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2014年1月19日 (日)

詰めが甘くないか?

阪神・淡路大震災から19年目の1月17日、NHKテレビで放映していた防災関連特別番組を視ました。

その中では、想定される首都圏直下型地震や南海トラフ地震からひとりでも多くの命を救うために、自治体や企業などで行われている様々な災害対策が紹介されていました。そのような取り組みは、実際に災害に直面した時に間違いなく大きな効果を発揮します。ですから、それについては何も言うことはありません。ただ、これは取材範囲のせいもあるかもしれないのですが、紹介された訓練の内容を見るにつけ、どうにも「詰めが甘いんじゃないか?」という部分が散見されましたので、それについて述べたいと思います。


まず、エレベーターが止まった(つまり停電状態です)オフィスビルやデパートから、担当社員やデパート店員が人員を避難誘導する訓練がありました。負傷者を階段から降ろすために特殊な車椅子を使ったりしたりしていましたが、なんと誘導役が誰一人ライトを持っていないのです。

このビルには自家発電装置があるからという理由ならば、全くのナンセンス。発電機が作動しなかったり、ビル内の配線が損傷して点灯しないというケースを全く想定していません。ビルの中は電源が落ちれば昼間でも暗闇だらけですし、発電機が作動しても、普段通りの全点灯はできずに薄暗い状態のはずです。さらに誘導者は負傷者の介助もしますから、両手を空けなければなりません。であれば、ヘッドランプを装備する以外の選択肢は無いのです。なのに誰も、リーダーでも手持ちライトさえ持っていません。当然ながら、夜間に屋外に避難すれば確実に暗闇なのです。訓練だから持っていないというのなら問題外ですが。

高いお金を出して特殊車椅子を用意する前に、せめて誘導役には感染防護装備入りのファーストエイドキットや歪んだドアなどを開けるための破壊工具なども含めた、しっかりした装備を配布すべきなのです。これなど、負傷者の搬出や特殊車椅子という「トリビア」的な要素にフォーカスしすぎて、「本当に大切なこと」を見落としている例でしょう。これは理屈ではなく、過去の教訓を生かしていれば、必然的にそうならざるを得ない最優先課題のはずですが。費用的にも知れていますし。

さらに言えば、例えばある階段が破損や火災の煙で使えなかったら、状況によって次はどこを選ぶか、それがだめならどうするかなどという、オプション選択などまで訓練しているのかどうか疑問ではありますが(避難誘導者は判断に迷うようなことがあってはならないのです)、それは番組内では採り上げられていないので、「できている」と考えましょう。


こんな訓練もありました。「一般人によるトリアージ」です。大災害が起こると、負傷者が病院に殺到して病院機能がオーバーフローするので、現在ではトリアージによって処置の優先順位を決め、重症者から治療する方式がとられます。しかし、本来トリアージを行うべき医師や看護師も処置に忙殺され、その余裕が無くなります。これは阪神・淡路大震災でも、東日本大震災でも実際に起きたことです。

このため、「訓練を受けた一般人」がトリアージを行うという画期的な取り組みです。これは本来望ましい形では無いのですが、実際の現場は「それどころではない」わけです。重症者が優先的に治療を受けられるようにして救命率を上げるための、苦肉の策と言えるでしょう。なお、トリアージ「黒」、つまり死亡は、当然ながら一般人の判定基準から外されています。

その訓練の様子を見て管理人が感じたのは二点。まず医学的な部分ですが、特に地震災害の場合、クラッシュシンドローム(挫滅症候群)の判定が重要になります。
※クラッシュシンドロームについては、文末に関連過去記事をリンクしますので、是非ご覧ください。
クラッシュシンドロームが疑われる人は、実は一見元気そうで、目立った外傷が無いか、軽傷に見えることも少なくありません。ですから、本人から負傷状況を聞かなければ、その可能性が判断できないことが多いのです。そこで本人が話せない状態だったり、救出者から状況が聞けなければ、それが気を失っているだけなのかクラッシュシンドロームによる高カリウム血症で瀕死の状態なのか、一般人には判断できないでしょう。

クラッシュシンドロームは放置すると短時間のうちに高い確率で心停止に至るため、当然、トリアージは最重症の「赤」です。しかし果たして一見元気そうな人を、その可能性だけで最重症と判定できるのか(治療が不要の場合もあります)、判定を誤った時に起きる問題はどうするのか、一般人の判定者が責任を負えるのかという問題が考えられます。でも判定ミスが怖いから、挟まれていた人全員に赤札つけとけとなったら、トリアージの意味が失われます。

素人が判断できるのは、現実的には「二時間以上身体を挟まれていたか」、「挟まれていた部分から先に麻痺があるか」という二点くらいですが、その情報が得られない場合はどうすれば良いのでしょうか。それについては医師の指導の下で行っているのですから、何らかの対応はできていると考えましょう。


もうひとつ、管理人としてはこちらの方が心配なのですが、「人」の問題です。見るからに悪い状態の重症者はともかく、一見元気で、大した傷も負っていないようなクラッシュシンドローム患者を優先したりすれば、知識の無い人からは「なんでそんなのを優先するんだ」とか言われるのは必至です。番組中の再現映像でもありましたが、一刻を争う重症者を処置中のドクターに、軽症の子供を抱いた親がパニック状態で「この子をすぐ診てくれ!」とねじ込んで来るような状況も、実際に数多く起きたわけです。

