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2013年10月

2013年10月30日 (水)

小説・声無き声 第一部【3】

佐竹と玲奈が車を降りると、犬たちの吠える声がさらに大きくなった。ざっと三十匹はいる。みな尻尾をちぎれんばかりに振り回し、とにかくかまってもらいたくてしょうがないという顔だ。こんな大騒ぎは、お行儀の良い犬ばかりの都市部では見られない。

犬種は、中型の雑種が目立つ。街で良く見るトイプードルやチワワ、ダックスフントなどの小型犬や、ラブラドールなどの種類がすぐわかる犬は数匹だ。玲奈は高校まで過ごした静岡の田舎を思い出し、そう言えば田舎の犬ってみんなこうだったと思い、妙な懐かしさを感じた。しかし、ここにいる犬の偏りが偶然では無いということを、後で知ることになる。

足に絡みついてくる柴の雑種をかまいながら、佐竹が言った。
「ところで三崎さん、犬は大丈夫?」
「は?」
犬猫救援のボランティアに来たのに、なんでそんな?
「いやね、実は結構いるんだわ。大丈夫って言ってたのに、小型犬しか触れねぇ人とか」
「そんな・・・」
「来てくれんのはありがたいんだけどね。まあそれでも仕事はいくらでもあるよ。うんこ集めとか」
佐竹は面白そうに笑った。玲奈は答える。
「もちろん、大抵の犬は大丈夫ですよ。秋田犬とかはちょっと怖いですけど・・・」
それを聞いた佐竹はにやりと笑うと、言った。
「そのうち、そんなのもお目にかかれっぞ」
玲奈の言葉を待たずに、佐竹は続けた。
「この大きなプレハブが犬舎。夕方にはみんなここへ戻す。小さな方が事務所と小動物な。猫舎は別のとこにあるから、後で案内するわ。三崎さんは犬方面でしょ?」
「はい。猫の飼育経験はありませんので」
「あいつらもめんこいよ。じゃ、準備してください。飯食ったら、まず犬に水あげてもらいてぇ。あんまり根詰めずに、のんびりやってくれればいっから」
「わかりました」
それにしても、これだけ犬がいるのに、他に誰もいない。そんなに“不人気”なのだろうか。

玲奈は持参した真っ赤な布ツナギに着替えると、手早く持参の食事を済ませ、黄色いマリンブーツを履いて外へ出た。ベースボールキャップをかぶり直すとき、やっぱり髪を切ってくるんだったと後悔した。それからバケツの水を犬たちに配ったり、スコップで糞を集めたりしたが、これだけ数がいると、何をするのも結構な重労働だ。それに、玲奈が近づくとほとんどの犬がじゃれついて来るから、ついかまってしまって、作業はなかなか進まない。それでも犬好きには幸せな時間には違いなかったし、佐竹も犬をかまいながら、言葉通りに結構のんびりやっている。

一通りの作業を終えると、午後4時近くになっていた。玲奈は、事務所の前で大量の餌を作っている佐竹に次の指示を仰いだ。
「4時半になったら散歩させて、餌食わせて犬舎に戻すから、それまで適当にやってて」
玲奈は体力には自信があったが、それでもこれだけの犬をふたりで散歩させるのはかなり大変そうだと思っていると、敷地に銀色のワゴンが入ってきた。郵便でも宅配でも、誰か現れる度に犬たちは大騒ぎだ。

ワゴンから30代半ばくらいの男女が降りて来ると、佐竹が声をかけた。
「お帰り。どうだった?」
男が荷台から空のケージやポリタンクを下ろしながら答えた。
「ひととおり撒いて来ました。でも、保護はゼロ」
「だべな。今更捕まるような奴はまずいねぇよな」
「結構姿は見るんですけどね。全く近づいて来ない」
「ああ。人や餌に寄って来るような奴はこの二ヶ月でみんな保護済みだ。それに、もうそんな奴らが生きて行ける場所じゃねぇし。牛は?」
「外に出たのは元気にうろついてますよ。でも開いてない牛舎は・・・ひどいもんです」
男の顔が曇った。
「まだ生きてるのもほんの少しいますけど・・・何もできない・・・」
男はうつむいて、唇を噛んだ。佐竹は大きくため息をつくと、一言だけ言った。
「とにかく、お疲れさんでした」
そのやり取りを聞いていた玲奈は、彼らがどこに行って来たのかを考えていた。そして、男が荷台から大きなビニール袋に入れた白いものを取り出すのを見た時、すべてを理解した。それは、震災後の福島関係の報道に必ずと言って良いほど登場する、あの白くて、青いラインが入った防護服だった。つまり、それが必要な場所へ行って来たということだ。

すると、佐竹が玲奈を振り返って言った。
「こちら、埼玉からご夫婦で手伝いに来てくれてる飯田さん…あ、困ったなぁ」
「どうしました?」
「いやね、飯田さんの奥さん、美咲さんなんだわ。ミサキさんがふたり…」
玲奈はすぐに答えた。
「じゃあ、私も名前で、玲奈と呼んでください」
「だら、そうさせてもらいます。飯田さんの奥さんはそのままミサキさん、三崎さんはレイナさんな」
美咲が笑いながら口を挟む。
「なんだか良くわかりませんね」
「まあ、じき慣れるっぺ」
あまり自信のなさそうな佐竹の言葉に、皆が声を上げて笑った。

玲奈は飯田夫妻と簡単に自己紹介を済ませた後、やはり聞かずにはいられなかった。
「あの…どちらへ行って来られたんですか?」
すると、玲奈より頭半分くらい大きな、髪をショートにした美咲があっさりと答えた。
「20キロ圏内ですよ」
「…入れるんですか?」
玲奈に問われると、美咲は車の片付けを始めた夫をちらっと見やりながら言った。
「蛇の道は蛇、って感じかな」
じゃれつく犬をかまいながら、美咲は続けた。
「あそこへ行くにはいろんな意味で覚悟がいるけど、やっぱり放っておけない。今までに何匹も保護したけど、あれから二ヶ月経った今はもうほとんど保護できなくなってるわ。強い個体には野生が蘇って来て、人間には全く近寄らなくなってる」
「そうなんですか…」
「自由に動ける犬猫はまだいい方。牛舎に閉じ込められたままの牛や、《相馬野馬追い》ってお祭りあるでしょ、あれに出る馬とか、海の方は津波でほとんど全滅して、今もそのままの状態。生きてる子も、時間の問題。浪江町とかの牛舎は、とにかく酷すぎて…」

美咲は玲奈と話しながら、その視線は玲奈を突き抜けて、遥か先の警戒区域内を見つめているようだった。その目には、あまりにも理不尽な状況に対する怒りとやりきれなさがない交ぜになった光が宿っていた。震災から二ヶ月。その間どこかに閉じ込められ、餌も水も断たれた動物がどうなるかは、誰にでもわかる。しかしその実情は警戒区域という鉄のカーテンの向こうに隠され、一切表沙汰になることもない。時々入るマスコミのカメラに映し出される光景など、コントロールされたイメージに過ぎない。しかし人間が消え、人間に頼っていた動物だけが残された場所にある現実を表す言葉は、たったふたつしかないのだ。それは「大量死」と「弱肉強食」だ。

玲奈は、福島に来ることを決めた時から、できることならば最前線まで自分の目で見たいと思っていた。断片的な報道の裏にある“本当のこと”を知りたいと思っていた。しかし今、美咲の話を少し聞いただけでも、それがいかに強い覚悟を必要とすることかを思い知らされた。半端な気持ちでやっていいことではない。それに気持ちだけでなく、自分自身にも生物学的な危険を及ぼすかもしれないのだ。

それでも、命を救い、繋ぐために日々リスクを犯している人々がいる。あまりの巨大災害のために、行政による動物保護施策が全く実施できない状態の中、本来は打ち捨てられるしかなかった警戒区域内の命をいくらかでも繋いでいるのは、全国各地から手弁当で集まった動物救援ボランティアの活動だけだ。その活動が崇高かどうかなど意中になく、批判も危険も承知。ただ、命を救いたい。そんな人々の活動によって多くの命が救われ、繋がれている。それは変えようの無い事実だった。

美咲は、玲奈の目をじっと見つめながら言った。
「“中”へ入るのは、無理にお勧めはしないわ。いろいろ、リスクは小さくない。でも、本当のことを見て欲しい、そして伝えて欲しいというというのはあるわね」
玲奈は答えた。
「私も、できれば最前線まで行ってみたいという気持ちはあります」
「そう。チャンスがあるといいわね。でも、すごくショック受けると思うから、そのつもりでね。私も、最初はたいへんだった…」
「はい。覚悟はしています」

その時、佐竹が叫んだ。
「おーい、犬っこの散歩始めっから、手伝ってくれぇ!」
「はーい!」
美咲と一緒に駆け戻りながら、玲奈は“最前線”へ行けるチャンスはすぐ来るのではないか、そんな気がしていた。

■このシリーズは、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。なお、この作品は事実を参考にしたフィクションであり、登場する人物、団体等はすべて架空のものです。

2013年10月29日 (火)

☆再掲載☆高層ビル編05【首都圏直下型地震を生き残れ!31/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■


今回は、「免震ビル」は本当に地震からの救世主か?ということについて考えます。

まず結論から申し上げましょう。免震ビルは、救世主です。建物の構造破壊を防ぐ上では、絶大な効果を発揮します…と、何やら条件付きなのですが、これから解説します。

まず、「免震ビル」とは何か。一言で言えば、基礎部分と上層部分が剛構造で結合されていない構造のビルです。そんなビルの床下に良く見られる(実際には滅多に見られませんが)構造が、下画像です。
Menshin
柱の基部に、非常に大きな荷重に耐えるクロロプレンゴムと鉄板を積層した「アイソレータ」という装置を挟み、地面が揺れても「アイソレータ」が変形して吸収することで、揺れが上部構造にあまり伝わらないようになっている構造です。加えて、鉛ダンパや油圧ダンパを併設し、さらに上部構造の揺れを抑えています。

免震構造には、ゴムを使用したもの以外にもいろいろなタイプがありますが、すべて原理は一緒です。バネと油圧ダンパを組み合わせた、自動車のサスペンションの原理と、基本的には同じものです。この構造により、小さな地震ならば建物本体はほとんど揺れることも無く、大きな地震でも、前記事の「一次モード震動」や「二次モード震動」の発生を抑止する効果が絶大であり、建物の主要構造の破壊を防ぐ上では、まさに「救世主」なのです。


ところが最近、この構造の弱点が見えて来ました。まずひとつ目は、東日本大震災のような「想定外」の強い揺れが加わったり、想定以上に長時間持続する「長周期地震動」が加わった場合、「アイソレータ」や「ダンパ」が破壊されてしまうかもしれない、ということです。その場合、修復工事が大変なことになりますが、それでも建物の主要構造を守る効果はありますので、ここでは除外します。

もうひとつは、こちらが問題なのですが、「必ずしも揺れが小さくなるわけでは無い」ということです。これは管理人の経験ですが、東日本大震災の時、埼玉県南部の耐震構造(免震ではない一般的な構造)マンション2階にある管理人の住居では、キャスターつきのワゴンが大きく移動していたくらいで、特に被害はありませんでした。ところが地盤の条件はほぼ同じだと思われる、近所の免振構造マンションの6階では、家具の移動、転倒などが多発して部屋の中がぐちゃぐちゃになったというのを、住人の方から聞きました。なにしろ、凄い揺れだったと。

2階と6階という違いだけでそこまで差が出るのかとも思えず、管理人もその時は理由がわからなかったのです。なにより耐震構造、つまり一般的な「剛構造」よりも、免震構造の方が揺れが大きいなどと言うことがあるのだろうかと。


その後、その理由がわかりました。管理人は2012年3月8日に東京大学で行われた「首都圏直下地震防災・減災プロジェクト最終成果報告会」に出席したのですが、そこで発表された、独立行政法人 防災科学技術研究所の実験レポートに、その答えがあったのです。つまり、それまでは免震構造の弱点を、公式には誰も知らなかったと言って良いでしょう。

この実験は、世界最大級の加震台、実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)の上に、実際に4階建ての免振ビルを建て、様々な地震動を加えてその影響を見ると言うものです。そのレポートの該当部分を、当日配布された資料の中から引用させていただきます。

なお、この実験で加えた地震波は、短周期地震動は阪神・淡路大震災で観測された地震波の加速度を80%にした、震度6強レベルのもの、長周期地震動は、想定される東海・東南海地震で、名古屋市中心部で予想される、震度5強レベルのものです。

【以下引用】-----------
短周期地震動の加振では、高い免震効果が発揮され、床の最大応答加速度は十分に低減され、建物の構造的な被害もほとんど見られませんでした。
(中略)
一方、長周期地震動の加振では、免震構造でありながら、床の最大応答加速度が1.3倍に増幅してしまい250cm/s2程度となりました。これは、免震構造の固有周期と地震動が持っている最もパワーのある周期(卓越周期)とが近接しているため、免震建物が共振し応答が増幅してしまったものです。しかし共振しても応答加速度が250cm/s2程度であるため、建物の構造的な被害はほとんど見られませんでした。
【引用終了】-----------

専門的な記述もありますが、要は短周期地震動に対しては絶大な効果があるが、長周期地震動が加わった場合、免震構造が揺れを増幅することもある、ということです。しかしその場合でも、揺れの加速度は大きく低減されているので、建物の主要構造を守る効果は大きいということです。

東日本大震災では、管理人の家の近所で実際にそれが起きたわけであり、レポートを聞いた時点でやっと腑に落ちました。余談ながら、この報告会では、例の「南関東直下震度7の可能性」のレポートも発表され、メディアはほとんどそちらにしか食いついていませんが、同時にこんな重要なレポートもあったのですよ。

ともかくも、免震ビルは建物の倒壊や大きな破壊が起こる可能性は小さくても、「長周期地震動」による大きな揺れに対する対策は、一般の耐震構造建物より強化しなければならない、ということです。

さて、いよいよ次回から、高層ビルにおける地震対策の実際について考えます。


■このシリーズは、カテゴリ【地震・津波対策】です。

2013年10月28日 (月)

いい加減にして欲しい

こういうタイトルにするとアクセスが増えるというのを承知の上で、敢えてあざとくやらせていただきます。管理人、かなり腹が立っております。


先日、台風27・28号が接近している時、ある「防災の専門家」がテレビに出演していました。そこで、キャスターから「台風の接近に伴ってどのような対策が必要ですか?」と問われて述べたことは、基本的には当ブログで提唱しているのとほぼ同じことでした。

要旨は、「行政からの情報に頼るだけでなく、自分で状況を判断して、早いうちに安全な場所へ避難せよ」ということで、それは全くその通りであり、文句のつけようもありません。ただひとこと言わせていただければ、そのお方、以前はそのような事は言っていなかったような気がしないでもありませんが。

まあそれは良いとして、とても気になったというか、訳のわからない発言がありました。それは、すべての災害対策に共通する基本的考え方というニュアンスで(少なくとも管理人にはそう思えました)、下記のようなものでした。

