【シミュレーション解説編】地震・一戸建て住宅【1】
シミュレーションの解説編です。本文は下記をご覧ください。
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なお、当シリーズ記事の主旨は、災害における、ある「最悪の結果」を提示し、登場人物の行動は何が間違っていて、どうすれば最悪の結果を避けられたかを考察するものです。
舞台は12月の東京。空気は乾燥しており、その日は強い北風が吹いていました。家は1979年(昭和54年)築の木造一戸建てです。つまり、1981年(昭和56年)に強化改正された建築基準法の耐震基準に準拠していない、大地震で倒壊の恐れがある「既存不適格建物」です。そのような建物の場合、理想的には耐震補強工事を行うべきなのですが、それができない場合は、まず自宅に倒壊の危険があるということを認識し、それに合わせた対策を講じなければなりません。すべては、そこからです。
発生した地震は、阪神・淡路大震災と同じタイプの直下型地震です。このような地震の場合、緊急地震速報が出ても、ほぼ同時に強い揺れが始まります。震源により近い場所では、揺れの方が先に来ることもあります。直下型地震の特徴は、下から突き上げるような強いたて揺れを感じた直後、震動周期の短い、振り回すような激しい横揺れになりやすいことで、この揺れが建物に大きな破壊力をもたらします。
まず、最初の間違い。台所に立っていた母親は、強い揺れを感じた瞬間、コンロの火を消すことだけを考えてしまいました。かつては、防災標語に「グラっと来たら火の始末」というものがあったりもして、まず火事を出さないことが最優先されました。これは、大火災で膨大な数の犠牲者が出た、1923年(大正12年)の関東大震災の教訓が色濃く残っていたためです。
しかし現在では、強い揺れを感じたら、まず自分の身の安全を確保することが最優先という考え方に変わっています。揺れを感じた瞬間に火を消せる場合を除き、強い揺れの中で無理に火を消そうとして、火にかけた熱湯や油を浴びてしまう危険から一旦遠ざかり、比較的頑丈な玄関やテーブルの下に避難すべきです。現代では、強い地震を感じると自動的にガスを止めるマイコンメーターや、コンロや暖房器具などの自動消火装置が普及しているので、地震による出火の可能性はかつてに比べてかなり小さくなっているからです。
このような行動は、普段から意識していないととっさに動けない可能性が高いので、折りに触れて思い出してください。特に、小さな地震を感じた時には、実際に同じ行動をしてみるなどの「訓練」を繰り返しておくことが効果的です。もちろん、お子さんと一緒にやってください。幼稚園の年長さんくらいになれば、訓練していれば自分の判断でも動けるはずです。
次の間違い。この家では、家の中の地震対策が全く行われていません。台所の天袋には重量のある鍋や大皿が入れてあり、扉のロックもありません。居間の家具にも、転倒防止対策が施されていませんでした。このため、最初の激しい揺れの時点で天袋の中身がぶちまけられ、家具がひっくり返りました。本文のように、この時点で重傷を負ってしまい、家が倒壊しなくても脱出の機会を失うかもしれません。子供部屋でも、子供が潜り込んだ机に本棚が倒れかかり、脱出路を失ってしまいました。
建物が頑丈でも、家の中が未対策だったら危険度は大して変わりません。家の中での最大の危険は、重量のあるものや家具類なのです。直下型地震の短周期の揺れは、高い場所にある重量物や重い家具にも最大の破壊力、つまりばらまいたり転倒させる力を及ぼします。
なお、東日本大震災においては、残された数多くの映像でもわかる通り、震度6級以上の揺れでも建物被害は阪神・淡路大震災に比べて非常に少なく、家具類が吹っ飛んだようなこともあまり報告されていません。これは、陸地と海底の震源が比較的離れていたことによる、揺れかたの違いによります。一般に、地震は震源との距離が離れているほど伝わって来る震動周期が長くなる性質があり、そのせいで建物を破壊したり、家具類を倒す力が直下型に比べて小さかったためです。これは揺れが小さいということではなく、あくまで揺れ方の問題です。
一方で、比較的長い周期の震動は高層建物を大きく揺らす力が強くなります。東京の高層ビル群が目で見てわかるほど大きく揺れ、震源から1000kmも離れた大阪では、震度3程度だったのに、高層ビルが大きく揺れたのはこのためです。
本文では、激しい揺れが始まってから10秒もしないうちに家が倒壊してしまいますが、これは、最大震度7を記録した阪神・淡路大震災で、実際に広範囲で起きたことです。特に1971年(昭和46年)以前に建てられた木造家屋、その多くが昭和20~30年代築の家は軒並みこのような倒壊をし、ほとんど屋外へ逃げる間もありませんでした。
しかしそれより新しい建物からと言って、倒壊までにもっと時間的余裕があるとも、旧い建物だからと言って必ず倒壊するとも限りません。建物の状態は、痛みの程度や増改築の方法などで千差万別だからです。確かなことは、耐震強度が低い建物は、大地震に遭うと高い確率で倒壊するということです。
次回へ続きます。
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