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2013年12月

2013年12月31日 (火)

今年もお世話になりました

昨日12月30日、気象庁から発表がありました。2013年に発生した有感地震の数が2千数百回(うろ覚えですいませんw)に達し、震災前よりはるかに多い状態が続いているので、今後も大規模地震に備えて「日頃からの備え」をしておくように、とのこと。まあ、言わずもがなですが、大切なことは、物心両面で具体的にどんな備えをするかということです。

今年も、当ブログでは個人レベルでできる「日頃からの備え」を中心にお伝えして参りました。当ブログの内容が皆様の災害対策にお役に立ち、大災害への不安を少しでも軽くすることができていましたら、それが管理人の何よりの喜びであり、モチベーションでもあります。

来年も、引き続き同様のコンセプトでお送りして行く所存です。そして、ブログ以外で進めている活動も、なんとか形にして行けるのでは無いかという希望も持っております。

この記事をもちまして、2013年の最後とさせていただきます。新しい年が、皆様にとってすばらしい年になりますように。今年もお世話になりました。来年も「生き残れ。Annex」をよろしくお願いいたします。

それでは皆様、良いお年を。

SMC防災研究所代表 生き残れ。Annex管理人 てば拝


2013年12月28日 (土)

極寒のスタジアムで防災を考える

管理人は先日、埼玉県の西武ドームで行われた3万7000人規模のクリスマスライブに参加して来ました。わかる方にはわかると思いますが、管理人、そちら方面の大ファンですw

過去にもそんなライブに参加する度に「○○のスタジアムで防災を考える」という記事をアップして来ましたが、今回の最大の問題は「極寒」です。当日は曇りで最高気温は5℃くらいなもので、日が落ちたら2~3℃かそれ以下という状況。会場の西武ドームは、ドーム屋根はあるものの周囲は解放されていて、冷たい風が吹き抜けます。北側の開口部には風避けカーテンがつけられていましたが、あまり効果は無かったような。事実上、屋外です。

ライブ中、ノリノリで暴れているうちは良いのですが、ちょっとインターバルに入ると、足下から頭まで冷気に包まれます。むき出しの耳がすぐに痛くなるくらいの寒さです。管理人の席はアリーナ、つまりグラウンド上でしたので、すり鉢状の西武ドームでは、思い切り冷気が溜まるのです。そこで管理人、頭の隅で考えました。「ここが避難所だったら」と。実際、大災害が起きたら避難所になるでしょう。「着の身着のまま」で放り出されてここへ来て、火の気が全く無い中で、寒い夜を長時間過ごさなければならないとしたら。

そんな場所に行くのですから、移動や待機中の防寒装備はしっかりして行きました。しかしライブ中はファングッズに身を固めw、かなり軽装なのです。ある意味で「着の身着のまま」に近い状態です。そんな格好だと、ほんの数分で寒さが苦痛になって来ます。革のブーツを履いた爪先や、薄手の手袋をした指先がしびれ出し、耳の痛みに耐えきれずに途中でニット帽をかぶっても、ほんの少しはみ出した耳たぶがキリキリと痛む感じ。若い人ならまだ違うのでしょうが、管理人、若くありませんw

この場所でもし何時間もじっとしていなければならないとしたら、正直なところ「こりゃ無理だ」と思ったものです。30分もしないうちに全身に寒さが染み通り、ガタガタと震え出すでしょう。そのまま夜を明かさなければならなくなったら、低体温症の危険もあります。お年寄りや小さなお子さんだったら、生命の危険もあり得ます。もちろん防寒衣があればまた違いますが、あの場合図らずも「着の身着のまま」に近いシミュレーションができてしまったわけです。楽しいライブの最中ですが、やはり「生き残れ。Annex」管理人の性、そんなことも考えていました。

そこで痛感したことは、寒冷地、降雪地はもとより、そうで無い場所でも冬の災害対策では「防寒」を特に重視しなければならないということです。

「普段持ち歩く防寒グッズ」のうち、定番と言えるのがアルミレスキューシートですが、あの状況でペラペラのシートにくるまっても、大して効果はありません。それ以前に、一枚だけでは大人は全身をくるむこともできません。仮にできても、隙間から身体の熱がどんどん逃げて行きます。現実的な使い方は、上着の下に巻き付ける方法で、それ以外はあまり効果はありません。グラウンドシートとして使っても、地面の冷気を遮断する効果はほとんど無いのです。

ですから、実は管理人、最近はアルミレスキューシートをEDCから外しています。その代わり、記事でも紹介したこともあるナイロン製の軍用ポンチョを常備しています。あれならば防風効果は抜群で、座れば全身をくるんでダルマみたいになれますし、フードがあるので熱気も逃げず、グラウンドシートや簡易テントとしてもかなりの性能を発揮します。


寒冷地で過ごす場合、何より大切なことは、身体の熱を逃がさないようにすることです。そのためには、まず頭の保温。体表から放散される熱のうち、なんと40~50%が頭部からなのです。ですから頭を保温しないと、寒い中では体力を激しく消耗してしまいます。

もうひとつのポイントは、首元。衣服の中で暖められた空気は軽くなって上昇しますから、首元をしっかり閉めていないと、せっかくの暖気がどんどん逃げてしまいます。服の中の暖気をできるだけ逃がさず、動かない空気「スタティックエア」を保持しなければなりません。加えて、動脈が皮膚に近い場所にある首元を温めることで、血液を冷やさない効果があります。この二点をしっかりガードすることで、インナーを一枚余分に着た以上の体温保持効果があるのです。

そのために有効なのは、ニット帽にマフラーやスカーフです。でも男性には、マフラーはともかくニット帽は意外にハードル高いんですよね。管理人としては、スーツ+コートにニット帽というスタイルもアリだと思うのですが。冬のニューヨーカーみたいでカッコ良くありませんか?wせめて、バッグの中には常備しておきたいものです。代わりにせめてタオル一本でも入れてあれば、それを頭や首に巻くだけでも効果絶大ですから、是非お勧めします。

これは生命の危険以前に、例えば帰宅困難になった時に、家まで歩き通す体力を維持するためにもとても効果的ですし、血液を冷やさないことで、体感的にもかなり暖かく感じます。災害時、水分やカロリーの補給がままならない中では、その差は想像以上に大きいのです。


先日のライブで、限定的ながら「軽装で寒さに耐える」という経験をしてみて、改めて寒さの恐ろしさを感じました。寒冷地の方から見れば、「関東の寒さごときで」と思われましょうが、管理人は以前札幌に住んでいて、寒さ対策は本場仕込みではあります。それでも関東の(もちろん他の地域でも)寒さは、一旦非常時になれば、普段想像する以上の脅威だということを痛感しましたので、こんな記事をしたためてみたわけです。

平常時は、なんとかなります。でも、非常時にはなんとかならなくなるのです。それを現実の問題として考えてみてください。これから、さらに寒くなります。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2013年12月27日 (金)

小説・声無き声 第一部【14】

■この物語は、事実を参考にしたフィクションです。登場する人物、団体、設定等はすべて架空のものです。今回の内容には刺激的な描写が含まれますので、皆様のご判断でご覧ください。


飯田と玲奈が乗った銀色のワゴンは、浪江町内に入った。新緑が鮮やかな丘陵地を、緩やかなアップダウンを繰り返しながら進む。丘をいくつか越えたところで、飯田は車を二車線の県道から細い砂利道に乗り入れた。そしてしばらく進むと、その先に大きな牛舎が見えてきた。敷地の入口脇に車を停めると、飯田が言った。

「ちょっとここの様子を見て行きます。もうおわかりかと思いますが、酷い状態です。無理に勧めませんが、玲奈さんどうされますか?」
玲奈は、ここへ来るまでの間に、次に行くのは多分こういう場所だろうと、大体の想像がついていた。そして、そこがどんな状態なのかは頭では理解していたが、実際の様子は想像もつかない。玲奈は一瞬迷ったものの、飯田を見つめ返して答えた。
「私も、行きます」

飯田は無言で玲奈の目を見つめると、そのまま視線を返してドアを開け、車を降りた。玲奈も続く。辺りは静まり返っていて、白装束のふたりが砂利道を歩く音だけが、辺りに思いの外大きく響く。その時、風が変わった。マスク越しに息を吸った玲奈は、思わず立ち止まった。凄まじい臭気。一瞬甘ったるく感じた後、鼻の中から頭の中へ、そして全身に拡がり、身体を中から蝕んで行くような、本能的に嫌悪感を覚えるような強烈な腐臭に包まれた。

腐った生ゴミや食肉が発する臭いと同質のはずだが、それよりはるかに強烈だ。太古から、人間の遺伝子に忌むべきものとして組み込まれたのであろう"死の臭い”だ。玲奈の口の中に酸っぱいものがこみ上げて来たが、なんとかそれを堪えると、なるべく臭いを感じないように口で息をしながら、先を歩く飯田を小走りで追う。この程度で怯んでいられない。

牛舎の入り口で、飯田に追いついた。飯田は立ち止まると、玲奈を振り返って言った。
「もう一度訊きますが、覚悟はいいですか?うちの美咲は、ここでしばらく動けなくなったんです」
玲奈は、さらに胸の奥からこみ上げて来るものを堪えながら、無言で頷いた。声を出すと、そのまま吐いてしまいそうだ。

飯田はゴム手袋をはめた手を牛舎の扉にかけ、ゆっくりと開いた。そして、一歩下がって玲奈に場所を開けると、無言で奥を指さした。《さあ、現実を見ろ》と、促す様だった。玲奈は意を決して一歩前へ進むと、薄暗い牛舎を覗きこんだ。

声が聞こえた、と玲奈は感じた。広い牛舎の中は通路の両側に鉄柵で仕切られた六畳敷きくらいの小部屋が並んでいて、その中には数え切れないほどの黒や茶色の塊が横たわっている。一見して牛だとわかるようなものは既に少なく、その多くは骨と皮だけのように干からびている。白骨化しているものも多い。ほとんどの目玉は腐敗したか鳥に食われて失われていて、真っ黒な穴となった眼窩が、虚空を見つめているようだ。そんな骸が、累々と続いている。腹を喰い破られた牛の赤黒い内臓がはみ出し、どろどろに腐乱している。鉄柵にロープで繋がれたまま首を吊るように息絶えていたり、鉄柵の間から首を出して、空の餌箱に頭を突っ込んだまま、白骨化した頭蓋骨がむき出しになった子牛の姿もある。この牛舎だけで、100頭以上が凄惨な骸と化している。