『悲観的に備えて、楽観的に行動せよ』
だそうです。良く考えなければ、一瞬「なるほど」と思わされてしまうような、キャッチーなフレーズですよね。

災害対策に限らず、リスクマネジメントの基本は「最悪を想定する」ということです。まず初めに、これでもかというくらい悪いケースを考え、どの段階まで対応するのか、できるのかを具体的に詰めておかなければなりません。つまり「悲観的に備える」とうことであり、それは間違ありません。

では「楽観的に行動する」とは?全く意味不明です。ただでさえ人は困難な状況に直面した時、「楽観バイアス」や「正常化バイアス」という心理状態、つまり過度に楽観的な「大したことはない」、「きっと大丈夫だろう」という発想に陥りやすいのです。

その結果、現実の状況にそぐわない行動をしたり、または行動しなかった結果がどうなるかは、過去のあらゆる災害で明らかです。つい先日の伊豆大島惨事も、広い意味においては判断が楽観的に過ぎたのが大きな要因の一つと言えることは明らかです。

その例を引くまでもなく、すべからく災害対策、特に避難行動は、最後の最後まで悲観的でなければならないはずです。悲観的とは、言うまでもなく困難な状況を嘆き悲しむことではなく、「もしこうなったらどうしよう」という発想を突き詰めることです。そこに「楽観的」という発想が入り込む部分は微塵も無いはずですが。

これなど、ただの言葉遊びにしか見えませんね。「天使のように繊細に、悪魔のように大胆に」とか「蝶のように舞い、蜂のように刺す」(これはちょっと違うか)というような二律背反的なフレーズは、ある意味で聞く人を思考停止に導きやすい耳あたりの良さを持っているものです。キャッチフレーズとしては秀逸ですが、防災に関しては全く当てはまりません。あくまで『悲観的に備え、悲観的に行動する』ことが必要です。


例によって、問題は個別の内容ではなく、「防災の専門家」を名乗る人物が、メディア受けとか他との差別化ばかりを意識して、実態にそぐわない「指導」行っていることです。メディアに登場するという影響力の大きさを、全く理解されていない。現に、例の「時間雨量20ミリで車のワイパーが効かなくなる」という、明らかに実態にそぐわないこの方の発言が、防災系ブログとかに無検証でそのままコピーされていたりします。

この番組では、キャスターも疑問を感じたらしく、「楽観的に行動するとはどういうことですか?」と質問を返したのですが、なんだか意味不明の返答をしているうちに、はいお時間です、でした。

結局、正しい防災知識を欲している人には無用どころか有害な情報で、正しい防災知識を持っている人は「この御仁何言っているんだ?」という印象を残しただけかと。メディアの皆様、「専門家」という肩書きで語れば、内容はなんでもいいんですか?「専門家」という肩書だけを信じて丸投げすると、局や番組自体のクオリティに関わることもありますよ。

まあ、メディアに良く登場する人というのは、「いろいろ」あるのでしょうけどね。でも「大人の事情」などどうでもいいんです。地震に限らず様々な災害で尊い命が失われ続けている中で、それも大災害の直後に、メディア上では「専門家」の言葉遊びですか。命を守るために「本当に大切なこと」よりメディア受け、商売、「肩書き」(自称含む)が優先される現状に、管理人はあくまで抵抗して行きます。


念のため申し添えますが、管理人が突っ込みを入れる「専門家」とは、ごく一部に過ぎません。別に「専門家」嫌いではないのです。正しい知識や意識を提唱し、具体的な指導をされている「専門家」が大半ですし、いわゆる「専門家」でなくても、市井の現場レベルで防災・減災のために尽力されている方々がたくさんいらっしゃいますし、そんな方々には心からの敬意を表したいと思います。

ただ、そういった努力を無にするような一部の「専門家」(自称含む)は許しがたい。防災関連の組織の長だから、本とか出しているから「専門家」だという発想もおかしな話です。「専門家」とは、肩書きにふさわしい能力を持たなければならず、そして正しいことを世に伝える責務があるはずなのですが。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

☆再掲載☆高層ビル編04【首都圏直下型地震を生き残れ!30/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■


今回は、高層ビルにおける「長周期地震動」以外の危険について考えます。

前回までに、超高層ビルにおける「長周期地震動」の影響について考えましたが、理論的なことはさておき、とにかく高層ビルは大きく揺れるわけです。一般的な感覚として、背の高いものが揺らされた場合、高い場所ほど揺れの幅が大きくなると思いますし、事実その通りです。

これは何も高層ビルではない低層の建物でも、そして「長周期地震動」でなくても、高い場所ほど揺れの幅は大きくなります。ところが、こと高層ビルの場合、高い場所の揺れ幅が最大にならないケースがあるのです。これは超高層でなくても、10階建てくらいからはっきりとした傾向が出始めます。

それは「短周期地震動」、つまり周期1~2秒の、いわゆる「キラーパルス」が発生した場合です。ここで、1995年の阪神・淡路大震災の被害状況を見てみましょう。この地震は、震源深さ10kmの内陸直下型地震で、強い「短周期地震動」が発生した典型的な例です。
Photo
2
このように、比較的高いビルの中層階が押しつぶされるように崩壊する、それまでほとんど想定されていなかった被害が多発しました。これは一体何が起こったのでしょうか。なお、先に申し上げておきますが、阪神・淡路大震災でこのような崩壊をしたビルは、ほとんどが1980年以前に建築された「旧耐震基準建物」です。1981年以降の「新耐震基準建物」は、耐震強度が大幅に向上していますので、このような崩壊をする可能性は非常に小さくなっています。

さて、その後の研究で、新たな事実がわかりました。ある程度以上の高さの高層ビルは、揺れの周期によって、かなり異なる揺れ方をするのです。それが下図です。
Mini
「長周期地震動」を含む、ある程度長い周期の揺れ、これはある程度震源から離れた場所で発生しやすいのですが、その場合の高層ビルの揺れ方は「一次モード振動」と呼ばれます。これは一般的な感覚の通り、高い場所ほど振幅が大きくなる揺れ方です。

しかし、内陸直下型地震で発生しやすい周期1~2秒程度の「短周期地震動」、つまりビルの「固有振動周期」より短い揺れを受けた場合、「二次モード振動」と呼ばれる、いわば「腰をくねらすような」揺れが発生します。この場合、中層階の揺れが最大になる、つまり中層階の構造にかかるストレスが非常に大きくなります。

その結果が、前出画像のような破壊を生んだのです。最も揺れが大きくなった中層階の構造が、建物を真ん中でねじるような力に耐えきれず、上層階の重みで押しつぶされたわけです。繰り返しますが、1981年以降の新耐震基準による建物では、このような崩壊をする可能性は、はるかに小さくなっています。

ひとつ補足しますと、二枚目画像の建物では、「二次モード振動」の効果に加え、建物左右の構造が違うことで揺れ方の違いが発生し、崩壊部分により強いストレスが集中した結果でもあります。このように、建物に構造が異なる部分があったり、増改築をした建物や、上から見てL字型などの建物は、各部の揺れ方が異なるために、特にその結合部分に大きなストレスが集中し、破壊に発展することがあります。


ところで、広い範囲で「長周期地震動」が発生した東日本大震災でも、関東地方では高層階より中層階の構造や室内への被害が大きいという現象が発生しています。この傾向は、主に10~20階程度の高層マンションなどで多く見られました。これは、人類の観測史上4番目という超巨大地震だった東日本大震災では、震源域からの距離が比較的離れていた関東地方でも周期1~2秒程度の「短周期地震動」が、かなり強く発生していたことによるものです。しかし一般的には「短周期地震動」が発生しやすい、内陸直下型地震の場合に顕著になると思われます。

東日本大震災では、東京・新宿などの超高層ビルにおいては「長周期地震動」による「一次モード振動」が卓越し、それより低い高層マンションなどでは、「短周期地震動」による「二次モード振動」が多発したわけですが、これは地震の規模や震源との距離、地盤の状態など多くの要素に影響されるものです。ですから、まずこのような事が起こるという事を知った上で、普段から「どちらが起きてもおかしくない」という意識を持って、対策を進めなければなりません。具体的な方法は後述します。

次回は、「免振ビルは本当に地震からの救世主か?」ということについて考えます。


■このシリーズは、カテゴリ【地震・津波対策】です。

2013年10月27日 (日)

小説・声無き声 第一部【2】

広々とした駅前広場には、土曜日の昼前だというのに人影がほとんど無かった。商業施設と一体化した駅ビルは大きく、周辺にはホテルや商店も立ち並んでいる。駅正面から続く大通りには良く整えられたケヤキ並木が続いていて、決してうらぶれた街には見えない。震災の時にはここもかなり激しく揺れたはずだが、地震被害の痕跡も全く見かけない。立派な、地方の中心都市のたたずまいだ。しかしそんな街並みに全くそぐわないほどに人の姿が無いことが、ここで起きていることの異常さを思わせた。

駅前のロータリーには、数台のバンやマイクロバスが停まっていた。玲奈と同じ新幹線に乗って来た地味な集団の多くがそんな車に吸い込まれて行き、それらが走り去ると、広い駅前広場は文字通りしんと静まり返った。渡る人のいない歩行者用信号機から流れ始めた『通りゃんせ』のメロディが、静けさ余計にを際立たせている。

駅前にぽつんと残された玲奈は、ぐるりと周りを見回した。今回玲奈がボランティアとして参加する団体には、メールで到着時間を知らせてある。ここに迎えの車が来る段取りだったが、まだ来ていないようだ。もうすぐ5月も半ばになるが、駅前広場を吹き抜ける東京よりずっと冷たい風に、玲奈はマウンテンジャケットのジッパーを首もとまで上げた

その時、並木の向こうから一台の白いワゴンがロータリーに滑り込んで来た。白とは言っても、タイヤやボディの下回りには乾いた泥がたっぷりこびり付いている。ボディ全体も土埃にまみれて、薄茶色と言った方が良さそうな感じだ。そのワゴンは玲奈の前でつんのめるように停まると、間髪を入れずにドアが開き、運転していた大男が飛び降りて来た。身長は180センチ近くて、横幅もかなりある。年齢は四十前くらいか。着古した青い布ツナギに、泥まみれのゴム長靴姿。まだ5月半ばだというのに真っ黒に日焼けした木訥そうな丸顔の頭には、白タオルを巻いている。玲奈が感じた男の第一印象は“トラクターを乗り回している農場の二代目”そのものだった。

男は玲奈に向かってずんずんと大股で歩いて来ると、玲奈が待ち合わせ相手だと確かめもせずに、勢い良く頭を下げながら、いきなり口を開いた。
「遅れてすんません。『アニマルレスキュー』の佐竹です!」
玲奈は、男の勢いに少し圧倒された。周りの雰囲気に呑まれてかなり沈んでいた気持ちを鷲づかみにされて、強引に引っ張り上げられた感じだ。
「み、三崎玲奈です。よろしくお願いします!」
玲奈はベースボールキャップを取りながら、頭を下げた

玲奈が顔を上げると、男は正面から、玲奈の顔をしげしげと見つめていた。玲奈は普段、男からそんな視線を投げかけられることも少なくない。それは大抵、不快極まりないものなのだが、その時は違った。玲奈を見つめる男の目の奥には好奇ではなく、なぜか困惑のようなものが宿っているように思えたからだ。しかし次の瞬間、真っ黒に日焼けした男の口元から白い歯がむき出しになり、満面の笑顔に変わった。そして、玲奈に向かって大きな右手を差し出しながら、言った。

「福島へ、ようこそ!」


ふたりが乗った車は市街地を抜け、福島市郊外のシェルターへ向かう。その道中、運転しながら佐竹は良く喋った。
「いやぁぶったまげた。三崎さんのようなめんこいひとが来てくれたんで!」
実に屈託が無い。玲奈もそう言われて悪い気はしない。それに、なんだか重苦しい雰囲気を勝手に想像していた玲奈は、佐竹の明るさに救われるような気もしていたから、調子を合わせて言った。
「でも私、もう三十路過ぎなんですよ」
「えー?見えねぇなぁ・・・あの、まだ独身ですよね?」
・・・なんだ、そういう話か。それでも調子を合わせた。
「ええ、残念ながらいまだに」
「いやね、ここは特に若い女性にゃ人気ねぇから」
人気が無い?玲奈が意味を測りかねていると、佐竹は続けた。
「ボラに来てくれる人少ねぇんですよ。やっぱ宮城や岩手行っちゃう人多くて」
「それって・・・」
「だってほら、やっぱ放射線怖いべ。独身女性は特に。三崎さんは、あの・・・大丈夫なんすか?」
玲奈は、駅前で見せた佐竹の困惑の理由がわかったような気がした。玲奈は佐竹の横顔を見つめながら、言った。
「ええ。きちんと勉強しました。その上で、福島に来たいと思ったんです」
「勉強って、本とか読んで?」
「ええ、まあ」
玲奈は誤魔化したが、本当は古巣である陸上自衛隊の知り合いに頼み、埼玉県の大宮にある中央特殊武器防護隊の教官から指導を受けたのだ。その部隊は、震災直後から福島の最前線で活動している核、生物、化学兵器対策の専門家集団だから、最も信頼がおける。

「まあ、外の人にそう言ってもらうとうれしいな。なんだか福島の人間は化け物みたいに言う奴も多いしよ」
玲奈は、答えに詰まった。震災後、放射線に対する不十分な知識や偏見から、福島の人々があちこちで理不尽な扱いを受けているのを見聞していたからだ。見えない放射線に故郷を追われて、行った先で拒絶された人たちの心情を思うと・・・。もしかしたら自分は、だから福島を選んだのかもしれない。玲奈はやっと一言、言った。
「・・・ひどいですよね・・・」
「まあ、気にしてもはじまらねぇし。実際、放射線はおっかねぇよ。見えねぇし臭いもしねぇ。でも、おれらはここでやって行くしかねぇんだし、助けてやんなけりゃならない連中もいるし」
玲奈は、佐竹の言葉に震災からここまで二ヶ月ほどの間の、凄まじい体験が凝縮されていると感じた。
「大したことはできませんけど、お手伝いさせてください」
玲奈が助手席から佐竹に向かって頭を下げると、佐竹は何故か真顔で正面を向いたまま、少し小さな声で言った。
「よろしく、お願いします」

その時、カーラジオから流れていたワイドショーの音声が急に絞られると、それに被せるように女性アナウンサーの声が流れ出した。
『午前11時の、福島県内各地の空間放射線量をお知らせします』
「ほら、一時間ごとの"定時報告"が始まった。これが今の福島さぁ」
玲奈は、ラジオの音声に耳を傾けた。
『・・・なお、単位はすべてマイクロシーベルト毎時です。福島市1.5、飯舘(いいたて)村3.7、相馬市0.5、南相馬市0.7、会津若松市・・・』
佐竹が説明する。
「飯舘は高いよ。原発がはねた後、放射性プルームって奴が、あの谷間にみんな流れ込んじまったんだ」
「しかも、そこで雨が降って・・・」
「そう。雨であの辺にたっぷり落ちた。爆発のすぐ後は、役場の線量計振り切って測れなかったぐれぇだ。だから二ヶ月経った今でもすごく高い。でもラジオで言ってるのは役場のモニタリングポストで測った地上20mとかの線量だから、地面近くや森の中とかもっと高いところがいくらでもある。で、飯舘からこっち、ずっと谷が続いてっから、福島市は浜通りより空間で三倍も高けぇし、もっと高けぇ場所もいくらでもある」
「はい、わかります」

