【EDCグッズ08】マルチツールは使えるか
■EDCとはEvery Day Carryの頭文字。毎日持ち歩く装備を意味します。
今回は、非常用装備としてEDCグッズに加えられる例が多い、いわゆるマルチツールについて考えます。
管理人が所有しているものは、下画像の10徳マルチツールです。
これは販売価格が1000円程の小型のものですが、大型のものでも、基本的な機能にはあまり違いは無いかと思います。
なお、ナイフに見えるのはペーパーナイフで、刃はついていませんし、これは刃渡りが37mmなので、仮に刃がついていても、直接は銃刀法の規制対象にはなりません(銃刀法では55mm以上)。しかし、ならば職務質問を受けても安心かというと、警察官が「危険物」と判断した場合、軽犯罪法が適用されて任意提出となる可能性もあります。また、航空機内への持ち込みはできませんし、イベントなどの荷物検査で持ち込み禁止とされる可能性もあります。
さておき、その他の機能はペンチ・ワイヤーカッター・マイナスドライバ(大・中・小・特小)・栓抜き・爪ヤスリ・定規。大型のものなら、これに缶切りとプラスドライバ、ものによってはノコギリが加わるくらいでしょうか。
何も道具が無い状況では何かと役に立つと思われるこんなマルチツール、非常用としてEDCグッズに加えよと薦める「防災マニュアル」も見かけますが、果たして災害時に役に立つものなのでしょうか。
常時持ち歩くEDCグッズとは、災害からの緊急避難時、帰宅困難時に最もその存在価値を発揮するものでなければなりません。そう考えると、ちょっと見方が変わってきます。
緊急避難用ツールとして最も求められる性能は、「脱出」や「救助」の補助だと管理人は考えます。その視点から見ると、マルチツールでは壁や厚いガラスの破壊は困難で、ドライバーを使う状況はあまり考えられず、その他のツールもあまり役立つ状況は思いつきません。
ワイヤーカッターで、細いワイヤーフェンスなら切断できそうですが、過去の災害において、あまりそのような状況は聞いたことがありません。とりあえず「固いもの」として打撃に使うか、テコとして何かをこじ開けることに使えるくらいでしょうか。
帰宅困難時になると、さらに用途が思いつきません。せいぜいペーパーナイフ(またはナイフ)で食品を切り分けたり、フォーク代わりにするくらいかなと。市街地でなければ、トイレ用などの穴を掘ったりする、やはり「固いもの」としての用途くらいしか思いつきません。
災害下では、いわゆるアウトドアグッズが重宝することが多いわけですが、マルチツールは釣りをしたり、機械類をいじる場合などには役立つものの、それはあくまで二次的な使い方です。災害下では、一次的機能、つまり生存に関わる機能を最優先すべきです。
そう考えると、管理人としては、結構重量のあるマルチツールをEDCとする理由が思い当たらないのです。よって、当ブログとしては、マルチツールはEDCグッズとしてお薦めしません。もし、こういう理由でマルチツールをお薦めすべきというご意見がありましたら、是非ご教示いただければと思います。
もちろん、その汎用性の高さから、あればあったで役に立つ状況もあるでしょう。しかし、優先的に装備すべきものでは無いと、管理人は考えます。
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コメント
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私は、アウトドア目的では、マルチツールをサバイバルキットの一部として、就寝時を含めて、常時、上着のベストに入れて身に付けています。この場合のサバイバルキットとは、主装備を紛失、あるいは緊急避難などで装備を全てその場に放棄せざるを得ない場合に命を守る最低限の道具を想定しますので、平時ではほとんど使わない、使わないに越したことはありません。一方、EDCにおいては、いつも使う便利品だからEDCであるわけですので、今までマルチツールを使わずに済んでいる人にとっては、新たに防災用に持ち歩くことは、ほとんど意味の無いかと思いました。