玲奈は、もう凄まじい臭気を意識していなかった。ゴーグルの中で涙が止めどなく溢れる。そして、物音ひとつしない牛舎の中で、声を聞いた。それは、理由もわからぬままに見捨てられ、身動きも出来ないままゆっくりと、ゆっくりと死に絶えて行った牛たちの、苦痛と絶望に満ちた、声無き声だ。

玲奈の頭の中で、助けを呼ぶ牛たちの声ががんがんと反響し出す。それがどんどん大きくなり、現実との境目が薄れて行く。今、自分はどこにいて、何を見て、何を聞いているのかわからなくなり、ふっと意識が薄れた。その時、玲奈の両肩を力強く掴む手があった。玲奈はびくっとして我に返る。振り返ると、涙でぼやけた視界の中で、両手で玲奈の肩を掴む飯田と目が合った。

飯田が静かに言った。
「もう、行きましょう。こういうことです。そして、これはほんの一部なんです」
飯田は足元が覚つかない玲奈の身体を支えながら、牛舎から離れた。牛舎の周りは穏やかに晴れた田園風景が広がり、つい今し方目にした凄惨な現実と同じ空間とはどうしても思えない。暖かい日差しの中で、玲奈は深呼吸しようとして大きく息を吸い込んだ途端、辺りはまだ"死の臭い”に満たされていることに気付き、慌てて息を止めた。車に戻ると、飯田の指示でブーツカバーについた泥を良く払ってから乗り込む。どれほどの量か良くわからないが、何の変哲も無いこの泥の中には、降り積もった放射性物質が大量に含まれているのだ。

助手席に座った玲奈は、シートにもたれたまま、明るい空をぼんやりと見つめながらしばらく放心していた。また、ゴーグルの中で涙が溢れる。つい今しがた見た光景が、現実のものとは思えないし、思いたくない。でも振り返れば、そこに現実に牛舎があって、その中は地獄絵図そのものなのだ。知らなければ、見なければ気にしないで済むが、それでもここまで来て、本当のことを知ったことに後悔は無かった。

ここに来るまで、玲奈は閉じ込められたままの牛たちが“全滅”したということを、頭では理解していたし、報道やネット上の情報も得てはいた。しかしそれを実際に目の当りにするということは、全く別なのだ。情報は、大量死という“概念”でしかない。だがその現実を目前にした時、玲奈は命がゆっくりと失われて行く過程も、その恐怖と絶望さえも、全身で感じた。地震、津波から原発事故という異常な状況の中、まず人間の命を救わなければならないのは当然だ。でも、その陰で失われている命と、過酷な弱肉強食の世界を生き延びている命のことも忘れてはならないし、伝えて行かなければならない。そしてできる限り、救いたい。玲奈は改めて思った。

放心したままの玲奈に、運転席から飯田が声をかけた。
「玲奈さん、大丈夫ですか?」
玲奈は我に返って答えた。
「え、ええ、なんとか」
「全く、酷い状態です。しばらくは生きているのもいて、できるだけ草や水を運んだりはしていました。でも、却って苦しみを長引かせていたのかもしれません。自己満足だったのかもしれませんが、私たちにはそれ以上のことは出来なかった…」
マスクの下で、飯田の表情が歪む。
「ここだけ、じゃないんですよね」
「ええ。外に出られたのはほんの一部です。ほとんどの牛舎が、全滅です。一体何千頭死んだのか…牛だけじゃなく、豚も同じような状態です」
「豚もですか」
「ええ。外に出られた豚の野生化も進んでいます。野生の猪と交配も始まっているようですし。雑食の豚は最後には共食いを始めると言われていたのですが、実際にはそうならず、弱い個体から力尽きて行きました。私も見ましたが、共食いの痕跡はありませんでしたよ。それがいいのか悪いのか、私にはわかりませんが」
「でも、なんとなく安心しました」
「人の感覚では、そうですけどね」
話はそこで途切れた。


■このシリーズは、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。


2013年12月25日 (水)

またもや気になる地震発生【12/23関東東方沖】

地上の最大震度が1だったのであまり気付かれていませんが、12月23日に、非常に珍しい地震が発生しています。

12月23日、午後3時57分にマグニチュード5.7、午後6時25分にマグニチュード5.8の地震が、「関東東方沖」で連続発生しました。規模的にはかなり大きいものの震源と陸地の距離が遠いため、前述の通り両方とも地上の最大震度は1でした。

「関東東方沖」とは、千葉県銚子市の犬吠先の真東の沖で、震災後に地震が多発している「千葉県東方沖」震源域のさらに沖です。実はこの場所、東日本大震災によるプレート境界型誘発地震の発生が懸念されている、1677年に推定マグニチュード8クラスが発生した震源域なのです。

では、この地震は何か関連があるのでしょうか。

決して断言はできないものの、その可能性は現時点では低いと思われます。何故なら、両方とも震源深さが10km程度だからです。これがもしプレート境界型地震ならば、震源深さは20~40km程度になるはずで、東日本大震災本震の震源深さは約24kmでした。

この地震は、「アウターライズ地震」に近い性質のものと思われますが、本来はこのような場所で発生するものではありません。「アウターライズ地震」とは、大規模なプレート境界型地震の発生により海側プレートの沈み込み速度が上がった時に、沈み込み帯の沖側に当たる浅い海底が「引っ張られて」発生するものです。東日本大震災後には、岩手沖から茨城沖にまたがる震源域の沖側で、何度も発生しています。

今回の「関東東方沖」地震は、震災震源域南端の茨城沖よりさらに南側で発生していますから、本来の意味での「アウターライズ地震」とは異なります。しかし、震災による大規模な地殻変動は、もちろんこの地域にも大きな変位をもたらしていますので、似たような現象が起きたのかもしれません。この地震の断層タイプや張力軸がわかればもう少し性質がわかりそうですが、気象庁からの発表はありません。

では、管理人はなぜこの地震が気になるかということについて。以下は、「専門家」ではない管理人が入手できるだけの情報から個人的に考察したものですので、正確性については保障いたしかねます。その前提でご覧ください。


最近、関東で多発している地震の多くが、震源深さ50~90kmという比較的深い震源であり、その多くは太平洋プレートの移動による圧縮力が引き起こす、逆断層型「スラブ内地震」と思われます。つまり、関東の地下では太平洋プレートの圧力が強まっている、すなわちプレートの沈み込み速度が相対的に上がっている可能性があります。

そこへ、今回の地震です。これが「アウターライズ地震」と類似のメカニズムによるものならば、太平洋プレートの沈み込み速度が上がった結果考えれば、関東の多発状況と整合性があるのです。つまり、関東の地下では強く押し込まれ、沖では強く引っ張られているということです。

なお、東日本大震災後の震源域周辺では、プレート境界の固着域が大規模に破壊されて「つっかえ棒」を失った太平洋プレートの沈み込み速度が上がっていることが実測されています。その影響が関東付近にも出ているということなのかもしれません。

最近の関東付近における一連の現象が、もし本当に太平洋プレートの沈み込み速度上昇に起因するものならば、今後も関東では深い場所での地震が増加し、12/23の「関東東方沖」地震のようなタイプも散発的に続くでしょう。その結果、周囲の断層が影響を受ける可能性も否定できません。

これらはあくまで可能性レベルの話であり、「専門家」では無い管理人の限界ではありますが、狭い範囲で地震が集中したり、普段ほとんど起きないタイプの地震が発生しているのは確かですから、より警戒を強めて推移を注視していく必要があるでしょう。

もし「関東東方沖」震源がこれからも動き続け、さらに深い場所での地震が発生するようならば、かなり警戒すべきだと言えます。もちろん、関東で多発している地震がさらに大規模化する可能性も高くなっているはずですから、決して楽観すべき状況では無いということは確かです。


■この記事は、カテゴリ【地震関連】です。


2013年12月22日 (日)

関東の地震多発傾向が鮮明に

昨日12月21日、前日未明に引き続き、またもや関東で中規模地震が発生しました。今度は千葉県北東沖でマグニチュード5.4、最大震度4です。12月に入ったくらいから、関東の各震源域が、明らかに活発化しています。

下図は、12月に震度4クラスの中規模地震が発生した震源域を示したものです。呼称は気象庁の地震情報で使用されるもので、数字は発生している震源深さです。
201312
それぞれの震源域は、東日本大震災以降に誘発地震が多発してきた場所で、発生自体は珍しいことではありません。しかし最近、地震発生回数もかなり減ってきている中で、半月ほどの間に震度4クラスが集中したことは、偶然では無いと考えられます。

上図のうち、「千葉県北東沖」も震災後に誘発地震が多発している場所ですが、その大半は主に、水色で示したくらいの範囲で発生する深さ10~20kmの地震でした。しかし今回、青色で示した部分でマグニチュード5台半ば、深さ50~60kmという、発生メカニズムが異なる地震が連続しました(12/14と12/21)今まで、ほとんど起きていなかったタイプの中規模地震が、ほぼ同規模で2回連続したものです。

このように、ここ半月ほどの間に関東の多発震源域が「一斉に」動いているような状態で、そこには何らかの「理由」が存在するものと考えるべきです。小笠原諸島西之島付近の海底火山活動も、その「理由」と無関係では無いかもしれません。

現在、関東で多発している地震は、茨城県北部を除いて深さ50~90kmと、かなり深めなのが特徴です。茨城県南部では、震災後2年間くらいは深さ40~50kmくらいの地震が大半でしたが、最近は深さ70kmくらいと、少し深めになる傾向があります。

これらの地震は、どのようなメカニズムなのかを考えて見ましょう。下図は、関東南部の地下を模式図で表したものです。
Mini
関東南部では、陸側のユーラシアプレート、その下にフィリピン海プレートが重なり、そのさらに下に海側の太平洋プレートが潜り込むという三層構造となっています。その中で、現在多発している深さ50~90km程度の地震はのタイプは図中の5番が主で、一部は4番と思われます。

5番は、太平洋プレートの岩盤(スラブ)内で発生する「スラブ内地震」で、太平洋プレートが陸側のプレートに潜り込む圧縮力で発生する逆断層型地震です。震災後に宮城~茨城県沿岸部で多発している深さ50~60km程度の地震と同じタイプです。

