のために、東日本とは明らかに異なった発生傾向が見られます。

震災後、西日本におけるこのような多発傾向は、実は何度もありました。現在のところ和歌山県北部など一部を除いて大きな地震には繋がっていませんが、震災後の地殻変動によって地下の状態は変化を続けていますので、過去に何も起きなかったからと言って今後も大丈夫ということは全くありません。西日本にも、いつ動いてもおかしくない活断層が各地に存在するのです。

西日本の方も、この辺りでもう一度地震対策を見直されることをお勧めしたいと思います。

なお、想定される東海地震震源域をはじめ、いわゆる南海トラフ地震の震源域では、特に目立った動きはありません。最近は起きていませんが、静岡県西部の沿岸もしくは内陸で、小規模の地震が時々発生しているくらいです。


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【一周年記念企画】小説・生き残れ。(仮)【6】

4月も半ばのある夕方。西新宿に建つ高層ビルの45階にあるオフィスで、衛は営業日報をまとめていた。昨日から上司が出張中のせいで、オフィスにはなんとなく緩んだ空気が漂っている。
《…ったく、あの”鬼軍曹”め、二度と帰ってこなけりゃいいのに…》
何かとウマの合わない上司に向かって、衛はパソコンのキーをたたきながら、心の中で毒づいた。

こんな日は、さっさと帰るに限る。実はつい先ほど玲奈にメールをしたら、玲奈も今日なら早上がりできるという。鬼の居ぬ間になんとやらで、今日は玲奈と近場で一杯やるつもりだ。玲奈が衛よりはるかに酒に強いことは、あの六本木での大失態以来良くわかっていたので、あくまで“軽く”だ。もっとも、もう玲奈を無理に酔わせる必要も無いのだけど。

ふと窓の外を見ると、暮れかけた西の空に、見事な春の夕焼けが広がっている。高層ビルで仕事をしているとすぐに見慣れてしまうが、都会の真ん中でこんな大パノラマを普通に見られるのは、実は贅沢なことなのかもしれない。

日報を書き終えた衛は、グループウェアで上司宛に送信した。さあ、"鬼軍曹”から電話など来ないうちに、脱出だ。パソコンをシャットダウンしてデスクの上を片付けていると、向かいの席から、もうすっかり帰り支度を済ませた、一期下の秋江が声をかけてきた。
「岩城さん、今日はこれからデートですか?」
衛はどきりとしながら、無理に平静を装って聞く。
「なんでそう思う?」
「明らかに顔がニヤけてます」
しまった、顔に出ていたか。照れ隠しに言い返す。
「そういう指摘をする女は、彼氏ができないぞ」
秋江は笑いながら応える。
「それセクハラですね。それに、間に合ってますし」
「そういう秋江ちゃんも今日はデートと見た」
「どうしてですか?」
「幸せな人は、その幸せを近くの人と共有したくなるものだ」
秋江は一瞬思案顔になってから、聞き返した。
「それ、誰かの言葉ですか?」
「今考えた」
「なーんだ。でも岩城さん幸せなんですね…岩城さんの彼女って、きっとしっかりした人なんだろうな」
「なんでよ」
「相対性理論です」
「なるほど…っておい…」
一瞬納得しかけた衛が言い返す間もなく、秋江は
「お先に失礼しまーす」
と言い放って席を立つと、小走りにオフィスのドアへ向かって行った。

その後姿を見送りながら、何か釈然としない思いで衛も席を立ち、椅子にかけてあったジャケットを羽織った、その時。

ズボンのポケットに入れた携帯電話から、あの耳障りな警報音が飛び出すのとほとんど同時に、はるか下の地面から伝わって来る、小さな突き上げを感じた。
「あ、地震だ…」
ビリビリと震えるような細かい突き上げはその後も次々にやって来たが、デスクの上の液晶モニターをガタガタと振るわせる程度で、大したことはなさそうだ。それでもエレベーターホールにいた秋江が、「地震です地震です!」
と大袈裟に騒ぎながら、オフィスに駆け戻って来た。

数人残っていた他の課員は、椅子から腰を半分を浮かせて様子を見ているか、全く無視して平然としているかだった。もしでかいのが来ても、この55階建ての高層ビルが崩れることなんてあり得ないから、特になにもしなくても大丈夫だ。皆がそう信じ込んでいた。
「落ち着けって。大したこと無いって」
そう秋江に声をかけた衛も、この地震でお気に入りの店が閉まったりしたら困るな、などと突っ立ったまま呑気に考えていた。

震えるような揺れは数秒で収まったが、すぐにふわふわとした横揺れが始まった。それはまるで大型船に乗って少し高い波に揺られているような、ゆっくりとしたつかみ所のない揺れだった。
秋江は立ったままデスクに両手をついて、
「やだ…酔いそう…」
と、早くも顔が青くなっている。

揺れ始めてから20秒ほど経ったろうか。衛は、秋江に多少は“しっかりした”所を見せてやるという考えもあって、落ち着いて声をかけようとした。
こんな時でも、おれは慌ててないぞ。しかし衛が秋江の「あ」の形に口を開いたその瞬間、それまでつかみ所のなかったふわふわとした揺れが、突然意思を持ったかのように、一気に振幅と速度を増し始めた。衛の声は、そのまま
「あっ、あっ、ああーーーーっ」
という叫び声に変わった。

足元の床が、逃げて行く。足をすくわれたようになってバランスを崩すと、次の瞬間、反対方向にぐぐっと押し戻される。そんな揺れというより”動き”がどんどん激しくなる。ぐらぐらという揺れではない。床が、あり得ないスピードで左右に動き出したのだ。

椅子から半分腰を浮かせていた課員が、床に転げ落ちる。キャスターつきのコピー機が通路に飛び出して動き回り、しまいには横倒しになって転写台のガラスが砕け散った。派手な音が響く。

