【EDCグッズ10】アーミーナイフは使えるか?
■EDCとはEvery Day Carryの頭文字。毎日持ち歩く装備を意味します。
今回はEDCグッズとして、いわゆるアーミーナイフを装備すべきかについて考えます。EDCでなくても、非常持ち出しに装備を勧めている「防災マニュアル」も見かけます。
しかし、当ブログでも何度も触れていますが、刃渡り5.5cm以上のナイフを「正当な理由無く」持ち歩くことは、銃刀法で禁止されています。銃刀法が適用されないものでも、軽犯罪法による危険物の所持とみなされる可能性も高いのです。そして、業務等での使用以外の、防災や救護目的での所持は「正当な理由」とは見なされず、街頭はもちろん、震災被災地でボランティアが所持していた刃物類も、ことごとく任意提出(事実上の没収)させられているのが現状です。
ですから、当ブログとしてもEDCグッズとしてはお勧めしないものの、「あればなんとなく役に立ちそうな」多機能アーミーナイフが、災害下で本当に役に立つのか、あくまで機能面から考えてみたいと思います。
下画像は、管理人の私物です。
小さい方は15年以上前から持っていて、アウトドアでかなり使い込んでいます。かつて刃物の規制があまり厳しく無かった頃はEDCとしていましたが、現在は外しています。
管理人がかつてアーミーナイフをEDCとしていた最大の目的は、救護用でした。動かせない重傷者を救護する際に、衣服を切って患部を露出させたり、一緒に装備しているガーゼや包帯、止血パッドを切ったりする用途を第一に考えての装備です。
しかし、それならばアーミーナイフでなくてもいいわけですが、より多用途に対応できる方がいいという「気分」の部分も大きかったわけです。そのようにかなり長い間使ってはいますが、アウトドアレジャーも含めて、ナイフ以外の機能を実際に使ったことは、ほとんどありませんでした。
アーミーナイフには様々なバリエーションがありますが、基本機能は缶切り、栓抜き、マイナスドライバー、汎用スパイク、ヤスリなどで、大型のものならば、ノコギリ、ワインオープナーなどが追加されます。上画像の大型のものは、ワインオープナーとパン切りナイフがついている、ちょっと“優雅”なモデルです
かつては、栓抜きと缶切りは災害下でもかなり役に立つものでした。1995年の阪神・淡路大震災では、缶詰があっても缶切りが無くて往生したという話も多かったのです。しかしその後、缶詰はプルトップ缶が、飲料はペットボトルが主流になりましたから、事実上ほとんど必要なくなりました。
その他の機能は、アウトドアで枝を切ったり、機械類をいじったりする際のものが多いので、災害下でなくてはならないものでもありません。そのような機能にしても、あくまで応急的に使えるというレベルであり、決して使いやすいものでもありません。
ではナイフとしてはどうでしょうか。下画像をご覧ください。
ナイフの刃を出して握った状態です。普通は素手で持つことが多いでしょうが、どう思われますか?刃物を使いなれた方ほど、「危ない」と思われるのではないかと思います。特に小型の方。
アーミーナイフなど小型の折りたたみナイフには「つば」がありませんから、この状態で手が前に滑ったら、指をざっくりと切ってしまいますし、実際に、そのような事故は少なく無いのです。
アウトドアレジャーでの一般的な使い方ならともかく、EDC装備の場合は、災害直後の混乱の中で、大きな力のかかる使い方をすることが想定されます。その場合、ナイフを使い慣れていない方は、大きなケガをする可能性があります。災害直後には満足な治療を受けることもできませんから、そんな中で手を痛めるリスクはなるべく避けるべきです。
さらに、アーミーナイフの刃程度では、ブレードの背を石などで叩いて固いものを叩き切ったり、固いものをこじ開けたりできるような強度もありません。無理をすれば刃こぼれし、作業中にブレードが折れたりすれば危険極まりないのです。そもそも、都市部の災害直後で小型ナイフが役に立ったという話も聞きません。もちろん、身体ひとつの避難生活中にはいろいろ用途はあるかもしれませんが、多用途のアーミーナイフである必然性はほとんど無いと考えます。