4番は、太平洋プレートとその上のフィリピン海プレートの境界にかかる圧縮力によって発生する「プレート境界型地震」で、逆断層型が主になります。このタイプがどれだけ含まれているかは、詳しい調査資料が入手できない管理人には判断できかねますが、深さ40~50km程度の地震の一部は、このタイプである可能性が考えられます。なお、「スラブ内地震」に比べて「プレート境界型地震」の方が、大規模化する可能性が高くなっています。


では、今後どのようなことが起こる可能性があるのでしょうか。

まず言えることは、関東南部を中心に中規模地震を連続させている、何らかの理由が存在するということです。そしてそれが、さらに大規模な地震を誘発する可能性は否定できません。千葉県北東沖で、珍しいタイプ地震がほぼ同規模で連続したことからも、ひずみエネルギーが蓄積された場所に、それが解放されるトリガーとなるなんらかの力が加わっていると考えるべきでしょう。もし、さらに大きなひずみエネルギーが蓄積されているとしたら、それが解放されるトリガーとなることもある、ということです。

もうひとつは、誘発の可能性です。関東各地の震源域で比較的大きな地震が多発することで、近隣の、特に浅い断層の動きを誘発する可能性があります。割れかけた岩があれば、それを揺すればさらに割れやすくなるということです。最も危惧されるのは東京23区や東京湾直下の地震ですが、もしそこにひずみエネルギーが蓄積された断層が存在するとしたら、頻繁に揺すられることで動く可能性が高まっていると言うことができます。


上記のような危険を確率で表すようなことは困難ですが、いわゆる平常時よりはるかに危険度が高まっていることだけは確かだと言えましょう。結果的に大したことが起きない可能性も低くありませんが、まずは「普通でない動き」がある時には「普通でないことが起こりやすい」と単純に考え、警戒意識を高めておくべきです。

今年の寒空で帰宅困難になったり、家に入れなくなったりすることを考えただけでも、ぞっとしませんか?家の中でも、インフラ全停止の状況に対応できる備えはありますか?やるべきこと、できることはいろいろあります。


■この記事は、カテゴリ【地震関連】です。

2013年12月21日 (土)

またもや茨城南部震度4

つい先ほど、12月18日の午前1時10分頃、茨城県南部の深さ70kmを震源とするマグニチュード5.4の地震が発生し、最大震度4を観測しました。震度4とされる埼玉南部の管理人宅では初期微動の縦揺れをはっきり感じ、茨城南部か千葉北西部だとその時点で判断できました。

先日も記事で触れましたが、またもや、ここ最近多発傾向にある関東南部での中規模地震です。茨城県南部で深さ70kmというのも、最近の傾向に合致します。

だからなんだとは言えませんが、関東南部で確実に多発傾向が出ているのは間違いないでしょう。

震災から2年9ヶ月の今、関東の地面の下で何かが変わりつつあるようです。それが「悪い方」のトリガーになる可能性を十分意識しなければならない状況だと、管理人は考えております。年末のお忙しい時期ですが、皆様も頭の隅っこででも、いつも意識していていただきたいと思います。


余談ながら、東京直下型地震の新たな想定が国の防災会議から発表されました。

当ブログでも、それについて何回か記事を予定しております。「関係者」でも「専門家」でもない、素人防災研究者だから言えることがあります。

■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2013年12月19日 (木)

小説・声無き声 第一部【13】

■この物語は、事実を参考にしたフィクションです。登場する人物、団体、設定等はすべて架空のものです。今回は刺激的な描写がありますので、皆様のご判断でご覧ください。


飯田と玲奈が乗った銀色のワゴンは、田園地帯をさらに南下して、浪江町に入った。道路は丘陵地帯を縫うように走る。緑濃い長閑な山間に、農地や牛舎が点在している。しかしそんな美しい里山も今は無人だ。玲奈は、この国の美しく大切な財産が、理不尽な力で蹂躙されている、そう感じていた。

すると突然、飯田が茂みの脇で車を停めた。辺りには特に何も無い。訝しがる玲奈に、運転席の飯田は前を向いたまま言った。
「玲奈さん、ここの現実をご覧になる勇気はありますか?」
「現実・・・ですか?」
「ここではある意味で日常ですが、一切表沙汰になることのない現実の、ほんの一部です」
玲奈は、飯田の表情が歪んでいるのを、マスク越しにも見て取った。そして、どのような"現実”なのか大筋を理解して、言った。
「はい。本当のことを知りたいと思っています。覚悟はあります」
飯田は玲奈の目を無言でしばらく見つめると、そのまま車を降りた。玲奈も続く。

飯田は道路脇の草地に歩み寄り、玲奈を振り返りながら地面を指さした。玲奈が見ると、そこには茶色のボロ布のようなものが落ちている。さらに一歩踏み出した玲奈は、全身に電流が走るような衝撃を感じた。そして、息を呑んだ。そのボロ布のようなものは、赤い首輪をつけたままの、干からびたダックスフントの死骸だった。しかし、それは死骸というより“残骸”と表現した方が良いほどの状態だった。

玲奈は思わずその傍にしゃがみ込み、手を合わせた。静寂の中、玲奈の頭の上から、飯田の声が響いた。
「この子は行き倒れたか、強い奴に襲われたんでしょう。目玉が無いのは、多分カラスでしょう。鳥は最初に目から食います。腹は、鳥か強い奴に喰われたんです。どの死骸も大抵同じような状態ですよ」
死骸の腹は喰い破られ、内臓は食べ尽くされて全く残っていない。空っぽになった赤黒い胴体の中に、白い肋骨が裏側から見えている。飯田は続けた。
「ここでは、これが普通なんです。ちょっと前は、もっとあちこちで見られました。犬も猫も、時には牧場で飼育されていたダチョウも。こんな風に、生存競争に負けた奴から死んで、喰われて行くんです。私たちが餌撒きをするのは、こういう子を少しでも減らしたいということでもあるんです」

普通の愛玩犬が、野性化した飼い犬に食い殺される。これが今の日本の現実なのだろうか。しかし人間が消え、食物が限られる場所では、必然的に起こる現実なのだ。そして、ここではそれが現在進行形であり、この先もずっと続く。玲奈は、文字通り言葉を失った。死骸の脇にひざまづいたまま、マスクの中で歯を食いしばった。こんな悲惨な現実を、一体どれだけの人が知っているのか。そして、知ろうとしているのか。

飯田が言う。
「小型の愛玩犬は、避難時に家の中や敷地に繋がれたまま残されたことが多くて、そのまま大半が死にました。外に出られても、こういうことになりやすい」
それを聞いて玲奈は、保護犬に中型以上の雑種が多かった理由を理解した。それはつまり"強い個体”なのだ。それを図らずも説明するように、飯田の言葉は続いた。
「田舎では雑種が多く飼われていたのも確かです。農家の番犬みたいに。そんな家では、避難時に連れて行けない犬を逃がすことも少なくありませんでした。庭に繋がれていた犬も、農家って庭に簡単に入れちゃうでしょ。だから保護しやすかったんです」
強い個体は、繋がれたままでも比較的長く生き残り、そして人間に発見されて保護され易い状況が多かったということだ。

静まり返った中で、玲奈はぼろ布のような死骸を見つめたまま、ゴーグルの中で溢れそうになる涙を堪えていた。そしてふと思いつくと、ゴム手袋をした手で周りの草をかき集めて死骸にかけ、見えないように覆い隠した。決してこの子だけじゃない。こんなのは気休めなのはわかっている。でも、これ以上こんな姿を晒させるのは耐えられなかった。一通り覆い隠すと、改めて手を合わせた。そして、飯田を見上げながら、訊いた。
「牛は、大丈夫なんですか?」
飯田はすぐに答えた。
「牛を襲える犬なんていませんよ。子牛は狙われる可能性もありますが、いつも親が一緒ですから。ただし、外に出られた奴の話ですが」
玲奈はそれ以上訊かなかった。牛舎に閉じ込められた牛の末路は、想像すればわかる。しかし、実際にどんな状態なのかは、想像もつかなかった。

玲奈が草で覆われた死骸を見つめていると、飯田が促した。
「さあ、早く行きましょう。長居して良いことはありません。もう、原発から10km圏内に入るくらいですから」
『10km圏内』と聞いて、玲奈は思わず軽く身震いした。ニュースで何度も聞いた、関わらなければ全く“異世界”であったはずの場所に、今まさに自分がいることが信じられなかった。時刻は午後2時を回り、辺りは暖かな五月の陽射しに溢れていが、そこに満ちる放射線もさらに強くなっているはずだ。飯田が言う。
「もう少しだけ、奥に行きます」


■このシリーズは、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。

2013年12月17日 (火)

気になること+α【管理人ひとりごと12/17】

大した内容じゃないんですが、こういうタイトルにすると余計にPVが多くなったりして、却って申し訳なかったりもしますがw

まず、半分私信のようなもの。先日、10年近く使ったエアコンを入れ替えました。最新型の省エネ+自動清掃+カメラセンサー付きです。ブランドは、関東の某メーカー製にしました。実はそのメーカーさんのホストからは、当ブログをほぼ毎日のように訪れていただいておりまして、それに対しての御礼の気持ちも込めまして決めました。

キーワードを出すと結構わかってしまうのでここまでにしておきますが、御社のことですよ。いつもありがとうございます。当ブログが何かお役に立てておりましたら、そんなお話も是非伺えればと思っております。もちろん一切の秘密は厳守いたしますので、メールやfacebookページからメッセージなどいただければ幸いです。まあ、実際には何かと難しいとは思いますけど、もしできましたら。

さて、次が本題と言えば本題です。

facebookの方にもちょっと書いたのですが、やはり最近、関東の地震の様子が少し変わって来たように思います。管理人は、震災以降の地震発生状況を日々モニターしておりますが、かなり落ち着いてきたように思える最近の状況の中で、微妙に「違う動き」が見えるのです。大雑把に言うと、震災後に地震が多発している地域で、まるで連鎖しているかのように中規模地震が続いている、という感じ。茨城県南部の埼玉寄り、千葉県北西部、茨城県北部、千葉県北東沖辺りです。

