2019年10月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

« 【思いつき記事】お花見の危険 | トップページ | 近所で火事が起きました »

2013年3月27日 (水)

【シミュレーションストーリー】地震・一戸建て住宅

久しぶりの「災害シミュレーション」カテゴリの記事です。下記のシミュレーションは、当ブログ本館のmixiコミュニティに2008年3月13日付けでアップしたテキストを、一部加筆修正したものです。

なお、この記事は当ブログ読者の方から、小さなお子さんがいる場合の地震対策に関わる内容のご要望いただきましたので、それにお応えして掲載するものです。ストーリー本文掲載に続き、解説編をアップします。

なお、本文中には子供が犠牲になるシーンがありますので、お読みいただくかどうかは、皆様それぞれのご判断にてお願いします。

---------------------------------
【想定】
20××年 12月19日 午後6時18分
東京都北区某所 住宅密集地
木造モルタル造2階建て住宅(1979年築)
篠田康子 32歳 主婦
---------------------------------

日が落ちてから、北風が強くなってきた。乾ききった冷たい風が、甲高い口笛のような音を立てて路地を吹き抜ける。康子は家じゅうの 雨戸を閉めて回ると、台所に戻った。今日の夕食は小学校 2年生になる上の娘、梨奈のたってのリクエストで鶏の水炊き だった。女の子のくせに父親の正治とそっくりな、なんだか酒飲みが好みそうな献立が大好きな梨奈のことを考え、 康子は少し呆れたように微笑んだ。正治からは、今日も遅くなるから食事は外済ませて来るとメールが入っていた。

踏み台に乗って流しの上の天袋から土鍋を取り出した康子は、隣の居間でテレビアニメに熱中している、小学校2年生の梨奈に声をかけた。
「ごはんの前に宿題やっちゃいなさいよ!」
返事がない。
「ちょっと梨奈、聞いてるの!」
「はーい」
梨奈はしぶしぶ立ち上がると、玄関脇の子供部屋へ行った。居間では下の息子、幼稚園の年長組に通っている久志が、康子の声など全く聞こえないくらい、相変わらずアニメに没頭している。

ガスコンロにかけた土鍋の湯が煮立ち、そろそろ具を入れようと思った時だった。はるか地の底から湧き上がって
来るような、不気味な地鳴りに康子は凍りついた。 それとほぼ同時に、居間からかすかに聞こえていたアニメの音が途切れ、チャイムのような音が繰り返し、康子の耳に届いた。
「なに、これ?」
そう思った瞬間、最初の衝撃が下からズシンと突き上げて来た。家全体がギシっと激しくきしみ、ゴムボールの様に跳ね上がったように思えた。

地震!とにかく火を消さなければ。康子の頭の中はそれだけで一杯になった。ガスコンロへのほんの3歩を踏み出そうとするが、続けざまに突き上げて来る縦揺れにバランスを崩され、流しに手をついて堪えた。数秒後、突然揺れが収まり、静寂が訪れた。居間のテレビから聞こえてくる、無機質な男性の合成音声を聞いて我に返った康子は叫んだ。
「久志!梨奈!大丈夫?早く逃げなさい!」
返事は聞こえなかった。まず火を消してから助けに行こうと思いコンロに手を伸ばした時、爆発的な横揺れが襲ってきた。康子は一瞬でバランスを崩して流しに腰から叩きつけられ、跳ね返ってダイニングの床に転がった。

子供を助けに行かなければ。すぐに立ち上がろうとするが、床に手を着いて上体を起こすだけで精一杯だった。天袋の扉が開いて普段は使わない鍋や大皿がぶちまけられ、床に落ちて砕け散る。大皿の一枚が康子の肩に当たり、康子は痛みに呻いた。そこへ、コンロの上でひっくり返った土鍋から、熱湯が康子の腰に降りかかった。一瞬なにも感じなかったが、次の瞬間刺すような激痛が襲い掛かり、痛みと恐怖で康子が引き裂くような悲鳴を上げた時、照明が消えた。

子供部屋では、梨奈が最初の揺れ始めとほとんど同時に、学校の避難訓練の通りに勉強机の下に潜り込んだ。 しかし激しい横揺れが始まってすぐに、机のうしろにあった本棚が倒れ掛かり、机の下から身動きができなくなったが、梨奈は狭い机の下で、頭を抱えて猛烈な揺れに耐えていた。家全体が激しくきしむ音の向こうから、母親の悲鳴が響いてきたものの、どうしようもない。数秒後、明かりが消えた暗闇の中で、梨奈の耳は床下で太い柱が折れ曲がるような、メリメリという音を捉えていた。

居間にいた久志は最初の揺れで立ち上がろうとしたが、すぐに足を取られて転がった。そのまま立ち上がれずに うつ伏せで床に張り付いていた。おかあさんと叫ぼうと思ったが、声が出ない。縦揺れが一瞬収まった後、猛烈な横揺れが始まると、久志の上に木製の整理たんすが倒れてきて、小さな身体を押しつぶした。久志は背中を強く圧迫されて息ができなくなり、肋骨が折れた。

最大の地震波が到達したとき、ねじれるように大きく揺れる家の、柱と土台を結合するほぞ組みが何ヶ所かで破断し、次いで梁と柱のほぞ組みも折れた。そして一階部分が大きなガラス戸がある南側へ向かって歪んで行き、そのまま二階部分の重さに押し潰されるように倒壊した。激しい揺れが始まってから10秒も経っていない。

