☆再掲載☆高層ビル編10【首都圏直下型地震を生き残れ!36/54】
■当記事は過去記事の再掲載です。
今回は、前回(高層ビル編09)で解説した家具の動きを、効果的に押さえる対策を考えます。
でもその前に、ちょっと補足を。前回の解説と実験動画の倒れ方が違うじゃないか、というご指摘があるかもしれません。それはあの実験で加えた揺れが、高層ビルに「長周期地震動」が加わった状態を再現しているからです。地上よりはるかに振幅が大きく、ゆっくりした揺れであり、そんな揺れは、短周期の揺れよりも、家具を倒したり移動させたりする力がはるかに大きいのです。
逆説的な言い方ですが、それだけ高層ビルにおける「長周期地震動」は、危険が大きいということでもあります。前回記事で解説した転倒メカニズムは、どちらかというと「短周期地震動」で顕著になります。1995年の阪神・淡路大震災で起きた、ピアノが倒れたり「吹っ飛ばされた」という事例は、ほぼすべてが背後に壁があったが故なのです。
しかし、揺れの周期に関わらず、家具の転倒対策の方法に違いがあるわけではありません。転倒の仕方は共通しているからです。ただ、高層ビルの場合は、揺れの特徴と長い持続時間のために、特に「多重化」が望ましいということになります。それを、これから解説します。
さて、ここで前回記事の図を再掲します。
揺れる家具の図の上辺に緑色の線を入れてありますが、そこがポイントです。家具が転倒する場合、その「支点」は床に接している長辺の部分です。これに対し、上辺は「作用点」であり、「支点」からの距離が一番遠い場所です。すなわち、、てこの原理により、最も小さい力で家具の揺れを押さえられる部分であるわけです。
では、どのような動きを押さえたら良いのでしょうか。それは、図中の「1」。つまり、家具の上辺が最初に壁から離れようとする動きです。すべての家具転倒対策は、この一点に集約されると言っても過言ではありません。力学的に最も小さな力で、転倒につながるいちばん最初の動きを押さえる、これができれば良いわけです。
では、その具体的な方法ですが、その前に、ぜひやっておきたいことがあります。それは「低重心化」。家具の上に物を置かないのは当然として、重い物をなるべく下の方に収納し、上の方を軽くします。つまり、家具をなるべく自己復元力の高い状態、言うなれば「起きあがり小法師」に近づけてやることで、倒れにくくなるわけです。これは、上記「1」の動きで働く力を小さくすることでもありますので、転倒対策の効果もより大きくなります。
家具転倒防止器具として代表的なものは、天井との間に入れる、いわゆる「突っ張り棒」、壁と家具をベルトなどで結着する器具、家具前面の下に挟み込むクサビ状の器具の三種類だと思います。
まず「突っ張り棒」は、家具を天井と床と一体化させる、つまり造り付け家具の状態に近づけるものです。これが効果的に働くための条件は二つ。天井と家具に十分な力がかけられることと、圧力がかかる部分が動かないことです。そのためには、地震動が加わった際に、天井と天板が破損しない強度を持っていることが必要です。加えて、天井と家具天板の距離が近いほど、その効果が増します。
しかしそのような条件を満たせるケースが意外に少ないことは「家の中の地震対策」シリーズで述べ、その対策も述べましたので参照してみてください。
■家の中の地震対策【7】はこちらから
注意しなければならないのは、この器具が効果を発揮するためには、「一体型」の家具でならないということ。食器棚や書類キャビネットによくある、上段と下段を積み重ねたタイプの場合は、上下段の異なる揺れが発生するによって器具が外れることがありますから、上下段が固定されていることが前提です。そのための器具もいろいろ市販されています。
次に、家具の上部と壁をベルトやチェーンなどで結着するアンカーベルトです。これの問題点も「家の中の地震対策シリーズ」で述べています。(上記リンクの記事内にあります)それらの問題をクリアできれば、かなり効果的に家具の転倒を防ぎます。家具が上図「1」の動きをするのを、最初の段階で止めてくれるわけです。この器具も、家具の上下段が固定されていないと、十分な効果を発揮しません。下段だけが外れて倒れる可能性もあります。
最後は、家具前面底部に挟み込む、クサビ状の器具です。これは家具の前を7~10ミリほど持ち上げて家具を後ろの壁に「寄りかからせる」ことで、上図「1」の動きと逆の力を働かせるものです。わずかな重心の移動ですが、底部から一番距離のある家具上部では、てこの原理によってその何十倍もの距離を移動しなければ、転倒するほどの重心の移動が起きないわけで、イメージ以上の効果を発揮するものです。最も安価で、簡単に設置できるのも魅力です。
この器具の問題点は、床が畳やカーペットなど固くない場合は効果が減殺されるということ、激しい揺れの最中に器具がずれてしまう可能性があることと、器具の性能を超える揺れなどの条件が加わった場合には、なすすべが無いということです。
このように、どんな器具でも一長一短があるわけですが、間違いなく言えるのは、どれも家具が転倒するまでの「時間稼ぎ」の効果は、確実にあるということです。
さらに、複数の器具を組み合わせることで、転倒防止効果を何倍にも高めることができるのです。次回は、効果的な器具の組み合わせと、その他の方法について考えます。
■このシリーズは、カテゴリ【地震・津波対策】です。
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