玲奈は、佐竹の説明で忘れかけていた現実の厳しさを改めて突きつけられて、背筋に少し悪寒が走った。水田や果樹園が続く長閑な田園風景には、あまりにも不似合いな現実だった。佐竹は助手席の玲奈をのぞき込みながら、言った。
「でも線量計なんか無えから、この辺りでも本当のところは良くわからねぇ。はっきり言って、うちの団体じゃあ高校生以下とか若い女性には、ここのボラに来るのを勧めてねぇんだ。それでも、いい?」
玲奈は答えた。
「はい。教官にいろいろ教わって来ましたし、代表の方にもお話してあります」
「教官?」
「あ、いえ、まぁ先生です」
佐竹は笑顔になると、玲奈に軽く頭を下げながら言った。
「だら、よろしくお願いします」
「こちらこそ。がんばります」

そこで玲奈は、しばらく前から気になっていたことを、佐竹に質問した。
「田んぼ、田植えの準備しているところも多いですけど・・・大丈夫なんですか?」
佐竹の眉間に皴が寄る。しばらく沈黙が続いた後、佐竹はぼそっと答えた。
「まあ、作っても当分出荷はできねぇだろうな」
「なら、なんで・・・」
「なんでって、百姓だって遊んでる訳にゃいかねぇしな。今はいつも通りやるしかねぇんだ」
一見平穏な田園に重くのしかかる、先の見えない現実。それでも作物を作り続ける人たちの気持ちを思うと、玲奈は何も言えなかった。佐竹はさらに続けた。
「ただ、ちょっと下衆な話するとな、作付けしとかねぇと補償金の対象にならねえってのもある」
「そうなんですか・・・」
「まあな、具体的な話はまだけども、そういう話だ。でもこういう話になると外からはいろいろ言われるし、内々でもいろいろ面倒があるんだけども、食って行くためには仕方ねぇ」
当然だ、と玲奈は思った。とかく不労所得にはどんな理由でもやっかみや偏見がつきものだが、ここの人々は長年手塩にかけた土地が生む価値と、将来の生活を失うかもしれないのだ。そこには、外の人間には絶対に理解できない理由や心情があるはずだから、外野が口を挟むべきことでは無い。玲奈はそう思って、それ以上は何も言わなかった。

しばしの沈黙の後、佐竹が口を開いた。
「ところで三崎さん、なんで福島の動物ボラに来てくれたんすか?いや、ほんとありがてぇんですけど」
玲奈は、ちょっと考えてから答えた。
「もちろん動物が好きだからなんですけど、福島の状態があまりに酷いと思ったからなんです」
「まあ、異常だよな」
「だから、被災ペットを少しでも救うことで、その飼い主さんとまためぐり合わせてあげたい、そのお手伝いをしたいと思ったんです。人に飼われていた動物を救うことで、人の心も救えるはずだって」
「うん、三崎さんの言う通りだ。でもほんと無茶苦茶だった」

佐竹は、もう大体知っていると思うけどと前置きした上で、これまでの経緯の説明を始めた。
震災が起き、原発から放射性物質が大量に漏れ出したので、危険区域には避難指示が出された。自家用車がある人はペットも連れて行けたが、無い人は用意されたバスに乗るしかなく、しかし動物の同乗は禁止された。しかも役場からの避難指示はほとんどの場合『とにかく一旦ここを出てくれ』というような曖昧なものであった例が多く、ほとんどの人は2~3日、長くても一週間程度で戻れるものだと考えていた。だから、それでも断腸の思いでペットを繋いだり家の中に入れたままで、できるだけの水と餌を用意して避難した。その間だけでも生き延びられればなんとかなると。

しかし、原発から20km圏内はそのまま警戒区域が設定され、立ち入りが禁止された。すべての道路は封鎖され、主要道路には警察の厳重な検問が設置されたのだ。この時点で警戒区域内に残されたペットや家畜の運命は決まってしまった。警戒区域外から避難した人も、自力で戻れる足がある人以外は、どうにもならなくなった。仮に足があっても警戒区域外の飯舘村などは放射線量が非常に高く、おいそれと戻れる状態ではなかったのだ。他に方法が無かったとはいえ、自ら愛するペットを放置し、死に至らしめるしかなくなってしまった飼い主の心情は計り知れない。一部に、ペットを置いて「逃げ出した」飼い主を非難する声もあるが、それは事情を理解していない人の偏見でしかない。あの場では、誰でもああするしかなかったのだ。

一通り説明を終えた後、佐竹はしばらく黙っていた。そして、言った。
「…何が悲惨だってな、ペットを死なせちまった人は、表立って悲しむ事もろくにできねぇんだよ。だって、避難所とかで周りに家族や親類亡くしたり家流された人なんかが山ほどいる中じゃ、“ペットごとき”がなんだ、って話になっちまうんだよな。じっと黙っているしかねぇんだ」

事情は一通り知っていた玲奈も、地元の人間の口から語られる真実に、返す言葉が無かった。それでも、自分の行動がそういう人たちの心を救う力になれるなら、たとえ一人でも笑顔に戻れるなら、やる価値があると思った。飼い主は死んだと思っているペットが、動物救援ボランティアの活動によって、実はまだ生きていることもあるのだ。それを、なんとか再びめぐり合わせてあげたいと、強く思った。被災地支援にはいろいろな形があるけれど、これが自分のやり方なんだと、改めて確信できたような気がした。福島へ来て良かった。

ふたりの乗った薄汚れた白いワゴンは、県道から逸れてしばらく砂利道を走ると、福島市郊外の森に囲まれた広い敷地に入って行った。敷地の奥には、プレハブの建屋がふたつ建っている。その前には点々と犬小屋やケージが並び、ぱっと見では数え切れない数の様々な犬たちが佐竹の帰りを待ちわびていたように尻尾を振り、吠えた。杭に繋がれたリードを、引き千切らんばかりにして喜んでいる犬もいる。
「さあ、着きましたよ。ここがおれらのシェルターです。奴らも歓迎してくれてますよ!」


■このシリーズは、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。なお、この作品は事実を参考にしたフィクションであり、登場する人物、団体等はすべて架空のものです。

2013年10月26日 (土)

【福島県沖でアウターライズ地震】地震関連情報【10/26】

10月26日、午前2時11分頃、福島県の約280km沖、深さ10kmを震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宮城県、福島県、栃木県で最大震度4を観測しました。この地震により、福島県の沿岸部に津波注意報が発表されています(本稿執筆時点10/26 03:00)

この地震は、海岸から約280kmという距離で発生していること、震源深さが10km程度と浅いことから、東日本大震災の影響によるアウターライズ地震と考えられます。

アウターライズ地震とは、陸側のプレートの下に潜り込む海側のプレート(日本の場合は太平洋プレート)の「沈み込み帯」の沖に当たる、アウターライズと呼ばれる部分で発生する地震で、プレートの沈み込みによってかかる引っ張り力によって、海底の地殻表面付近で発生する地震です。

プレート境界型大規模地震によって陸側と海側のプレート境界が破壊されると、プレート境界の摩擦力低下によって海側プレートが沈み込む速度が上がるために、沈み込み帯の沖側に平時より大きな引っ張り力がかかります。その力によって、アウターライズの浅い部分が「引きちぎられる」ように発生する、正断層型地震です(下図参照)
Photo

アウターライズ地震は、震災本震の約15分後に発生したマグニチュード7.5を最大に、宮城県以北の三陸海岸沖では何度か発生してきましたが、今回の地震はそれよりやや南方に当たる、宮城県の牡鹿半島の東南東約290km、福島県北部東方約280kmで発生しました。

この周辺では震災後にほんの数回程度、ごく小規模のアウターライズ地震が発生している程度です。今回のマグニチュード7.1は震災後最大クラスに近く、この震源としては津波注意報の発表もおそらく初めてではないかと思われます。

アウターライズ地震は、地殻の比較的浅い部分で発生するので海底の変形を伴いやすく、今回のようにマグニチュード6台後半以上になると、津波が発生する可能性が高い地震です。震源が陸地から遠いために、地上の揺れはそれほどでも無いのに津波が起きることがあります。過去には、揺れを感じなかったのに津波が来たというケースもあります。

震災による大規模な地殻変動はこれからも長い間続くので、今後も時々発生することが考えられます。

■追記
この地震のマグニチュード値は、当初の速報値6.8から7.1に修正されましたので、本文の数値も修正いたしました。

■この記事は、カテゴリ【地震関連】です。

2013年10月24日 (木)

☆再掲載☆高層ビル編03【首都圏直下型地震を生き残れ!29/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■


今回は、なぜ「長周期地震動」が高層ビルにおいて危険なのかについて考えます。

低層の耐震建物は、構造部材をがっちりと組み合わせることで地震の揺れに耐える「剛構造」(ごうこうぞう)です。これに対し、ある高さ以上の高層ビルは、構造部材の結合に意識的に「遊び」を持たせて、建物をある程度揺らすことで地震のエネルギーを吸収、発散させて主要構造の破壊を防ぐ、「柔構造」(じゅうこうぞう)になっています。実際、超高層ビルは強風でもかなり揺れています。

東日本大震災では、東京都内の超高層ビルが肉眼でわかるほどゆらゆらと揺れている映像をご覧になった方も多いでしょう。あれほどの揺れが実際に確認されたのは世界初のことだったのですが、あれはある意味で技術の勝利でした。設計通りの性能を発揮したのです。

一方で、大きな問題も露呈しました。超高層ビルの揺れが、想定していたよりも「大きく、長かった」のです。実は、「長周期地震動」というものの存在が明らかになって来たのはここ数年のことで、現在建っている超高層ビルの設計段階では、あのような大きく長い揺れが続くことは、あまり想定されていませんでした。超巨大地震による「長周期地震動」は、超高層ビルを想定以上に揺らしてしまったのです。

そのため、今後さらに強い「長周期地震動」に見舞われた場合、果たしてその揺れの大きさと、特に持続時間の長さに対して、ビルの主要構造が耐えきれるのか?そんな懸念が生じているのも事実です。しかし懸念される事態は、高層ビルがいきなりポキッと折れてしまうようなものではありません。ほとんどは、あくまで主要構造に想定以上のダメージが残るかもしれないというレベルの話ですから、あまり心配しすぎませんように。


では、なぜ超高層ビルは「長周期地震動」で大きく揺らされるのでしょうか。それは「固有振動周期」の問題です。
物体には、それぞれ固有の揺れやすい周期があります。物体に振動を加えると、振動がその物体の「固有振動周期」と一致した時に、物体の揺れは加えた振動以上の大きさに増幅され、大きな破壊力をもたらします。そして、超高層ビルの「固有震動周期」と、「長周期地震動」の震動周期が近いということが最大の問題なのです。つまり、「長周期地震動」は、超高層ビルの揺れを増幅するのです。

地震の震動周期と被害の関係を示す実例を挙げますと、1995年の阪神・淡路大震災では、低層建物の「固有振動周期」に近い、周期1~2秒程度の「短周期地震動」が発生し、低層建物が数多く倒壊しました。また、中高層建物の中層階が押しつぶされるという、想定されていなかった独特の破壊が起きました。2008年の岩手・宮城内陸地震では、山や崖の「固有振動周期」に近い、周期0.2~0.5秒程度の「極短周期地震動」が発生し、建物被害は少なかった一方で、大規模な山崩れや地滑りが多発しました。

そして東日本大震災では、関東を始めとする遠隔地の平野部で発生した「長周期地震動」によって、超高層ビルに過去最大の揺れが発生しました。このように、揺れ方によって主な被害は変わって来ます。なお、東日本大震災での東北地方では、比較的長周期の揺れが成分が主で、最も破壊力が大きい周期1~2秒の揺れ成分が少なかったために、最大震度7を記録した割には、建物被害は少なかったのです。各地に津波が押し寄せてくる前の映像でも、その時点で全壊している建物はほとんど映っていません。

建物の構造的な話はともかく、揺れが大きくなるということは、もちろん室内へのダメージも大きいということです。そのための対策はどうするかという話が一番大切なのですが、その前に、地震の揺れと高層ビル被害の関連について、もう一回だけ(もしかしたら二回かも)考えます。危険なのは超高層ビルだけではなく、「長周期地震動」だけでもない。そして「免震ビル」は、本当に地震からの救世主たりうるのか?という話です。


■このシリーズは、カテゴリ【地震・津波対策】です。

2013年10月23日 (水)

小説・声無き声 第一部【1】

■【ディザスター・エンタテインメント】新作の連載を始めます。この物語は事実を参考にしていますが、基本的にはフィクションです。開始早々なんですが、タイトルを変更させていただきました■


新幹線の車窓に、早春の田園風景が流れていく。薄曇りの空の下に、ところどころ水が張られ始めた水田が連綿と続き、そのずっと向こうには、頂近くに雪を抱いた山並みが霞んでいる。桜の季節には少し早いが、あと半月もすれば、固いつぼみもほころびはじめるだろう。ここにも、もうすぐいつものような穏やかな春がやってくる、はずだった。

車窓を飛び去って行く、誰もが懐かしさを感じそうな風景をぼんやり眺めながら、三崎玲奈は小さくため息をついた。程なく、目的地に着く。列車が減速を始めるのとほぼ同時に、この土地の民謡をアレンジした軽快なチャイムの音に続いて、到着を告げるアナウンスが流れた。玲奈にはその“日常”が、なんだかとても場違いなものに感じられた。

玲奈は空いていた隣の席に置いた登山用の大型リュックを引き寄せながら、上半身を少し伸ばして、半分くらい埋まった車内をぐるりと見回した。何人かが降りる準備を始めているが、みな地味な服装だ。グリーンの作業服にゴム長靴姿の若い男もいる。ほとんど、会話は聞こえない。普段ならば昼前に最初の目的地に着いて、さあこれから旅が始まるぞという華やぎに満ちるはずの車内は、まるで最前線で初めての戦闘を待つ初年兵が放つような、硬質の緊張感で満たされていた。みな、無言で車窓を見つめている。

列車の速度がさらに落ちて、車窓はまばらな住宅街から地方都市のそれに変わった。玲奈はカールした長い髪を頭の後ろで一本に束ねてから、カーキ色のベースボールキャップを目深にかぶった。そしてずしりと重いリュックのハーネスを右肩にかけると、シートから立ち上がった。本当はここへ来る前に髪を短く切って来たかったのだが、昨日の深夜まで仕事をして、そのまま今日の未明に出発だったから、美容院に行く時間も無かったのだ。デッキに向かって通路を進んで行く玲奈に、ここからさらに北へ向かう乗客たちの視線が集まった。

