【防災の心理31】ブルーシートの向う側
私事で恐縮ですが、管理人は若い頃から二輪、四輪にどっぷりハマり、モータースポーツもやりました。競技や練習中のクラッシュは何度もあり、重傷を負ったこともあります。
一方、公道での他が絡む事故は、もらい事故が一回のみ。でも公道でいつも模範運転をしていたとは、口が裂けても言えませんwただ、とにかく他が絡む事故に対してはとても「臆病」で、長年に渡っていわゆる交通事故を起こしていないのは、その意識と行動の結果だと言えます。とにかく、公道では絶対に他を傷つけない、自分も傷つきたくないという意識が強いのです。
そんな意識の源を、管理人ははっきりと「あれだ」と指摘することができます。もし過去に大きな事故でもやっていれば、それが最大の教訓となるでしょう。しかし管理人のもらい事故はボディがちょっとへこむくらいの物損でしたので、恐怖を植え付けられる程ではありませんでした。まったく別の機会に、事故に対する根源的な恐怖を植え付けられたのです。
それは二十代前半の、札幌在住時代でした。当時かなり「元気」に走っていた管理人は、スピード違反の累積で免停になってしまいました。免許センターで免停講習を受けたのですが、その当時の北海道警の講習は、今では考えられない凄まじい内容だったのです。それ以前に関東で受けたものとも比べ物になりません。
講習では必ず交通安全の映画を見せられるわけですが、その内容が、とにかく想像を絶していました。上映中に、何人もが部屋を飛び出してトイレに駆け込むのです。管理人も最後には見ていられなくなり、目をつぶってこみ上げる吐き気を堪えていました。
その映画の内容は、実際の重大事故の現場写真をそのまま、ひたすら延々と流すものでした。それも事故の状況ではなく、被害者のアップなのです。敢えてそのまま文字で描写します。非常に凄惨な内容ですので、ご注意ください。
大型トラックの後部に高速で潜り込んだ乗用車の、潰された運転手。大型トラックに牽きつぶされた人。バスの後輪に巻き込まれた子供。ノーヘルで止まっていたトラックの後部に突っ込んだライダーの頭部。高速で転覆し、屋根が吹っ飛ばされた車の運転手は、運転席でシートベルトを締めたまま、鼻から上が無くなっている。お読みいただいて、具体的に想像できますか?
そんな画像を延々と、何十枚も見せられたのです。それはどこでも日常的に起きていながら、ほとんど覆い隠されている「ブルーシートの向こう側」です。それはどんな教育や説得よりも、事故=凄惨な死であることを、見る者に突きつけました。事故のニュースの表現である「全身を強く打って死亡」の現実なのです。
その後現在に至るまで、少なくとも管理人の頭の中にはあの凄惨なイメージが常にあり、運転する時にはいつも、心に一定のブレーキをかけているのと同時に、周囲の危険に対してより一層敏感にしています。そして、長年に渡って少なくとも自分が原因の事故はひとつも起こしていない理由のひとつは、あの凄惨な映像体験のおかげだと言うことができます。
加えて、実際の事故現場にもたくさん遭遇しており、中には死亡事故もありました。そんな現場では、命を救うために自分ができることはやろうという「バイスタンダー」としての意識も高まりました。そして管理人だけでなく、あれを見た多くの人に、同じような意識を植え付けたのではないかと思うのです。
その後、様々な配慮というか気遣いによって、そのような凄惨な映像が、公式に一般の目に触れることはほとんど無くなっています。数年後には、北海道警の免停講習もすっかりソフトなものになっていたそうです。でも、同じような現実は、変わることなく日々起きています。
生命が失われる、それも人の尊厳など無関係に、地獄のような状況の中で。それが事故や災害の現実なのですが、現代はそんな現実を、様々な「配慮」が覆い隠してしまっていて、生命の危機に対してリアルな恐怖を感じることはほとんどありません。悲惨な犯罪の報道でも、恐怖はあくまでも理性的なもので、生命が失われることに対する本能的、根源的な恐怖は感じられません。
しかし管理人は、現実を包み隠さず公開せよと言いたいのではありません。それこそ人の尊厳、プライバシー、そして情報が歪曲して受け取られる問題など様々な要素が存在しますから、「配慮」はあって然るべきです。ただ、目に見えないから、見せてもらえないからと言って、あたかもそれが存在しないような、極端に言えば「臭いものには蓋」で終わらせて良いとも思えません。
事故対策も災害対策も、その最大の目的は「生き残る」こと。そしてその最大のモチベーションとなるのは、「死にたくない」という気持ちかと思います。そんな気持ちを高める効果的な方法のひとつが、現実の死を身近に感じることだと思いますが、受動的でいるだけでは、なかなかその機会がありません。
そんな世の中で、どうしたら本当の意味で「生き残る」ための災害対策へのモチベーションを高められるかを、考えたいと思います。
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