マルチツールは工具の代用としては使い辛く、特に安物ですと容易に破損するので、安易な使用は怪我のもとで危険かと思います。しかし、この道具の使い辛さを良く分かった上で、使い方を工夫すれば、私にとっては日時生活で便利な道具です。ですので、防災に関係なく、必要という事になりますが、一般の人にとっては、マルチツールを防災装備品と関連づけるものではないと思いました。
投稿: まったり | 2013年6月20日 (木) 02時46分
防災、減災に関連してのEDCですと、例えば笛やライトの丸い胴体にあらかじめガムテープやダクトテープを巻きつけておくとか、小銭入れの中に電子工作用のLED素子とボタン電池を入れておく(電池を二枚重ねてLED素子に挟めば即席のライト)とか、スマホケース(カードが数枚入るような、フリップ形ケース)に現金1.3万円、止血剤入バンドエイド、サランラップ、縫い針、ニクロム線(着火用)などを仕込ませるとか、一応細々と防災グッズの分散をしています。
ですが、命を守る装備はなかなかEDCに含ませるのは、サイズ上、なかなか難しいです。
強いてあげれば、超小型のツェルトを特殊防水加工、真空圧縮加工して野営用にポケットに入れてあることくらいですかね… 雨の時、台風クラスだとゴアテックスではない、普通のレインコートでは太刀打ちできないので。
投稿: まったり | 2013年6月20日 (木) 03時54分
>まったりさん
レスが遅くなって大変申し訳ありません。まったりさんの書かれる重厚な内容を拝見すると、こちらも心してしっかりとお返ししなければならないと感じております。
まず、非常に「創意工夫」に富み、ポイントをしっかりと押さえられたEDCグッズの装備に感服いたします。個人的にも、参考にさせていただきます。
おっしゃる通り、マルチツールを普段使っていない人にとっては、災害下だからといきなり役立つものではありませんね。まったりさんから同じような結論を頂戴できて、私も意を強くしております。
雨具に関しては、機能的には上下セパレートで、理想的にはゴアテックスのものが欲しいところですね。私はかつてバイクに乗っていましたので、風圧によってかなりの静水圧がかかる状況での、ゴアテックスの優秀さも身にしみて理解しております。
しかし問題はその嵩で、EDC用としては現実的ではありません。そこで私が選んだのが、【EDC09】の記事で紹介した、ミルスペックのポンチョという訳です。
先日、初めて猛烈な豪雨の中で着てみましたが(画像は雨が小やみになってからのものです)、防水性、通気性、速乾性とも満足の行くものでしたし、その多用途さも魅力です。まったりさんでしたら、あれが何をしている時の画像かおわかりになるのではないかと思っておりますが(笑)
私は、大地震後に脱出するシチュエーションとして、崩壊した建物に閉じこめられるよりも、実は火災から逃げる方を重視しています。いわゆる生き埋めになってしまえば、自由に動けない状況が多くなるでしょうし、動けるならば時間的には余裕がありますから、周囲のいろいろな物を使うことができます。
しかし、火災から脱出するための時間はごく限られます。停電の暗闇の中で最短時間で脱出するためには何が必要かと考えた時、強力なLEDライト、レスキューホイッスルと小型バールをEDCとすることにたどり着いたわけです。
その原点として、子供の頃に起きた大阪の千日前デパート火災や、熊本の大洋デパート火災の記憶が大きく影響しています。暗闇の中で方向を失い、出口の目の前で折り重なるように亡くなっていたり、装飾のためにベニヤで塞がれた窓を開けることもできずに煙に巻かれた犠牲者の恐怖と無念を思う時、そんな状況で使えるグッズを身につけていたいという思いが強くあります。
ですから、暗闇で視界を確保し、とにかくなんでも「ぶち壊せる」道具が欲しいと。さらに、バッグの中には防煙フードも常備しているわけです。マルチツールでは、せいぜい普通のガラス窓を破るくらいが関の山ですしね。実は、そんな思いがあってのことなのです。
今後も、またいろいろご教示いただければ幸いです。EDCシリーズとして、次回は敢えてアーミーナイフを採り上げようと思っています。結論を先に言ってしまえば、EDCとしては、とりあえず無くても別に困らないくらいの感じではありますね。