この列車に乗り合わせている、年齢層がかなり幅広い男女の多くが、自分と同じ目的であろうことが玲奈にはわかっていた。そんな彼らは、モスグリーンのマウンテンジャケットにイエローカーキ色のカーゴパンツ姿の小柄な玲奈に、誰もが『こんな女の子が、ここに、ひとりで・・・?』というような小さな驚きと、そして少し好奇が混じった視線を投げかけたが、皆すぐに真摯な目つきに戻った。その視線はみな『がんばって』、『気をつけて』と語っているようで、玲奈も少し無理をしてかすかに微笑むと、見返す視線に『あなたも、がんばって』という思いを込めた。いまここでは、初対面で言葉を交わしたこともない人々の間に静かな、でも少し奇妙とも思える連帯感のようなものが生まれていた。

列車がホームに停まってドアが静かに開くと、がらんとしたホームを、列車から吐き出された地味な服装の集団が、ぞろぞろと階段へ向かって行く。ほとんど言葉を発する者はいない。階段の上に掲げられた大きな看板には、この土地の有名な大祭のワンシーンが映し出されている。ここに再びその華やぎが戻るのは、いつになるのだろう。程なくホームに電子音が鳴り響き、背後で列車が動き出す。玲奈がふと振り返ると、車掌室の窓から顔を出している車掌が、地味な集団に向かってきっちりとした挙手の敬礼をしたまま、遠ざかって行った。

その姿に少し目頭が熱くなった玲奈は、思った。
「いったい、何が起こったというの・・・」
いまこの地に立った玲奈の、それが偽らざる心境だった。東京で見てきた洪水のような報道も、繰り返し流されている凄惨な映像も、ここの本当の空気のかけらさえ伝えられてはいない。テレビやネットの中の情報だけで、安易に理解されることを拒絶するような空気に満たされている、そう感じた。ここはモニタの中に映し出される世界ではなく、生身の人間が生きる、現実の空間なのだ。

でも、この辺りはまだ表向きは平穏だ。しかしその静けさが、これからおそらく目にするであろう凄惨な現実への恐怖を掻き立てるようでもあった。そして、玲奈の中に早くもひとつの疑問が沸き上がった。
「わたしなんかが来て、一体何になるんだろう・・・」
東京からここまで、かなり長い距離を移動してきた。でもその何倍、何十倍にも渡るあまりにも広大な地で、数知れない人々が助けを求めてあえいでいる。それを思うと、その広大な地の中の自分の存在があまりにも小さく、まるで巨人の爪先辺りに巣くっているだけの小さな寄生虫でもあるかのように思えてきた。そんな存在には巨人の全身を見ることなど決して出来はしないし、巨人を倒すどころか、軽い痒みを与えるくらいが精々ではないのか。ここに来たのも、ただの自己満足ではないのか・・・。

しかし、やはりがらんとしたコンコースを改札に向かって歩きながら、玲奈はその考えを無理に振り払った。
「なに考えてるのよ私は・・・」
助けを求めている人がいて、そして自分ができることがある。だからそれをやるだけ。その思いだけで、勤め先の上司に無理を言って一週間のボランティア休暇を取り、ここまでやって来た。より困難な状況があるから、敢えてこの地を選んだ。そして、今この時も玲奈の「仲間」たちが、各地で困難な任務を遂行し続けている。だから、下手な理屈を考えてる暇なんかないんだ。自己満足かもしれないが、そんなことは後で考えればいい。今は、自分がやれることをやるだけ。そして、誰かが少しでも楽になってくれれば、それだけでいい。

そこに思いが至ると、胸のつかえが少し取れたような気がした。玲奈は肩にずしりと重いリュックを背負い直すと、改札を抜けて駅前広場に歩み出た。

【つづく】

■このシリーズは、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。

ダブル台風と「藤原の効果」

台風27号、28号が日本列島に接近中です。この季節に「強い」、「猛烈な」という冠詞がつく台風がダブルでやってくるというのが、日本近海の海水温の高さを如実に示しています。台風の勢力を決めるのは、海面からの水蒸気の供給量が大きな要因のひとつですので、海水温が高いほど勢力が強くなりやすいわけです。

この先多少の変動をしながらも、基本的にはこのような状態が日常化していくと思われます。海水温の上昇は雪も含めた降水量の増加をもたらしますので、台風だけの問題ではありません。秋雨でも雪でも春雨でも、「過去に例の無い」状況になることが増えると思われます。


さて、今回のダブル台風ですが、当初予想された進路よりかなり東寄りのコースとなるようで、本州を直撃する可能性は当初より小さくなりました。その一方で本州南海上の島嶼部に接近するコースとなりますので、伊豆大島はもとより、各地で厳重な警戒が必要です・・・という表現は良く聞きますが、いざ災害が発生してしまったら、「警戒」していてもほとんど無意味です。やるべきことは、「早いうちに安全な場所へ逃げる」ことしかありません。

今回、台風が進路を大きく変えている理由として、「藤原の効果」という聞き慣れない言葉がメディア上にも上っています。詳細には触れませんが、これは戦前の中央気象台所長、藤原咲平氏が提唱した理論で、二つの熱帯低気圧や台風が1000km以内程度に接近すると、気流がお互いに干渉しあって単独の場合とは異なる複雑な進路となる現象とのことです。

台風27号、28号とも、当初の予想と大きく異なる進路を取りそうなのは、この「藤原の効果」によるものだということですが、その効果は必ずしも一定ではなく、今後のダブル台風相互の動き次第で極端に進路が変わる可能性もあるとのことですので、しばらくの間は普段以上に台風情報をこまめに確認することが必要です。

いずれのコースを取るにしても、島嶼部はもちろん日本列島各地に多くの雨をもたらすのは確実であり、特に28号は本稿執筆時点で中心気圧905ヘクトパスカルと、今年日本に接近した台風の中でも最強レベルですから、最も警戒しなければなりません。

既に土砂災害や水害が起きている場所はもちろん、今まで土砂災害が起きていない場所でも、夏以降の豪雨で地盤の緩みや亀裂が発生している場所も少なくないはずです。今度の台風が「最後のひと押し」になる可能性も否定できません。というより、そうなるという前提で備えておき、最悪の状況になる前に危険地帯を「脱出」しなければなりません。

避難するのは、地域の避難所でなくても、土砂と水が来ない場所ならばどこでも良いのです。留守宅に危険があるならば、モノはなるべく二階以上に上げておくべきです。そして自家用車を災害から守るためにも、少しお金をかけてでも安全な近場へ「避難旅行」に行くという発想があっても良いと思います。もちろん、行く先の安全と移動の安全が確保できるという前提でなければなりませんが。


一方、この季節の台風は、強い寒さももらたします。台風に向かって吹き込む北寄りの風により、大陸からの強い冷気が列島上空に引き込まれます。北海道や東北地方の一部では冬並みに気温が下がり、かなりの降雪となる可能性もありますから、特に山間部に入る車は、冬タイヤなどの装備をしておかないと、身動きが取れなくなるだけでなく重大事故の可能性も高まります。自分が冬装備をしていても、周りがすべて備えているとは限りません。

屋外で活動する場合にも、特に台風が最接近する前はかなり寒くなり、それから強風と大雨がやってきますので、それに対応した装備と計画が必要です。装備は「防水・防寒」に重点を置き、十分な余裕をもって行動しなければなりません。台風は夏のイメージが強いのですが、この季節の台風は、一気に冬を呼び込むのです。

余談ながら、水害からの避難時に長靴を履くなという「トリビア」に対し、管理人があくまで長靴を履く可能性を追求するのは、こういう場合を考えているからです。脱げにくいけれどずぶ濡れで泥まみれの靴よりも、多少のリスクを侵してでも「濡れない」靴が欲しいのが、これからの季節なのです。

私事ですが、バイク乗りの管理人は、足が濡れて冷えることの辛さは十分に知っていますし。


いよいよダブル台風が接近します。前述の通り、その動きは予測しづらいので、とにかく「甘く見ずに」、積極的に「臆病に」なって、先手先手での行動をお勧めします。

■この記事は、カテゴリ【気象災害】です。

2013年10月21日 (月)

☆再掲載☆高層ビル編02【首都圏直下型地震を生き残れ!28/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■


今回は、高層ビルを大きく揺らす「長周期地震動」とは、どこでどのように発生するのかについて考えます。

「長周期地震動」が発生する条件は、「大きなボウルでつくったプリン」をイメージしてください。固いボウルの中の柔らかいプリンは、ボウルを揺らすとゆらゆら、たぷたぷと揺れて、ボウルの動きを止めてもしばらく揺れていますね。それが「長周期地震動」です。

固いボウルにあたるのが、地下の固い岩盤です。ではプリンは何かというと、堆積物なのです。川によって上流から運ばれた土砂が堆積した場所や、火山灰が厚く積もって地盤となった場所で発生します。堆積物は岩盤にくらべてはるかに柔らかいので、ボウルとプリンと似た関係となるのです。そのような場所の模式図が、下図です。
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岩盤の揺れによって、柔らかい堆積物がゆらゆら、たぷたぷとゆっくり揺れ、さらにボウル状になった岩盤の中で反射・合成を繰り返してより長い周期の揺れとなり、岩盤の揺れが止まる、つまり地震が収まった後もしばらく揺れ続けます。

我が国でそのような条件が揃った場所はどこかというと、「平野」ということになります。平野は、一般に川によって運ばれた堆積物が、岩盤の上に平らに積もった場所です。また関東平野のように、火山の噴出物が厚く堆積した(関東ローム層)上に、川によって運ばれた堆積物が乗った構造もあります。これなど柔らかさの違うババロアとプリンの二段重ねのようなもので、より持続時間の長い、複雑な揺れを発生させます。

では、日本列島で「長周期地震動」が起きやすい地下構造の場所、つまり盆地状の岩盤の上に堆積物が積もった地形(沖積平野)はどれだけあるのでしょうか。それが下図です。
Photo_3
このように我が国の主要な平野の多くが、「長周期地震動」が起きやすい構造なのです。しかし、必ずしもこの図の場所だけではありません。現に2003年の十勝沖地震(マグニチュード8.0)では、上図には無い北海道の十勝平野、釧路平野で、「長周期地震動」の発生が確認されています。震源との位置関係もありますが、日本列島の平野部ほとんどで、「長周期地震動」が発生する可能性があると言えます。

これらの平野部、すなわち高層建築物が多い場所に、ある程度離れた震源で発生した大規模地震の地震波が到達すると、強い「長周期地震動」の発生が予想されます。一例として、想定される東海地震が発生した場合、関東平野である東京都内では震度5弱~5強の揺れが予想されていますが、その震度以上に、高層ビルだけがより大きく、長く「振り回される」ことが懸念されているわけです。

本文における高層ビルとは、10階建て程度以上を想定していますが、「長周期地震動」の影響は、高層になるほど大きくなります。それは、いわゆる高層ビルの構造が「柔構造」になっているからです。

高層ビルと「長周期地震動」の関係については、次回に続きます。


■このシリーズは、カテゴリ【地震・津波対策】です。

大ウソだらけの災害対策

台風や豪雨による災害が相次いでいるせいで、メディアやブログで気象災害対策に関係する「トリビア」が目立つ今日この頃です。

でもやはり、相変わらず大ウソや机上の空論が大手を振ってまかり通っていますね。全く、災害対策の「専門家」やら「プロ」とか名乗る連中は何を考えているのか、それとも何も考えていないのか。

最近良く目に付くのが「水嚢」。大型のビニール袋に水を入れて土嚢代わりにしたり、建物内の排水口の上に置くことで、内水氾濫による逆流を防げるとか言われている奴です。

まあ、そんなこと誰もやったこと無いんですよ。頭で考えただけで。水だけの重さで、しかも変形しやすいビニール袋を並べて浸水を防げるものなら苦労はしません。例えば玄関前に置くとしたら、ドアを囲むように並べて、両端部をドアの横の壁に密着させなければなりません。でも、考えただけでわかりますよね。水入りビニール袋で、袋と袋の間や、壁との隙間を密閉するのは不可能です。

仮にできても、一方向から水圧が加わったり、ましてや水流があれば簡単に変形するか動いてしまいます。もし本当の効果を期待するならば、枠を作ってその中に何列にも並べなければならないでしょう。こんなもの、単なる思い付きに過ぎません。


内水氾濫対策のために、水嚢を建物内の排水口の上に置くという「トリビア」も、先日テレビで防災の「専門家」を名乗る人物が実演していましたけど、それは台所シンクの排水口でした。重い水嚢が排水口をぴったりと封印し、一見、それは効果的な対策に見えたものです。

でも考えてみてください。家の中の排水口全部を封印できなければ意味が無いんですよ。トイレはとりあえず封印できそうですが、バスタブの下の排水口はどうしますか?洗濯機トレイの排水口はどうしますか?誰が考え出したかは知りませんが、机上の空論の見本みたいな話ですね。

水を入れたポリタンクを並べ、シートでくるんで防水壁にするという話もありますが、要は建物との間で水密を確保できるかが問題であり、それに対する答えは提示されていませんね。つまりこれも、単なる思い付きに過ぎません。水密を確保するために土嚢を使えとは、よもや言いますまい(笑)


車の話でも、なんだか時間雨量20ミリでワイパーが効かなくなるとかいう無根拠の話がひとり歩きを始めています。ちなみに管理人、昨日は時間雨量35ミリを超える(レーダー解析)雨の中を快適に運転してきましたが何か。ワイパーは低速度で十分でしたけどね。

しかしまあ「専門家」だの「プロ」だの名乗る連中が、どこで仕入れたかは知りませんが、自分でやったこともないし、関連する知識も無いことを、よくもまあ上から目線で「指導」できるものです。そんなものでカネもらえるなら、管理人もぜひいただきたいのですが(笑)

こんなのもありますよ。車で冠水した道路を走って、排気管から水が入るとエンジンが止まって立ち往生するそうです。一見正しそうですが、全然違います。車が浮かない程度の水深ならば、エンジンがかかっている限り排気管から水は入りません。水圧より排気圧の方が高いのです。

冠水した道路でエンジン停止が起こるのは、エンジン上部に水が大量にかかると、吸気口から水を吸い込んでしまい、シリンダー内部にまで水が入るからなのです。その他、水によってプラグコードなど電気系からリーク(漏電)してエンジン停止することもありますが、最近の車では起きにくくなっています。

ですから、深い水の中を走るオフロード車は、吸気口を屋根上まで持ち上げる「シュノーケル」(画像参照)を装着しているわけです。
Rannkuru
排気管から水が逆流するなら、こんな対策は意味が無いということになりますね。

ちなみに、冠水道路での実地テストは日本自動車連盟(JAF)が行った有名なものがあり、各所で引用されていますし、ウェブサイトでも資料や動画で見ることができます。言うまでもなく、管理人は車で深い冠水道路を走ったことはありません(バイクはあります)。でも、ちょっと調べればわかるんです。