震災から日が浅かった頃はそんなのは普通でしたが、最近は全体的にかなり落ち着いて来ています。その中での連続ですから、偶然では無いと考えるべきでしょう。

でも、違う動きが出たからと言って、それが必ずしも大規模地震に結びつくとは言えない、と言うよりその可能性はかなり低いと思います。管理人も、震災後に何度も「違った動き」を当ブログでレポートしていますが、常に警戒せよせよと言いつつ、結果的に何も起こらないことばかりでした。かなり正確だと評価できるのは、井戸水の変化との相関だけです。

ですから、これは「警報」的なニュアンスではなく、あくまで「気になる話」というレベルにしておきます。まあ、地震発生パターンの変化くらいで大地震がわかったら苦労はしません。ただ、変化には何らかの理由があるはずですから、それが「悪い方」のトリガーとならないことを祈りたいと思います。

付け加えておきますと、12月14日に発生した、千葉県当方沖の深さ50km、マグニチュード5.5、最大震度4の地震ですが、その周辺は震災後に深さ10kmくらいの浅い地震が集中的に発生して来た場所で、メカニズムが異なる深さ50km程度の地震はかなりレアです。このタイプは宮城県から茨城県の沿岸で多発してきており、千葉県沿岸での発生は珍しいのです。周辺の震源域で中規模地震が続く中で、珍しい地震が起きたということからも、管理人としてはちょっと気にしております。

しかし繰り返しますが、だから何が起こるとか特に警戒せよとは申しません。こういう話でなくても、常に警戒は必要ですし。ただ、ずっとモニターしてきた管理人にとって、最近の落ち着き中でちょっと目立った「気になる動き」があるというお話です。


■この記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2013年12月14日 (土)

小説・声無き声 第一部【12】

■この物語は、事実を参考にしたフィクションです。登場する人物、団体、設定等はすべて架空のものです。


車の外は、五月晴れの明るい光に満ちている。しかしそこは、詳しい数値はわからないものの、かなり高いレベルの放射線にも満たされているはずだ。短時間で危険というレベルでは無いことは理解しているが、それでも玲奈はマスク越しに軽く息を吸い込むと、ふっとひとつ吐き出してから意を決して助手席のドアを開け、車から降りた。

飯田は、ワゴンのリアゲートを開けながら言った。
「ドッグフード20キロ袋を下ろしてください。水は私が運びます」
飯田は玲奈が女性だという事を意識せず、当たり前のように力仕事を指示したことが、玲奈にはむしろ心地良かった。玲奈がドッグフードの大袋を身体の前に抱えて敷地内に入って行くと、建物の軒下には既に餌や水用のボウルがいくつも置かれていた。どれもきれいに空になっている。玲奈は飯田の指示で、ボウルにドッグフードを入れて行った。飯田は20リットルのポリタンクから、ボウルに水を注いで行く。そして、雨がかからない場所にボウルを集めていく。

一通り作業が終わると、飯田が言った。
「ここは、3匹のグループが根城にしています。人なつこいんですが、グループを引き離す訳にはいかないので、とりあえず様子見てます。いずれ、一緒に保護できればと思ってますが・・・あ、来た来た」
玲奈が飯田の視線を追うと、人の気配を感じたのだろう。茶色の濃淡2匹と白が1匹の雑種が3匹、寄り添ってこちらを見ている。みな首輪をつけていて、少し痩せているようだが毛並みは良い。3匹とも身体はかなり大きく、確かに一緒に保護するのは大変そうだ。

飯田が犬たちに声をかける。
「ご飯持ってきたよ!食べな!」
すると犬たちは、少し頭を下げて警戒の様子を見せながらも、おずおずとこちらに近づいて来た。例の、身体を横に向ける様子は全く見られない。何よりその視線は、人間をまだ仲間だと思っていることを示す、穏やかなものだった。餌をくれる人間に対する、恭順の態度。飯田のことは知っているが、見慣れない玲奈の姿と匂いに、少しだけ警戒しているという感じだ。

ふたりが餌から少し離れると、犬たちはすぐにボウルに駆け寄って餌を食べ始めた。その間、時々顔を上げて警戒するようなこともない。安心し切っている。人が消えたこの場所で、動物と人の縁もすべて断ち切られたように感じていた玲奈は、その姿に目頭が熱くなった。ここにもまだ、人を頼る命がある。

ドッグフードときれいな水を一通り満喫した犬たちは、玲奈たちに近づいて来た。人間が大好きな犬が見せる、穏やかな表情だ。玲奈はゴム手袋をした手で犬たちをさすり、抱きしめた。マスクとゴーグルが邪魔だったが、外す気にもなれなかった。この子たちも、人が与える餌だけで十分という訳では無いだろう。普段は、ここでどんな過酷な生活をしているのだろうか。明るい日差しの中で犬たちをかまう玲奈と飯田の姿はごく日常の、人と犬の触れ合いだった。ふたりが奇妙な白装束という格好であることを除けば。

その後、何カ所かのポイントに犬猫用の餌と水を置いて回った。しかし遠巻きに見守る猫の姿は何度か見たものの、犬の姿を見る事は無かった。しかし、どこでも前に置いた餌はきれいに食べ尽くされていて、それが命を繋ぐ役に立っていることだけはわかった。もしカラスなどの鳥が食べたのなら、ボウルの周りに餌が飛び散っているのだか、そういう事も無かった。

"中”へ入って2時間程が経過した時、飯田が言った。
「そろそろラストにしましょうか。ちょっと面白い所です」
「面白いところ?なんですか?」
「まあ、行ってのお楽しみです」
飯田はマスク越しでもわかるほどニヤニヤしながら言う。
玲奈は附に落ちなかったが、それ以上は問わなかった。
飯田は一軒の農家の前に車を停めると、言った。
「ここは、すごいんですよ」

伸び放題の草木が鬱蒼と茂る、薄暗い裏庭へドッグフードと水タンクを運んで行くと、そこには特大のボウルが置かれていた。大型の洗面器ほどもある。飯田は、ちょっと様子見を見てくると言い残し、家の裏手に消えた。ひとり残された玲奈が特大のボウルにドッグフードを盛っていると、背後に何か気配を感じた。そして突然、尻を触られた。玲奈はビクっとしてそのまま固る。誰もいない警戒区域内で、しかも鬱蒼とした茂みの中で男性とふたりだけだということに、その時改めて気づいた。そんなまさか・・・

玲奈が意を決して振り返ろうとすると、さらに尻の辺りを柔らかいもので突っつかれた。防護服の中で、全身に汗がどっと吹き出す。
《うそ?なに?》
玲奈が恐る恐る振り向くと、そこにいたのは飯田ではなかった。頭までの高さが1メートル近くもある茶色の秋田犬が、玲奈の臭いをくんくんと嗅いでいる。すると秋田犬はのっそりと顔を上げ、振り返った玲奈と目が合った。その目は大型の日本犬特有の、すぐには感情が読みとれない目だった。懐いているのか怒っているのか、全くわからない。しかも、飯田の姿は見えない。もし私を敵だと見なしていたら・・・。

玲奈の身体に、再びどっと汗が吹き出す。威嚇はしていない。でも、怖い。逃げ出したら、いきなり襲われるかもしれない。玲奈は、固まったままなんとか震える声を絞り出した。
「・・・ぃ、飯田さぁぁぁん・・・!」
玲奈の声に、飯田が家の裏から小走りに駆け戻って来ると、明るい声で言った。
「なんだ、ここにいたのか」
「だ・・・大丈夫なんですかぁ?」
玲奈は、振り返った姿のままま動けない。すると飯田は秋田犬につかつかと歩み寄ると、その首を抱きながら話しかけた。
「元気だった?あきたくん」
秋田犬のあきたくん。そのまんまだ。

相変わらずほとんど無表情だが、飯田に懐いている秋田犬の様子に、玲奈はやっと全身の力が抜けた。膝の力が抜けてそのまま座り込んでしまいそうだ。半笑いで、飯田に抗議する。
「もう・・・。先に教えてくださいよぉ」
飯田は秋田犬の首をさすりながら答えた。
「すいません。ちょっと驚かせてやろうと思っちゃいました。この子は大丈夫ですよ」
「一瞬、襲われるって思いましたよ。でも、なんでまだここにいるんですか?」
「いや、この子くらいになると、しっかり信頼関係築いてからじゃないと危ないですからね。暴れたら抑えきれないから、しばらく面倒見てたんです。近いうちに佐竹さんと軽トラで保護しに来ますよ。うちの車に乗るようなケージじゃ、こいつには小さすぎて」

それを聞いて、玲奈は昨日の佐竹の言葉を思い出した。秋田犬クラスはちょっと怖いという玲奈に対して、《そんなのも、そのうちお目にかかれっぞ》言ったのは、こういう意味だったのだ。いきなり翌日会えるとは思っても見なかったが。飯田に首をさすってもらいながら、すっかり懐いている様子の『あきたくん』だったが、玲奈はいきなり手を出す気にはなれなかった。こういう犬は、甘く見てはいけない。玲奈はその代わり、特大のボウルにさらにドッグフードを盛り、飲み水用のボウルにもたっぷりと水を注いであげた。すると、秋田犬は飯田を離れ、ドッグフードをがつがつとむさぼり始めた。時々顔を上げて玲奈を見るが、その目つきは、つい先ほどより少しだけ穏やかになったように、玲奈には感じられた。

その様子をしばらく見てから、ふたりはその場を離れた。ドッグフードも水もほぼ全部撒き終えていたが、車の中で飯田が言った。
「この後、ちょっと寄って行きたいところがあるんですが、いいですか?」
玲奈は即答した。
「ええ。もちろんです。ご一緒します」
そう答えたものの、つい先程とは打って変わった飯田の厳しい表情に、玲奈は胸騒ぎを覚えていた。


■このシリーズは、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。

2013年12月12日 (木)

年の瀬でございます【リンク集つき】

2013年もいよいよ押し迫って参りました。皆様、ご多忙な日々を過ごされているかと思います。今年はかなり寒く、荒れた天候が多いことが予想されますし(これも地球高温化の影響です)、インフルエンザにノロウイルス感染の流行も始まりつつありますから、どうぞご自愛ください。気持ちだけでなく、具体的な対策こそが必要です。

ところで、12月に入ったくらいから当ブログを訪れていただく方の検索ワード数が、目立って減り始めました。当ブログは多岐に渡る防災情報を扱っていますので、普段はいろいろなワードで検索ヒットしていただいています。しかしそれが減るということは当ブログだけの問題ではなく、防災関係のワードで検索される方の数自体が全体的に減っているということでもあります。この傾向は、年末年始や長期休暇の際には恒例ではありますが、今年は減り具合がいつもより激しいようです。