10台が島になって置かれているデスク全体が床の上を滑り出し、窓際の壁に激突したかと思うと、今度は反対側に滑ってパーティションや観葉植物の鉢をなぎ倒す。キャスターつきの椅子がデスクに跳ね飛ばされ、あちこちに飛び散るように滑っては転がる。とっさにデスクの下に潜り込んでいた課員は激しい動きでもみくちゃにされ、最後にはデスクの下からはじき出されて、床をごろごろと転げ回った。壁際のスチールキャビネットが、ついに大音響と共に倒れてガラス片とファイルを床にばら撒いた時、秋江の引き裂くような悲鳴が響き渡った。

衛は立っていられず、窓際の壁に身を寄せて、四つんばいになって必死に揺れに耐えていた。ポケットの携帯に着信があったような気がしたが、それどころではない。このビル、本当に大丈夫なのか…?そう思った時、天井の化粧版にビシっとひびが入り、破片がばらばらと降り注いで来た。
「ヤバい…いや、きっと、なんとかなる…」
衛は自分に言い聞かせるように、無理に言葉を絞り出した。

揺れ始めから一分半ほどが過ぎても、最初の頃からは少し緩やかになったものの、まだ大波に翻弄されるような大きな揺れが続いていた。もうデスクが動き回るほどではなくなって来たので、衛はなんとか立ち上がろうとした。しかし長い時間振り回されていたせいで平衡感覚がおかしくなってしまっていて、デスクにしがみついて膝立ちするのがやっとだった。なおもゆっくりと大きく揺れ続けるオフィスの中が、奇妙にゆがんで見える。ビルの自家発電装置が作動したのか、こんな地震でも照明が消えていないことに、その時気づいた。

衛はデスクを支えにして、やっと立ち上がった。オフィスの中は、つい先ほどまであった整然とした秩序が消え去り、子供がおもちゃを散らかしたような無秩序の空間に変わっている。腕時計を見ると、揺れ始めからとうに3分以上が過ぎていたが、しかしまだゆっくりと左右に揺れている。地震はもう収まったはずなのに、ビルの揺れだけが続いているのだ。しかし確実に、少しずつ揺れは小さくなって行った。
「みなさん、大丈夫ですかぁ?」
デスクに両手をついてなんとか立ち上がった衛が、オフィス内に声をかけた。声が少し震えているのが、自分でもわかる。

「ああ、大丈夫だ。凄かったな…」
「おれはちょっとやられたよ。大したこと無いが」
そう答えた課員は、血が流れる額をハンカチで押さえていた。白いワイシャツの肩の辺りが、真っ赤に染まっている。デスクの下からはじき出された課員は、床にうつ伏せになったまま呻いていた。
「あっ!」
衛は駆け寄ろうとしたが、まだ続く揺れと狂った平衡感覚で足がもつれ、デスクに手をつきながらよたよたと進んで行った。すると、倒れていた課員は少し頭を持ち上げながら、
「なんとか…大丈夫だ」
と苦しげに言った。
「あちこちぶつけたが…骨は折れていないだろう」
そう言いながらゆっくりと上体を起こし、壁に寄りかかって座った。
「でも、こいつをくらっていたら死んでいたな…」
すぐ隣には、重いファイルがぎっしり詰まったキャビネットが、ガラスの破片の中に転がっている。

そういえば秋江の姿が見えない。衛が見回すと、パーティションで仕切った応接スペースの中で、ソファの横にうずくまったままがたがたと震えていた。衛はよたよたと近づいて、
「大丈夫か?」
と声をかけながら抱き起こし、ソファに横にならせる。顔面は蒼白で言葉が出ないが、大きな怪我は無いようだ。

ふと、衛は揺れている最中の着信を思い出し、ズボンのポケットから携帯を取り出した。
『不在着信 三崎玲奈』
液晶画面の表示に、衛は胸が熱くなった。あの揺れの最中に…。すぐにコールバックしてみるが、何度やっても繋がらない。考え直して留守番電話センターにかけると、こちらは繋がった。受信時刻を告げる合成音声の後、玲奈の叫ぶような声が飛び込んで来た。
《こちらは無事、エントランスに行く!終わり!》
声のバックには大勢が騒いでいるようなノイズが入っている。外からかけて来たらしい。…エントランスって、このビルのエントランスか。降りなきゃ…しかし普段から地震の避難にはエレベーターを使わないようにという通達が回っていたし、あの揺れでは多分、止まっているに違いない。でも、“終わり”ってなんだ…?でも玲奈が下に来るにしてもすぐにではないだろうし、正直なところ45階から階段を下りたくはなかった。ここでもう少し様子を見よう。秋江も見ててやらないと…。

同じフロアにある他社のオフィスでは、重傷者が出たところもあるようだ。廊下で怒鳴り声が飛び交うのが聞こえる。今出て行ったら迷惑だよな…。衛は自分勝手な解釈をして、秋江が横になっているソファの横のスツールに腰を下した。大きくため息をつくと、天井のスピーカーから、緊張した男の声が流れ出た。
『こちらは、三友ビル防災センターです。ただいまの地震により、エレベーターはすべて運転を停止しております。非常階段をお使いください。なお、自家発電装置で給電中のため、現在エアコンの運転を停止しております…』

道理で、オフィスの中がだんだん蒸し暑くなって来た。こうなると、窓の開かない高層ビルは困り物だ。ソファに横になった秋江の顔からはすっかり血の気が失せ、冷や汗をかいて震えている。衛は床に散らばった空のファイルをひとつ拾い、それで秋江の胸元を扇いだ。
「…ありがとうございます…」
秋江は唇を僅かに動かして、ほとんど聞き取れないくらいの声で言った。

秋江は、それでもゆっくりとひとつ深呼吸すると、かすれる小声で言った。
「彼女のところ…行かなくていいんですか…?」
玲奈の無事はわかったけど、あまりのんびりしてもいられない。でも45階だしな…どうしよう。衛が黙っていると、秋江は続ける。
「行ってあげないと…きっとすごく怖かったはずだし…」
「う、うん…。そっちはどうなんだ?」
衛はそう聞着返してはみたものの、秋江はまだしばらく動けそうにもない。左手にはピンク色のスマホをしっかりと握り締めているが、電話もメールも不通のままだ。
「まだ、連絡つかないし…」
そう言いながら天井を見つめる秋江の目には、涙が滲んでいた。