ただ、管理人はこんな個別の内容が問題だと考えているのではありません。忌むべきは、防災の「専門家」とか「プロ」とか自ら名乗る連中が、自分が出す情報に対して全く不勉強で、裏づけも取らずに安易な思いつきや受け売りを垂れ流している例があまりにも多いということなのです。しかしそれが正しければまだ良いものの、上記のような大ウソや、実際にはできもしない机上の空論だらけなんですよね。

だからこそ「本当はどうなんだ」を追求する当ブログが誕生したわけなのですが、こうやっていつまでも揚げ足取りみたいなことやらなければならないのでしょうか。それ以前に、命に直接関わる情報が、こんな低レベルのままで良いのでしょうか。そのような半端な「専門家」を重用する、メディア方々に特にお考えいただきたいと思います。

面白いことに、防災の「専門家」や「プロ」を名乗る人種は、書籍、放送、ブログなどでいくら間違ったことを言っても、現実には違うことが起こっても、一切責任は問われないし批判もされないですね。批判しているのは当ブログくらいじゃないですか?でも批判されないのは、最初からそれだけ信用されてないということの証左でもあります。まあ、こんな連中ばかりだったら、信用しろと言われても管理人が最初に反対しますが(笑)


今年起きた一連の豪雨災害でも、「山崩れの兆候」というトリビアを知っていたとしても、何か役に立つことがあったでしょうか?以前の「防災情報」はそんなのばかりでしたが、手前味噌ながら、当ブログではずっと前から「夜間や豪雨下では察知不可能だから早期の避難を」と指摘して来ました。

このように、直接命に関わる情報が、影響力のあるメディアを背景とした一部の「専門家」や「プロ」を名乗る連中によってゆがめられ、本当に大切なことが伝わっていないことが、あまりに多い。「専門家」や「プロ」という肩書きは信頼の証でなければならないのに、現実は程遠いということが歯がゆくてなりません。

皆様も、そんな不良情報にだまされませんように、くれぐれもご注意を。命に関わるのです。この情報はどうなの?というのがありましたら、ぜひ管理人に聞いてください。お答えします。


■この記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2013年10月20日 (日)

【EDCグッズ18】自動車に備えるEDCグッズ 補足

自動車に備えるEDCグッズ「B装備」で紹介した、米軍折りたたみスコップの代替品について補足します。

米軍折りたたみスコップは、かつては中古品が安価で入手できたのですが、最近は新品がごく少数流通するだけで、価格も数千円します。ですから非常時に備えて普段は寝かせておく装備としては、あまり現実的ではありません。

そこで、米軍折りたたみスコップに近い機能を持つ代替品を紹介します。
Scop_021
Scop_020
これはマルチクラフトというブランドの折りたたみスコップです。

実はこの製品、米軍制式の折りたたみスコップを参考というかコピーしたものです。
Scop_023
下が米軍のもので、ご覧の通り大きさ、デザイン、構造ともにそっくりです。

さらに、米軍スコップには無い機能も追加されています。
Scop_022
ご覧のように、折りたたみ式のツルハシがついており、硬い地面を掘るときには役立つでしょうが、使用状態(画像)でのバランスは決して良いとは言えません。

米軍スコップとの違いは、その頑丈さです。米軍の方がブレード、シャフト共に鉄板が分厚く、折りたたみジョイント部もずっと頑丈です。ブレード部の端がかなり鋭く研いであり、セレーション(ギザギザ)部分はロープを切ったり、細い枝を落としたりするのにも使えます。軍用スコップはシャフトをテコに使ったり、対人戦闘用武器としての使用も想定しているので、非常に頑丈で鋭い造りになっているわけです。管理人は、暴漢にナイフを振り回されるより、このスコップで襲われる方がずっと恐ろしいと思いますよ。

これに対しマルチクラフト製は、それほどの頑強さは無いものの、キャンプや避難生活用としては十分な強度がありそうです。ブレードの端にセレーションが切ってありますが、こちらのブレードは角がむしろ丸められているので、ロープカッターや簡易ノコギリとしての機能はありません。

マルチクラフト製は必然的に軍用品には劣るものの、通常の使用には必要十分な性能で、価格を考えればコストパフォーマンスは十分に高いと言えるでしょう。車の中のEDC装備としてお勧めです。

なお、米軍放出の折りたたみスコップは、かつては500円程度で中古品が入手できたのですが、近年は市場から消えました。ほぼ同等品が新品で販売されることがありますが、価格は4000円以上します。

■このシリーズは、カテゴリ【防災用備品】です。

2013年10月18日 (金)

【EDCグッズ17】自動車に備えるEDCグッズ 05

今回は、管理人の自動車用EDC「C装備」を紹介します。管理人が考える「C装備」とは、車中泊も含めて車中で長時間過ごすための装備が中心ですから、車載装備としては一般的で無いものも含まれます。なお、管理人の自家用車はミニバンタイプです。

今回は画像が二枚です。まずは一枚目。
C_eqip02
両画像に赤色誘導灯(通称ニンジン)がダブってしまいましたので、そちらから。

これこそもっている方は少ないと思いますが、あると意外に役立つものです。管理人はかつてイベント業界におりましたので現場用として自前で用意しており、その名残でもあります。使用方法としては、最も多いのが事故現場などでの交通誘導。実際に何度も使っています。

車に標準装備の三角停止表示板を使用する時には、ニンジンを点滅モードにして反射板の前に置くと反射板が点滅しているように見え、遠距離からの視認性が格段に良くなります。また、非常停止中の車のサイドミラーやリアゲートに引っ掛けておくだけでも、遠距離から良く見えます。そのため、普段は運転席シートの背面ポケットに入れてあり、非常停止したときにすぐに取り出せるようにしています。

停電下や災害被災地など真っ暗な場所で駐車や車中泊をする場合、ここに車がいて人が乗っているという事を示すために、ミラーにかけたりダッシュボードに置いたりという使い方もします。

その左は、何かと役に立つウェットティッシュ。その用途は説明の必要は無いでしょうが、注意すべきは、使用途中のものを暑い車中に置いておくと、水分が蒸発してカラカラになってしまうことがあるということです。ですから、100円ショップものでも、フィルムで包装された未開封のものを常時ひとつは用意して置くと良いでしょう。

その左は、マジックテープで筒状にまとめられるエマージェンシーブランケット。下に敷いたオレンジ色の袋に入っています。これは大人がくるまれる十分な大きさがありますので、仮眠時など何かと役に立ちます。冬の交通事故現場で、救急車が来るまで負傷者を保温するのに使ったこともあります。

その左は3シーズン対応の封筒型シュラフ。あまり寒く無いシーズンであれば、シュラフとしてだけでなくジッパーを開いて掛布団や敷布団代わりに使うこともできます。毛布、防寒衣とこれがあれば、外気温がマイナス5℃くらいまでは車中で快適に過ごせるでしょう。

下にあるのは、キャンプ用でおなじみの銀マット。これは車中用というより、車外で寝るような場合を想定して積んでいます。丸めた状態でタオルを巻けば、枕にもなります。

二枚目画像に行きましょう。
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ニンジンの下にあるのは、シガーライターから電源を取れる蛍光灯。これは車外用の照明です。より消費電力が少ないLEDタイプに更新したいのですが、大抵は5000円近くするのでためらっています(笑)

中段左側は、LEDヘッドランプ二個。車に懐中電灯を装備していることは多いのですが、それが必要になる場面をいろいろ想像してみてください。タイヤ交換、エンジン点検、チェーン着装など、大抵は両手を空けたい時ではないですか?ならばヘッドランプの方が使い勝手が良いわけです。車中で細かい作業をする場合にも重宝です。

その右にあるのは、単4電池三本使用のLEDライト。特にカー用品というわけでは無いのですが、これをマジックテープで天井に取り付けられるようにしてあります。車のルームランプはバッテリーを消耗するので、なるべく点灯したくありません。500円くらいのものですが、本来のメインルームランプ以上の明るさがあります。なお、管理人の車は、すべてのルームランプを電球よりはるかに消費電力が少なく、しかもより明るいLEDに交換済みです。

下段左はインバーターソケット。シガーライターの12V電源を100Vに変換するコンセント付きなので、家電品が車中で使えるようになります。USB端子もついているので、PC、携帯、スマホなどの充電にも使えます。なお、これとは別にUSB端子付きのシガーライター分岐ソケットもつけているので、走行中でも携帯、スマホの充電が可能です。

最後は、その右にある変な形の白いもの。特にこの製品に限るものではないのですが、実はこれ、本来は家庭用の虫除けスプレーです。車中で過ごすときには窓を開けておきたいことも多いわけですが、そこでかなり悩まされるのが、虫。特に蚊が多い場所では、まともに寝ることもままなりません。そのため肌に塗るタイプの虫除けは最低限必要ですが、それに加えて、部屋や車の中に撒いておくと虫の侵入を防ぐ、このタイプの虫除けがあるとより快適です。シュっとひと吹きするだけで、数時間は虫の侵入を効果的に防ぎます。

火気の安全と通気が確保できるのなら、蚊取り線香を焚くのが一番安上がりではありますので、夏の花火着火用に使った蚊取り線香も車の中に残したままです(笑)この虫対策、車中泊の意外な盲点ではあります。もちろん、車を避難シェルターに使っている場合も重要な問題です。

そこで、今回の最後にちょっとしたトリビアなど。

蚊取り線香の原料のひとつは「除虫菊」という殺虫成分(ピレスロイド)を含んだキク科の植物ですが、他のキク科の植物にも、多少はその成分が含まれているのです。というわけで、ぜひ使いたいのが川原などに自生しているヨモギ。

汚れを気にしなければ、ヨモギの葉を揉んで、その汁を肌にすりつけると、多少は虫除け効果があります。また、焚き火の中にヨモギの葉をたくさん投入して、煙でいぶすのも効果的です。大量のヨモギを置いておくだけでも虫はあまり近寄って来ないはずですから、特に夏場の避難生活でヨモギをみつけたら、たくさん集めておきましょう。最悪、食べられますし。


というわけで、ここまで管理人に自動車用EDCグッズをABC各装備に分けて紹介してきました。ご参考になりましたでしょうか。あまり一般的でないものも含まれますが、考え方はご理解いただけるものと思います。自動車をサバイバルボックス化しておくことで、移動時の安心感はより大きくなりますし、災害被災時の暮らしも大きく変わります。なんでもかんでも載せておくのはお勧めしませんが、皆様のご事情に合わせて、いろいろ考えてみてください。

今回で、「自動車に備えるEDCグッズ」を終了します。


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伊豆大島の大惨事を検証する

台風26号は、伊豆大島に未曾有の大災害をもたらしました。犠牲者、行方不明者の数はもとより、その大規模な山体崩落は、まさに「過去に例の無い」災害となってしまいました。このような状況を見るにつけ、ただただやりきれない思いにとらわれます。犠牲になった方々のご冥福と、行方不明の方々の一刻も早い救出を祈らずにはいられません。

それにしても、今年になってから既に何回「過去に例の無い」という言葉を聞いたでしょうか。我が国を取り巻く気象は、このようなことが普通に起こる状況になってしまった、それだけは確かなようです。

今回は、いささか拙速ではありますが、伊豆大島でなぜこのような巨大災害が起きてしまったのかを現時点でわかっていることから検証し、そこから得られる教訓を見出してみたいと思います。

■なぜ豪雨となったか?

台風26号の接近に伴い、台風に向かって北から吹き込む冷気と、台風が「引っ張って」来た暖気が伊豆大島付近の海上で衝突し、強力な寒冷前線が発生しました。北からの冷気の上に、南からの暖気が「乗り上げる」形になったのです。

そこでは強い上昇気流によって強力な積乱雲が急速に発達し、伊豆大島に時間雨量80〜100mmという豪雨をもたらしました。さらに寒冷前線はしばらくそのまま停滞し、伊豆大島は長時間に渡って豪雨帯の中にすっぽり入っていたのです。このため、連続雨量800mmを超える「過去に例の無い」膨大な降水に見舞われました。

■被災地の条件は?

伊豆大島は三原山の噴火によって形成された「火山島」で、急斜面のすぐ下に市街地が広がっています。表層近くの土は、比較的もろくて重い火山灰土が中心です。普段から流水によって火山灰土が流出しており、居住地域の手前には、それを止めるための砂防ダムが造られていました。

■その時、何が起きたのか?

火山灰土は本来水はけが良いのですが、今回はあまりに降水量が多かったために、その下の不透水層との間に大量の水が染み込み、表層の火山灰土がはがれて崩落するという、「表層雪崩」と似た状態になったと思われます。市街地の背後の山体が大規模に崩落し、膨大な量の泥土と巻き込まれた樹木が直線的に流れ下って高速で市街地を襲い、致命的な破壊をもたらしました。大量の樹木によって破壊力を増した泥流は、瓦礫を巻き込んだ津波とそっくりの破壊をもたらす、まさに「山津波」そのものだったのです。

泥流の一部は沢筋の谷間に集中し、溢れた泥流が沢筋に沿った建物を押し流しました。そして一部は海岸にまで流れ下りました。犠牲者の一部は、海岸や海上で発見されています。

■兆候はあったのか?

これは想像ですが、おそらく崩落のしばらく前から、沢筋を流れる泥水が増えていたり、斜面から泥水が吹き出すような現象が見られたはずです。しかし発生時間は深夜、しかも豪雨の中ですから、それを察知することは困難だったでしょう。

崩落が始まってからは「雷のような」山鳴りや、おそらく木々がなぎ倒され、根がちぎられる音と思われる「バチバチ」というような音が聞こえたとの証言がありますが、その段階からできる避難行動は、せいぜい二階に上がれるかどうか、というくらいだったでしょう。つまり、何か異変を感じてからの避難行動では、ほとんど間に合わなかったはずです。

■対策は可能だったか?

被災地区の災害危険度がどのように判定されていたかについては、管理人はまだ良く把握していません。しかし「土砂災害危険地域」であったことは間違い無いでしょう。しかし火山灰土は元来水はけが良く、歴史上このような大崩落が起きたことも無かったので、現実的な脅威として想定されていなくても、ある意味で仕方なかった部分もあるかと思います。仮に崩落が起きたとしても、これほどの規模になるとは予想しにくかったでしょう。

その後の報道によれば、短時間雨量は「特別警報」レベルに達し、崩落前に「土砂災害警戒情報」も発表されていたとのことですが、豪雨の深夜であったために避難勧告の発表がためらわれたとのことです。行政の責任云々についてはここで論じませんが、仮に避難勧告が発表されていたとしても、このような大災害に発展するとは多くの人が考えていなかったはずで、人的被害を激減させられたかどうかについては疑問が残ります。実際に避難行動を行おうとしても、十分な装備が無い人やお年寄り、幼児などには、外に出るだけでも非常に危険な状況だったはずです。

もし管理人が現場にいたとしても、あの状況で避難勧告の発表があっても最短時間で避難行動に移れたか、正直なところ自信はありません。避難行動を始めたとしても、自分や家族が豪雨に対応する装備を整えたり、近所に声をかけたりしたでしょうから、間に合わなかった可能性も少なくありません。しかも今回は土地勘の無い観光客も巻き込まれているようで、もし自分がそうだったらと考えると、あまりに困難な状況だったと言わざるを得ません。

■今後、何ができるか?