それを防ぐための一般人によるトリアージなわけですが、果たして秩序を保ち続けることができるのでしょうか。緊急を要さないまでも激痛に苦しむ人や、パニックに陥った人には、理詰めの説明は通用しないでしょう。しかも判定者が一般人だったら。そこで「素人に何がわかる!」とか、「この子が死んだら責任取るのか?」とか言う話になったら(きっとなります)、果たして判定者はどこまで対応すれば良いのでしょうか。

そこまで想定した上で対処法を突き詰めて考えていれば、仮に「対処困難」という結論でも仕方ないかもしれません。何もかも上手くやるのは不可能です。でも、もし想定していないとしたら片手落ちもいいところです。場合によっては、横紙破りをしようとする人間を物理的に排除するような手段も想定しておかなければならないと思うのです。しかし、一般人にそこまでの覚悟と技術、強制力を求めるのは、事実上無理というものです。

要は、できないことはできないと認めなければなりません。想定に沿った、できることだけやって「訓練は無事終了」というようなシャンシャン総会的な訓練では、実効性にはなはだ疑問符がつきます。いくら悪いケースを想定していても、それ以上のことが起こるのが、大混乱の現場というものなのですから。

なお、管理人は番組で紹介された訓練の断片的な映像と解説だけでこの意見を述べていますので、紹介されていない部分で何か誤解があるかもしれません。もしそのようなことがありましたら、ご指摘いただければと思います。もちろん、番組で紹介された例を個別に批判する意図はなく、一般論として「せっかく訓練しているのに、あれでは現場で混乱するのではないか?」と言いたいのです。訓練は目的ではなく、実際の現場で訓練の成果を発揮することこそが目的です。それを根本から崩壊させかねない不備から、目を逸らすわけには行きません。

そのような間違いや不備は、決して番組で紹介された例だけでは無いと、管理人は考えています。


■クラッシュシンドローム(挫滅症候群)の概要、対処方法についての過去記事
家に備える防災グッズ【21】
家に備える防災グッズ【22】


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

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コメント

自分は番組をみていないので 批判できませんが 首都圏直下型の怖いのは 火砕流だと思うのです
それを想定している訓練は まったくないと思います
首都圏直下型ほど 訓練が役に立たない?地震は ないように思えます
人を助けなくてはならないかもしれませんが 人を助けて亡くなる人も多い地震になるのかな~~と個人的には思いますね
人道にはずれるので これが正しいことなのかはわかりませんが 歩けない人 老人・・ ある程度 切り捨てるラインを決めないと 被害が大きくなる地震なのかもしれません
火は早いです 助けている暇はないでしょう

私の会社でも定期的に避難訓練をやりますが、耳が痛いです。全員が元気な状態で、ただ非常階段を使って外に出るだけのものです(訓練?)。築5年の高層ビルなので耐震性はある(はず)ことと非常用電源があることを過信して、やはりライトの装備は怠っています。
怪我人搬送の訓練もしていませんし、津波(南海トラフの地震で約二時間後に浸水予定)や、館内放送が使えない場合の高層部分への連絡手段も不明です。
一番怖いのは、非常階段に普段電子ロックがかかっていること。停電時にはロックをはずせるようになっていると聞きましたが本当かな~?


番組内の方々は、私の職場の方よりはるかに真面目に取り組んでおられましたが、それでもまだ甘いのですね。ならば私の職場はパニック必至です。
近々防災センター(ビル内の)に意見に行こうかな。

>ぼたもちさん

お久しぶりです。まあ、普通はそうでしょうし、そういう訓練でも無意味ではありません。そして幸か不幸か、高度な訓練をしていないと対応できないような大災害は滅多に起きませんし。

それ以前に、小規模災害でも起きるレベルのことを見落としていることが問題なのです。会社や団体の避難訓練などは、消防や「専門家」が指導しているはずです。なのに、なぜ基本的な部分が見落とされるのか。そして、そんな状態が結構普通だったりすることを問題視しなければなりません。

消防はともかく、「専門家」はカネとって指導してたりしますからね。でも、こんな例は他にも少なくないはずです。

>だんごさん

火災旋風のことですよね。確かに、あれが大規模に発生すると、一気に犠牲者が増える可能性があります。実際、そこまで具体的に想定した訓練をしているところは少ないでしょうね。もっとその危険が教育・啓蒙されなければならないと思います。

首都圏直下型地震は、阪神・淡路大震災のような激しい揺れが予想されます。ですから揺れている最中と直後の判断と行動が、大きな意味を持ちます。ですから、おっしゃるように「普通の」訓練が役に立ちづらいかもしれません。それでも、何もしないよりははるかにマシですが。そして何より、被災者が膨大な数になるということが、救助や支援の上で大きな問題になります。だからこそ「自衛力」を上げなければならないのですが。

実際、阪神でも東日本大震災でも、人を助けるために逃げ遅れた人が非常に多いのです。特に津波のように時間が限られる場合は、高い確率で途中で救助活動をやめなければ、自分が危険になるでしょう。

実は番組でもそういう話はありました。ただ、まだ要救助者がいるのがわかっていながら、ある時間で引き上げることができるのか。本職でも困難な判断を、一般人が負い切れるのか。見捨てなければならなかったことを、受け入れられるのか。非常に重い問題です。

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