どれくらい時間が経ったろうか。衛は、階段を下りて行く決心ができないままでいた。窓の外は、もう真っ暗だ。見下ろすと、周辺は見渡す限り停電していて、地上には自家発電しているビルの僅かな明かりと、渋滞でほとんど動かない車のライトしか見えない。新宿駅南口の方向に、火災と思われる炎が揺らめいて見える。そんな地上から煌々と明かりが灯っている高層ビル群をを見上げたら、一体どんな風に思うのだろうか。

衛がぼんやりそう考えた時、廊下をこちらに向かって駆けてくる、ピタピタという妙な足音が聞こえて来た。そしてすぐに、開け放ってあるオフィスのガラス扉に人影が現れた。振り返ってその姿を見た衛は、ぽかんと口を開けたまま、固まった。ウソだろ、おい…

人影はオフィスの入口で、乱れる呼吸を無理に押し殺すようにして、それでも良く通る大きな声で言った。
「岩城衛さんは・・・こちらにいますか?」
玲奈だった。長い髪を振り乱し、肩で大きな息をしている。黒いパンツスーツにハンドバッグを無理にたすきがけにして、両手にハイヒールを持っている。

「玲奈!」
衛ははじかれたようにスツールから立ち上がり、玲奈に駆け寄った。衛の姿を姿をみとめて、玲奈の瞳が大きく見開かれる。衛はそのまま玲奈を抱き締めてしまいそうになったが、周りの目を気にしてなんとか思いとどまった。
「…階段、上ってきたのか…」
ストッキングの爪先が破れて、むき出しになった足の指先に少し血が滲んでいる。階段の途中で、何度も座り込んだのだろう。膝が灰色の埃で汚れている。

「ど…どうして…来てくれなかったんですか…待ってたのに…」
玲奈は肩で息をしながら、とがめるような目をして言った。衛の身を案じて45階まで階段を駆け上がって来た玲奈に、衛はどんな言い訳もできない。
「凄い地震で、何かあったんじゃないかと思って…心配で…」
「ゴメン…」
衛は、今にも泣き出しそうな玲奈に、それだけ言うのが精いっぱいだった。

ソファに横になったままの秋江は、開けたままのパーティションのドア越しに、ふたりの様子を横目で見ていた。
そしてだいぶ気分が良くなって来たのも手伝って、クスっと笑いながら小さな声で呟いた。
「相対性理論は、今ここに証明された」
そして天井に顔を向けてもう一言、半ば呆れたように、ため息混じりで言った。
「でも、しっかり者じゃなくて、超人だったわ…」


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2013年2月 9日 (土)

【茨城沖で震度4他】地震関連情報【2/9】

本日2月9日、午後1時43分頃、茨城県沖の深さ20kmを震源とするマグニチュード5.4の地震が発生し、福島県いわき市で最大震度4を記録しました。

この地震は、下図の黄色で表した震源域で発生したものです。当ブログでも何度か指摘している通り、この震源域と北側の宮城県沿岸(下図のピンク色)の震源域では、2~3ヶ月に一度程度の割合で震度4~5弱程度の大きめの地震が発生していますが、今回の地震もそれに当たると考えられます。
Photo

北側の宮城県沿岸でも、昨年末くらいから小規模地震の多発傾向が続いていますが、しばらく大きめの地震が起きていないので、それほど遠くないうちに震度4~5弱レベルの地震が起きる可能性があります。しかし、いずれの場所でも必ずしもその規模で収まるとは断言はできません。


一方、昨日2月8日に三陸沖を震源とするマグニチュード4.4と4.5の地震が二回続けて起きています(地上の揺れはいずれも震度1)。

これらの地震はいずれも震源深さ10km程度であり、震央の場所からしても震災の影響による「アウターライズ地震」の性格を持つものと考えられます。このタイプがマグニチュード6台後半以上で発生すると、津波の発生が懸念されます。地上の揺れが小さくても大きな津波が発生する「津波地震」になりやすいタイプですから、小規模ながら二回続けて発生していることも考慮して、しばらくの間は推移に注目おくべきかと思います。


2月6日にマグニチュード8.0が発生した南太平洋サンタクルーズ諸島では、日本時間の8日晩と9日未明に、マグニチュード7.1と7.0の大きな余震が連続して発生しています。この程度の規模の地震で発生する津波は、日本にまで到達する心配はありません。前の記事でも触れましたが、マグニチュード7.0の余震とは、マグニチュード8.0の本震の約32分の1のエネルギーが放出されたに過ぎませんから、海底の変形量も本震にくらべてかなり小さく、津波もごく小規模となりますので心配はいりません。


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2013年2月 7日 (木)

自動車の危険・落下物【対災害アクションマニュアル 26】

■第1章 危険を知れ(その24) 【自動車の危険・落下物】

今回は大地震時における自動車の危険のうち、落下物について考えます。

走行中に強い地震を感じたり、緊急地震速報で震度5弱以上の地震が予想された場合には、基本的には急ブレーキをかけず、しかしできるだけ速やかに車を道路左側に寄せて停める必要があります。(走行中の車中で震度予想が見られるのは、現在のところスマートホン用の一部アプリだけだと思いますが)

そこでの問題は、「停まる場所が安全か」ということです。例えば、看板類が鈴なりの繁華街、ガラス面積が大きな建物の直前、橋や高架の真下、建築現場の足場近く、切り立った崖や斜面の下、鉄骨や重機などの重量物を載せたトラックの横や後などに停まると、落下物の直撃を受ける可能性が高くなります。老朽化した建物の近くだったら、倒壊に巻き込まれることもあります。

そして前記事で触れた通り、自分の車にとって脅威となる、つまり自分の車に当たるものが落ちてくる「真上」は、車の中からは全く見えません。真上から何か落ちてきても、車にぶつかるまで気付かないのです。気が付いた時には手遅れ、ということも少なく無いでしょう。