今回の大惨事の最大の原因は「過去に例の無い」豪雨であり、それが「過去に例の無い」大崩落を引き起こしたのです。各地で「過去に例の無い」と形容される気象状況が多発するようになった我が国で、ある意味で起こるべくして起こった災害であり、それは伊豆大島に限らず、日本中どこでも起きる可能性が急速に高まっているのです。

そのような状況下で、今回の大惨事の教訓を見出すとすれれば、つまるところ個人個人がセルフディフェンスできるようになることしかありません。過去にとらわれず、行政頼みでもなく、それぞれが自分の居場所に起こる危険を知り、気象状況や周囲の様子を自ら判断して、必要と考えればためらわずに避難行動を始める、それだけがこのような状況から「生き残る」道なのです。言うまでもなく、自分の居住地だけでなく、旅行や仕事で行っている先でも、同様の行動ができなければなりません。土地勘の無い「アウェイ」の方が、条件はより厳しくなるのです。どんな理屈をつけても、結局は「早く逃げる」しか方法は無いのです。

そのような意識や知識を醸成するためには、特に若い人に対する防災教育が重要だと、管理人は考えます。中学や高校などで防災教育を必修とし、避難訓練のついでに講話を聴くようなものではない、実践的な教育を反復することが、結果的に将来の犠牲を最も少なくする道であるはずです。

最後は大きな話になってしまいましたが、今回の大惨事について、現時点で管理人が検証し、感じたことをまとめさせていただきました。

改めまして、犠牲になられた方々のご冥福と、行方不明の方々の一刻も早い救出をお祈りします。

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2013年10月15日 (火)

台風26号接近【特に暴風に警戒を】

台風26号が、10月16日に東日本を直撃する公算が高くなってきました。15日1300時時点での勢力は中心気圧945ヘクトパスカル、中心付近の風速40m/秒、瞬間最大風速55m/秒という強い台風です。

今回は前線を伴っておらず、雨の量は台風18号ほどにはならないと考えられますが、川の氾濫や土砂災害を引き起こすレベルには十分に達するでしょう。また、南方海上から暖かく湿った空気が流入するために大気が不安定になり、局地的な突風や竜巻が発生する可能性もあります。

警戒すべき優先順位としては、まず台風自体の暴風被害、次に豪雨による氾濫や土砂災害および高潮、次に局地的な突風や竜巻被害と考えて良いかと思われます。

台風自体の強風はもとより、局地的な突風や竜巻に関しては、台風の場合は日射の無い夜間に発生することもありますので、特に就寝時は雨戸やシャッターを閉め、雨戸が無ければ厚手のカーテンなどで窓を覆い、なるべくガラスから離れた場所で寝るなどの対策が必要です。

窓ガラスから安全距離が取れない場合は、ガラスの内側に放射状(米印状)にテープを貼っておけば、強風や小さな飛来物によって破損した場合も、破片の飛散をかなり抑えられます。貼るテープは「養生テープ」をお勧めします。「養生テープ」は引っ張り強度がかなりある一方で、あとで簡単にはがせます。ガムテープの方が飛散防止効果は高いのですが、はがした時に糊が残ったりしやすいのです。「養生テープ」は、ホームセンターで安価に入手できます。

これは戦時中に行われた空襲による爆風対策と同じことで、狙う効果も全く同じです。
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但し、自然の暴風や竜巻の風速は、爆弾による爆風よりはるかに低速なので、より大きな効果が期待できます。ちなみに、爆弾による爆風(圧搾空気界)は音速に達します。

関東地方では、16日の通勤時間帯にはかなり風雨が強くなっていることが予想されますので傘は役に立たないと考え、レインコート、カッパ、ポンチョの使用をお勧めします。管理人は、そのような時にはポンチョを使いますが、ポンチョの欠点は、風を受ける面積が大きくなるので、凧のように煽られやすいということです。

対策として、腰の部分をひも、ベルト、大きなスカーフなどで締めてシルエットを小さくすることで、風の抵抗を減らすと良いでしょう。ちなみに管理人は、パラシュートコードか荷役用のバックル付ナイロンベルトを使います。

カッパやポンチョがあれば、交通機関が止まって駅などで長時間待機しなければならない場合にも、グラウンドシート代わりにしてどこでも座り込めるので重宝します。もちろん、寒い場合には防寒衣にもなります。

台風時は停電する可能性もありますから、外出中でも家の中でも、ライト類をすぐに手に取れる場所に用意しておくことも大切です。台風が通過するまでは、家の中でも小型のライトを常時ポケットの中に入れておくくらいが安心です。


今回の台風26号では「特別警報」が出るような可能性は低いのですが、「警報」の段階で自分の居場所周辺の状況を見極め、少しでも不安があれば、早いうちに避難行動を始めなければなりません。むしろ、「警報」前に安全な場所に移動しておく方がより望ましいのは言うまでもありません。何より、その方が「楽に」避難できます。当然、その前提として自分の居場所に起きる危険が暴風災害なのか水害なのか土砂災害なのかを知っている必要があります。

危険を察知しても、台風が接近してからでは暴風や豪雨で避難行動ができないこともあります。そんな場合は次善の策としてどうするかまで考えておかなければなりません。

どこまで警戒態勢を取るかは、それぞれのお考え次第です。しかし現実が警戒態勢を超えた場合にはなす術が無くなり、生命の危機に陥ります。必要なことは、根拠の無い希望的観測など一切捨てて、堂々と「臆病」になることなのです。

カテゴリ【気象災害】の記事に、具体的な対策などがまとめてありますので、「静かなうちに」是非ご覧ください。

■カテゴリ【気象災害】の記事はこちらから


■この記事は、カテゴリ【気象災害】です。

チャリティー企画予告【大サプライズあり!】

かねてから当ブログ上で告知している福島の被災動物支援チャリティー商品販売企画は、準備が着々と進行しております。

そして、大サプライズ企画が実現することになりました!


実は、著名な漫画家先生にご協力いただけることになり、管理人は昨日、打ち合わせにお邪魔して来ました。

オリジナルの画を描いていただけるだけでなく、ファン垂涎のアイテムもチャリティー用にたくさんご提供いただきましたので、それも併せて販売の予定です。

詳細は近日発表いたします。でも、どなたか気になりますよね(笑)


では、最後にヒントを。

下記の四つのキーワードから連想される漫画家先生と言えば・・・?

「応援団」

「単車」

「恐竜」

「ももいろクローバーZ」


・・・ファンの方ならもうお判りですよね。ご期待ください!


■この記事は、カテゴリ「日記・コラム」です。

☆再掲載☆高層ビル編01【首都圏直下型地震を生き残れ!27/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■

今回からは、自宅アパート、マンションやオフィスが入っている高層ビルでの防災を考えます。本文における高層ビルとは、10階建てくらいから数十階建ての超高層ビルまでをイメージしています。そのような建物は、地震によって一戸建てや中低層ビルとは異なる、特異な影響を受けるのです。

とはいえ、高層ビルは必然的にその構造強度が高く、地震によって完全崩壊する可能性は非常に低いですから、かなり安全性が高い場所だと言えます。しかしその特性上、地震の揺れを増幅しますので、特に中高層部の室内では、揺れに対する対策を特に強化する必要があります。

高層ビルでの地震対策を考える場合、まず「長周期地震動」について、多少は知っておく必要があります。東日本大震災以降、良く聞くようになった言葉ですね。ただし管理人は、地震のメカニズムに関する知識など対策をする上ではほとんど必要無いと考えています。野球理論をいくら勉強しても、野球は上手にならないのと一緒です。知らなければならないのは、野球が上手くなるためには「何をしなければならないか」、それを「どうやるか」ということだけです。

もちろん、関連する知識は多いに越したことはありません。しかし、最近の「防災本」の類を見るにつけ、地震のメカニズムや想定データの解説などに内容の大半が割かれ、個人で行うべき対策など、通り一遍の内容が一割以下のようなものが、あまりにも目に付きます。そんなものを見ていると、メカニズムやデータの知識を増やしただけで、「生き残る」力がアップするような錯覚に陥りそうです。

震災以降、防災に関する情報は激増していますが、よく見てください。「こうすべきだ」という情報は山ほどありますが、それをどうするかというものはごく僅かではないですか?べき論だけで生き残れるなら、苦労はしません。

必要なのは、大地震が来たら自分の身の周りで何が起きて、それに対して「実際には」どうするか、それだけです。ちょっとマニアックな例えで恐縮ですが、管理人はバイクに乗ります。初心者ライダーへの指導で「肩の力を抜け」と、誰もが必ず言うのですが、肩を意識しても力は抜けません。そこで管理人は、「グリップを握る握力を半分にする気持ちで」と教えます。そうすると、自然と上半身の力が抜けるのです。

このように、「実際にはどうやったら所期の目的が達成できるか?」、「問題を起こしている根本の原因は何か?」という視点が無ければ、そんな情報は絵に描いたモチに過ぎません。これは決して防災に限った話ではありませんが。ですから、当ブログでは上記のような視点と、「その時何が起きるか」という知識を補強する視点から、地震のメカニズムを解説して行きます。加えて、多少はマニアックな部分(笑)にも踏み込んで行きたいと思います。


ではまず「長周期地震動」とは何か、という問題から。イメージ的には、超高層ビルをゆらゆらと揺らす地震、という感じでしょうか。実際には、かなり誤解されている部分があるのではないかと思います。例えば、高層ビルのゆっくりとした揺れ自体が「長周期地震動」だと思われていたり、「長周期地震動」が震源で発生することがあるとか。

「長周期地震動」の定義としては、揺れの周期が2秒から20秒程度の、ゆっくりとした地震動のことです。その中で、周期2秒から5秒程度の揺れは、「稍(やや)長周期地震動」と分類されることもあります。なお、揺れの周期による分類はあまり厳密では無く、資料によって差が見られます。

ところで、「長周期地震動」を震源で発生させる地震というものは、実は存在しません。「長周期地震動」とは、地震の揺れが地下を伝わって来る過程で発生し、さらにその場所の地盤の状態によって増幅される現象のことなのです。基本的に、地震は震源からの距離が遠くなるほど、揺れの周期が長くなる傾向があります。これは地震波が伝わる課程で、地表近くを伝わる「表面波」や、地殻内で屈折、反射をした地震波が合成されて「ゆるやかな」地震波になるからです。水の波紋が、発生した場所から離れるほどゆるやかな波になるのと似ています。

そのように、震源からの距離があるほど、揺れの周期が長くなって行きます。そしてある条件の地盤に到達した時、さらに周期が長く、持続時間の長い揺れを発生させます。その揺れこそが、特に震災以降、都市部で何かと問題にされる「長周期地震動」の正体であり、高層ビルに大きな脅威をもたらすものなのです。

東日本大震災では、本震震源から500km以上離れた関東どころか、1000km以上離れた関西でさえ「長周期地震動」が発生し、高層ビルを大きく揺らしました。大阪の震度は3程度だったのに、多くの人が高層ビルから脱出したのをご記憶の方も多いでしょう。普通の地震ならあり得ない光景ですが、あれは遠距離の超巨大地震と地盤の状態の相乗効果によって起きた現象なのです。

では、高層ビルにとって危険な「長周期地震動」を発生させる地盤の条件とはどんなもので、どこで発生するのでしょうか。次回に続きます。


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2013年10月10日 (木)

☆再掲載☆大火災編16【首都圏直下型地震を生き残れ!26/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■


今回は、引き続き「昼間人口」の危険について考えます。
東日本大震災以来、大都市の「昼間人口」、つまり災害時に帰宅困難が予想される層に対して、「すぐに帰るな」という指導が一般的になって来ました。当ブログでも過去に「すぐに帰るな」という表現をしましたが、正確には「すぐに帰ろうとするな」と表現すべきでしょう。

災害時には、だれもが一刻も早く家に帰りたいもので、その気持ちは止めようがありません。しかし帰宅途上に予想される危険があまりに大きいため、状況が落ち着くまで踏みとどまるべきなのです。ならば、途上の安全が確認できれば、すぐに帰宅行動を始める選択肢もあり得ます。

私事で恐縮ですが、管理人はかつて埼玉南部から東京・浅草に通勤していました。そこは関東大震災、東京大空襲で焼け野原となった、火災危険地帯のまっただ中ですから、その当時は、大地震が発生し、大火災の延焼が予想される場合には都心方向のビル街、つまり大火災の危険が比較的小さな場所へ移動して、待機するつもりでした。帰宅方向とは逆です。

その一方で、すぐに帰宅する選択肢も考えていました。それは、可能性は少ないものの、隅田川を遡上する船に便乗する方法でした。埼玉県内まで行ければ、自宅は徒歩圏内です。これならば、余震や大火災、道路渋滞、橋の落下、そして津波の危険をかなり避けることができる、理想的な帰宅方法だったのです。

このように安全性が確保できる方法があるのならば、それもひとつの選択肢ではあります。しかし、それは滅多にありません。

行政やマスコミが「すぐに帰るな」と喧伝する一方で、待機中にどうしろという情報は、全く見かけません。企業や公共施設で帰宅困難者を受け入れる体制がどうのという情報ばかり目立ちますが、そんなものは650万人に上るとされる帰宅困難者の前には、事実上焼け石に水です。もし入れたらラッキーくらいの感覚でいるべきです。

そして大災害後は、どこにいてもその場所が待機中ずっと安全であるという保証は、全く無いのです。余震や津波に対して安全である場所も、大火災には太刀打ちできません。周囲が火に囲まれたら、致命的な状況になります。火災旋風は、まさにそのような、多方面から火が迫る状況で発生しやすいのです。

また、火災旋風はビルの風下側など、風が渦を巻きやすい場所でも発生することが、実験で確認されています。いわゆる「ビル風」が吹く場所も、火災旋風の危険地帯なのです。これは頑丈で耐火性の高いビル内にいても、周囲が一瞬で火の海になる可能性もあるということです。

また、高層ビルに囲まれた広場や公園には多くの避難者が集まるでしょうが、周囲に火が迫ったら、そこを火災旋風が襲う可能性が高いということでもあります。その場に火が無くとも、大火災が発生させる強風で竜巻が発生し、それが周囲から火を「引き込む」のです。ビル内にまで延焼する可能性も、決して小さくはありません。直接的に火を巻き込まなくても、数百℃の熱風による火災旋風が発生する可能性も指摘されています。

そこで必要なことは、当テーマの記事で述べた通り「24時間の火災監視体制」を構築しなければならないということです。大火災の勢力が収まるまでは、火災の延焼状況を常時監視し、逃げ場を失う前に「無駄足を恐れずに」避難行動を始める、最悪の状況下では、それしか「生き残る」方法はありません。実際、そこまでの「最悪の状況」になるかどうかはわかりません。しかし、そうなる可能性がある以上、最大限の安全を確保する行動を続けなければなりません。判断ミスは、一回たりとも許されないのです。

