サンフランシスコ国際空港で、アシアナ航空のボーイング777型機が着陸に失敗し、大破炎上しました。今回は、この事故について、現時点での管理人の見解と対策などを記しておきたいと思います。
原因はまだ調査中ですが、ひとつ確かなことは、何らかの理由で滑走路端部のランオフエリアに機体尾部が接地して破壊され、そのまま地面に叩きつけられるように着地する落着(クラッシュランディング)という状態になったということです。着地の際の激しい衝撃で主脚、前脚とも折れ、胴体着陸のような状態で滑走路上を回転しながら500mほど滑り、滑走路横に逸脱して停止しました。
なお、一定以上の衝撃で着陸装置が折れるのは正常で、もし折れないと胴体や翼に食い込んで中にある燃料タンクを破壊し、爆発炎上する可能性が大きくなります。それを防ぐための「フェイルセイフ」(予防安全)設計が機能したということです。
落着時に二基のエンジンも設計通りに脱落しましたが、脱落した右翼の第二エンジンが機体に食い込み、その中に残った燃料が出火したため、火が機体に延焼しました。機体に延焼するまでにはかなり時間がかかったようで、自力で動ける乗客が脱出する時間は十分にあったはずです。幸いなことに胴体や翼内の燃料タンクは大きく破損せず、大量の燃料が漏れることも防がれました。これも、エンジン脱落時などには自動的に燃料系統を閉鎖する安全設計が機能した効果と思われます。
滑走路手前に着地する、いわゆる「アンダーシュート」の状態(逆に、着地が遅れるのは「オーバーシュート」)になった原因はまだわかりませんが、当時は晴天で視界良好、横風4mという着陸には全く支障のない気象条件で、急激に風向風速が変わる「ウインドシア」が発生した可能性はほぼありません。
これは強い積乱雲の近くや寒冷前線通過時に起きやすいもので、特に積乱雲から発生する強い下降気流(ダウンバースト。ごく局地的なものはマイクロバーストと呼ばれます)によって、着地寸前の航空機が急激に下降することによる事故は過去何度も起きていますが、今回のケースにはあてはまらないでしょう。
報道からはまだわかりませんが、先に同滑走路に着陸した機体が残した航跡乱気流(ウェイクタービュランス)に巻き込まれた可能性も、若干ながら考えられます。
機体故障などの要因が無いと仮定すれば、パイロットミスの可能性も出て来ます。以下は管理人の個人的印象ですが、落着した機体の映像からは、右翼に残ったフラップ(低速時用の高揚力装置)が、通常の着陸時ほど展開されていなかったように見えます。通常、着陸時には翼の後部から垂れ下がるように大きく展開されるもので、落着の衝撃ですべて中間位置に戻るということは、構造的に考えられません。
管理人の印象が正しいとすれば、フラップが半展開状態、つまり通常より高速度での着陸が必要な状態で、速度が落ちすぎたことによって急激に揚力を失った可能性があります。現時点では機体異常は見つかっていませんし、もし故障ならば各種の警報装置が作動しますので、パイロットが気づかないことはまずありません。
現時点での管理人の個人的印象では、以下のような状況が想像されます。
■気象条件が良いので、副操縦士の訓練として、フラップ半展開状態の高速度着陸訓練を行っていた(通常運行中に訓練をすることはありますが、このようなケースが正当だったかはわかりません)
■フラップには着陸後の空気抵抗板としての働きもあり、半展開状態で抵抗が少ないため、オーバーランしないように滑走路なるべく手前に、許容最低速度ぎりぎりで下ろそうとした。
■フラップ展開警報や失速予告警報が作動した可能性があるが、訓練のため無視した。
■なんらかの事情で許容最低速度を下回り、揚力を急激に失って失速、降下率警報が作動したが、低高度のためにリカバリできず、そのまま落着した。
と、ここまで書いた時点で、やはり777型機の飛行時間が43時間という副操縦士の訓練を行っていたことが報道により明らかになりましたが、訓練の内容についてはまだ明らかにされていません。また、機体から回収されたDFDR(デジタルフライトデータレコーダー)の解析により、着地1.5秒前にパイロットが着陸復航(ゴーアラウンド)の操作をしたものの、高度が低すぎて間に合わなかったということもわかりました。
ゴーアラウンドの操作とは、エンジンを離昇出力、つまりほぼ全開にセットし、フラップを数段格納して抵抗を減らし、加速上昇状態に移行することですが、ジェットエンジンはスロットルレバー操作から出力が上昇しはじめるまでに数秒のタイムラグがあり、フラップも1.5秒程度ではほとんど動きませんから、機体は操作に反応しないまま落着したはずです。
ここまで、7月8日時点での管理人の個人的印象を記させていただきました。当局の調査結果を待ちたいと思います。
では、このような状況で乗客が身を守る手段はあるのでしょうか。今回のような事態では、客室乗務員が乗客に警告する時間も無かったはずです。
これは以前にも述べたのですが、特に離着陸時、何らかの異常を感じたら、自分の判断ですぐに「対衝撃姿勢」を取ることです。例えば離陸滑走時に加速が急に鈍ったら離陸中止の可能性が高く、その後、滑走路逸脱やオーバーランの危険があります。着陸時に異常な振動や急激に高度を失う動きを感じたら、今回のようなケースや、最悪の場合は滑走路手前に墜落・落着することもあります。
そのような場合、次に襲って来る可能性が高い。凄まじい衝撃に備えなければなりません。自分の判断で、すぐに対衝撃姿勢を取るのです。対衝撃姿勢がどんなものか知らなければ問題外ですので、航空機に乗る際は、必ず「安全のしおり」(セーフティ・インストラクション)や機内放送を良く見て、緊急時の対応を良く知っていなければなりません。
航空機が墜落・落着した際の死因のトップは、重い頭が激しく振り回されることによる頸椎損傷です。まず、頭をできるだけ固定して首を守らなければなりません。そこまで衝撃が大きくなくても、通常姿勢では顔面が前席、多くの場合固いテーブル板に激突することになります。
また、膝下が跳ね上がって前席にぶつかり、骨折する可能性も高いのです。そうなっては脱出もままなりませんから、脚もしっかり踏ん張って、全身の筋肉を緊張させて、できるだけ固定するのです。なお、膝下を椅子の下に深く折り入れてしまうと、投げ出された自分の体重で骨折することもありますので、膝下が床面に対して垂直になるくらいの感じで、しっかり踏ん張ります。それが、衝撃で身体が前方に投げ出される速度を下げる効果も生むのです。その際、シートベルトをしっかり締めておくのは言うまでもありません。もし余裕があれば、シートベルトと身体の間に毛布、雑誌、新聞、上着などを挟み込むことで、シートベルトが身体に食い込む圧力を弱め、内臓損傷などの可能性を減らします。
そのような対応がケガを防ぎ、ケガをしても軽く済む可能性が高まります。航空機はとても安全な乗り物ではありますが、今回のようなケースもあるということを常に頭の隅に置いておき、対応を考えておくこと。それが「生き残る」可能性を高めるのです。
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