【シミュレーション解説編】地震・一戸建て住宅【2】
前回から続きます。
ここまで述べたように、大地震における家の中の大きな危険要素は三種類です。家具類の転倒、家の倒壊、そして火災です。物の落下やガラスの飛散などは、家具類の転倒と同列に考えます。
そこで、自分の判断で動けない小さなお子さんと一緒にいる場合、家自体と家の中の耐震性を高めることが、すなわちお子さんの命を守る最良の方法となるわけで、それは家族全員の命を守る方法そのものでもあります。まず、大地震の際に家の中にどのような危険が発生するかを見極め、ひとつひとつ細かく対策を進めていかなければなりません。
具体的な方法は、当ブログのカテゴリ【地震・津波対策】中の過去記事「家の中の地震対策」シリーズをご覧ください。
家自体の耐震性を高める補強工事がすぐにできない場合でも、家が倒壊した時に、どこに「生存空間」が残りやすいかを知っていれば、普段いる場所やとっさの避難時に迷わずに済みます。例えば、本文のような二階建て家屋が倒壊する場合、一階部分が押しつぶされるように倒れることが多く、二階部分の構造が大きく損傷することは少ないのです。ならば、お子さんは二階にいた方が安全性が高まります。赤ちゃんの場合でも、赤ちゃんモニターなどを活用することで、目を届かせておくこともできます。
一階部分でも、一般に比較的狭い範囲に柱と壁が集まっている玄関付近は、倒壊しても完全にぺしゃんこになる可能性が比較的低い、つまり「生存空間」が残りやすいので、家からすぐに脱出できない場合に、まず移動すべき場所と言えます。
トイレや風呂場も同様の理由で比較的強度が高い場所ですが、倒壊後の脱出経路を考えれば、やはり出口に近い玄関部分がより良いと考えられます。そして、玄関に「非常持ち出し」のリュックなどが置いてあれば、仮に脱出できなくなっても、水や食料、照明などが手近にあるわけです。
ところで、小さなお子さんと一緒の時に大地震が来たら、イメージ的にはすぐにお子さんのもとに駆けつけて一緒に家を脱出するか、それができなくても、自分の身体でお子さんをかばったりしたいものですね。しかし、特に本文のような直下型地震の場合、その時間的余裕はまず無いのです。ですから、家の中の耐震性を高めることはもとより、自分の判断で行動できるお子さんには、その時どのように身を守るか、例えばすぐに頑丈なテーブルの下に入るなどを教えて実際に訓練しておき、もっと小さなお子さんは、普段から家の中のなるべく安全な居場所においておくことが、現実的に最も安全性が高まる方法と言えるでしょう。
シミュレーション本文の例でも、居間の家具が転倒しなければ、家が倒壊した段階でも、弟は致命傷を負っていない可能性が高かったはずです。小さな子供が必要とする生存空間は、とても小さくて済むのです。
次に、火の問題。地震の際の出火原因には、コンロや暖房器具から、電気製品の破壊、屋内電気配線の損傷などが考えられますが、やはり台所と火を使う暖房器具から出火する可能性が一番高くなります。それらをIHヒーターやエアコンにするだけでも、出火の可能性は格段に下がります。火を使う暖房器具でも、ファンヒーターのようなものならば、自動消火装置がかなり頼りになるでしょう。
そうでない場合には、とにかくできるだけ火種を無くさなければなりません。本文の母親にもコンロの火を消すチャンスが無かった訳ではないのです。それは、揺れが始まる直前に地鳴りを聞き、テレビから緊急地震速報のチャイムが聞こえて来た瞬間です。(地鳴りは必ず起きるものではありませんが、本文では感知できたと想定しています)。さらには、最初に「ズシン」と突き上げを感じた段階でも、まだ不可能ではありませんでした。
それら瞬間に行動できれば、ほんの三歩の距離を移動して、火を消す時間的余裕はありました。大地震でも、最初の突き上げるようなたて揺れ(初期微動)の破壊力はそれほど大きく無く、その段階で家が倒壊したり、家具が転倒するようなことはまずありません。それが起こるのは、その後に来る横揺れ(主要動)が始まってからです。
ですから、それまでの間に手近な火を消してコンロから離れ、近くの比較的安全な場所、例えばテーブルの下やキッチンカウンターに身を寄せて姿勢を低くするなどの行動をすることは可能です。しかし震度6級以上の横揺れ(主要動)が始まると、立っていることはおろか、四つん這いでいることも困難になる可能性が高いのです。
しかし直下型地震の場合、その時間的余裕は数秒以下でしかありません。震源直上付近では、1~2秒後に激しい揺れが始まります。その、ごく短い時間内に行動するために必要なことはただ一つ、普段からの意識と訓練です。普段から、緊急地震速報が出たり、少しでも揺れや地鳴りを感じたら間髪入れずに火を消し、避難行動準備態勢を取るなどの繰り返しが、「本番」ですぐに動けるようになるための必須条件です。
ちなみに、管理人もかなり料理をやるのですが、コンロの火をつけている場合は、絶対にコンロから二歩以内の場所から離れません。揺れを感じたり、緊急地震速報からから2秒以内に火を消せる態勢です。電話や来客があった場合は、必ず火を消してから離れます。さらに、ごく小さな揺れを感じたり、緊急地震速報が出た場合(管理人宅のケーブルテレビ回線による緊急地震速報システムは、予想震度3以上で発報します)も、必ず一旦火を消します。これは安全のためはもちろんですが、巨大地震に備えた「抜き打ち訓練」でもあります。
火を消す以外にも、大きな地震が来たら何をするかを決めておき、実際にやってみてください。前記のように、比較的頑丈な玄関へ行き、靴を履いて脱出に備える、頑丈なテーブルの下に入る、作り付けの倒れない家具やキッチンカウンターなどに身を寄せるなどの行動を、それぞれのお宅の条件の中で考えてみてください。これも、もちろんお子さんと一緒にです。
普段からこのようなシミュレーションをしていなかったら、地震が起きてからその場で考えることなどほとんど不可能です。本文の母親は、緊急地震速報を良く理解しておらず、さらに地鳴りを聞いて戸惑ってしまい、行動のタイミングを逸しました。それでも、あくまで火を消すことにこだわってしまったために熱湯を浴び、動けないままに落ちた梁の直撃を受けてしまったのです。
大地震の際には何が起きて、何が危険なのか。まずそれを知ることが大切です。地震のメカニズムや発生の確率などを知っていても、その瞬間に「生き残る力」をつけることはできません。
まずは自分の居場所で「いつ起きてもおかしくない」という前提で、その時何が起きるかを知り、その中どうしたら良いかを考え、行動を実際に訓練しておく。それが、最も効果的に「生き残る力」をつける方法なのです。
ここで、当ブログのテーマのひとつとも言える考え方を記します。
【あなたが生き残らなかったら、大切な人を救うことはできない】
もし母親が無事だったら、また別の結果になっていた可能性も出てきていたでしょう。
次回へ続きます。
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