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2013年3月14日 (木)

【一周年記念企画】小説・生き残れ。【12】

【作者より】しばらく更新が滞ってしまっていましたが、再開します。ここから、最終章に入ります。

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7月初旬の三連休。衛と玲奈は、衛の車で早朝に都内を発ち、東名高速道路に乗った。

6月中旬に起きたマグニチュード6.5の東京直下型地震では、都内を中心にかなり大きな被害が出ていて、一ヶ月近く経った今も混乱が続いている。そんな中で旅行に出るのはどうか・・・という思いもあったものの、ふたりで話し合った末、予定通り出発することにした。

あの地震の後は、ふたりとも様々な後始末のために連日深夜まで働きづめでもあり、この辺で気分転換をしたいという思いもあった。それでも最後まで迷っていた玲奈の背中を押したのは、衛の
「玲奈の育った街を見てみたいな」
という言葉だった。

「見て!海が見えるよ!」
「お、いいねえ。盛り上がるねえ!」
ふたりの大型四駆車は御殿場の手前で左に分岐して、新東名へ入った。しばらく山間の高台を走ると、視界の左側はるか先に、朝の陽光にきらきらと光る海が見下ろせるようになった。はるか眼下に並ぶ製紙工場群が、まるで未来都市のミニチュアセットのようにも見える。

ふたりの行き先は、玲奈が生まれ育って高校卒業まで過ごした、静岡県の小さな街だ。玲奈の家族は、10年ほど前に東京郊外に引っ越している。玲奈の両親がまだその街にいたら、ちょっと引いちゃったかもな…と、衛は思っていたが、もちろん口には出していない。

まだ梅雨は明け切っていなかったが、この日はもうすっかり真夏のような陽光が肌を刺す、雲ひとつない晴天だった。サングラス越しでも、アスファルトからの反射がまぶしい。
「天気がいいのはうれしいけど、早くも紫外線くんは全開ね」
「全身、塗れ塗れ」
「もちろん、対策はばっちり」

助手席の玲奈は、カールした長い髪をひとつにまとめて肩に流し、青い花柄のゆったりとしたスリーブレスのワンピースに身を包んでいる。露わになった肩に白いレースのカーディガンを羽織っているが、その肩口は、意外なほどの量感を感じる。
《玲奈って、やっぱり着痩せするタイプだな…》

衛は初めて玲奈の身体を見た時のことを思い出す。小柄で、少し華奢にさえ見える雰囲気からは想像できないくらいに、筋肉の存在を感じるしっかりした身体だった。なんでも高校までは陸上部で短距離走をやっていて、その後もずっとトレーニングは続けているという。一度、衛が『他にはなにかやってたの?』と聞いたとき、玲奈は冗談めかしてこう言ったことがある。
『穴掘り』
その場はそれだけでごまかされたけど、ありゃ一体どういう意味だったんだ…?

玲奈の育った街は、もうすぐだ。玲奈は眼下を流れる街並みを眺めながら、先程からしばらく黙ったままだ。
《昔の彼氏のことでも思い出しているのか?》
高校時代の玲奈は、この辺りでどんな青春を過ごしたのだろう。玲奈のことだから、言い寄る男にはこと欠かなかったはずだ。衛は少し、嫉妬した。

「次のインター、下りてね」
運転席の衛に向き直った玲奈は、なんだかとても嬉しそうに言った。衛は、玲奈の想像の過去に嫉妬している“小さな男”を気取られないように、それでもちょっと不機嫌に、前を向いたまま
「あいよ」
とだけ答えた。玲奈が真顔に戻って言う。
「ねえ」
「ん?」
「衛って、なんでそんなにわかりやすいの?」
「なにが」
「どうせ私が昔の彼氏のこととか思い出してると思っているんでしょ」
「うっ…」
見事に図星だ。何も言い返せない。
「安心して。こっちを出るまで、つきあった人はいなかったわ。いいとこグループデートまでね」
「そ、そうか」
「でもね、この辺りには大切な思い出がいっぱいあるの」

ふたりの乗った車は、インターチェンジを下りて市街地に入って行った。いまだ昭和の匂いが色濃く残る街を走っていると、衛は自分が玲奈の思い出の一部に取り込まれて、その登場人物のひとりになって行くような気がする。隣に座っているのは、セーラー服を着てショートカットの ―衛の勝手な想像だが― 高校時代の玲奈。

海沿いの道を右に折れ、左手を流れる集落のすぐ先に海が見える道路を走っているときに、玲奈が言った。
「私が住んでいたの、あの辺よ」
玲奈が指差す方を見ると、海の近くまで迫る山の麓に、マンションが何棟か建っている。
「あの辺りは、昔とはだいぶ変わっちゃったけどね」
「いわゆる再開発って奴?」
「まあ、そんなとこ」
玲奈一家が東京に引っ越したのも、そんな事情が絡んでいるのだろうと衛は思ったが、自分がそんな仕事にも少しは関わっているだけに、車窓を過ぎていく瀟洒なマンション群を横目で見ながら、それ以上は何も言わずにいた。新しい街を造ることは、誰かの思い出を傷つけることにもなるんだな…。

すると衛の気持ちを見透かしたように、玲奈が言った。
「でもね、良かったのよ。昔のままだったら、津波が来たら大変だった」
「津波なんて来るのかよ」
「あら、この辺りは有名な東海地震の本場ですのよ」
妙な言い方をする。
「有名って…、そんなにか?」
「ええ、30年も前から」
「ふーん」
「再開発のおかげで、裏山に上がる道も広くなったし、津波避難所もできたし。ほら、あれ見て」

玲奈が指差す先に、道路上にオーバーハングした大きな標識が見えた。それには天気予報に出るような高波のイラストと共に、『想定津波浸水高さ 5m』と大きく書かれていて、標識を支える白い支柱の上の方に、赤い帯状のペイントがしてある。あれが5mなのか。
「つまり、津波が来たらこの辺は水浸しだと」
「水浸しで済めばいいけどね…」
そう言う玲奈の表情からは笑顔が消え、少しだけあの“毅然”とした表情になっていた。


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