投稿: てば | 2013年6月24日 (月) 10時47分
ポンチョ、拝見しました。軍用のポンチョは、写真のもそうですが、ポンチョとツェルトを足して2で割ったような感じで作られているようです。この状態で戦闘は困難ですから、どちらかと言うと、豪雨になったら、安全な場所までの最低限の行動に抑え、あとはひたすら危険が去るまで耐え忍ぶ、という感じの装備のような印象を持っています。軍隊は、行動するときは超人の如く走り登りますが、基本的には、困難な状況では、行動せずにひたすら貝のように留まる。そしてその間、状況をよおく観察し、予想されるシナリオを複数たて、プランを練る、と行った感じでしょうか…
ただ、アウトドアでの危機に対しては上記の方法で良いのですが、火災などは一刻を争いますので、別のアプローチが必要でしょう。てば様もいろいろシミュレーションしておられますように、なかなか難しい問題です。私も明確な解答は見つかりませんが、EDCとしては、危機に対して冷静に居られる心と、軽い体重と、逃げ足とスタミナの充実でしょうか…
投稿: まったり | 2013年6月24日 (月) 19時20分
東日本大震災では、津波と言う自然が牙を剥き、典型的な自然災害でした。しかし、残念ながら、これから来るであろう内陸部直下地震では、凶器は、自然自体に加え、建造物や人の波といった、人工物や人間そのものが凶器に加わります。そういう意味で、東日本大震災からの教訓には無い事が起きるでしょう。下敷きで押し潰されるのは、家や看板やヒトの体重でありますし、火災の原因もガソリンという人工生成物です。まさに人災です。何が起きるかわかりません。
分からない以上、対策には限界があるので、1番良い方法は、出来るだけ都会には長く留まらない、という情け無い結論に至っています。
それでも、東京への日帰り出張の際にはあらかじめ、キャンセル前提でホテルに予約を入れたり、駅のロッカー、最低2カ所に分散して野営装備を収納しておいてから訪問先に出ます。
投稿: まったり | 2013年6月24日 (月) 19時37分
>まったりさん
軍用タイプのナイロンポンチョは、さすがに良く出来ていますね。多機能でもありますし、ベタリと貼りつくビニール製に比べて、はるかに着心地が良いものです。
軍用と言っても、もちろん戦闘時は使いませんね。待機時や後方で使うものでしょう。ベトナム戦争時、米軍兵士は当初、雨のジャングル内をパトロールする時に着用していたようですが、ナイロンのこすれるシャリシャリ音を敵に聞かれる恐れがあるため、移動時はもちろん、野営時もシュラフとしても使わなくなったそうです。敵に察知されるよりは、ずぶ濡れの方がずっとマシということですね。
あのクラスのポンチョがあれば、雨の中で座ってもほとんど全身を覆えますし、荷物も守れますから、次の行動プランなど考える際にも随分楽かなと思います。不快だと中々頭が働きませんし、いいアイデアも出てきません。
地震火災に巻き込まれると、本当にどうなるかわかりません。ごく僅かな可能性しかない選択肢が、それも少数しか残されていないというイメージです。そこで能動的に何ができるか、自ら血路を開けるかと考えると、厳しいですね。私は、可能ならば消防隊の手斧をEDCしたいですよ(笑)
私は体重がかなりありますが、やはり非常時のことも考えて、筋トレに励んでおります。でも、非常時にはパワーより細さと軽さが強みを発揮するんですけどね(笑)
なにしろ、都市にはいくらでも危険物がありますし、それがどうなるかなんて誰にも想像できません。私は火と看板類が特に怖い。私も震災以来、繁華街に出ることがぐっと減りました。半年以上は、繁華街に出るのが怖くて仕方なかったです。最近は強い恐怖を感じることはなくなりましたが、やはり積極的には行きたくありません。
それにしても、まったりさんのフェイルセイフ行動、感服いたします。日帰りでもホテルの予約に分散配置とは。そこまでの発想はありませんでした。参考にさせていただきます。
投稿: てば | 2013年6月26日 (水) 18時13分