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2013年12月 1日 (日)

小説・声無き声 第一部【8】

■この物語は、事実を参考にしたフィクションです。登場する人物、団体等はすべて架空のものです。


飯田と玲奈が乗った銀色のワゴンは、シェルターから山を下って福島市の市街へ入った。市街地には震災の痕跡は全くと言って良いほど見られないが、やはり人通りはあまり多く無い。

運転している飯田が口を開いた。
「ここから南相馬まで、2時間以上かかります。飯舘村を抜ける国道114号使うのが一番近いけど、放射線量が高いから、北側の115号線で行きます。かなり遠回りですが」
「はい。佐竹さんもそうした方が良いと」
「飯舘の空間線量は3.5マイクロくらいだけど、もっと高い場所がかなりあるみたいですしね」

車は市街地を抜けて、山道に入った。山を越える国道115号線は、放射線量が高い114号線を避けた車が集中しているようで、かなり交通量が多い。重機を乗せたトレーラーや、自衛隊のトラックが目立つ。各地から支援に来ている、関東を中心とした県外ナンバーの車もかなり多く、地元ナンバーの車より多いくらいだ。

この辺りの地域は地震の被害もそれほど大きくなく、放射線量もあまり高くはないから、大規模な支援が必要というわけではない。それでも、風評被害などに晒される「被災地」なのだ。山間の小さな集落脇のガードレールに、行き交う車へのメッセージとして【全国のみなさん、ご支援ありがとうございます】という横断幕が掲げられているのを見て、玲奈は目頭が熱くなった。

ふたりの乗った車は山道を下り、浜通りの相馬市に出た。そこから国道6号線を南下して、警戒区域が設定されている南相馬市へ向かう。一見、平穏な郊外の風景が続くが、あちこちに真新しい仮設住宅の姿が見え始めた。建設中のものも目に付く。南相馬市に入ってさらに南下すると、国道は海に近づく。すると、ある場所から風景が一変した。

玲奈の視界に、平坦な田園地帯の中を走る国道の低い土盛りに沿って、大小の漁船が"並んで”いるのが、突然飛び込んで来た。沿道の家並みや商店はみな、一階部分が津波に打ち抜かれている。電柱はほとんど倒れたり傾いたりして、切れた電線が垂れ下がっている。ガードレールはどこも激しくひしゃげ、大量の瓦礫が衝突したことを思わせる。そしてあちこちにできた瓦礫の山には竹竿が突き立てられ、黄色や赤のリボンが結ばれている。

初めて見る津波被災地の惨状に、玲奈は言葉を失った。思わず海の方角に目を凝らすが、全く平坦な田畑跡の先にも海は全く見えず、破壊された家、流されて来た漁船や車、それに瓦礫の山が、見渡す限り続いている。

窓の外を過ぎ去る惨状を息を呑んだまま見つめる玲奈に、飯田が言った。
「これでも、かなり片づいたんですよ。瓦礫は、かなり減った」
「・・・これでも・・・」
「でも、船や車はそのままです。この辺りで海から2キロくらいですが、津波はこの国道を超えました。でも船のほとんどは国道の土盛りに引っかかって、道沿いに並んでしまったんです」
玲奈は何か言おうとしたが、言葉が見つからない。これが現実だとは、すぐにはとても受け入れられそうにない。飯田は続けた。
「瓦礫の山にリボンがついてますよね。赤やピンクのリボンは、遺体が見つかった場所です。捜索隊が印をつけて、収容隊に位置を示すんです」

それを聞いた玲奈は、軽い目眩を感じた。流れ去る光景の中に、赤やピンクのリボンがあまりにも多い。それが、延々と続いている。橋の欄干などに引っかかった大きな瓦礫の山には、赤いリボンがいくつも結ばれている。

平和な田園地帯は、あの日まさに戦場、それも激戦地さながらになったのだ。しかしそのような本当に悲惨な光景は、一切報道されることは無い。どこどこで何体の遺体を収容という"数字”の裏にある現実の一端を、玲奈は垣間見たような気がした。だが、今見ているのは"跡”でしかない。あの日ここに居合わせた人々、そして震災直後から救援に駆けつけた人々は一体何を見て、何を感じたのか。それは部外者の想像など到底及ぶものではないと玲奈は思い、思わず軽く身震いした。

しかも、今見ているのは東北から関東の沿岸500キロ以上に渡る津波被災地の、ごくごく一部でしかないのだ。被災地を目の当たりにした人々の多くが《言葉を失った》と言うことの意味が、今初めてわかった。普通に暮らす人々は、この惨状を形容できる言葉を誰も持ち合わせてはいないし、この凄惨な現実は、いかなる言葉で表現されることを拒絶しているようでもあった。巨大地震、巨大津波に加えて原発事故という"三重苦”に見舞われた土地の様子は、一般的な"災害”の範疇をはるかに超えた、まさに異常事態そのものだった。

車内では、出発時から地元のAMラジオ放送がずっと流されている。頻発する余震や津波の情報、さらには未だ全く予断を許さない原発関係の情報をいち早く得るためだ。地元からの放送は当然ながら震災関連情報が多いが、東京のキー局から配信される放送は、震災など無かったかのように、ほとんど"日常”に戻っている。しかしその合間に、1時間ごとに福島県内各地の放射線量情報が流される。そのあまりに大きなギャップが、被災地とその他の地域との、物理的だけではない"距離”を感じさせた。

しばらく会話が途切れたままだった車内で、飯田がぼそっと言った。
「もうすぐ、警戒区域の検問です」


■このシリーズは、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。

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