揺れはじめから30秒ほどが過ぎると、振り回すような揺れはまるで地面に吸い込まれるかのように引いて行き、1分半ほど経つと完全に収まった。辺りは不気味な静寂に包まれる。暗闇の路地に、倒壊を免れた家から住人が次々に出て来たが、家が大丈夫でも、散乱した家具に阻まれて外に出られない者も多くいた。路地にうごめく明かりは、数人が手にしている懐中電灯だけだ。無事だった住人は、倒壊した家に向かって外から声をかけるが、どの家もほとんど返事が無い。

康子は腰の周りに重度の熱傷を負った上に落下した梁が背中を直撃し、息はあるものの意識を失っていた。久志はたんすの下敷きになった上にさらに倒壊した梁の重量も加わり、すでに事切れていた。 梨奈は机の下で無傷だったが、天井裏からの大量の埃を吸って喉をやられ、外からの呼びかけに応えたくても声が出なかった。でも、こうしていれば、きっとお母さんが 助けに来てくれる。梨奈はそう信じて、気を失いそうな恐怖と心細さに耐えていた。しかし、しばらくすると梨奈は、暗闇の中から焦げ臭い臭いが漂って来るのを感じた。そして、その臭いはどんどん強くなって行った。

倒壊した家の前には、近所の住人が集まってきていた。ひとりが折り重なった瓦礫の奥に炎を認めて叫ぶ。
「篠田さんちから火が出てる!」
携帯電話を持っていた者が119番通報してみるが、回線は完全に沈黙している。その間にも倒壊した一階部分の奥から、最初の炎が立ち上って来る。隣家の住人が庭の蛇口を捻ってみるが、断水していて水は出ない。

何人かが町内に備え付けの消火器を持ってきて、潰れてゆがんだ一階の窓から屋内へ向けて噴射したが、火元が倒壊部分の奥なので、火勢を弱めることはまったくできない。乾燥した木材は乾き切った北風に煽られて見る間に燃え広がり、数分で潰れた家全体が炎に包まれて行った。しかし近所の住人には延焼を防ぐ手立ては何もなく、ただ見守っていることしかできなかった。

そして吹き上がる炎の猛烈な輻射熱に皆が後ずさりし始めた時、何人かは炎の中からわずかに漏れてくる、女の子のくぐもった悲鳴を聞いたような気がした。


【おわり】

管理人註:このストーリーは、阪神・淡路大震災で実際に起きた状況を参考にしています。この後、解説編を掲載します。


■このシリーズは、カテゴリ【災害シミュレーション】をクリックしていただくと、まとめてご覧いただけます。

■■当ブログがお役にたてましたら、ブログトップまたは下の各ランキングタグへご支援のクリックをよろしくお願いいたします。

☆にほんブログ村 ブログランキング
にほんブログ村 その他生活ブログ 地震・災害へ

☆人気ブログランキング

« 【思いつき記事】お花見の危険 | トップページ | 近所で火事が起きました »

災害シミュレーション」カテゴリの記事

コメント

てばさん、記事のアップ、ありがとうございました。
読んでいて・・・つらくなってしまいました。

自分が同じ状況だったら・・・子どもが心配で、でも動けなくて、半狂乱になっていると思います。

以前、最悪の状況を知っていれば、パニックにならずに対処できるかもしれない、なんて言っていたと思うのですが、このお話の状況ではパニックにならずに対応なんてできません。

だからこその「対策」だとは思うのですが、対策をしていてもすぐに子どものそばにいけない、子どもの様子を見れないという状況はそれだけで不安でパニックになってしまうかもしれません。

かといって、常に母の視界の中に子どもをいれておく、なんていうことも不可能なわけですし・・・読んでいるだけでパニックになりそうです・・・

実話、なんですよね・・・切ないです。やるせないです。

だからこそ、彼女たちが教えてくれたことを子どもたちのために実行したいと思います。

>はるママさん

この文だけは、書いた本人もなんだか気が重くて、ブログにアップするのをためらっていたのです。なお、これは実話そのままではなく、阪神・淡路大震災で起きたいくつかの事例を総合して、フィクションとして再構成したものです。

でも、実際にはもっと悲惨な現実がありました。詳しいことは敢えて書きませんが、いろいろ話を聞くにつけ、もし自分が当事者だったら、その場で精神に異常をきたしたかもしれないと思うような、あまりに耐え難い現実があり、それに直面した人々が実際にいるのです。

そのような悲惨すぎる話はメディアにもほとんど乗りませんし、私が神戸市の「人と未来防災センター」を訪ねた時も、その展示の中に見ることはできませんでした。当初は、最も悲惨な事例を現実に即して書こうと思ったのですが、最終的にはかなり表現を和らげてあります。恐怖ややりきれなさばかり先に立ってはいけませんので。

災害対策に絶対はありません。どんなに備えていても、災害の規模や運ひとつで悪い結果になることもあります。しかし、備えを進めれば進めるほど生き残れる、そして大切な人を救える確率が上がることだけは間違いありません。

そして、人はそんなに弱くないのです。だれかを本気で救おうとした時、パニックに打ち勝つこともできるはずです。その時、事前に想定し訓練しておいたことが、「命の一秒」を稼ぎ出すことに繋がります。気持ちだけではどうにもならず、そこに正しい知識と技術が伴わなければなりません。

この後数回にわたって、解説編を掲載します。「これをやれば絶対大丈夫」というような対策は出てきませんが、大切なのは細かいことの積み重ねです。参考になさってみてください。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【シミュレーションストーリー】地震・一戸建て住宅:

« 【思いつき記事】お花見の危険 | トップページ | 近所で火事が起きました »