なお、画像のものはオリジナルのヴィクトリノックス社製ですが、形だけ真似た安価で強度不足のものも多く、ハードな用途ではさらに大きな危険が伴います。
このような多機能ナイフは、スイス軍が装備していることから、「アーミーナイフ」と呼ばれるようになりました。軍用品ならばハードな用途にも耐えるのでは無いかと思われがちですが、軍隊の場合は頑丈な銃剣や大型ナイフを別に装備しており、アーミーナイフを実戦の場で使うようなことは想定されていません。軍用であっても、あくまで主に平時に使うための「便利ツール」なのです。
以上、当ブログの結論としては、EDCとしてのアーミーナイフは「積極的に装備すべきものではない」とします。言うまでもなく、法律の規制で持ち歩くことができないということが前提ではあります。
最後に、大型の方のアーミーナイフの画像をもう一度ご覧ください。
この中の機能でひとつだけ、実際の被災者の声でも「あると助かる」と言われるものがあります。おわかりでしょうか。
グリップの中に挿入されている、小さなピンセットです(画像では、グリップの下に置いています)被災後の後片づけなどの作業中に指にとげが刺さることがよくあり、とげぬきが欲しかったという声が多いのですが、このピンセットはとげぬきとして使えます。刺さったとげを放置すると化膿する可能性が高いので、すぐに抜き取らなければなりません。
いろいろ考えたのですが、現代において、アーミーナイフが持つ機能のうち、実際の災害現場からの声とぴったりの機能は、これくらいなのかなという感じです。本文とは関係無く、EDCまたは非常持ち出しに、とげぬきを加えておくことお勧めします。
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コメント
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いわゆる「防災グッズ」にはよく入ってますよ。アーミーナイフの機能性って真面目に考えたら専門品を持って行けない場合にしか有用性を発揮出来ないと思うんです。どうせピンセット位しか使わないなら爪切りを持って行けば役に立つのでは無いでしょうか?
投稿: 由一 | 2013年7月16日 (火) 19時01分
こんにちは。
ナイフはついてきてしまいますがペンチ、はさみ、とげ抜き、のこぎり、ワイヤーカッターがついているレザーマンのマルチツールを持ち歩いてます。
まあ、これすらも持ち物検査をされたら没収されるか任意同行を求められる可能性はなきにしもあらずですが…
とげ抜きは持ち歩いてると年2~3回ぐらい使います。
投稿: whoki | 2013年7月16日 (火) 21時29分
>由一さん
そうですね。あれば何か役立つくらいの感じで、なんとなく「防災セット」に入れられているのを、良く見かけます。でも、突き詰めて考えれば、無くてもほとんど困らない。避難生活に入れば、刃物が何かと役に立つのは確かですが、何もアーミーナイフである必然性は無いわけです。
どうせなら、刃渡り15cmくらいの頑丈な軍用ナイフの方が使いでがありますが、それなどほとんど持ち歩き不可能ではあります。いわゆるサバイバルナイフになると、大きすぎて刃物やツールとしては意外に役に立たないでしょう。都市型サバイバルは、自然の中とは違いますから。
似たようなものに、ロープがありますね。何に使うか、どのように使うかも示さずに、取りあえず入れとけみたいな。とりあえず洗濯ロープにはなりますが、結び方とかを知らないと、なかなか上手く使えないものでもあります。
おっしゃる通り、爪切りも被災者の声として「あったら良かった」グッズに入っています。水が無く、手もろくに洗えない状況では、爪を短く清潔に保つのは大切です。ファッションで爪を伸ばしている人も、被災後は邪魔どころかケガの元ですから、取りあえず切らないと。トゲ抜きにも使えますし。
投稿: てば | 2013年7月17日 (水) 00時35分
>whokiさん
以前の記事で、マルチツールも特にいらないというのを書きましたが、そこで想定したものは、一般的な工具系を中心としたものでした。