ではどうするか。それは「停まる前」の判断にかかっています。高速道路はトラックの荷崩れ以外の落下物に関しては比較的安全ですが、一般道には上記のようなありとあらゆる危険があります。それらの危険を、減速して停止するまでの間にできる限り見極めなければなりません。車の中からでも、前上方は見えるわけです。周囲の状況が許せば、すぐに停まらずに走り抜けることが必要なこともあるでしょう。

しかし、大地震の極限の緊張の中で前や周囲を見て停止場所を探しながら、同時に前上方も確認などできるはず無い、とお思いの方もあると思います。その通り、とても困難なことであり、誰にでもすぐにできることではありません。上ばかり見ていたら、前の車に追突してしまうでしょう。

でも、下手な場所に停めて落下物に押し潰されるのは、あなたと同乗者なのです。そのリスクをどれだけ真剣に考えられるかということです。ですが、もちろんそんな「精神論」だけで解決できる問題でもありません。


そこで必要になってくるのが、普段からの意識です。車を運転しながら、「いまここで大地震が来たら」という意識を忘れず、街を観察するのです。普段からあの看板は落ちそうだ、あの建物は倒れそうだ、あの崖は崩れそうだという視点で街を見ていれば、いざという時に他の場所でも短時間で危険を見出すことができるようになるはずです。普段から、「危険を知る」のです。

気の荒そうな大きな犬がいたら、誰でもその犬には近づきませんよね。それは犬に噛まれたら痛い、大けがをする、下手をすれば殺されるから怖いと知っているからです。それと同じように街の危険要素を見られるようになれば、無意識のうちにその危険を避けたくなります。


私事ながら、管理人は運転中に重量物や重機を積んだトラックの類には絶対に近づきません。後ろに付く時も、車間を大きく開けます。交差点などで隣に並ぶこともしません。もし走行中や停車中に大地震が来たら、積み荷が落ちて来るかもしれないからです。地震でなくても、荷崩れや重量物の落下による事故は後を絶ちません。停車中にどうしても並ばなければならない時は、強い地震を感じたらすぐに反対側のドアから脱出することを考えています(管理人の車はベンチシートのミニバンです)

その他にも、例えば満載のダンプカーから石ころが落ちてくる、雪がまとわりついた大型車の床下から大きな氷の固まりが落ちてくるというようなことは、ごく普通に起きます。それを本気で怖いと思っているから、無意識のうちに離れてしまうのです。同じように、繁華街の鈴なりの看板など、恐ろしくて仕方ない。

そんな意識を普段から持っていることが、いざという時の素早い判断に繋がります。皆様にも、普段からそんな視点で街を見ながら、歩いたり運転したりすることをお勧めします。それがあなたの「生き残る」力をアップするのです。

まとめますと、車で走行中に緊急地震速報を受信したり強い地震を感じた時は、すぐにゆっくりと減速を始め、同時に周囲、特に前上方と左右方向に自分の車を押しつぶしそうな危険が無いかを確認し、もしあればそこから基本的にはゆっくりと離脱する、ということです。もちろん、もし何かが倒れ掛かって来つつあるのを見つけたりしたら、周囲の状況によりアクセル全開という選択肢もあります。


最後に、もし車の中で落下物の直撃を受けてしまいそうな場合の、最後の対処方法について。

まず、可能ならば車外に脱出すべきですが、それが間に合いそうも無い場合には「頭の位置をできるだけ低く」することです。何トンもある鉄骨類や重機、巨大な岩などの直撃ではなく、看板類や足場などの衝突程度ならば、多くの場合、車の屋根部分が潰れるくらいで済むことが多いでしょう。つまりそこから下、具体的にはダッシュボードの線より下に潜り込めば、頭部を直撃されて致命傷を負う可能性がかなり小さくなり、生存空間も残りやすいのです。

その方法はいろいろ考えられますし、車体や身体の大きさによっても出来る方法が変わりますので、皆様それぞれの方法をお考えになってみてください。チャイルドシートを卒業したくらいの子供ならば、床に伏せてしまうのがベストでしょう。その際はもちろんシートベルトを外すことになりますので、停止状態か微速走行中の話です。

次回は、「追突」の危険について考えます。


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2013年2月 6日 (水)

【南太平洋でM8.0】巨大地震多発期か

日本時間の2月6日午前10時06分頃、ニューギニア島の東方、サンタクルーズ諸島付近の深さ33kmを震源とするマグニチュード8.0の地震が発生し(下図に赤色×印で震央を示す)、日本の太平洋沿岸各地に津波注意報が発表されています。
8_2
この付近は太平洋プレートとオーストラリアプレートの境界であり、最近では1996年、2002年、2009年とマグニチュード7~8クラスが発生している「地震の巣」です。地震のタイプは、いわゆる「プレート境界型(海溝型)」であり、東日本大震災や2004年のスマトラ沖地震と同様のものです。


最近、環太平洋地域を中心としてマグニチュード7以上の地震が多発する傾向が見て取れますが、こちらはどうやら偶然ではないようです。以下に述べる内容は、元東京大学地震研究所の都司嘉宣(つじよしのぶ)先生が発表された内容です。

20世紀にマグニチュード9クラスの地震は5回発生していますが、その全ては、1946年から1964年の間、たった18年間に集中して発生しています。100年のうちの18年ですから統計的に明らかに有意、つまり偶然では無いということです。しかしその理由については、地球の自転速度の変化、地軸の傾きの変化など諸説ありますが、現代の科学では解明されていません。現時点では、そこに何らかの理由が存在することは確かだと考えられています。

世界の観測史上最大の地震、1960年のチリ地震(M9.5)に続いて1964年にアラスカ地震(M9.2)が発生したあとは、40年間もマグニチュード9クラスは発生しませんでした。そして21世紀に入って2004年にスマトラ沖地震(M9.1)が発生し、その7年後の2011年に、東日本大震災(M9.0)が発生しました。このことから、都司先生は「地球は再び巨大地震多発期に入った」と判断されているとのことです。

大きな地震が起きやすい状況ならばそれより小さな地震はさらに起きやすいのが自明であり、最近のマグニチュード7~8クラスの多発傾向は、それを裏付けるようでもあります。当分の間は、特に環太平洋地域を中心として巨大地震が発生しやすい時期であると認識しておく必要があります。


