【シミュレーション解説編】地震・一戸建て住宅【3】
【2】前回から続きます。
シミュレーション本文では、倒壊した家から出た火を近隣の住民が消そうと試みますが、ほとんど効果がありませんでした。実は、これも阪神・淡路大震災で多発した状況です。
家が倒壊していなくても、屋内から出た火を外から消すことはかなり困難です。それが倒壊した家からだったら、外から火点に近づくのがより困難になり、折り重なった瓦礫は通常よりはるかに燃えやすい状態になりますから、仮に断水していなくても、水道水の放水や消火器程度ではほとんど効果がないのです。そして、特に都市部では、大地震の後には消防がすぐに来てくれる可能性はほとんどありません。
阪神・淡路大震災における負の教訓として、こんなものがあります。地震後に電話や水道が使えた地域では、火災を見つけて119番通報した後、消防がいつも通りに来ると思いこんだために、自力で消せる小さな火災でも放置された例が少なくありませんでした。しかし、消防は同時多発的に発生した火災すべてに対応することは不可能で、さらに道路の渋滞や障害によって消防車が間に合うことはほとんどなく、結果的に多くの場所で大火災に発展してしまったのです。
ですから、まずできるだけ火を出さないこと。火が出たら、小さなうちに可能な限り自力で消火を試みること。そのために必要なことは、地震の第一撃から身を守る方法と密接に関わっています。まず、自分が無事でなければ消火はできませんし、消火のための機材も揃っていなければならないのです。
そのために管理人が備えておくことを強くお勧めするのは、これです。
エアゾール式の小型消火器です。これは消化液を20秒間程度噴射できるもので、一本でてんぷら油に火が入ったり、出火したての台所周りの火くらいなら、高い確率で消火できます。しかし、必ずしも一本で消せるとは言い切れないため、必ず複数用意しておくことをお勧めします。特に石油ストーブなどから出火した場合、一本では不安です。もちろん、大型の消火器を屋内に用意しておければ理想的ではあります。
消火器は、マンションの廊下や町内に共用のものが備えられていることも多いのですが、それを取りに行っている時間にも、火はどんどん燃え広がります。さらに、家具の倒壊などで取りに行けないことも、取りに行けても、他の人が既に持って行ってしまった後ということもあるかもしれません。火が出た場合は、何より最短時間で消火を始めなければなりません。エアゾール式である程度火を制圧してから、大型の消火器を取りに行くということも可能なのです。
なお、地震に限らず、火災が自力で消せるのは、消防の指導によると、「天井に火が回るまで」と言われます。天井が燃え始めたら、消火器ではまず消火は不可能で、消火栓からの放水でも簡単ではありません。そこで無理に屋内に留まって消火を続けた場合、煙や有毒ガスに巻かれて倒れる恐れも大きいので、天井まで火が回ったら、消火をあきらめて速やかに脱出しなければなりません。
大災害が起きても、何が何でも子供を守りたい。たとえ自分の命と引き替えであっても。それが親の気持ちでしょう。でも、気持ちだけではどうにもなりません。そこに正しい知識、正しい行動、正しい装備、そして絶対に生き残る、絶対に助けるという強靱な意志。それらが揃って、初めて地獄のような中にも一縷の望みを見いだし、それを掴むことができるのです。恐れているだけでは、何も変わりません。
まずは実際に起きた、自分たちの身に降りかかるかもしれない現実から目を逸らさず、まっすぐに見つめてください。そして「怖い」とか「かわいそう」で終わらず、そこから教訓を見いだし、同じことが起きないように、具体的な行動を、すぐに始めてください。
災害対策に絶対はありません。大災害は、あまりに理不尽です。でも、手の打ちようが全く無いモンスターでもありません。進めた対策の分だけ、命は守られるのです。あなたにも、まだできることはたくさんあるはずです。
最後に、敢えてはっきり書きましょう。あなたは、お子さんの墓標を前に、「あの時ああしていれば良かった」と後悔することがあっても良いのですか?
【シミュレーション解説編 おわり】
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コメント
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てばさん
ありがとうございました。
対策にあまり興味を示さなかった主人にもこのブログを見せました。そして、訴えました。
「子どもを守りたい、って気持ちだけでこどもを守ることはできない。どう起こるか分からない災害から身を守る答えはないけど、正しい知識を身につけること、生き残る可能性を高める方法はある」と。最後に「親が生き残れば、子どもは高い確率で助かる。命にかえてでも守りたい、じゃなくて、家族みんなで生き残る努力はしたい」
週末、主人と耐震対策グッズを買いに行きました。家具が倒れないように。
片付けもしました。いろんなものが降ってこないように。
防災訓練も私と子どもでやっていたものに、主人が参加しました。
逃げる時の役割、仕事場で被災した時の連絡方法を話しあいました。
そして、いままで子どもの分しか用意していなかった防災リュックですが、私たち両親の分が加わりました。玄関の納戸を片づけ、すぐに取り出せるところに主人が置いてくれました。主人の気持ちが変わったことはとても大きなことでした。
今回、命に代えてでも子どもを守りたいので、ブログを載せてほしい、とお願いしたのですが、今の私は「子どもを生き残らせるために、親が正しい知識を身につけ、親が生き残って子どもを守る」に気持ちが変わりました。
100%準備ができることはありません。納得のいく準備なんて一生出来ないと思います。
でも、私は子どもの墓標の前で悔やみたくありませんし、そもそも墓標の前になど立ちたくありません。
これからもこちらのサイトで勉強し、いろんなことを教えていただきたいと思います。
本当にありがとうございました。
投稿: | 2013年4月 9日 (火) 11時46分
そう言っていただけると、やった甲斐があります。途中いろいろ挟まって、完結が遅くなってすいませんでした。
私がこのブログをやっている最大の理由は、ママさんのような、そしてだんな様のような方がひとりでも増えて欲しいという思いが、一番大きいのです。恐怖を煽るだけのようなくだらない情報と、通り一遍で机上の空論だらけの「防災情報」に対する私の小さな挑戦が、このブログなのです。
スポーツが上手くなりたいのなら、教則本をいくら読んでも上達しません。正しい練習方法を知り、実際にそれを繰り返すことで上達します。それと何ら変わらないのですが、滅多に遭遇しない大災害対策は、どうしても後回しになりがちです。そこから一歩踏み出す方がひとりでも増えて欲しい。
それは面倒だし、お金もかかるし、勇気もいることです。でも、真剣に考えて欲しい。そんな思いでやっています。これから、できる対策を進めて行ってください。ご質問などありましたら、コメントでもメールでもいつでもどうぞ。
投稿: てば | 2013年4月 9日 (火) 22時33分