もちろん皆様年末でお忙しいということもありましょうが、その他にも政治や税金の問題、東アジアの国際情勢など、得るべき情報が特に多い年の瀬というせいもあるかな、などと感じております。当ブログは基本的に自然災害に関する情報に特化しており、国内、国際政治問題を扱うつもりはありませんが、皆様の不安に対応するという観点から、我が国を取り巻く軍事的な問題が我々の生活にどう影響するのかについても、皆様のご希望があれば記事にして行きたいという考えもあります。軍事は管理人の得意分野のひとつでもありますので、ご質問などありましたら、お気軽にコメントかメール、またはfacebookページからお知らせください。

さておき、当ブログは最近は再掲載記事と小説の分量が増えており、いよいよ管理人もネタ切れかと思われているかもしれませんが(笑)、それはある意味正解でもあります。2012年1月のブログスタート以来約1年11ヶ月、災害対策に関する基本的な「考え方」は、ほぼすべて提示して来ました。今後はそれらをまた別の切り口で捉え、さらに進化、深化させて行く記事が中心となりますので、今後ともご愛読の程、よろしくお願い致します。

昨年末に、年末年始の災害対策についてのシリーズ記事をアップしておりますので、リンクをさせていただきます。一年経ったからと言って内容が変わるわけでもなく、むしろ寒さや暴風雪に関しては今年の方がよりシビアになるのではないかと予想しておりますので、ぜひともお役立て頂きたいと思います。自然災害はどこで襲ってくるかわかりませんし、「安全な場所」にいられない状況になることもあるのです。

普段、当ブログのスタンスとしては、「災害対策は正しい意識、知識と行動」こそ最優先課題であり、「正しい装備」はその次くらいの感覚ですが、特に寒冷期は「装備」の重要度が増す時期でもありますから、ぜひとも「それなりの装備」をお取り揃えいただきますように。では、以下リンクです。便宜的にすべて、カテゴリ【地震・津波対策】にまとめてあります。

【年末年始の災害対策 1】防水・防寒編
【年末年始の災害対策 2】忘年会・新年会編
【年末年始の災害対策 3】年末年始ライブ編
【年末年始の災害対策 4】寒冷地ドライブ編
【年末年始の災害対策 5】帰省編
【年末年始の災害対策 6・最終回】初詣編


こんな記事を書くと、もう今年はおしまいかと思われるかもしれませんが、まだまだやります。ちなみに管理人、今年もスタジアムで行われる大規模クリスマスライブに参加します。それはきっと「酷寒のスタジアムで防災を考える」という記事になると思います(笑)


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

小説・声無き声 第一部【11】

■この物語は、事実を参考にしたフィクションです。登場する人物、団体、設定等はすべて架空のものです。


警戒区域の一番北側当たる南相馬市小高区の市街では、それ以上犬猫の姿を見ることは無かった。車は市街を抜け、川に沿って南下して田園地帯へ入る。すると河川敷の草地で茶色の牛が10頭くらい、のんびりと草を食んでいるのが見えた。肉牛として主に浪江町などで飼育されていた牛だ。子牛の姿もある。

事情を知らなければ、放牧された牛が平和に暮らしている、そんな風にしか見えない。しかしそれは、警戒区域の設定によって取り残された牛たちが、牛舎から解き放たれているのだった。飯田が言う。
「あいつらは、街中にも群れで現れますよ。興奮させるとちょっと危ないこともあります」
「突っ込んで来るとか?」
「ええ。こないだも警戒中のパトカーが体当たりされたってニュースで言ってました。ボラも、車を牛に追いかけられた人がいます」

玲奈も、福島に来る前から警戒区域の放逐牛のことはニュースで何度か見ていた。ごく普通の街中で群れを成して歩く牛たちの姿は、この異常事態を象徴する映像のひとつとも言えた。しかしニュースでは、何故牛たちが解き放たれたのかについてははっきり触れられない。柵を壊して逃げ出したのだろうとか、飼育者が逃がしたのだろうという推測程度だ。玲奈は、答えを聞くのがちょっと怖いと感じながらも、飯田に訊いた。
「牛さんたち、どうやって外に出たんでしょうか?」
飯田は数秒間沈黙した後、私たちのことではありませんがと前置きした上で、話し始めた。マスク越しにも、表情が少し歪んでいるのがわかる。

「逃げ出せない牛もたくさんいました。そんな牛舎では、あれから2ヶ月経った今、どんな状態かわかりますよね」
訊かれた玲奈の脳裏に"全滅”という言葉が浮かんだ。しかし、実際のイメージは想像しようもなかったし、気持ちの深い部分がそれを拒絶しているようでもあった。飯田は続ける。
「本当に酷い状態ですよ。そうなることがわかっているのに、手をこまねいていられない人たちもいます。もちろん、私たちも何とかできればと思ってきました」
「ということは・・・」
「工具を持って"中”に入る人たちもいたということです」
飯田の言葉に、玲奈はすべてを理解した。何も言えなかった。

一般社会の解釈ならば、それは“悪”だ。しかし、その行為のおかげで多くの命が繋がっている。人間に頼って生きていた動物たちが、人間が引き起こした事態で命の危機に晒された時、それを人間が救った。その結果、また新たな問題も持ち上がった。しかし、それをただ“悪”だと、誰が断罪できるのだろうか。少なくともここは、一般社会の“常識”ではかれる世界ではなくなってしまっている。玲奈は、改めてのんびりと草を食む牛の群れを見つめた。その向こうに広がる広大な田園風景には、人の姿がただ見えないのではなく、本当に誰ひとりいないのだ。今、自分たちはそこへ入り込んだ“異物”なのだろうか。誰もいない、何があっても誰にも気付かれない。そう思うと、玲奈は急に心細さを感じた。

会話が途切れたまま、車は川沿いを進む。川の中には、ここまで遡上してきた津波が運んで来た瓦礫の山がいくつもできているが、そこはすでに捜索済みのようだ。突き立てられた竹竿にあのリボンが結ばれていて、その中には、いくつか赤いリボンもあった。飯田が口を開いた。
「この先で、最初の餌まきやります」
「はい」
いよいよ、車の外へ出る。
「この少し先の浪江町の空間放射線量は8から10マイクロくらいだとニュースでやってました。この辺りもそれほど変わらないと思います。もちろん、地面の近くや場所によってはもっと高いはずです。手早くやりましょう」
飯田の言葉に、玲奈は緊張した。窓の外は五月晴れの明るい光に溢れている。そこに放射線という“見えない敵”が満ちているということは、まったく実感できない。それが、放射線の恐ろしさの最たるものだ。

車は再び小さな市街地へ入って行く。閉鎖された小学校の脇を通る時、おそらく1年生くらいが描いたと思われる、交通安全の看板が玲奈の目に留まった。つたない文字で『くるまにちゅうい』とある。それは、あの日までここで営まれていた普通の生活を、子供たちの歓声を強烈に思い起こさせた。
《・・・いったい、なんでこんなことになってしまったというの・・・》
防護ゴーグルの中で、玲奈の目に涙が溢れた。

その時、飯田が言った。
「つきましたよ。ちょっと力仕事ですけど、お願いします」
玲奈は防護ゴーグルを少しずらして指先で涙を拭うと、ゴム手袋をはめた。そしてゴーグルとマスクを改めてしっかり顔に密着させながら、気を取り直して言った。
「はい。お願いします!」
銀色のワゴンは、小さな自動車修理工場の前に停まった。


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☆再掲載☆高層ビル編14【首都圏直下型地震を生き残れ!39/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■


今回は、このテーマの最終回として、特に高層ビルにおける、そしてその他の多くのケースに対応できる地震対策を考えます。

まずは、強い地震の際に最大の凶器となる、アップライトピアノの対策です。数百キロの重量があるアップライトピアノの地震対策は「移動防止」と「壁への衝突防止」、この二点に集約されます。

高層ビルで予想されるような周期の長い大きな揺れの場合、ピアノのような重量物も床の上を激しく移動しようとしますから、その動きを抑えなければなりません。そのために、脚の下に移動防止機能や衝撃吸収機能のある「インシュレーター」を装着することが必須です。

ピアノの移動を抑えたら、次にピアノがその場で揺れることで、背後の壁にぶつかる動きを抑える必要があります。数百キロもあるピアノが転倒する場合、揺れによって背後の壁に衝突する反作用で、揺れが増幅されるケースがほとんどだからです。背後に壁が無い場合、アップライトピアノは後ろ向きに倒れやすい重心位置になっていますので、その動きを抑える必要があります。

しかしピアノのような重量になると、ここまで述べて来たような家具用の器具や方法では、あまり効果が期待できません。もちろん、ピアノにボルト穴をあけたり、表面に何か器具を取り付けることは現実的ではありません。そんなピアノのためには、専用の器具があります。この器具の原理は、ピアノの下に敷く底板とピアノの構造部材をクランプして一体化させ、ピアノが単体で揺れる動きを抑えるものです。

ピアノをお持ちでしたら、是非ピアノ専門店や楽器店に相談して、アドバイスを受けてください。ピアノは、大地震の際には、家具以上に恐ろしい「凶器」に変わるということをお忘れなく。阪神・淡路大震災では、周期1~2秒という「短周期地震動」を中心とする震度7の揺れが発生しましたが、その中で未対策のアップライトピアノが数秒以内で転倒したり、激しく移動して壁に衝突するような例が多発したのです。


次に、家具への対策以外に、是非用意しておいていただきたいものについてです。それは、特に中高層マンションやアパートで威力を発揮します。

それが、これ。
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当ブログでは「家に備える防災グッズ」シリーズの筆頭で採り上げた、大型バールです。家に備えるものとしては、750~900ミリ程度のサイズをお勧めします。

中高層ビルでは、大規模地震による大きな長い揺れや、前述の「二次モード振動」の発生により、構造にゆがみができる可能性があります。その際、マンションやアパートの頑丈なドアが変形したドア枠にかみこんで、開かなくなることが考えられます。「地震の際にはまずドアを開けろ」と言われるのは、これを防ぐためです。

しかしそれができずに、ドアが開かなくなってしまった場合、強制的に開ける器具があれば安心です。このサイズのバールをてこに使ってこじ開ければ、大抵の場合は問題無いでしょう。それがだめなら、通路側の窓を開け、窓格子を破壊して脱出することもできます。

