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2014年8月 8日 (金)

☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル19】鉄道の危険

■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。


今回からは家から離れて、生活の中にある「その他の危険」を考えて行きます。最初は、鉄道を中心とした交通機関の危険です。


まず、乗車中に地震に遭遇する可能性が最も高い、通勤電車から始めましょう。通勤電車に乗っていて大地震が来たら、何が起こるのでしょうか。

そこで誰もが一番恐れるのは脱線転覆だと思いますし、その可能性は否定できません。ただ、ひとつ良い情報があります。最近の鉄道車両は、昔の車両に比べて車体が軽量化され、さらに設計技術の進歩と様々な対策によって、脱線転覆しずらくなっているのです。

さらに軽いということはブレーキも良く効くようになり、ブレーキをかけた時の停止距離も短くなっています。ですから、昔の車両に比べて、物理的な危険はかなり小さくなっていると言えます。

1995年の阪神・淡路大震災では、震度6強~7の地域を走行していた電車が何編成も脱線して大きく傾きましたが、完全に横倒しにまでなった車両はほとんどありませんでした。下写真は、管理人の記憶では一番大きく傾いた車両だと思われます。しかしこれも高架上の留置線に停まっていた無人の編成であり、走行中にこのようになった車両は無かったかと思います。
01
現代の大都市圏を走る車両は、アルミやステンレスなど軽量素材の使用と機器の軽量化で、この当時よりさらに軽くなっていることが多いのです。

このように軽量化によって転覆しずらいだけでなく、強い揺れを受けた際の衝撃荷重が小さくなることで、脱線する可能性も小さくなっているわけですが、地震による「軌道変位」、つまり線路の変形が起きてしまった場合(下写真)には、走行中の列車は確実に脱線することになります。ただその場合でも、転覆に至らなければ乗客の被害はかなり小さくなるのです。
Photo
【阪神・淡路大震災における軌道変位の実例】

しかしあまり考えたくありませんが、地震によって橋が落ちたり、高架橋が完全に崩壊したり、脱線した車両が橋脚などに衝突するケースも無いとは言えません。その際には、軽量化のデメリットが現れることもあります。軽量車体は、昔の車両に比べて変形しやすいのです。

これは2005年の福知山線脱線転覆事故でも指摘されたことです。(下画像)衝突した車両が、ビルに巻き付くように変形しているのがわかります。
Fukuchiyama00
正直なところ、こうなるとお手上げです。でも、実際にはここまでの事故は滅多に起きないでしょうし、事前に乗客自身がリスクを減らす行動をすることもできますので、それについては後述します。

一方、2004年の新潟県中越地震では、震央付近を走行中の上越新幹線車両が脱線して、大きく傾きました(下画像)。
200
この車両は200系という全鋼製車体で重いタイプの車両でしたが、この事故の後、もしあれが新型の軽量アルミボディ車両だったら転覆していたかもしれないと指摘されました。車体が重かったから、脱線しても転覆しないで「滑って」行ったのだと。高速で運動エネルギーの大きな新幹線車両では、軽量化が逆に問題を大きくする可能性があるのです。

この時は、積雪地特有の「排雪溝」が有利に働いた面もあります。線路脇に雪を落とすための溝があり、車体がそこにはまって滑ったために、それ以上傾かなかったことが画像からもわかります。でも積雪地以外に「排雪溝」はありません。

そこで、この事例を教訓として現在の新幹線には様々な改良が施されています。まず「脱線防止ガード」の設置(下写真で線路間にある黒い板)。
Photo_3
地震で強い揺れが予想される地域で、線路の内側にガード板を設置することで、地震で片方の車輪が浮かび上がっても、もう片方の車輪がずれてすぐに脱線しないようになっています。

そして車両の台車には、「L型車両ガイド」が設置されました(下画像は、JR東日本のWEBサイトからお借りしました)
Photo_2
台車の軸箱下に逆L型のガイドをとりつけ、脱線した場合でもガイドがレールにひっかかり、線路から大きくずれるのを防ぐ器具です。

施設や車両の対策に加え、最も大きな対策が「新幹線早期地震検知システム」(JR東日本での愛称は「ユレダス」)の採用です。これは「緊急地震速報」と基本的には同様のシステムで、沿線各地に配置された地震センサーで、最初に発生するたて揺れ(P波)を検知した直後、その後に来る横揺れ(S波)が大きくなると予想される地域を走る全車両に向け、自動的に非常ブレーキをかける指令を送るというもの。

このシステムの効果は、東日本大震災で最大限に発揮されました。関東から東北にかけての全新幹線車両が最短時間で停止し、震源に最も近かった、つまり時間的に最も余裕が無かった編成でも、強い揺れが来る前に安全速度にまで減速できていたのです。もちろん脱線も起きなければ、けが人のひとりも出ていません。

ただし、これはP波とS波の間にある程度の時間ができる、震源との距離が遠い地震の場合に最大の効果を発揮するもので、P波とS波がごく短時間差で来る直下型地震の場合は、特に震央近くでの効果は小さくなります。しかし数秒でも早く減速できる効果は絶大ですし、震央から距離が開くほど、その効果は増して行きます。

総合的に見れば、2004年の新潟県中越地震当時に比べて、新幹線の安全性は数倍以上になっていると言えるでしょう。新幹線のような高速列車の場合は、航空機に乗っている時のように個人でできる対策はごく限られて来ますので、このような安全システムの進歩は何より心強いものです。言うまでも無く、この分野において我が国は世界一の技術と経験を持っているのです。

さて、地震による鉄道の危険性がある程度わかったところで、次回は通勤電車で強い地震に遭った時には何が起きるかについて考えます。


■当記事は、カテゴリ【災害対策マニュアル】です。

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