【おすすめ書籍】千年震災 都司嘉宣
『千年震災』繰り返す地震と津波の歴史に学ぶ
著者:東京大学地震研究所(刊行当時)都司嘉宣
ダイヤモンド社刊 実売価格1600円前後
5つ星で評価するなら、管理人は迷わず星5つを差し上げたいと思います。
大きめの地震が起きるとよくTVに出演されている元東京大学地震研究所の地球物理学者、都司嘉宣(つじ よしのぶ)先生の、現役時代の研究成果がまとめられた著作です。基本的には、産経新聞に連載された先生のコラム『温故地震』の内容が中心となっています。
実は管理人、都司先生のファンでして、講演などを直接聞いたことも何度かあります。その際、お話の内容もさることながら、次々に提示される興味深いデータや資料のメモが追いつかずに、いつもちょっと不完全燃焼気味でした。そんな、管理人が「もっと良く知りたい」と常々思っていた内容の、ほとんどが凝縮されているのがこの本です。
都司先生のご専門は地球物理学・地震学ですが、この本にはそのような内容はほとんど出てきません。主に、先生ご自身が古代から現代までの様々な災害被災地に出向いて調査・研究されたり、古代から伝わる災害に関する古文書を読解・解析された成果がまとめられています。
その視点は、過去の地震ならば地域ごとにどこの揺れが強かったか、津波ならばどこがどの程度の水深になったかを精密に追求し、その理由を科学的に明らかにするというものです。さらに「宏観現象」や民間伝承も頭ごなしに非科学的と断じずに科学的可能性を考察するという、我々の多くが知りたい現実的な情報が詰まっています。そして、そこから導き出される地震災害対策の要点は、当然ながら非常に現実的で示唆に満ちたものとなっています。
過去に起きた災害の検証方法として、比較的詳細な記録が残っていることが多い神社仏閣や武家屋敷などの被害状況を現代の地図上にプロットし、そこから過去の大地震における強い揺れの範囲や津波の到達範囲を明らかにしつつ、さらに地震学、地勢学、工学面からその理由を考察する手法が多用されていますが、その結果は採り上げられた各都市の現代の住人にとっても、災害対策の基礎情報としてとても有用なものです。
このような横断的な手法は都司先生独特のものと言って良く、いわゆる「権威」の裏付けはあまりありませんから、決して主流ではありません。しかし「権威」や「理論」よりも実利を重視され、「本当に役に立つ情報」を求められる方には、特にご一読をお薦めします。ちょっと乱暴に言わせていただければ、地震のメカニズムや将来の発生確率(それも大ざっぱな)などを知るより、百倍も役に立つ内容だと思います。
実利面だけでなく、日本列島の地震災害史を知る上でも、非常に興味深い内容が満載です。管理人は、東日本大震災が起きた後でも、自国の地震災害について、実は知らないことが多かったのだなとを思い知らされました。一流の地球物理学者ならではの明快で過不足なく、しかもわかりやすい分析は、それだけで一読の価値があるかと思います。
できれば一読だけでなく、何度も読み返すことで、我が国の主な地震災害史と「そこで何が起きたか」が、より深く理解できるはずです。
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