自分や家族が脱出できたら、他の部屋の救助に使います。中に救助を要する人がいるのにドアが開かないような場合、ドアをこじ開けるのはもちろん、窓格子の破壊、ガラスの破壊、残ったガラスの除去、石膏ボードや羽目板の破壊、倒れた家具の移動や破壊、崩れた梁などが落ちるのを防ぐ支柱など、多くの用途に使えます。ですから、これは「一家に最低一本」、必ず備えておくべきものだと考えます。ホームセンターやネットショップで、安いものは一本2000円前後からあります。

なお、バールには軸が中空の軽量タイプもありますが、災害対策用としては、より強度が高い無垢鉄製のものをお勧めします。無垢鉄製の方が安価でもあります。

加えて、「家に備える防災グッズ」シリーズでお勧めした自動車用ジャッキやノコギリがあれば、さらに多くのケースに対応できるでしょう。そして、このような器具を使うケースを想定し、頑丈な革手袋やヘルメット、防護ゴーグルなどが一緒に置いてあれば、なお良いでしょう。このような備えが「生き残る」確率も、そして「生き残らせる」確率も高めるのです。

ここまで「高層ビルで生き残れ」と題して、14回に渡って様々な対策を述べて来ましたが、文中で何度も繰り返しているように、これらの対策は高層ビル専用ではありません。いかなるケースでも有効な対策の中で、高層ビルで予想される地震被害に対して特に効果的と思われるものをピックアップしたものです。ですから、高層ビルを仕事場や住居にされている方以外も、是非参考にしてみてください。

今回で、「高層ビルで生き残れ」編は終了します。次回からは、「旅行編」の再掲載を始めます。


■このシリーズは、カテゴリ【地震・津波対策】です。

2013年12月 7日 (土)

小説・声無き声 第一部【10】

■この物語は、事実を参考にしたフィクションです。登場する人物、団体、設定等はすべて架空のものです。


いわゆる"20km圏内”の警戒区域内に入った飯田と玲奈の車は、さらに奥へ向かって農道を進んで行った。当然ながら、点在する農家の庭や田畑に人の姿は全く無いが、それだけならば静かな田園地帯にはよくあることだ。事情を知らなければ、異常事態の地だとは誰も気付かないだろう。

しかし車が進むにつれて、玲奈の目に、次々に異常な光景が飛び込んで来た。地震で倒れた石造りの門柱が全く手つかずで放置されていたり、崩れた路肩では、脱輪して傾いた車が埃をかぶっているのだ。家を良く見ると、雨戸があるのに閉めていなかったり、カーテンさえ開いたままの家も少なくない。そして玲奈が心を痛めたのは、無人の家の軒先に、洗濯物がそのまま残されているのを見た時だった。

そんな光景は、原発事故による緊急避難がいかに大混乱だったかを無言のうちに物語っていた。しばらく家を空けるのに、カーテンを閉めるどころか洗濯物を取り込む余裕さえ無い人もいたのだ。取りあえず身の回りのものだけを纏めて、手配されたバスに乗り込むしかなかったのだろう。その時は、大半の住人は2~3日、せいぜい1週間もすればまた戻れると思っていたという。しかし、そのままこの区域は閉鎖された。それから2ヶ月。ここでは、大混乱の印象がそのまま、あたかも化石のように固まったままだと、玲奈には思えた。だが、"化石”にならないものもあった。残された命だ。

車は田園地帯を抜け、小高い山を超えると、南相馬市小高区の市街に入った。信号も消えた、無人の街並みをゆっくりと進む。ここでは、地震の被害はほとんど見られない。
飯田が言った。
「そろそろ、防護服着ましょうか」
飯田は表通りからは陰となる、スーパーの裏手に車を乗り入れた。そこには色褪せた段ボール箱が、台車に載せられたまま放置されている。飯田の話によれば、警戒区域内は完全に無人ではなく、自衛隊はもちろん地元の消防団が活動しているという。さらに“火事場泥棒”を警戒する警察のパトロールもある。だから、できるだけ目立たないようにするという。そう説明しながら、飯田は最後に皮肉っぽい口調で付け加えた。
「私ら、ここではいろんな意味で“異物”ですから」

車の中で、ふたりはもぞもぞと不自由しながら布ツナギの上に防護服を着た。フードをかぶり、ゴム長靴の上からブーツカバーを履く。さらにカップ型の高性能マスクに、防護ゴーグルをつけた。眼鏡をかけた飯田は、曇るからとゴーグルはつけなかった。五月晴れの日差しの中で不織布製の防護服を着ても、思ったより暑さを感じないのが玲奈には意外だった。自衛隊の分厚い戦闘防護服とは天地の差だ。あれは、夏場だったら30分で脱水症になるような代物なのだ。

準備が整うと、飯田は改めて、車のエアコンが内気循環にセットされていることを確かめてから、車を出した。再び、無人の市街をゆっくりと進む。新築途中の家が、放置されている。コンビニの書棚には、あの日のまま並んだ雑誌が色褪せ始めている。そんな、人間だけが"消えて"しまって、しかし生活の痕跡があちこちに生々しく残ったままの街でこんな姿をしていると、玲奈はいよいよ現実感が薄れて来るのを感じた。

まるでSF映画の役者になって、台本も無くいきなり本番を演じさせられているような気分だ。人の姿が無くても、決してゴーストタウンには見えない。普通に生活していた人々が皆、ある日突然ふっと蒸発してしまった街、そう思えた。しかしSF映画ならばすぐにカットの声がかかるのだが、無人の街は延々と続く。これだけ巨大な"生活"が消えてしまったという現実だと理解することを、玲奈の本能が拒絶しているようだった。

その時、玲奈の視界に動くものが捉えられた。思わず、マスク越しのくぐもった声で叫ぶ。
「あっ!犬!」
茶色い中型犬が、100mくらい先の道路上でこちらを見ている。その身体には、赤いハーネスがついたままだ。初めて目にする放浪犬の姿に、玲奈は色めきたった。何もかもが止まったこの街に動くものが、命がある。長い間なくしていた大切なものが、突然見つかった時のようだ気持ちだ。安堵と懐かしさがない交ぜになり、そして興奮した。

「保護できるかしら・・・」
玲奈の言葉に、飯田は冷静に答えた。
「おそらく、あの子は無理だ」
「なんでですか?」
「身体を横に向けているでしょう?ああいうのはかなり野生化が進んでいて、もう人間には近づきません」
「なんで横向きだと・・・?」
「すぐに逃げられるようにですよ。こちらに興味がある犬は、警戒していても身体をまっすぐに向けるんです。たくさん見てきて、わかりました。あいつらにとって、人間は既に警戒すべき敵でしかない」
その犬は、確かにこちらに対して身体を直角に保ったまま、首を回して車の動きをじっと見つめている。

犬と車との距離が50mほどに縮まると、飯田が言った。
「そろそろ、逃げますよ」
その言葉通り、その犬は突然弾かれたように反対方向に駆け出すと、後ろを振り返ることもないまま、街角に消えた。玲奈は再び、大切なものをなくした時の様に落胆した。飯田が言う。
「まあ、ああいうのはここでも生き抜く術を身につけた“強い個体”だということです。弱肉強食の世界ですから」
玲奈には、返す言葉が無かった。

その後、玲奈は弱肉強食の現実を目の当たりにすることになる。


■このシリーズは、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。

2013年12月 6日 (金)

☆再掲載☆高層ビル編12【首都圏直下型地震を生き残れ!38/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■

今回は、その他の方法について考えます。

前回記事(11)で、家具の転倒対策の多重化について考えましたが、過去に「家の中の地震対策」シリーズなどで述べて来た通り、それぞれの器具がその性能を十分に発揮できる環境は、意外に少ないのです。そこで、できるだけ多くの環境に対処できる、最大公約数的な方法を考えてみます。そこで最も確実なのは、一番多くのケースで設置が可能である「転倒防止クサビ」を中心に、そのバックアップをするという方法です。

ここで、前回記事に掲載した模式図を再掲します。
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この図では「転倒防止クサビ」を使っていませんが、前回は何も説明せずに、家具と壁の間に、さりげなく「クッション」を入れてあります。これは、家具が揺れて壁に衝突する衝撃を分散、吸収して、転倒する方向へ加わる反発力を弱めるためのものです。具体的な方法については後述しますが、家具と壁の間に隙間がある場合は、家具の揺れを抑制するために効果的です。

「転倒防止クサビ」を使う場合、家具は最初から壁によりかかっていますのでこの方法は使えませんが、可能であれば何らかのクッションを挟むことで、より効果がアップするわけです。前回記事では、「転倒防止クサビ」と併用するものとして「アンカーベルト」をお勧めしたのですが、背後の壁が石膏ボードや漆喰壁で、「アンカーベルト」のボルトを植え込むための十分な強度が無い場合が多いのが現実です。

そこで、現実的に最も効果的と思われる組み合わせを考えました。それが下図です。なお、わかりやすくするために誇張して描いています。
Photo
「転倒防止クサビ」を設置した上で、その角度に合わせて「粘着式アンカー」を併用する方法です。「粘着式アンカー」の粘着面は、いわゆる「耐震ジェルマット」とほぼ同じ、厚みと粘りがあるジェル状のマットですから、衝突に対する緩衝効果があります。さらに家具に貼り付けてあるジェル面でも、水平方向の動きを抑制しますから(これが本来の機能ですが)、「転倒防止クサビ」との相乗効果で、家具の揺れを効果的に減殺することができます。

家具が転倒するとは、家具が傾くことによる重心の移動と、それが壁に衝突した時の反発力で増幅されることによって動きが増幅された結果ですから、この組み合わせはその両方を最初から抑えてしまう効果が大きく、家具を建物の揺れと強制的に同調させます。平たく言えば、家具が暴れづらいということです。

問題点は「アンカーベルト」に比べて数倍のコストがかかることですが、命(と、家財)を守る出費と考えれば、それほど高いものでは無いと思いますが。「粘着式アンカー」にもいくつか種類がありますが、管理人も使用している「ガムロック」(下画像の二個セット、家具一台分)で、2500円前後です。ネットショップで購入できますが、商品レビューを見ると、東日本大震災被災地でも、十分な効果を発揮したようです。
Photo_2

