【防災の心理20】人は災害でどう死ぬのか
今回は「災害で死なないためにどうするか」というテーマについて、あなたの中に作るべきテンプレートの空白について考えます。そのために最も必要なのは、「人は災害でどのように死ぬのか」ということを知ることです。今回はかなり直接的な表現が多くなりますので、ご注意ください。
災害における死因を大きく二つに分けると、下記のようになるかと思います。なお、管理人は医学の専門家ではありませんので必ずしも正しくは無いかと思いますが、現実の災害から得られた内容を、管理人の考えで分類したものとご理解ください。
■主に体内の循環が不全となることによる死因
窒息死(胸部などの圧迫、溺水等)、失血死など。なお、災害死において一般に「圧死」と言われるものの大半が、胸部や腹部の圧迫による窒息死です。
■災害において上記の死因が起こる主な状況
【窒息死】:家具類の転倒、家屋の倒壊、土砂崩れ、土石流、津波・洪水等による溺水
【失血死】:ガラス片、壁材等落下物の衝突などによる重篤な外傷
■主に臓器などが正常に機能しなくなることによる死因
主要臓器の挫滅(潰れて損傷すること)、脱水症、低体温症、クラッシュ症候群、焼死、毒物中毒(有毒ガスなど)、感染症、外傷性ショックなど。なお、いわゆる「焼死」は、その前段階で一酸化炭素などの有毒ガスを吸入して中毒を起こす場合と、熱による直接的な機能損傷がありますが、いずれもこちらに含まれると考えます。
■災害において上記の死因が起こる主な状況
【主要臓器の挫滅】:家具類の転倒、家屋の倒壊、落下物、土砂崩れ、土石流
【脱水症】:家屋の倒壊等による長時間の閉じこめ
【低体温症】:家屋の倒壊等による長時間の閉じこめ、津波・洪水等での落水、寒冷地での保温不良
【クラッシュ症候群】:家具類の転倒、家屋の倒壊、土砂崩れ等による生き埋め
【焼死】:火災(特に家屋の倒壊等による閉じこめ後)
【毒物中毒】:家屋や工場等の火災による有毒ガス吸入
【感染症】:外傷の治療不備、避難生活中の衛生不良
【外傷性ショック】建物の倒壊や落下物の衝突による重篤な多発性外傷や短時間での大量出血など
実際の災害では、これら状況が複合することが多いのですが、発災後短時間で起こる状況とそれによる死因は、これらが大半となります。
死因の分類はともかく、それらが発生する状況に注目してください。発災時の居場所にも大きく左右されますが、ざっと見ても、家具類が転倒せず、家屋が倒壊せず、落下物に衝突しなければ、半分以上の原因は回避できるということがわかります。物理的にそれが防げなければ、最低限の生存空間が確保できる場所、もしくは落下物を回避できる場所への避難が、次善の策となります。つまり災害死、特に地震による死亡を防ぐためには、家屋(職場・学校等も含む)とその内部の対策及び、発災時の避難行動のシミュレーション及び訓練が、最優先課題であるこということです。
さらに津波、土砂崩れ、土石流、火災など「その場にいたら生き残れない」二次的状況からは、安全圏へ素早く避難しなければなりません。それができれば、災害死の原因の大半が回避できるわけです。そのためにも、まずは発災後に閉じこめられず、重傷も負っていないという「自分の意志で動ける」状況を目指さなければなりません。死ぬ死なない以前に、「動ければ、逃げられる」という当たり前のことが、災害から「生き残る」ための最優先対策であり、それを実現するための知識、行動、装備を空白としたテンプレートが、あなたの中に無ければならないのです。
多くの方にとっての防災情報とは、能動的に集めたものではなく、たまたまテレビで目にした、煽るような見出しに惹かれて手に取った書籍に書いてあった、出所も真偽もわからないネット記事から得られたような断片的な情報が、整理されずにぐちゃぐちゃのまま、頭の中に放り込まれているだけではないでしょうか。
その結果、対策をしようにも何から手をつけて良いかわからず、対策を進めている方も何が最優先かわからず、それが「本当に役に立つ」かどうか、自信が持てていないのではないでしょうか。しかし巷の情報がどうであろうと、その優先順位ははっきりしています。
まず何より、発災直後に「動ける状態でいること」、次に「動けたら、何をするかということ」、そして「その後を生き延びること」であり、それを実現する知識と備え必要です。あなたの災害対策は、災害の第一撃を乗り切ることが前提の、「その後を生き延びること」が中心になっていませんか?