なお、未だにマグニチュード値と震度を混同している例もあるようですが、マグニチュード値とは揺れの大きさではなく、地震活動で放出されるエネルギー量の単位です。マグニチュード値が1上がると、放出されるエネルギー量は約32倍、2上がると約1000倍と、全く桁違いの規模なのです。今回の南太平洋マグニチュード8.0は、東日本大震災の約32分の1の規模でしかない、ということです。


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2013年2月 5日 (火)

自動車の危険・緊急地震速報【対災害アクションマニュアル 25】

■第1章 危険を知れ(その23) 【自動車の危険・緊急地震速報】

久々のレギュラーシリーズ記事です。

今回から、車に乗っている時に大地震が来た時の対処方法を考えます。最初は、乗用車を運転している場合です。

一般的に言われる対処方法は、運転中に強い地震を感じたら、急ブレーキをかけずにゆっくりと減速して、道路左側に寄せて停止しろ、というものです。特に高速道路を走行している時は、強い揺れでハンドルを取られてコントロールを失うことがあると言われます。

確かに、それは間違いではありません。しかしそれだけででは不十分と管理人は考えます。上記は、あくまで自分の車を安全に止める方法でしかありません。実際には、自分の車がコントロールを失う以上に大きな危険があります。

それは、落下物と追突。例えば繁華街を走っている時に強い地震を感じてすぐに路側に停車した場合、近くの建物などからの落下物の直撃を受ける可能性があります。ガラスくらいなら車は有効なシェルターになりますが、大きな看板や重い壁材などが落ちて来たら、車の屋根など簡単に潰されます。問題は、車の中からでは、自分の車に脅威となる真上が全く見えないということです。

また、周囲がすべて冷静なドライバーばかりだとは限りません。中には、パニックを起こしてアクセルを踏み込むような人がいるかもしれません。そんな車が乗用車ならまだしも、大型トラックだったとしたら。もちろん大型トラックのドライバーはプロですから、パニックを起こすような人は少ないでしょう。しかし、問題は重さです。重い車はすぐには止まれません。

特に高速道路では、大型トラックが激しい揺れや道路の変形などで一旦コントロールを失った場合、軽い乗用車のようにすぐに修正が効きません。そのまま路肩に止まった車列や渋滞の後尾に突っ込んで来たり、横転するような状況も考えられます。

積荷の危険もあります。東日本大震災では、大型トレーラーに載せられた巨大なコンクリート管が激しい揺れで落下し、対向車線の乗用車を何台も押しつぶしました。このように直前や真横を走るトラックからの荷崩れは、致命的な結果を招きます。直撃しなくても、荷崩れを発見して急停止したら、後ろから突っ込まれる可能性が非常に高い。そのような危険を回避した段階で、初めて一息つけるのです。


そんな危険回避のためには、まずできるだけ早く地震の発生を感知する必要があります。早い段階で危険回避行動に移れれば、それだけ「自分の意志で」状況をコントロールできる可能性が高まるのです。

そのために有効なのが、緊急地震速報です。私事ながら、管理人は震災二ヶ月後から何度も福島へ入りましたが、道中の東北自動車道上で、二回ほど携帯電話の緊急地震速報を受信しました。

時間は深夜で、時速80~100kmでスムーズに流れています。走っている車は物資輸送の大型トラックが8割、その他も被災地支援に向かう車がほとんどです。大きな余震が多発している時期でしたから、ほとんどのドライバーに「覚悟」ができているという、ある意味で特殊な状況です。

そこで緊急地震速報が発報された時の様子に、正直なところちょっと感動しました。見事なものだったのです。

管理人の車は時速90kmほどでトラックの間にいました。そして発報を受け、すぐにハザードランプを点灯してアクセルを抜き、何度か軽くブレーキを踏んで、本線上で時速50km程度までゆるやかに減速しました。これは減速の意ためでもありますが、ブレーキランプを点滅させて、減速の意志を後方の車により強く伝えるという意味もあります。もちろん前の車との車間と、バックミラーで後の車の動きを確認しながらです。すべてのドライバーが緊急地震速報に気づいているとは限りません。

すると、ほとんど車間が変わらないまま、車列全体が自然に減速しました。つまり、周辺のすべてのドライバーが携帯電話やラジオで緊急地震速報を受信していたか、そうでなくても周囲の車の動きを見て状況を察し、すぐに現実的に安全と思われる速度まで減速したのです。そして減速しながら、前の車との車間を少しずつ開けて行くことも忘れていません。

時速40~50km程度ならば、その後相当強い地震が来ても数秒以内に路肩で停止できますし、道路の変形や高架の落下などがあっても、かなりの確率で回避できます。震災直後という特殊な状況ならではかもしれませんが、それが高速道路上での理想的な対応だったのではないかと思います。

結果的に、二回とも走行中にはほとんど感じられないくらいの地震でしたので、一分ほどそのまま走行したあと、車列は何事も無かったようにスムーズに再加速して行きました。この時ほど、ドライバー同士の「以心伝心」を感じたこともありません。

もしここでハンドルを取られるような強い地震が来ていたら、各車は車間を維持したまま、一斉に路肩に停止したことでしょう。これが、8割方がプロドライバー、しかも震災被災地走行中という中での、最も現実的で安全な対応ということができるでしょう。しかし、普段はそんな「好条件」はなかなかありません。それについては後述します。


さておき、こんな対応ができるのも緊急地震速報のおかげです。ですから車に乗っている時は、携帯電話かラジオのどちからで、必ず緊急地震速報を受信できる体制にしておくことをお勧めしますし、もしそうでなくても、周りの車が不自然に減速し始めたら、とりあえず大地震の発生を疑い、すぐに周囲を良く見ながら減速するという意識を忘れないことが大切だと思います。

自動車運転中の緊急地震速報の有効性はおわかりいただけたかと思います。次回からは、様々なケースの具体的な対処方法について考えます。


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2013年2月 4日 (月)