なお、言うまでもなく管理人はいかなる業者などとも一切関係はありません。また、あくまで個人の経験と考察からお勧めしているものですから、これがベストだとは言い切れません。管理人個人のお勧めとしてご理解ください。

次回に続きます。


■このシリーズは、カテゴリ【地震・津波対策】です。

そろそろ?【関東南部地震多発と海底噴火】

ここ一ヶ月くらいの間に、関東地方南部で震度4~5弱を記録する比較的大きな地震が続きました。それぞれの震源は茨城県南部、千葉県北西部、千葉県北東沖と、震災後に地震が多発して来た場所であり、震源深さも含めて「いつもの場所」ではあります。

ただ、最近のかなり落ち着いた発生状況の中でこのクラスが続いたということに、多少の違和感を感じずにはいられません。

一方で、はるか南の小笠原諸島の西之島付近で、海底火山の活動によって新しい島が生まれました。以前から当ブログでも指摘して来ましたが、過去、世界でマグニチュード8台後半から9以上の地震が発生した時は、非常に高い確率で近隣の火山が噴火しており、マグニチュード9以上の場合、人類の観測史上においてその確率は100%でした。

しかしマグニチュード9.0の東日本大震災後、震源域近隣の火山活動には、今まで目立った変化が見られませんでした。今回の活動は、震災震源域に最も近い、近隣と言える場所での激しい火山活動ですから、どうやら震災の影響よって誘発された噴火の可能性が高そうです。ある意味で、「起こるべくして起きた」噴火と言えましょう。

短時間で島を形成するほどの噴出物があった訳ですから、もし陸上の火山で起きていたら「大噴火」と呼べるレベルですが、被害が出るような場所で無かったことは幸運です。でも必ずしもこれで終わりだとも言い切れません。他の火山の動きも、注意深く見守る必要があります。


では、最近の関東南部における中規模地震多発と西之島付近の海底噴火は、何か関連があるのでしょうか。

これは管理人の個人的見解ですが、やはり「関連があると考えた方が良い」でしょう。地震も噴火も、基本的には動くプレートと他のプレートの相互関係で発生します。地震(特にプレート境界型地震とスラブ内地震)はプレートの動きによる岩盤の破壊現象であり、火山噴火はこすれあうプレートの境界付近からマグマが上昇し、地表面に到達することで発生するのです。

それらがほぼ同時期に、しかも近隣で発生しているということは、そこに何らかの「共通の理由」が存在すると考えるべきでしょう。なお、最近の関東南部の中規模地震のうち、千葉県北東沖、深さ10kmの浅い地震だけは、直接的にはプレートの動きに関連するものではありませんが、震災後に多発しはじめた震源域であることからも、広義において「同類」であると言って良いでしょう。


実は、マグニチュード8台後半以上の大規模地震後に起きる可能性が非常に高いものの、東日本大震災後に起きてない、もうひとつの現象があります。地震震源域周辺で誘発されるプレート境界型地震です。これも、過去に世界でマグニチュード9以上が発生した後には、本震震源域周辺でマグニチュード7台後半から8超クラスのプレート境界型地震が100%の確率で発生しています。しかし、東日本大震災震源域周辺では、まだ起きていません。

東日本大震災の場合、プレート境界型大規模地震が直接的に誘発される可能性があるのは北海道の太平洋岸、青森県から岩手県北部沖、茨城県から千葉県沖辺りまでです。つまり、震災による大規模な地殻変動によって、西向きに「引っ張られて」いる地域です。その周辺の地殻内に地震を起こす歪(ひずみ)エネルギーが蓄積されている場合、地殻変動によって一気に解放される、つまり大規模地震となる可能性があるのです。

その中に、特に千葉沖には1677年に推定マグニチュード8クラスが起きた後、350年以上も沈黙している震源域があり、その場所の危険性を地震専門家も指摘しています。加えて、震災震源域東側の浅い海底では、津波を起こしやすい「アウターライズ地震」が発生する可能性も、これから数十年以上も続きます。


さらに、震災による巨大地殻変動は、日本列島全体に様々な影響を及ぼし続けています。簡単に言えば日本列島とその周辺を「歪ませて」いるわけで、それが各地の断層を動かすきっかけになります。いわゆる南海トラフも、震災とは異なるプレートの相互関係に影響されるために直接的な影響は小さいと思われるものの、決して例外ではありません。

東日本大震災から1000日が経過し、目立った地震はかなり減って来てはいますが、ここ最近の状況を決して「大したことはない」と楽観せず、改めて大規模地震と大規模噴火への警戒体制を引き締めなおす時ではないかと、管理人は考えています。

大規模災害を畏れる気持ちがすべての源ですが、気持ちだけで「生き残る」ことはできません。必要なのは、具体的な意識、知識、装備と行動です。


■この記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2013年12月 3日 (火)

小説・声無き声 第一部【9】

■この物語は事実を参考にしたフィクションであり、登場する人物・団体。設定等はすべて架空のものです。


ふたりの乗った銀色のワゴンは、津波跡を貫く南相馬市の国道6号線を南下して行く。時々すれ違う車は、そのほとんどが自衛隊か警察の車両だ。しばらくすると、まっすぐな国道の先に赤色灯が見えてきた。原発から20km地点に設けられた、国道を封鎖する検問だ。そこにはバリケードが何重にも並べられ、数台のパトカーや警察のバンが並んで赤色灯を灯している。そして白い防護服と防塵マスク姿の警官が10人ほど立ちはだかっている。検問というより、文字通り道路封鎖だ。

検問のすぐ手前の国道沿いにはコンビニがあり、意外なことに営業していた。この辺りは津波が到達しておらず、インフラも暫定的に復旧しているようだ。しかし地方のコンビニならではの広大な駐車場には一般車の姿は無い。そこには自衛隊のトラックや軽車両が20台ほど集結していて、その周りには白い防護服姿の自衛隊員が数十人も集まっている。中には防護服を脱いで迷彩服姿の隊員も見られるので、どうやらここは警戒区域内での活動を終えた自衛隊の集結地になっているようだ。

深緑色の車両群がカラフルなコンビニ前に集結し、周りに白い防護服姿の隊員が群れる光景は、とてもそれが今の日本の現実だとは思えない。自衛隊車両や隊員を見慣れた玲奈でさえ、どう見ても怪獣映画のワンシーンのように見える。放射線をばらまく怪獣と戦う自衛隊。しかしこれが現実だということが、この場所での異常事態を象徴しているようだった。

玲奈は、自分が陸自の現職時代にこんな事態が起こったら"あちら側”にいたのだと思い、疲れの色が見える隊員たちに向かって、心の中で挙手の敬礼をした。しかし、この場所ではさすがに女性隊員の姿が見えないことに、複雑な思いにとらわれた。自衛隊では女性の自分も男性隊員と同じ課業をこなして来たが、ここでは危険の種類が違うのだ。

そんなコンビニを横目で見ながら、車は検問に近づく。そこで玲奈は、かねてからの疑問に思っていたことを飯田に訊いた。
「あの…"中”へは、どうやって入るんですか?」
飯田の妻の美咲は、それを《蛇の道は蛇》とぼかしていた。玲奈の問いに、しかし飯田は黙っている。玲奈は続けた。
「何か特別な許可とか・・・?」
もしかしたら多少強引な理由をつけて、警戒区域内で活動できる許可を取っているのかと思ったのだ。飯田は素っ気なく答えた。
「そんなものありませんよ。おれらに許可なんか出るわけない」
「え、じゃあどうやって・・・」

飯田は答えずに、検問から100mほど手前で右折して国道を逸れ、車を細い農道に乗り入れた。警戒区域の北限に沿うようにしばらく走る。その辺りも津波は到達していないが、点在する農家にも全く人の姿は見られずに、静まり返っている。玲奈はそれ以上何も訊かずに、緊張して成り行きを見守っていた。

車は農家の生け垣に挟まれた、車一台分の幅しかない狭い道に入った。すると程なく前方に『災害通行止め』という看板が現れ、ガードレールで道が封鎖されている。警戒区域の北限だ。その両脇の農家の入り口には鉄管のバリケードが置かれ、門柱と太いロープで結ばれている。もう、先へは進めない。これからどうするのか、玲奈は息を呑んだまま助手席でじっとしていた。

すると飯田は、
「ちょっと待っていてください」
と言うと、車を降りた。そして農家の入り口のバリケードに結ばれたロープを手早くほどき、重いバリケードをずらす。そして足早に車に戻ると、農家の広い庭に車を乗り入れた。再び車を停めてバリケードを元に戻し、広い庭を母屋の裏手に向かってゆっくりと車を進める。するとそこには、あぜ道につながる裏口があった。裏口を抜けて車をあぜ道から農道に車を戻すと、飯田は助手席でじっと成り行きを見守っていた玲奈に向かって、マスクの下でにやりと笑いかけながら、言った。
「"中”へようこそ」

玲奈は、思いもかけなかった方法で"中”へ入ってしまったことに戸惑い、言葉が出なかった。避難した他人の家を無断で通り抜けてしまったことにも、強い後ろめたさも感じていた。そんな玲奈の様子を感じ取ったのか、飯田が言った。
「大丈夫です。あの家の方から許可をもらっています。実は、あの家の犬を預かっているんですよ」
「…え、そうなんですか…」
「シェルターにいるでしょ、ブチの雑種のハナちゃん。あの子です」
「ああ、あの子」
「実は、避難時にあの子はここに残されていたんです。あの時はそんなのが普通でしたから。それを佐竹さんが保護して、連絡先を残しておいたんですよ。この家は警戒区域ギリギリですから、後で家の方が一旦戻られて、連絡をくれたんです。それで、こんなことも許していただいたわけで」
「そうだったんですか・・・」

車を出しながら、飯田は続けた。
「まあ、私らはまだ幸運な方ですけどね。たくさんの人たちが、いろんな方法で"中”に入っています。もちろん不法入域ですから見つかったら強制退去だし、もしかしたら逮捕されるかもしれない。でも残されたペットを少しでも救うには、それしか無いんですよ」
「はい。私もここに来る以上覚悟はしています。警戒区域の法律も調べて来ました。ここへ来たのは誰の指示でも無く、自分の意志ですから。ただ、もしかしたら許可が出るのかな、なんて少し思っていましたけど」
「いえ、“中”へ連れてきてから言うのも申し訳ないですが、私たちはもう立派に"犯罪者"です」
飯田は"犯罪者"の所だけ、皮肉込めた調子で音を区切りながらゆっくりと言った。玲奈は飯田の皮肉を理解しつつ、答える。「なんだかちょっと複雑な気分ですけど、迷ってはいません。飯田さん、出発しましょう!」