でもペンチ、はさみ、とげ抜き、鋸、ワイヤーカッターのセットならば、防災EDCとしてかなりいい感じですね。何しろ、普段から使い慣れた道具ならば、それが一番です。それにしても、やはりナイフが職質で危ないw。
あれ、銃刀法違反ならば没収及び書類送検、下手すれば逮捕も有りうるのですが、軽犯罪法違反の場合は、所有放棄の書類を書いてというか書かされて、あくまで「任意提出」すれば、普通はそれで終わりなんです。でも、「正当な理由無く」提出を拒んだりすれば、検挙もあり得ます。そして、防災EDCは「正当な理由」には当たらないのが一般的な判断なわけで。
私も他のもので「任意提出」をしたことがありますが、ナイフ持っていたら、防災士の登録証やその他のEDCグッズを見せて必要性を訴えても、まあダメでしょうな。だからナイフは持ち歩きません。
その代わりと言ってはなんですが、はさみについてもちょっと記事を書こうと思っています。かなり紙一重感満点なんですがw
投稿: てば | 2013年7月17日 (水) 00時58分
初めまして
何度か見に来ましたがコメントは初めてになります
私はビクトリノックスのファーマーを使ってます。(EDCはしません)
こじ開けにはマイナスドライバーが使えますし、太い木はのこぎりで周りから切ってへし折ります。(それが無理なら諦めます)
グリップももざらざらなのでよほどの使い方をしない限りは滑りません。もっとも、ロックがないのでそんな使い方不可能ですが。
現在のEDCはペンケースにセレーションハサミが、キーホルダーにはシートベルトカッターが入ってます。刃渡りは1cmもないので法律的には大丈夫だと信じてます。
願わくばレザーマン辺りからペンチ、ハサミ、マイナスドライバー、シートベルトカッター、缶切り栓抜き共用ツールが付いたナイフレスツールが出て欲しいものです。
投稿: りぴ太 | 2013年7月19日 (金) 21時15分
>りぴ太さん
初コメントありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
りぴ太さんやいつもコメントをいただける方々のように、普段からご自分で考えて装備を整えられ、使い方にも習熟されている方には、釈迦に説法的な内容だったかとも思います。
私がこの記事を書いたのは、用途や問題点も示さず、さも役に立つツールのようにナイフの装備を勧めている、安易な「防災マニュアル」へのアンチテーゼでもあります。
本文では敢えて触れなかったのですが、ブレードのロックが無いと重作業には危険というようなことや、例えばこじ開けでどれくらいの力まで耐えられそうか解っておられる方には、申し訳ないくらいの内容だったかもしれません。
でも、「慣れた方」からこうしてご意見を頂戴できるのが非常にありがたいです。私自身も参考にさせていただけます。ちなみに、私の破壊・こじ開け用EDCツールは、以前記事に書いた小型バールなわけです。
ペンケースに入る程度のはさみとシートベルトカッターならば、軽犯罪法に問われることは無いでしょう。機能を徳化して、他に危害を加えられないものならば大丈夫だと思いますよ。もし私がシートベルトカッターを「任意提出」させられそうになったら、拒否して「出るところに出る」でしょうね。それはあまりに横暴というものですから。
適法でEDC用に特化した防災マルチツール、提案してみたくなりました。次は、はさみについて考えてみます。
投稿: てば | 2013年7月20日 (土) 15時36分
ピンセットですか!
これは実際に体験してみないと、全く予想もつかない答えです。そういった意味では体験を広く伝えるてばさんの御役目がとても重大だと感じます。
投稿: ビデオサーバー | 2013年7月23日 (火) 15時00分
>ビデオサーバーさん
ありがとうございます。災害の現場には、個人レベルの災害対策に生かせる教訓が山ほどあります。でも、そういう「本当の声」が、意外に忘れられているんです。話題になるのは「トリビア」的に面白い話ばかりで。
私は被災経験はありませんが、現場に出向いたり資料を集めたりして、災害現場の生の声を、災害対策に反映させるように努めています。
投稿: てば | 2013年7月24日 (水) 10時17分