☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル14】津波で危険な避難所とは?
■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。
今回も続いて、避難所における津波の危険を考えます。津波で危険な避難所とは、言うまでも無く津波到達予想区域内にある避難所です。問題は、それが「どこまで」なのかということ。
前回は、河川下流域の河川敷での津波の危険についてでしたが、津波の危険がそこだけでないことは、東日本大震災で証明されてしまいました。東北地方の場合、想定津波浸水域は詳細な記録が残っている津波、具体的には1896年の明治三陸津波以降の浸水域を基準に設定されていました。
しかし超巨大津波の襲来で、多くの避難所が津波に呑まれました。例えば、あの大川小学校のある場所は明治三陸津波、昭和三陸津波、チリ地震津波でも津波は全く到達しておらず、震災前の想定津波高さは0~1mとされていました。しかも避難所でもある小学校は通常の水面から5m近くある堤防の内側でしたから、事実上全く危険は無いとされていたのです。
今震災は、我々日本人に「1000年に一度」という、かつては考えたことも無かった時間軸を突きつけました。古代は決して教科書やドラマの中の話ではなく、現代は当然ながら悠久の歴史に連なる先端部だということを、改めて知らしめたのです。869年に東北地方を襲った貞観津波の話を聞いて、平安時代が妙に身近に感じた方も多いのではないでしょうか。
そしてその後の調査で、東日本の太平洋岸だけでなく、太平洋岸のほぼ全ての沿岸部で、記録に残っているものをはるかに超える津波の痕跡が発見されています。さらに沖縄など南西諸島も例外ではありません。
ともかくも、数百年から1000年に一度レベルの地震による津波が発生すると、河川敷に限らず、条件によっては海岸から内陸数kmまでの地域も危険に晒されるということを、我々は目の当たりにしました。そして、その範囲にある避難所は、全国的にかなりの数が存在しているのです。
では「1000年に一度」の大地震、大津波はどこでも起こるのでしょうか。この規模の地震になると、発生するメカニズムは事実上限られます。それは地球を覆う地殻プレートの境界で起こる「プレート境界型地震」です。それは地球そのものが生み出す超巨大なエネルギーによって発生する地震です。
プレート境界が海底にある場合は海溝が形成されていることが多いので、「海溝型地震」とも呼ばれます。東日本大震災は典型的な「プレート境界型(海溝型)地震」でした。
現在、我が国でそれが起こる可能性がある場所を考えて見ましょう。まず、東日本大震災の震源域では、膨大なひずみエネルギーが放出されたばかりですから、それこそ1000年レベルで発生しないでしょう。しかし、影響を受けた周囲の震源域ではマグニチュード8クラス、大雑把に言えば「数百年に一度」レベルの巨大地震と大津波が発生する可能性があります。
一方、関東西部から九州にかけての太平洋沿岸を襲ういわゆる南海トラフ地震、具体的には東海・東南海・南海地震も「プレート境界型(海溝型)地震」となります。これらが東日本大震災のようにほぼ同時に連鎖発震した場合、「1000年に一度」レベルの規模となる可能性があります。
例の「死者32万人、津波最大高34m」の想定は、そのようなケースが起きた場合です。ただし、南海トラフ震源域は、東日本大震災による地殻変動の影響を受けているのは間違いないものの、構造的にはあまり関連が無いので、震災の直接的な影響が大きいとは言えません。南海トラフで巨大地震が発生する時はあくまで、主に「南海トラフの都合で」発生することになるでしょう。
ただし、南海トラフの複数震源域が連鎖せずに単独の地震だった場合でも、「数百年に一度」レベルの規模となることは考えられ、その場合には、範囲は震災より限定されるでしょうが、震災と同レベルの大津波が発生する可能性はあります。南西諸島周辺では、少なくとも現時点では近いうちに巨大地震を発生させそうな震源域は確認されてはいないものの、小さな島がすべて水没するような、古代の大津波の痕跡が発見されたという研究成果もありますから、決して例外ではありません。
実際に、今震災の影響によって南西諸島周辺でも数cm~十数cmの変位が発生しています。その影響がどう出るかは、周辺部の歴史的記録や観測データが少ないこともあり、安易に判断できるものではありません。
まとめますと、東日本大震災震源域の周囲である北海道から青森の太平洋岸、房総半島沖、南海トラフ、そして南西諸島周辺で巨大地震が発生することが考えられ、このうち、広い範囲で複数震源が連鎖する可能性がある南海トラフでは「1000年に一度」レベルとなる可能性が比較的高いということです。
東日本大震災震源域での巨大地震は当分起きないとは言え、今回の被災地にも近隣震源域の地震による津波は到達します。さらに津波に関して言えば、震災の影響で発生する「アウターライズ地震」、いわゆる「津波地震」の可能性は、今後数十年に渡って続きます。
さらに、日本海側でも海底の浅い断層が動けば、プレート境界型地震ほどの規模では無いにしろ、津波が発生することもあります。
事実上東日本の太平洋岸から南西諸島まですべての地域で「想定を超える」津波が発生する可能性があり、その中で比較的可能性が高いのが、関東西部から九州にかけての太平洋岸と言って良いでしょう。一方津波の経験が少ない日本海側においては、「想定を超える」と言うより津波自体が現実的に想定されていないケースもあるかと思います。
乱暴に言ってしまえば、北海道から九州の太平洋岸から沖縄まで、さらに日本海沿岸部まで全部気をつけろ、ということになってしまいます。なんだ全く救いが無いじゃないかと思われるかもしれないですが、ここで忘れてならないのは、「本当に最悪の状況は滅多に起こらない」ということです。だから安心ということではありませんが、例えば富士山の噴火を考える時、日本一の山だから日本一の噴火をすると決めてかかっていませんか?富士山だって小さく噴くこともあるし、その可能性の方がずっと大きいのです。
それ以前に、今震災の影響で言えば、東北地方の火山の方がずっと危険な状態になっています。でも日本一の火山の近くに集中したインフラや首都機能が大ダメージを受けるというイメージだけが先行し(そんな風にメディアが煽っているからですが)、必要以上の不安を感じている方が多いのではないでしょうか。
そうなってしまうと言葉はあまり意味が無くなってしまうのですが、要は「正しく怖れろ」ということに尽きます。
避難所の危険と言いながらすっかりほかの話になってしまいましたが、つまるところ、海に近い低地にある避難所が津波で危険になるかはどうかは、すべて発生する地震の場所と規模に依存しているということです。皆様が避難する可能性のある避難所には、どんな危険があるかを、まず知っておかねばならないのです。
具体的には、まずはハザードマップで津波の予想到達区域を確認し、場合によってはさらに独自の安全マージンを加えて、避難場所を考えておくことが必要です。発生した地震の規模は、発災後比較的早い段階で確認できるでしょうから、それによってどこまで避難すべきかを判断するということです。
次回からは、避難所における火災の危険について考えます。その後に、具体的なチェックポイントへ進みます。
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