優先順位を確かめたところで、災害のニュースを見るような第三者の視点から、改めてもう一歩踏み込んでいただきたいと思います。災害で死ぬということは、どれも凄まじい苦痛と恐怖を伴います。それを最大限の想像力を働かせて、感じてください。
東日本大震災では、犠牲者の死因の90%以上が「溺死」とされています。でもそれは最終的にそうであったということで、倒壊した建物や車内に閉じこめられたりしたまま、大津波の襲来を受けた人々も少なくなかったのです。阪神・淡路大震災では、公式に分類されているだけでも、自宅内死亡者の約12%、600人以上が「生存時焼死」とされています。どういうことかおわかりになりますか?転倒した家具に挟まれたまま、倒壊した自宅に閉じこめられたまま、火災で焼かれたのです。
そんな、語られることのない犠牲者の「声無き声」を、聴き取ってください。災害で失われた多くの命は、統計上の数字では無いのです。あなた自身、あなたの家族、あなたの大切な人の身の上に起こることだと、感じてください。その作業は、これまで述べたように心理的には大きな負担となります。しかし人は、怖くないことには本気になれません。だから、怖れてください。それも漠然とではなく、ひとつひとつ起こり得る状況を知って、ひとつひとつ「理性的に」怖れてください。
災害で死ぬということは、非常に多くの原因があり、知れば知るほど恐怖と不安が募るでしょう。でも、正しい知識と正しい対策によって、確実にその可能性が減らせるのです。それも、ほんの少しの知識と行動で、劇的なほどの効果を生むことも少なくありません。
例えば、家具の転倒対策をひとつしておけば、最大級の地震には最終的には耐えられないとしても、転倒するまでの時間的余裕が確実にできます。その間に家具の前から逃げられれば、それが厳然と生死を分けることもあるのです。それなど数百円の出費とわずかな作業で、「生き残れた」と言うことができるでしょう。
もちろん、運に左右される部分も大きいのが現実です。しかし、あなたに訪れた幸運を生かせるかどうか、そして不運を覆せるかどうかも、あなたの知識と備えで左右されるということもまた、現実なのです。
最後に、わかりやすくまとめましょう。管理人の考えでは、我々と同じ空間で生活する人の中で、災害に対して「最強」なのは、消防や警察のレスキュー隊員だと考えています。彼らは災害で起こることとその対処方法を知り、人間が死ぬ理由とその対処方法を知り、必要な装備を整え、十分な訓練を重ね、体力にも優れ、さらに実際の現場の経験も積み重ねています。
ですから我々一般人が災害から「生き残る」ために目指すべきは、彼らレスキュー隊員の能力に少しでも近づくことだと言っても良いでしょう。本来ならば「本当に役に立つ」防災情報を語り、テンプレートの空白を教えてくれるべきは、「学者」でも「専門家」でもなく彼らだと考えているのですが、様々な理由でそれは実現しないでしょう。せいぜい災害現場での体験談インタビューくらいで。
そこで当ブログとしては、レスキュー隊員の知識と技術を、普段の生活に応用できるような形で提示したいと考えています。例えば、レスキュー隊の油圧スプレッダー(歪んだドアなどをこじ開ける機器)の代わりに、バールとジャッキを装備するというような。
さておき、今回の記事で災害で人はどのように死ぬのかということが、おわかりいただけたかと思います。この知識が、「ならば死なないためにはどうするか」という、あなたの中のテンプレートの空白となることを願っています。そうなれば、必要な情報をあなた自らが引き寄せると同時に、「本当は役に立たない」情報を排除し、「生き残る」ための最短距離を行くことができるようになるでしょう。
ご意見、ご質問も歓迎します。コメント欄か管理人宛メールでどうぞ。
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