【一周年記念企画】小説・生き残れ。(仮)【5】

その週末の土曜日。衛は、少し早めに待ち合わせ場所の渋谷駅前に着いた。穏やかに晴れた、12月としては暖かい一日が暮れようとしている。駅前広場に鎮座している緑色の電車は先週の地震でどこか損傷したらしく、白いシートで覆われて、少し角ばった巨大な繭のようになっている。デパートが入った駅ビルも外壁が何箇所か剥げ落ちたようで、足場が組まれて補修工事が行われている。ニュースによると、あの日ここで何人かけが人が出たらしい。

それでも渋谷の街は、いつもの土曜日とそれほど変わらない喧騒に溢れていた。衛はシートに覆われた電車の前にスペースを見つけると、行き交う人波の中に玲奈の姿を探した。今また大きな地震が来たらどうなるんだろうと、ぼんやり考えながらふと腕時計に目を落とすと、ちょうど午後5時25分になるところだった。

あと5分、と思った瞬間、全く意識していなかった左後ろから声をかけられた。
「岩城さん!」
衛は不意を突かれて、びくっと肩をすくめて小さく飛び上がった。慌てて振り返ると、玲奈の華やかな笑顔が衛を見上げていた。最初はシブく決めようと思っていたのに、なんだかひょっとこ踊りみたいな姿を晒してしまった。
「や、やあ…」
「もういらしてたんですね。すいません、お待たせしてしまって」
「いや、今来たところで…」
あまりにも陳腐な台詞しか出て来なくて、衛は自分ながらがっかりする。

今日の玲奈は、ベージュを基調にした少しフレアのかかったワンピースに黒革のハーフコートを羽織り、首の周りには柿色のスカーフをマフラーのようにゆったりと巻いている。意外に渋めのコーディネートだ。化粧も平日よりは控え目で、もっと女性的な、なんというか派手な服装を想像していた衛には意外とも言えるスタイルだった。でも、衛はコーヒーブラウンのジャケットとベージュのチノパン姿にグリーンのモッズコートを羽織っていたから、ふたりのバランスは悪く無い。

衛は、いきなりどうかなと思いながらも、先程のみっともなさを帳消しにしようという考えもあって、思ったことをそのまま言葉にした。
「三崎さん、すごくきれいです。最高です」
玲奈は、はっとしたように大きな目を見開いて衛を見つめると、その頬にみるみる赤みが差した。
「え、あ、そんな…褒めすぎです…」
「本心ですって」
「あ…ありがとうございます…」
玲奈は頬を赤らめたまま、恥ずかしそうにうつむいた。

あの地下鉄の中で見せた鋭さからは想像もつかないような、なんだか小動物を思わせるような可憐な反応に、衛はできることなら今ここで玲奈を抱きしめたい衝動に駆られる。でもその気持ちをかなり苦労して抑えながら、言った。
「じゃあ、行きましょうか。お店、予約してあります」
「はい」
ふたりで肩を並べて歩き出しながら、衛は一昨日の電話で食事の約束をした後、玲奈が食べられないものが無いかをひそひそ声で確かめた時の事を思い出した。そう言えばあの時、誰か応接ブースの外を通ったような気がする。あれを先輩に聞かれたか。あの会話は、どう考えても得意先が相手ではないよな。まあ、いいか…。

混雑する駅前のスクランブル交差点を渡りながら、衛は左側を歩く玲奈に聞いた。
「でも、本当に居酒屋で良かったのかな?ちょっとおしゃれめな所にしたけど」
すると玲奈は首をひねって衛を見上げながら、にっこりと微笑みながら言った。
「はい、喜んで」
「あ、また出た」
ふたりは声を上げて笑いながら、夕暮れの雑踏に紛れて行った。


その日から、衛と玲奈はお互いの都合がつく週末はいつも、衛自慢の大型四駆車で日帰りのドライブに行ったり映画や芝居を観に行ったりと、あちこち連れ立って出かけるようになった。お互い結構趣味が合うし、衛は玲奈と一緒にいる時間がなにより楽しかった。衛の誘いにいつも乗ってくれる玲奈も、多分そうなのだろう。衛は会うたびに玲奈にのめりこんで行ったが、しかしそこから先へは、なかなか進めなかった。

一度などは“今夜こそ”と思って食事に誘い、そのまま六本木のバーに流れたのはいいが、衛の方が酔いつぶれてしまい、玲奈に朝まで介抱されるという大失態を演じてしまったこともある。それでも玲奈は別れ際、落ち込む衛に向かって笑顔で、
「今度は、どこへ行こうか」
と言ってくれたのが、衛にとって唯一の救いだったのだが。


年が明け、春めいた日が目立って多くなる頃には、年末に起きた地震のことはたまに関連のニュースを聞くくらいで、もうほとんど誰の口の端にも上らなくなっていた。そしてその頃には、ふたりはようやく、お互いを名前で呼び合うようになっていた。

玲奈が衛の想いを受け容れた日、玲奈はぽつりと呟いた。
「衛が地下鉄の中で『大丈夫、おれがついてる』って言ってくれた時から、たぶんこうなる、って思ってた…」


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facebookは裏話と小ネタの部屋に

去る1月30日に突然facebookのページを開設したのですが、どうやって使って行こうなどど言うことは全く考えておりませんでした。

でも、とりあえず方向性が見えて来ました。もう何本か記事をアップしていますが、当ブログのテーマにそぐわない管理人の意見や、気にはなっているものの、ブログで記事にするほどでも無いことを、つらつらと書いております。そして、これが書いていて結構面白い(笑)

そんなわけで、facebookページはやはり裏話と小ネタを当面は書いて行こうと思っております。よろしければ、覗いてみてやってください。

■facebookページ■
名称「Smc防災研究所」
※facebookの表記規定により、変則表記になっています。正式表記は「SMC防災研究所」です。
facebookページへはこちらから
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2013年2月 3日 (日)

【十勝中部地震】やはり落ちた吊り天井

2月2日の午後11時17分に発生した十勝中部地震では、震度5強を記録した帯広市内で吊り天井の落下が発生しました。

JR帯広駅では、駅構内の数ヶ所で吊り天井の石膏ボードが広い範囲で落下し、場所によってはアルミ製のハンガー(吊り金具)も一緒に落下しました。
130202
深夜だったために人が少なく、幸いけが人は出ていませんが、混雑する時間帯だったらかなりの人的被害が出ていたのは間違いありません。