正直なところ、玲奈はもっと"まとも”な方法で入域できるのかと思っていた部分もあった。でも、もとより覚悟はできている。迷ってはいない、その言葉を自分で口にして、改めて腹が決まった。


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2013年12月 2日 (月)

☆再掲載☆高層ビル編11【首都圏直下型地震を生き残れ!37/54】

■当記事は過去記事の再掲載です■


今回は、家具類の多重的な転倒防止対策を考えます。

大地震発生時、特に高層ビルにおいては、「長周期地震動」の発生によって、非常に長い時間にわたって大きな揺れが続くことが考えられます。転倒防止器具がひとつだけでは、揺れが収まるまでの間ずっと、転倒防止効果を発揮し続けられるとは限りません。

激しく揺れている最中、転倒防止器具には非常に強い衝撃荷重が繰り返しかかりますから、途中で外れたり、破損したりすることも考えられますから、できる限り多重化することをお勧めします。フェイルセイフ(予防安全)の発想です。すべての家具類にそのような対策ができれば理想的なのですが、優先順位としては、まず人一番無防備な状態におかれる寝室と、子供の安全のために子供部屋から始めましょう。次に居間、その次に台所または応接間という順番でしょうか。

では、どのような組み合わせが効果的なのでしょうか。前回記事で述べた器具のうち「突っ張り棒」は、管理人の考えでは、揺れによって一番外れやすいものだと思います。特に床が畳やカーペットの場合、どうしても家具に建物と異なる揺れがある程度は発生しますし、前述のように、建物の条件によっては理想的な突っ張り力がかけられない場合も多いからです。

その場合のバックアップとしては、「アンカーベルト」のように、家具が転倒につながる動き(前回記事の「1」の動き)を強制的に押さえるものが良いでしょう。
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他に「アンカーベルト」と同等の効果が期待できるものとして、「粘着式アンカー」(下写真。商品名「ガムロック」など)が、設置も簡単で、家具にボルト穴を開ける必要もありません。
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コスト的には「アンカーベルト」の数倍となってしまいますが、その効果と手軽さを考えると、お勧めと言えます。

食器棚などの上下二段式の家具の場合は、上下段を結合する器具をつけていないと、いかなる転倒防止器具でもその効果は半減してしまいます。必ず上下段を固定する器具を併用してください。なお、「アンカーベルト」は金属性のチェーンよりも、ナイロン製ベルトの方が微妙な長さの調節がしやすく、衝撃吸収効果もある程度期待できますので、管理人としてはナイロンベルトをお勧めしたいと思います。

一方、「突っ張り棒」と併用してはいけないものは「転倒防止クサビ」です。これは家具を少し傾けて、後ろの壁によりかからせるものですから、「突っ張り棒」の効果を減殺してしまいます。「突っ張り棒」は、垂直方向に力がかかっているときに最大の効果を発揮するからです。さらに、家具が傾いていると器具や天井板にかかる力が不均一になり、器具の外れや破損、天井板の破損にもつながりやすくなります。
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「転倒防止クサビ」と併用すべきなのは、「アンカーベルト」や「粘着式アンカー」です。設置のポイントは、まずクサビを設置し、その角度に合わせてアンカーを設置することです。家具が少し傾いて重心が壁側に寄っていることで、揺れによってアンカーにかかる力をかなり小さくできます。クサビ単独の場合、家具は転倒しずらいものの、揺れ自体はかなり発生します。そこでアンカーと併用することで揺れを最初から押さえてしまい、その効果をアップさせるわけです。
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なお「転倒防止クサビ」の使用は、一体型の家具に限ります。上下二段式の家具の場合は、クサビ単独ではほとんど効果がありません。上段だけ倒れてきます。他の器具と併用したり、上下段の固定器具をつけている場合でも、固定器具の部分に非常に大きな力がかかりますから、激しい揺れで固定部分が破損し、転倒する可能性があります。

このように、その特性に見合った器具を組み合わせることにより、ひとつが破損した場合のバックアップ効果だけでなく、機能の相互補完によって、その性能は何倍にも高まるのです。

一応、ここでは高層ビルの大きく長い揺れに対応するための方法として紹介していますが、その他のいかなる場合でも、もちろん有効な方法です。どこでも可能な限り「安全の多重化」を進めることで、精神的にも余裕が生まれてくると思います。平常時には、それが一番大きな意味があることではないでしょうか。

また、当ブログではとにかく「生き残る」ことを主眼において考えていますが、例え家に不在の時でも、家具が倒れないということは、家財を傷つけたり失ったりすることもなければ、後片付けもいらないということです。それが、多少の出費と手間で実現できるのです。

次回は、その他のケースや器具について考えます。


■このシリーズは、カテゴリ【地震・津波対策】です。

2013年12月 1日 (日)

小説・声無き声 第一部【8】

■この物語は、事実を参考にしたフィクションです。登場する人物、団体等はすべて架空のものです。


飯田と玲奈が乗った銀色のワゴンは、シェルターから山を下って福島市の市街へ入った。市街地には震災の痕跡は全くと言って良いほど見られないが、やはり人通りはあまり多く無い。

運転している飯田が口を開いた。
「ここから南相馬まで、2時間以上かかります。飯舘村を抜ける国道114号使うのが一番近いけど、放射線量が高いから、北側の115号線で行きます。かなり遠回りですが」
「はい。佐竹さんもそうした方が良いと」
「飯舘の空間線量は3.5マイクロくらいだけど、もっと高い場所がかなりあるみたいですしね」

車は市街地を抜けて、山道に入った。山を越える国道115号線は、放射線量が高い114号線を避けた車が集中しているようで、かなり交通量が多い。重機を乗せたトレーラーや、自衛隊のトラックが目立つ。各地から支援に来ている、関東を中心とした県外ナンバーの車もかなり多く、地元ナンバーの車より多いくらいだ。

この辺りの地域は地震の被害もそれほど大きくなく、放射線量もあまり高くはないから、大規模な支援が必要というわけではない。それでも、風評被害などに晒される「被災地」なのだ。山間の小さな集落脇のガードレールに、行き交う車へのメッセージとして【全国のみなさん、ご支援ありがとうございます】という横断幕が掲げられているのを見て、玲奈は目頭が熱くなった。

ふたりの乗った車は山道を下り、浜通りの相馬市に出た。そこから国道6号線を南下して、警戒区域が設定されている南相馬市へ向かう。一見、平穏な郊外の風景が続くが、あちこちに真新しい仮設住宅の姿が見え始めた。建設中のものも目に付く。南相馬市に入ってさらに南下すると、国道は海に近づく。すると、ある場所から風景が一変した。

玲奈の視界に、平坦な田園地帯の中を走る国道の低い土盛りに沿って、大小の漁船が"並んで”いるのが、突然飛び込んで来た。沿道の家並みや商店はみな、一階部分が津波に打ち抜かれている。電柱はほとんど倒れたり傾いたりして、切れた電線が垂れ下がっている。ガードレールはどこも激しくひしゃげ、大量の瓦礫が衝突したことを思わせる。そしてあちこちにできた瓦礫の山には竹竿が突き立てられ、黄色や赤のリボンが結ばれている。

初めて見る津波被災地の惨状に、玲奈は言葉を失った。思わず海の方角に目を凝らすが、全く平坦な田畑跡の先にも海は全く見えず、破壊された家、流されて来た漁船や車、それに瓦礫の山が、見渡す限り続いている。

窓の外を過ぎ去る惨状を息を呑んだまま見つめる玲奈に、飯田が言った。
「これでも、かなり片づいたんですよ。瓦礫は、かなり減った」
「・・・これでも・・・」
「でも、船や車はそのままです。この辺りで海から2キロくらいですが、津波はこの国道を超えました。でも船のほとんどは国道の土盛りに引っかかって、道沿いに並んでしまったんです」
玲奈は何か言おうとしたが、言葉が見つからない。これが現実だとは、すぐにはとても受け入れられそうにない。飯田は続けた。
「瓦礫の山にリボンがついてますよね。赤やピンクのリボンは、遺体が見つかった場所です。捜索隊が印をつけて、収容隊に位置を示すんです」

それを聞いた玲奈は、軽い目眩を感じた。流れ去る光景の中に、赤やピンクのリボンがあまりにも多い。それが、延々と続いている。橋の欄干などに引っかかった大きな瓦礫の山には、赤いリボンがいくつも結ばれている。

平和な田園地帯は、あの日まさに戦場、それも激戦地さながらになったのだ。しかしそのような本当に悲惨な光景は、一切報道されることは無い。どこどこで何体の遺体を収容という"数字”の裏にある現実の一端を、玲奈は垣間見たような気がした。だが、今見ているのは"跡”でしかない。あの日ここに居合わせた人々、そして震災直後から救援に駆けつけた人々は一体何を見て、何を感じたのか。それは部外者の想像など到底及ぶものではないと玲奈は思い、思わず軽く身震いした。

しかも、今見ているのは東北から関東の沿岸500キロ以上に渡る津波被災地の、ごくごく一部でしかないのだ。被災地を目の当たりにした人々の多くが《言葉を失った》と言うことの意味が、今初めてわかった。普通に暮らす人々は、この惨状を形容できる言葉を誰も持ち合わせてはいないし、この凄惨な現実は、いかなる言葉で表現されることを拒絶しているようでもあった。巨大地震、巨大津波に加えて原発事故という"三重苦”に見舞われた土地の様子は、一般的な"災害”の範疇をはるかに超えた、まさに異常事態そのものだった。

車内では、出発時から地元のAMラジオ放送がずっと流されている。頻発する余震や津波の情報、さらには未だ全く予断を許さない原発関係の情報をいち早く得るためだ。地元からの放送は当然ながら震災関連情報が多いが、東京のキー局から配信される放送は、震災など無かったかのように、ほとんど"日常”に戻っている。しかしその合間に、1時間ごとに福島県内各地の放射線量情報が流される。そのあまりに大きなギャップが、被災地とその他の地域との、物理的だけではない"距離”を感じさせた。

しばらく会話が途切れたままだった車内で、飯田がぼそっと言った。
「もうすぐ、警戒区域の検問です」


■このシリーズは、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。

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