【防災の心理08】楽観戦隊ダイジョブジャー!
おバカなタイトルをつけてみましたw
今回は、「心理の壁」とヒーローの関係について考えます。当シリーズの冒頭で、三人の「ある男」の行動を挙げ、どれが一番「ヒーロー度」が高いと感じるかお聞きしました。
一般的には、登場前の状況が厳しいほど、そして冒した危険が大きいほど、「ヒーロー度」が高く感じるということにはご同意いただけるのではないかと思います。
ところで、世間にはなぜこれほどヒーローもののコンテンツが多いのでしょうか。その答えは、面白いから。見ていて理屈抜きにスカっとするからではないでしょうか。
小さな子供の頃から熱中してしまうことを考えると、どうやら我々は「本能的に」ヒーローが好きなようです。そんなカタルシスを得られるという意味では、あの「倍返し」の人や水戸黄門もヒーローの範疇ですね。
では、ヒーローがやる事とは?これはもう簡単。普通の人なら解決できない危機や問題を、快刀乱麻を断つが如くバッサバッサと解決するわけです。その亜流には、すごく弱いキャラクターが悩み、苦しみながら最後には勝つなんていうパターンもありますが、とにかくも危機を解決してくれます。
そして我々は思うのです。ウルトラマンが、仮面ライダーが、水戸黄門が(管理人はそういう世代なものでw)いてくれたら悪ははびこらずこの世は安泰、そんなヒーローが本当にいてくれたらなあと。そして、自分がそんな力をもっていたらいいのになあと。
そんな願望を起こさせるヒーローがやっていることを一言で表すとしたら、どうなるでしょうか。もうバレているかもしれませんが、それこそが「正常化」ということです。ねじ曲がり、歪んだ状態を、我々が本能的に望む「正常な状態」に戻してくれるわけです。ヒーローへの願望は、「正常化」への願望とイコールと言っても過言ではありません。
そう考えると、我々の心の中の「正常化」を望む願望は、かなり強いと思いませんか?本当にヒーローがいてくれれば、何が起きても大丈夫だと「楽観」できるのです。これが創作の世界でなくても、例えば職場に頼れる上司がいたしたら、問題が起きても「あの人の指示に従えば大丈夫」と思いたかったりしませんか?
それくらい、我々の「ヒーロー=正常化」への願望は、ごく普通の気持ちだったりします。
翻って災害時の行動シミュレーションですが、その想定は平和な日常を覆す、ねじ曲がり、歪んだ状態です。しかもそこで起きるのは、テレビを観るように傍観できない、あなたや大切な人に、実際に降りかかる生命の危機です。できることなら、それが現実に起きるとは認めたくありません。つまり、強い精神的ストレスが加えられるのです。
そんな状態では、無意識のうちに「ウルトラマン助けて!」という気持ちが起きるのは、ある意味で当然のこと。その気持ちが、「正常化バイアス」となるのです。なお、バイアスとは「偏向」の意味で、本来ある方向から曲がってしまうことです。
言うなれば、起きて欲しくない状況を前に、あなたの心の中のヒーローに、無意識に助けを求めてしまうのです。その結果、「起きて欲しくない事→起きない」というバイアスがかかり、現実に起きる可能性が高い困難を排除してしまい、ある意味で「楽な」シミュレーションになりがちになるわけです。
現実にはあまり役に立たないような災害トリビアが興味を惹きがちなのも同じことで、そこに「これを知っていればもう大丈夫」というような、わかりやすい「正常化ヒーロー」を無意識に求めてしまう結果と言うことができるでしょう。しかし、残念ながらそれで済まないのが現実なのです。
ではどうするか。何もあなたの中のヒーローを消去せよとは言いません。ヒーローの存在は、心の支えでもあります。大切なことは、あなたを助けてくれるヒーローは、なぜヒーローたり得るのか、どうやって危機を救ってくれるのか、そのためには何を考え、備えているのかをひとつひとつ考えて真似することです。
SFだと超人的な能力で片づいてしまいますが、生身のヒーローは、裏では(時には表でも)考え、悩み、苦しんだ結果、意を決して行動することで、解決策を導き出しているのです。
自分の「こうであって欲しい」という願望を意識して抑え、現実には何が起こるか、むしろ起こって欲しくないことばかりが起きるという前提で考え、備えることが必要です。それは前述の通り本能との格闘であり、ともすれば「楽」な方にバイアスがかかりがちです。でも、そんな「心理の壁」を乗り越えなければなりません。
それができるようになった時、あなたの「生き残る力」は確実に高くなっているはずです。そして、普段からそのような考えと行動ができているあなたは、「その時」に、誰かにとってのヒーロー(ヒロイン)になっているかもしれません。
次回からは、また新しいテーマについて考えます。
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