また、帯広市内の体育館では天井の防音パネルが落下しました。これも構造は多少異なりますが、吊り天井の一種です。こちらの天井材は木材のチップをセメントで固めた吸音効果のあるパネルで、一枚でもかなり重量があるものです。人体が直撃を受けた場合、致命的な衝撃を受ける可能性が高く、一般的な石膏ボードよりはるかに危険なものです。しかし、こちらも幸いにして地震当時には体育館は無人であり、人的被害はありませんでした。

今回の地震は、揺れが比較的長周期だったために建造物本体への破壊力はそれほど大きくありませんでしたが、それでも吊り天井は比較的簡単に落下してしまうことがわかります。東日本大震災の時も、東日本を中心として2000ヶ所以上の吊り天井が落下していたことが、後の調査でわかっています。

このように震度5強以上の揺れが来たら、吊り天井は落ちるものだと考えておかなければなりません。そして、吊り天井は私たちの周りに想像以上にたくさん存在するのです。

駅、空港、ショッピングセンター、体育館、映画館、劇場、ホールなど、鉄骨構造で柱が少なく、天井が高い建物は大抵、吊り天井構造です。鉄筋コンクリート構造のビル内でも、非常に多く採用されています。私たちは、日常的に吊り天井の下にいるのです。では、そんな場所にいる時に強い地震を感じたらどうしたら良いのでしょうか。

過去の例を見ると、広い範囲の天井材が一気に落ちてくる事が少なくありません。吊り天井は構造的に繋がっているので、一ヶ所が破損すると連鎖的に落下するのです。今回の帯広駅構内でもそうでした。建物全体の天井が全部落ちた例もあります。ですから落ちる場所を見定めてから走って逃げることは、相当な幸運に恵まれない限り、まず不可能でしょう。天井が落ち始めてからは、数秒以下の余裕しか無いのです。

そこでできるほとんど唯一の対策は、「頭と首を守る」ということです。よくある石膏ボードの吊り天井ならば、頭や首への直撃を避けられれば、かなりの確率で生き残れます。体育館、映画館、劇場、ホールなどに使われている吸音性がある天井材の場合は、一枚でもかなり重量があるために身体のどこに当たっても重傷を負う可能性が高いのですが、とにかく頭や首への直撃を避けることで、生き残れる確率が高まります。

具体的には、良く言われるように姿勢を低くして、特に後頭部から首の後ろにかけてをカバンなどでカバーするのです。何も持っていなければ、両腕で頭を抱え、特に後頭部から首の後ろをカバーします。後頭部から首の後ろ側は、人間の弱点なのです。これだけで、何もしないよりは何倍も「生き残る」確率が高まることは間違いありません。この方法はもちろん、吊り天井だけでなくあらゆる落下物から身を守る際に共通するものです。

なお、吊り天井構造のうちどの辺りが落ちやすいかということについては、あまりはっきりした傾向は見えません。揺れ方や建物の構造次第で、真ん中が落ちることもあれば、壁際が落ちることもあります。天井全部が落ちた例も少なくありません。でも、過去の落下事例画像をたくさん見た管理人の印象では、天井の真ん中に近い部分が落ちることが比較的多いように見えました。

これはあくまで印象ですが、管理人が吊り天井の下で強い地震を感じたら、まず可能な限り壁際へ移動しようと考えています。

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【十勝地方震度5強について】地震関連情報【2/3】

昨日2月2日、午後11時17分頃、北海道十勝地方中部の深さ120kmを震源とするマグニチュード6.5の地震が発生し、帯広市、根室市などで最大震度5強を観測しました。なお、当初の速報値マグニチュード6.4は、その後、暫定値として6.5に訂正されています。

この地震は、北海道が乗ったユーラシアプレートの下に潜り込む、太平洋プレートの内部で発生した逆断層型の「スラブ内地震」です(下図3のタイプ)。報道では「岩盤内」と表現されていることが多いのですが、同じ意味です。
Photo
この地震も、東日本大震災後の地殻変動によって太平洋プレートの動きが早まったことによって誘発されたものと考えられ、広い意味で震災の影響と言うことができます。

震源が120kmとかなり深い「深発地震」だったために、横揺れ(主要動)は比較的長い周期の揺れとなり、建造物に対する破壊力はそれほど大きくありませんでした。このため、建物の倒壊やインフラへのダメージはほとんど発生していないようです。

一般に、震源の深い地震は非常に広い範囲で揺れを感じます。今回の地震でも、東日本全域から静岡県の一部や伊豆諸島に至る範囲で揺れを感じました。震度図をご覧ください。
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非常に興味深いのは、日本海側では赤線で示した「柏崎-千葉構造線」で、太平洋側では黄線で示した「糸魚川-静岡構造線」で、身体に感じる揺れがぴたりと止まっていることです。このことからも、東日本と西日本がフォッサマグナ(大地溝帯)を挟んで、構造的に不連続であることが良くわかります。

また、太平洋側と日本海側で震度がはっきりと分かれているのがわかります。これは、陸側のユーラシアプレートの下に西向きに潜り込む太平洋プレート内で起きた地震であることを如実に示しています。この地震は太平洋プレート内部の深い場所で発生し、揺れは主にプレート岩盤の中を遠方まで伝わって行きました。太平洋プレートは、太平洋沿岸部ではまだ浅く、日本海側に進むにつれて深く潜り込んでいるので、日本海側での地上の震度が小さくなっているわけです。

2月1日の当ブログ記事でも述べた通り、昨年末くらいから、東日本全域での地震発生回数が明らかに増えており、今回の十勝中部地震も広い意味でその影響下にあると考えられます。この状況はまだしばらく続くと思われますので、他の地域でも「普段よりも大きな地震が発生する可能性が特に高まっている」と認識し、「起きてしまわないうちに」出来る対策を進めておくことをお勧めします。