そこまでの状況で無ければ、自分の進むべき方向に大火災が発生していない、道路が車や人の渋滞で動けないような状況ではない、余震の際もある程度の安全が確保できる、途中の橋の落下や道路障害に対して、予備のルートが確保できるというような状況があれば、移動を開始するのも一つの選択肢なのです。

ここで注意しなければならないのは、以前の記事にも書きましたが、「確かな情報が入手できなければ動くな」ということです。デマや、裏付けが取れない誤った情報を信じ込んだり、ましてや「きっと大丈夫だろう」という希望的観測で行動を開始しては、取り返しのつかない事態になることもあります。あなたひとりならまだしも、他の人々を引率する場合には、これは非常に重要なポイントです。ですから、正しい情報の入手に全力を尽くさなければなりません。

このようなことを書くと、「手遅れになる前に動けとか、すぐ動くなとか、どっちなんだ」という文句のひとつも出そうです。しかし、管理人は理屈を並べて言葉遊びをしているのではありません。忘れてはならないのは、災害はあまりに「理不尽」だということです。

個人の都合も考えも、一切関係ありません。「生き残れる」状況にいた人が生き残り、そうでない人が犠牲になる、ただそれだけです。すべては状況次第です。その理不尽さを、我々は東日本大震災という巨大災害で改めて目の当たりにしたばかりですし、その後も災害が起こるたびに繰り返されています。

すべては、そのような理不尽な状況から少しでも離れて「生き残る」可能性を高めるためです。そのために不可欠なのが、正しい知識、正しい判断と行動、それをサポートする正しい装備です。そして、それらの大前提となるのが、「正しい情報の把握」ということであり、それが当シリーズだけでなく、当ブログ全体のメインテーマでもあります。


今回で大火災編を終了し、次回からは「高層ビル編」をお送りします。


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2013年10月 9日 (水)

【EDCグッズ16】自動車に備えるEDCグッズ 04

■EDCとはEvery Day Carryの頭文字。毎日持ち歩く装備を意味します。

今回は、管理人の自動車用EDC「B装備」を紹介します。

あまり一般的では無い装備も含まれますが、管理人は降雪地に行ったり、被災地でボランティア活動をしたりもしますので、そのような経験も反映させたものになっています。
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画像右上の赤いものは、防寒用の化繊綿ジャケットで、寒冷地での「防寒作業服」として使っています。ホームセンターで1000円くらいで購入したものですから、汚れても破れてもあまり気になりません。色が赤なのは、雪や木立の中で目立つ色だからです。冬場には、同乗者のひざ掛けとしても重宝しています。

その左の緑系迷彩色のものは上下セパレートのレインウェアで、雨や雪の中での重作業を想定しています。管理人はモータースポーツ観戦にも良く行きますが、悪天候の時もあります。そのように、強い雨の屋外で長時間過ごす場合には、このくらいの装備があると快適です。

その左の黄色は、レインコートの上着。これはかなり使用頻度が高いもので、雨の中で荷物を積み卸ししたりする時に、ぱっと羽織れて便利です。雨の中で交通事故現場に遭遇した時にも実際に使ったことがあり、そんな場合にも視認性が高い蛍光イエローです。

その左の茶色の長靴は、知る人ぞ知る、日本野鳥の会オリジナルの携帯用ゴム長靴です。本来はバードウォッチングで水辺などに降りたい時のために開発されたもので、折り畳んでB5サイズくらいのポーチに収まります。

ソールは泥地でのグリップ力に優れていますし、膝下までの長さで上部をひもで締められますので、水や泥が入りずらくなっています。しかも全体的にソフトでフィット感が高く、長距離を歩いても足にあまり負担かからないので、水害などのからの避難時には理想に近い性能です。デザイン的にも優れているので、普段使いや悪天候の帰宅困難時用装備としてもお勧めできます。

その左にある青と黒のものは、防水ブーツカバーです。長靴を履くほどでもない状況を考えて、とりあえずという感じで入れました。防水性能がある靴と合わせれば、膝下を水濡れから守ります。深い雪の中でも重宝しますし、豪雨の街中などで使いたいものです。格好より、機能です。

手前にあるオレンジ色のものは、ビニール製の簡易ポンチョです。実は雨天のレース観戦時のいただきもので無料。これを5枚積んでいます。これは、悪天候の高速道路で非常停止した時、ガードレールの外などに避難する場合を想定して、家族分+αの数にしています。そんな場合、傘など大して役に立たないでしょうし、危険ですらあります。もちろん、他にもあらゆる防水・防寒に役立ちます。特に冬場の屋外では、これ一枚あるかないかで天地の差となります。これはたまたまですが、色は蛍光オレンジで視認性抜群ですから、安全のためにも、救助を求める際の目印としても最適です。

前列中央の緑色のケースには、米軍放出品の折りたたみスコップが入っています。車が雪や泥でスタックしたときの脱出用途を主に想定していますが、非常時には様々な用途に使えます。例えば、地面に穴を掘って「A装備」のブルーシートを目隠しに使えば、簡易トイレが簡単に作れます。なお、この米軍スコップ、以前は中古品が500円程度で入手できたのですが、現在は新品がごく僅かに出回る程度で、価格も数千円します。しかし装備しておくと災害時には非常に便利なものなので、現在入手できる代替品を、後日別記事で紹介します。

最後は20mのロープ。これは荷役用で、人間を吊ったり車を引っ張れるほどの強度はありませんが(牽引ロープはもちろん別に常備しています)、使い道はいろいろです。管理人は、主にブルーシートを張ることを想定してます。二点間に張り渡してブルーシートをかけ、四隅を固定すれば簡易テントになりますし、車に差しかけるためにも使えます。当然ながら、装備しているブルーシートは、ロープを通せるハトメ穴がついているものです。

なお、ロープを装備する際には、基本的な結び方を何種類か覚えておかないと案外使えないものですから、教本などを見て練習されておくことをお勧めします。


以上のものを、画像左上のコンテナに入れて車載用「B装備」としています。内容的にはかなりアウトドア活動に寄ったもので、どなたにでもすべてお勧めするものではありません。しかし、車で移動する際は常に「アウトドア」なのです。車の中は、普段は部屋の延長線上という感覚ではありますが、非常時には車を放棄しなければならなかったり、エンジンをかけずに長時間待機しなければならないこともあります。

管理人は、かつて北海道を車で走り回っていたこともあり、寒さや悪天候に対する恐怖感がかなり強いので、このような装備になっているという部分もあります。正直なところ、今は関東にいながら、実はこれでも不満足なのです(笑)

それはさておき、このように「防水・防寒」を重視した「B装備」で皆様にも是非お勧めしたいのは、ポンチョやレインコートなどの雨具を、乗車人員分用意することです。100円ショップものでも十分役立ちますから、そこから装備されてはいかがでしょうか。悪天候の中で車から出なければならなくなった時、そのありがたさがわかると思います。装備される際は、だれもが防寒衣の上から着られるように、最大のサイズにすると良いでしょう。大は小を兼ねます。

そのバックアップ用として、ビニール傘も何本か揃えておくのもお勧めします。例えば、雨の日に高速道のサービスエリアで、広い駐車場を濡れながら歩いている人、多いですよね。そんな時、車からさっと傘が出てきたら、ドライバーの株がぐっと上がりますよ(笑)自動車用EDCグッズは、何も災害時だけのものではありません。

次回は、主に車中で長時間過ごすための「C装備」を紹介します。

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☆再掲載☆大火災編15【首都圏直下型地震を生き残れ!25/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■


今回は、首都圏の「昼間人口」の危険について考えます。
前回掲載した、東京直下型地震が最悪の状況で発生した場合の火災想定図を再掲します。
Photo
このように、現代の東京では都心部をとり囲むように大火災の危険区域が拡がっています。それはすなわち、都心部からどの方向へ行っても、猛火に行く手を阻まれる可能性が高い、ということです。

現在の想定では、東京直下型地震が発生した際に想定される死者数は9700人で、そのうち6200人が火災による焼死とされています。その数字の現実性についてはここで論じることはしませんが、ひとつ確かなことは、この数字はあくまで都内住民の犠牲を想定したもので、「昼間人口」である、一説に650万人にも上るとされる帰宅困難者の犠牲は、全く含まれていないということです。

何故なら、それは「想定しようがない」からです。帰宅のために徒歩移動する集団がどの方面でどのような事態に遭遇し、どのような被害が発生するかなど、前提条件があまりに多岐にわたるために、試算、想定することなど不可能なのです。しかし、例えば徒歩移動する帰宅困難者で「ラッシュ時の駅のような」状態の幹線道路を火災旋風が襲ったとしたら、そこだけで全想定死者数の何倍もの犠牲が出る可能性があることは、過去の事実が証明しています。

それが発生するのか、しないのか。するならば、どこで、どの程度の規模かなどということは、誰も予想することはできません。それは机上の話では無く、ある場所で帰宅困難者の群れに加わっているあなたにとっても、全く同じことです。そして上図が示す通り、その危険はどの方面でも高い確率で存在するのです。


あなたが休日にちょっと外出しようとして空を見たら、真っ黒な雲に覆われていました。用事は特に急ぎではありません。あなたはどうしますか?ならば「今日はやめておこう」というのが現実的な判断だと思います。それと同じことを、大災害時にも考えなければなりません。雨ならばずぶ濡れになるだけで済みますが、この場合は「生き残れない」可能性が大きいのです。

「災害時に一刻も早く帰宅するのは急ぎの用事だ」と思われたあなた、それは何故ですか?家族や大切な人の安否がわからないからですか?ならば、それがわかれば「急ぎの用事」ではなくなりませんか?

今までに当ブログでも何度も提唱していますが、災害伝言ダイヤル、メール、ツイッター、LINE、各種SNS、スカイプやネットの安否確認サービスなど、できるだけ多くの連絡手段を普段から確保、打ち合わせしておき、それで家族などの安否がわかれば、かなり余裕が生まれます。無事が確認できれば、危険を犯してまで無理に帰宅する理由はほとんど無くなります。

もし連絡が完全に途絶しても、普段から災害時の行動についてお互いに取り決めておけば、それぞれの判断で行動しているはずだという安心感も得られます。もし誰かが危機に陥っていたとしても、帰宅までに何時間も、もしかしたら何日もかかるあなたにできることなど、事実上ほとんど無いのです。ましてや、家にたどり着けないかもしれないとしたら。辛くても、割り切りが必要です。

この考え方は、東日本大震災で多数の帰宅困難者が出てからあちこちで言われ始めましたが、手前味噌ながら、管理人は当ブログ本館のmixiコミュニティ「生き残れ。~災害に備えよう~」において、震災以前から提唱してきました。それもどこかの受け売りでは無く、都市が大地震に襲われた時に起こることと人間の心理を考えた上で、どうするのがベストかを自ら導き出した結論です。

そしてそれを「大火災から生き残れ」というテーマ内で述べる理由は、帰宅困難者にとって、大火災こそが最も致命的な危険となるという考えからです。これに関連した当ブログの過去記事がありますので、本文、解説編とも是非ご一読ください。
■【シミュレーションストーリー】地震・帰宅困難編はこちかから
■【シミュレーション解説編】地震・帰宅困難【1】はこちかから
■【シミュレーション解説編】地震・帰宅困難【2】はこちかから

火災は、地震や津波に比べれば、避難のための時間的余裕があります。しかし、身動きが取りにくい群衆の中にいて火災旋風のような現象に遭遇したら、ほとんど何もできない可能性が大きいのです。

津波ならば、少なくとも来る方向はわかりますし、波高以上の高台や頑丈なビルに逃げれば助かります。しかし大火災現場付近での火災旋風は、どこから来てどう動くかもわかりませんし、屋外では事実上逃げ場はありません。屋内でも、建物全体に一瞬で火が放たれますので、逃げ場を失う可能性が高いのです。仮に建物を脱出できても、外は既に火の海です。

その中にあなた自身が巻き込まれていることを、できるだけリアルに想像してください。そして、その上でどのような行動を取るかは、あなた自身の判断です。

次回もう一度、「昼間人口」の危険について考えます。


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2013年10月 7日 (月)

被災動物支援チャリティーのお知らせ

過日、50万PV到達時にお知らせした、「チャリティー活動」について予告させていただきます。

東日本大震災以降、管理人は福島県の地震・津波・原発事故被災動物の救援ボランティア活動をお手伝いしています。震災後2ヶ月後から何度か福島へ赴き、無人となった区域等での保護活動、被災動物シェルターでの飼育活動などを行ってきました。

阪神・淡路大震災の時は、保護動物がすべて飼い主や里親の元に引き取られるまでに約3年かかったそうですが、東日本大震災の場合は阪神よりはるかに被災動物の数が多い上に、特に福島においては、今後半永久的に立ち入り禁止区域が設定され続けること、飼い主の避難生活解消のめどが立たない例が多いことなどから、今後非常に長い期間に渡って保護・飼育を続けなければならないことが確実です。

その費用と人手は、皆様からの寄付や有志の持ち出しとボランティアで賄われていますが、どちらも決して十分とは言えず、常に皆様からの支援を必要としています。このため、管理人としても微力ながら、支援の輪を広げて行きたいと考えております。震災から約2年半が経過しましたが、被災動物保護に関しては、これからが本番と言っても過言ではないのです。

管理人がお手伝いしているのは、福島市に本拠を置く社団法人SORA(そら)という団体です。文末に公式ウェブサイト、公式ブログ、フェイスブックページへのリンクを貼りますので、是非ご覧になってみてください。活動内容やシェルターの様子(ライブカメラもあります)がご覧いただけます。

SORAは、著名人の方からも多くの支援をいただいています。過日はタレントの杉本彩さんがシェルターを訪問されたそうです。他にも「酒場放浪記」の吉田類さんや滝川クリステルさんからも寄附をいただいたり、大阪のプロレス団体FFFさんにチャリティー試合を開催していただくなど、幅広い支援を受けています。しかし、誤解なきように付け加えますが、当然ながらSORAは非営利のボランティア団体ですし、必要な経費・物資・人手は常に不足しているのが現状ですので、さらに多くの支援を必要としています。

そこで管理人としてはノベルティグッズの製作・販売で支援できればと考え、近日、ドロップシッピングサイトでTシャツなどの販売を開始します。ドロップシッピングとは、デザインがアップされたサイトに皆様が直接アクセスし、アイテム、色、サイズなどを選んで、直接注文していただけるシステムです。言うまでもなく収益は全額SORAに寄付し、管理人側の収益は一切いただきません。

デザインはSORA公式のものではなく、当初は管理人デザインのものから始めます。これに関しては、SORA代表者よりグッズ製作の公認をいただいています。しかし、管理人には絵心がほとんどありませんので(笑)、プロも含めた「描ける方」に協力いただくことも打診中ですので、形になりましたら順次お知らせして参ります。ちなみに、絵心の無い管理人デザインは文字とデジタルイラストが中心で、今までにも同様のデザインで配布用のステッカーを作らせていただいています。

もちろん、団体宛に直接のご寄付なども大歓迎です。詳細は公式サイトに掲載されていますので、福島の被災動物のために、是非ともご協力をお願いいたします。


最後に、被災動物支援活動に関する管理人のスタンスについて記させていただきます。

管理人は動物、特に犬好きながら、普段から動物愛護活動をしている者ではありません。ただ、福島で多くの動物が過酷な運命に晒されていることが忍びなく、震災後2ヶ月目から支援活動を始めました。その時にSORAとの縁があり、現在に至ります。

管理人としては、基本的に「人に飼われていた動物」の命を繋ぐことで、できることならば本来の飼い主の元に戻って欲しいのです。動物の命だけでなく、大惨事によって引き裂かれた動物と飼い主との縁を繋ぐことで、人の心をも救うことができるはずだと考えています。単純に、自分のペットが行方知れずで生死さえ不明という状態がいかに辛いものか、それが自分の身に起こったらと考えるだけで、胸が痛みます。

しかし、現在も保護不可能な放浪動物はあまりにも多く、保護された個体も飼い主不明のものが大半で、手がかりもなかなか掴めません。決して、きれいごとだけで語れる状態ではないのです。ですから理念はともかく、今はできるだけ多くの命を繋ぐことのために、微力を尽くしたいと思います。生きていれば、いつかまた飼い主とめぐり合うことができるかもしれないのです。

そのような管理人のスタンスはさておき、福島の動物保護活動の主旨にご賛同いただけましたら、是非ともご支援をお願いいたします。

加えて、もうひとつ告知を。

当ブログのカテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】にて、新作の連載を開始いたします。初回作で登場したヒロイン、三崎玲奈が、今度は震災後の福島へ行きます。事実を参考にしたフィクションとなりますので、ぜひご期待ください。

■(社)SORA リンク集■

●公式サイト●(現在リニューアル工事中です)
http://sora.ne.jp/
こちらをクリック
●Facebook●
☆福島県–SORA animal peace project (公式)
http://www.facebook.com/sorashelter
こちらをクリック
☆Sora Shelter (アカウント)
http://www.facebook.com/fukushima.sora
こちらをクリック
●twitter●
http://bit.ly/K9K6gx
こちらをクリック
●SORAシェルターLIVEカメラ●
福島市町庭坂の保護犬シェルター(屋外)の様子がご覧いただけます。
☆10:00-17:00 30秒毎に静止画が更新されます
http://www.sora-shelter.com/live.html
こちらをクリック


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2013年10月 3日 (木)

電線が行く手を阻む!

今回は、今までほとんど誰も触れなかったけれど、管理人がずっと気になっていたことについてです。

大地震や竜巻が市街地を襲うと、高い確率で起きるのが「電柱の倒壊」です。すると、普段は意識していないものが突然、障害物として行く手を阻みます。電線です。
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上画像は竜巻被害の様子ですが、ご覧のような状態になるわけです。これはまだなんとか通り抜けられる状態ですが、例えば住宅街の細い路地などでは、網の目のように張り巡らされた電線が垂れ下がると、それに触れずに通り抜けるのはほとんど不可能になります。

切れたり垂れ下がったりした電線に「近づいてはいけない、さわってはいけない、またいではいけない」という知識は多くの方がお持ちだと思います。もちろん、感電の危険があるからです。なお、またいではいけないというのは、電線から地面に漏電していた場合、通電している範囲に両足をついた瞬間に感電するからで、落ちた電線をまたぐとその危険が非常に大きいからです。

しかし、緊急避難時はそんな事は言っていられません。例えば、唯一の避難路が電線にふさがれ、そして背後に津波や火災が迫っていたりしたら。電柱が倒れているからと言って、必ずしも停電しているとは言い切れないのです。そこで、管理人がずっと昔から欲しいと思っていたものがありました。「検電器」です。

実は管理人、学生時代にちょっと変わったアルバイトをしました。工場などの変電設備の清掃なのですが、作業時にもすべての電源を落としてあるとは限らないのです。もちろん通電区域は規制表示がされますが、設備や電線に触れる前に、必ず「検電器」で通電の有無を確認します。

業務用「検電器」とは、例えばカラオケマイクくらいの大きさと形で、センサー部を電線に近づけると、通電していれば光と音で警報するというものです。変電設備は生きていれば6000Vの大電圧と大電流が通っていますから、検電器が無いと怖くて触れません。しかし業務用検電器は大きく、価格も普通は一万円以上しますから、家庭用に装備するのは現実的ではありません。

余談ながら、チェックを怠った人のモップの先端が6000Vの電線にわずかに触れた瞬間、バーンという大音響と共に身体ごと2mくらい吹っ飛ばされて、ショックで意識朦朧となるのを目の当たりにしたりもしました。目に見えない電気は、つくづく恐ろしいものです。


翻って市街地ですが、市街地の電線も、実は6600Vという大電圧がかかっています。電流値(アンペア値)はそれほど大きくありませんが、それでも感電したら重大なダメージを受け、生命に関わる可能性も高いのです。さらに、電柱上のトランスで変圧されて、建物内に引き込まれる電線には、100V~200Vがかかっています。こちらは電流値が大きいので、感電したら危険なことには変わりありません。

ですから、網の目のように垂れ下がり、しかも切れているかもしれない電線を何も考えずにかきわけるのは、できればやりたくありません。

そこで管理人、いろいろ探してみましたら、それなりに使えそうなものがありました。あくまで、次善の策という感じではありますが。
Kendenki
これは90Vから1000Vの通電を検知して音と光で知らせる非接触式の小型検電器で、単四電池二本で作動します。家庭内配線の電圧は100Vですから、家庭内から屋外の引き込み線(電柱から建物に引き込まれている電線)まで使えます。画像の製品の価格は1600円で、同様の製品が何種類かありました。

問題は、100V配線の場合、先端のセンサー部を電線の被覆から5mmくらいに近づけないと反応しないということです。さらに高電圧のテストはできていないのですが、かなり近づけないと反応しないようではあります。6600Vとなると検知範囲外ですが、実際にはどんな反応をするのか反応しないのか一度やってみたいものの、さすがにその機会はなかなかありません。

しかし正直なところ、数秒を争う緊急避難時には、悠長に電線一本一本をチェックするなど現実的ではありません。周囲の電気が落ちていたら、すべて停電していると決めてかかって行かなければならないでしょう。でも、多少でも余裕があれば、これでチェックすることによって、安心して通り抜けることができます。

この「検電器」は、防災用として必須の装備とまでは言えませんが、非常時に「あれば多少は安心」のグッズとして紹介させていただきました。なお、ネットで「検電器」で検索すると販売サイトがヒットしますし、ネットオークションにも、業務用も含めてかなり出品されています。


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2013年10月 1日 (火)

被災経験者ねえ・・・【管理人ひとりごと10/1】

先日、新聞でいわゆる「防災セット」の広告を見つけました。なんでも、《阪神・淡路大震災、東日本大震災の被災者と「防災士」の意見を反映した》ものだそうで。ちなみに、管理人も「防災士」ではありますが、実際の被災経験はありません。

防災の基礎知識がある人間が実際の被災生活の経験を生かしてセレクトしたものならば、それはすばらしいセットになるでしょうね。もっとも、販売用としてはコストの関係もありますから、理想的なものを組むことができないくらいはわかります。でもコンセプトは秀逸なはず・・・と思いたかったのですが、ある程度予想してはいたものの、がっかりを通り越して怒りさえ感じましたよ。

そのセットは車輪つきの頑丈なキャスターバッグに収納されていて、まあそれは良いでしょう。緊急避難時に引っ張って行くのは現実的ではりませんが、被災後に、例えば家から避難所へ運んだりするに便利なのは確かです。ただ、広告コピーが理解しがたいものでした。ちょっと要約しますが、

「オフロード用車輪つきバッグで、瓦礫の上もスイスイ」

だと。オフロード用車輪と言っても、直径5cmもないようなブロックパターン車輪に過ぎません。仮に大きなゴムタイヤがついていたとしても、「瓦礫の上もスイスイ」などとは、被災経験者ならば口が裂けても言えないでしょうがね。

まあ、それは「広告コピー」として話半分、いや十分の一くらいに聞くとしましょう。最大の問題は、その商品の最大の「売り」の部分でした。

キャスターバッグを空にすると、中に水槽型のプラスチックバッグをぴったりと入れられるようになっていて、「給水車の太い送水管からも受水しやすく、重い水を女性やお年寄りでも運びやすい」そうなんですよ。ちなみに、バッグは20リットル容量です。

しかし被災直後はひとり20リットルも分配されないでしょうから、仮に半分の10リットルだとしても、10kg+バッグの重量。それを引っ張るだけならば、女性やお年寄りでも大丈夫でしょう。でも、家や避難所についたらどうします?段差や階段上れますか?マンションの上層階だったら?軽くしようとして、ふたの無い水槽型バッグだけ取り出したら確実にこぼれますし、下手すれば破れます。

じゃあ、そこで他の容器に移して小分けにすれば良いじゃないかというのは机上の空論。断水時には、「水が飲めない」ということばかり考えてしまいますが、忘れられがちな重大なことがあります。それは、手も容器もろくに「洗えない」ということです。

給水車が運んで来たせっかくのきれいな水に、汚れた手や容器を突っ込んで汲むわけですか?一発で雑菌が混ざり、夏場なら数時間で大繁殖しますよ。残留塩素があっても、それは時間の問題です。バッグを家などに運び込むことができても、水を使うたびに汚れた手や容器を突っ込まなければならないとしたら、どうなりますか?こんなこと、被災経験者ならばだれもが気がつくはずなのですが。

ですから、水の容器は運搬と衛生維持のために密閉できるキャップつきのタンクやバッグでなければならないわけで、このセットも、例えば折りたたみ式の5リットルバッグをふたつとか入れてあれば、かなり使えるものになったでしょう。でも、考えが及ばなかったのかコストかはわかりませんが、全く机上の空論的なセットになっています。

この手の「実際には使えないモノ」は、防災グッズの世界ではイヤというほど見かけるわけで、いちいち突っ込んでいたらキリがありません。でも、今回敢えて突っ込んだのは、これが

《実際の被災者と「防災士」がセレクトした》

という売り文句だったからなんですね。どこの誰かは存じませぬが、防災知識を持った人が被災生活を反映させた結果がこれだとは、理解に苦しみます。これでは「防災士」と言っても大したことないな、と思われそうですが、「防災士」といっても、基礎的な座学と初級救急救命講習を受けただけですから、それだけでははっきり言って大したものじゃありません。

資格に加えて、各自が持った独自の知識、意識、経験値によって、上はレスキュー隊レベルから下は「上に言われて資格取得しただけの普通の人」まで、ピンキリもいいところです。それでも「士」ですから、簡単に取得できる割には、広告に使うには便利な資格なんですよね。なお、「防災士」はNPO法人「日本防災士機構」認証資格であり、公的資格ではありません。


当ブログをご覧になっている方で、今後販売用の「防災セット」を作ろうとお考えの方がいらっしゃいましたら、ぜひとも管理人にご相談ください。きっと、すばらしく「本当に役に立つ」セットを組んでご覧に入れます。但し、管理人がやりたいようにやったら、販売的には高確率で失敗するでしょう。きっと「マニア」にしか受けない(笑)


☆再掲載☆大火災編14【首都圏直下型地震を生き残れ!24/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■


今回から、首都圏直下型地震の際の大火災リスクについて考えます。

まず、ふたつの図を見比べていただきたいと思います。
Photo
Photo_2
上は前出の関東大震災における東京市(当時)焼失区域、下は現在想定されている、首都圏直下型地震における東京都主要部の火災発生予想図です。冬の午後6時、北風15mで東京湾北部直下でマグニチュード7.3の地震が発生した場合を想定したものです。大正12年(1923年)の関東大震災から約90年を経て、火災の区域は大きく変化しています。当時は東京の東側が主に被災したのに比べ、現在では山手線の西側の方が、より大きな火災が想定されているのです。


関東大震災当時、東京の住宅密集地は現在の台東区、墨田区、江東区、中央区、品川区周辺に集中しており、池袋、新宿、渋谷方面などは、まだあまり街区が発達していませんでした。このため、火災が発生しても、大火災にまで発展しませんでした。

しかしその後、東京に都市機能が集中し、交通機関が整備されることによって、都心部を取り囲むように住宅街が発達して行きました。関東大震災時に被災した江戸・明治期からの街区に加え、この「初期のベッドタウン」が、すなわち現在の東京における大火災危険区域なのです。最も危険度が大きいのが、環状6号線(山手通り)と、環状7号線に挟まれた区域です。

これらの区域は木造家屋密集地、通称「木密(もくみつ)区域」が多く、主要道路を除いては街路も比較的狭いので、一旦火災が発生すると、急速に延焼する危険性が高いのです。また、関東大震災での焼失区域でも、現代では当時ほどの大火災は想定されていないものの、基本的には当時とあまり変わらない条件の街区も少なくなく、必ずしも当時より安全性が上がっているとは言い切れません。

当時より耐震・耐火性が高い建物が増え、出火の大きな原因となる裸火の使用が激減し、消防能力は向上しています。これにより発災直後の出火数が減り、延焼時間が多少遅くなることは予想されますが、それが当時のような大火災に発展しないという確証にはなり得ません。

向上した消防能力も、特に発災初期にはほとんど発揮されないということは、阪神・淡路大震災で証明されました。仮に消防車が火災現場に到着しても、断水で消火用の水利の確保が困難なことが多く、消火よりも人命救助に重点がおかれる可能性が大きいのです。

大切なことは、まずあなたの住居や仕事場などの居場所が、そのような大火災危険区域に入っていたり、近いのかどうか、それを知ることです。そして、そのような「マクロ情報」を知った上で、「ミクロ情報」に落とし込むのです。具体的には、自分の目で周辺の街区を見て、火が出そうな場所、倒壊しそうな建物、避難経路や避難場所の安全性などを把握し、避難方法、方向、場所の「オプション」(=選択肢)を、いくつか用意しておかなければなりません。

近くに大きな避難場所があるから安心、などと言うように「思考停止」せずに、もしそこが危険になったら、いやむしろ危険になるという前提で、「次の手段」を複数用意しておくのです。それが「フェイルセイフ」(=予防安全)の発想と行動であり、「釜石の奇跡」から得られる最大の教訓と言えるでしょう。

関東大震災でも、あの陸軍被服廠跡の空き地に避難した人々の大半は、「ここならもう安心」だと思っていたでしょう。しかし現実は、火災旋風によって、事実上の「全滅」でした。それ以外にも、炎渦巻く街のあちこちで、逃げ場を失った人々が数万人もいたのです。

その事実を、どれだけ重く受け止められるかということでもあります。決して歴史上の逸話では無い、あなたの身の上にも起こりうることです。語弊を承知で言えば、そのような惨劇の事実を知っている我々は、最悪の事態へ向けた対策ができるのですから、情報があいまいな江戸時代の大火くらいの知識しかなかった当時の人々より、ずっと「幸せ」だと言えるでしょう。


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