今回の地震は、幸いにして大きな建物被害などはほとんど無かったようですが、酷寒、豪雪など悪条件の中でも建物が倒壊し、インフラが寸断するような地震が発生することもあるという、当たり前の事実を突きつけられました。そのような場所では、通り一遍の対策では不十分なのは言うまでもありません。「生き残る」ために何が必要か、ご自分の周りの環境を良くお考えになって、対策を進めていただきたいと思います。

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2013年2月 1日 (金)

【茨城連続発生など】地震関連情報【2/1】

ここ数日で茨城県内を震源とする比較的大きな地震が三回続きましたが、それに関連して、最近の東日本におけ地震発生傾向についてまとめてみます。
Photo
年明けから現在までに最も多発しているのは、上図の黄色で表した、福島県から茨城県にかけての沿岸部です。平均して一日一回を超えるくらいのペースで発生しています。1月28日にマグニチュード4.9、水戸市内で最大震度5弱の地震が発生したのは、この震源域です。

次に多いのが、上図のピンク色で表した、宮城県沿岸部です。ここも平均して一日一回程度のペースですが、福島ー茨城沿岸より若干少なめです。

これらの震源域では、震災一年後くらいからの多発傾向が続いていますが、昨年12月後半くらいから若干の増加が見られます。これらの震源域では、時々震度4~5弱レベルの地震が発生しますので、いずれまた発生するものと思われます。


その一方で、昨年10月頃にかなり多発していた、茨城県南部、千葉県北西・北東部の震源域は、震度1クラスが散発的に起きているだけで、ほとんど動きがありませんでした。上図のオレンジ色の震源域です。2月1日未明に同震源域西端、茨城県南部の埼玉寄りを震源とするマグニチュード4.2、茨城や埼玉の広い範囲で最大震度3の地震が久しぶりに発生しましたが、今後動きに変化があるのかどうか、しばらく注視して行きたいと思います。

上図の緑色で表した、福島県浜通りから茨城県北部の震源域では、震災直後から深さ10km以浅の地震が集中して発生していますが、時間の経過とともに少しずつ減少してきています。ここ一ヶ月ほどの間も大きな動きは無かったのですが、1月31日夜半にマグニチュード4.7、日立市内で最大震度5弱の地震が発生しました。


このように1月28日、31日、2月1日と茨城県内での比較的大きな地震が連続していますが、上記のようにそれぞれ全く別の震源域での発生で、発生メカニズムも全く別のものですから、直接的な関連は無いと考えて良いでしょう。つまり、これらの地震が震災前に起きた前震のような、茨城付近での大規模地震の前兆である可能性は事実上考えられないということです。

特に1月31日、午後11時53分と、直後の2月1日午前1時4分の連続発生で、不安を感じている方も多いと思います。しかし両者は茨城県北部の深さ10kmと、茨城県南部の深さ50kmという、全く別の場所で起きた、発生メカニズムの全く異なる地震です。これは単なる偶然に近いものですから、そのこと自体を心配する必要はありません。

ただ近い場所で地震が続いたからという幼稚な理由で不安を煽るようなくだらないネタには、くれぐれも踊らされませんように。


ただし、年明けくらいから東日本全域での地震発生回数が増加傾向なのは確かなので、茨城に限定した話ではなく、どこかで大きめの地震が発生する可能性が高まっているかもしれないということは、考えておくべきかと思います。

もちろん、ほとんど動きの無い東京湾直下や多摩方面、神奈川県東部などでも、震災前よりはずっと発生確率が高まっていることに変わりはありません。少し気になるのは、千葉県南部および南東沖辺りでの発生が、ごくわずかに増えていることでしょうか。


東日本におけるその他の震源域では、秋田県内陸北部・南部での発生が若干増加しています。この辺りは震災震源域のほぼ西側に当たり、震災の地殻変動によって、東日本が太平洋側に大きく移動した影響を最も強く受けている場所です。つまり、最も大きな東向きの引っ張り力がかかっている地域ですので、深さ10km程度の浅い地震が増えることは、メカニズム的にも整合性があるものです。ある意味で、宮城県沿岸(上図のピンク色)での多発と「対」になって多発している地震です。

今後、秋田周辺の日本海側で震度5強以上の大規模地震が起こる可能性はあまり高くないと思われますが、皆無とは言えません。特に増加傾向が続いている間は、警戒レベルを上げておくべきだと思います。


このように、年明けくらいから東日本全体で地震が増える傾向にあるのは確かです。この動きがどこにどのような影響を及ぼすかは全く未知数ですので、常に「いつどこで起きてもおかしくない」という意識を忘れないことです。

ずっと緊張して警戒し続けることなどできませんが、具体的な対策は一度やってしまえば、忘れていてもその効果は続きます。「起きてしまわないうちに」、家の中、備蓄、行動などの具体的な対策を進めておきましょう。

その方法は、当ブログの過去記事で詳しく述べていますので、カテゴリ「地震・津波対策」や「防災用備品」の記事を中心に、是非ご覧ください。


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【28日の余震ではない】地震関連情報【1/31】

昨日1月31日、午後11時53分頃、茨城県北部、深さ10kmを震源とするマグニチュード4.7の地震が発生し、茨城県日立市で最大震度5弱を記録しました。

この地震の震源は、震災後に震源深さ10km程度の地震が集中的に発生するようになった、福島県浜通りから茨城県北部にかけての震源域(下図の緑色の震源域)の南端部で発生したものであり、震災の影響による誘発地震の一種です。
121024
震央の位置は、1月28日未明に発生した震度5弱の震央から北へ10kmほどの場所で、一見すると両者に関連がありそうですが、28日の地震は震源深さが70kmでしたので、この地震とはメカニズム的にも全く別物です。したがって、これは1月28日の地震の余震ではありません。

一方、1月28日にマグニチュード4.9、最大震度5弱という比較的大きな地震が起きた震源付近では、不思議なことにその後一度も有感地震が発生していません。あの規模の地震で、全く余震を伴わないというのも非常に珍しいのではないかと思います。その理由はわかりませんが、今後の動静にしばらく注目してみたいと思います。

なお、1月28日の震度5弱について、その後気象庁からの情報リリースは、現在のところありません。


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