【御嶽山噴火】予知困難なレアケースだった
御嶽山噴火の犠牲者が、大変な数に上っているようです。犠牲になられた方のご冥福をお祈りすると共に、心と身体に傷を負われた皆様、関係された皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。また、未だ安否不明の方の一刻も早い救出をお祈りしております。
今回の御岳山噴火は、前回の1979年と同じく、水蒸気爆発だったことが気象庁からも発表されました。管理人も噴火当日の記事でそう予想はしていましたが、状況がわかって来るにつれ、あまり困難な状況だったことがわかってきました。
通常の噴火ならば事前に火山性地震や火山性微動の増加、噴気の増加などの兆候が数多く観測されますが、水蒸気爆発の場合はマグマが大量の地下水に触れた段階で発生するので、事前の兆候がつかみづらいのです。
御嶽山では、9月11日頃から僅かに火山性地震の増加が観測されていましたが、すぐに噴火に繋がるようなレベルではありませんでした。しかし、その時点でマグマが多少上昇し始め、ついに地下水と接触してしまったというわけです。
水蒸気爆発の場合でも、普通は事前に噴気の増加などが観測されます。今回のようにほとんど何の兆候もなく、いきなり爆発に至るというのは非常にレアケースですし、それが観光客で賑わう時期の、しかも登頂者が最も多い時間に起きてしまったという不運があります。
その一方で、大きな幸運もありました。火砕流(厳密には火砕サージ)の温度が、かなり低かったのです。通常の噴火では火山ガスの温度は数百度に達し、人が巻き込まれたら例外なく全滅です。水蒸気爆発でも、マグマの噴出を伴えばガスは高温化しますが、今回は新しいマグマの噴出はほぼ皆無で、火山灰を分析した結果でも、成分のほとんどが古い溶岩に由来するものだったそうです。
このため、火砕サージとなって流下した火山ガスの温度がすぐに100℃以下に下がっていたようで、巻き込まれてもやけどをしないレベルだったのが、何よりの幸運でした。犠牲になった方の多くは、噴出した岩石などが衝突し、動けなくなった後に火山灰に埋もれたものと考えられます。
また、新しいマグマの噴出があった場合、半固体の溶岩が空中を飛びながら冷え、下画像のような紡錘型に固まった火山弾となることが多くなります。
今回は、割れた岩石の噴出は多く見られているようですが、現時点では溶けた溶岩が空中で固まったような火山弾が見られたという情報も無いので、やはり新しいマグマの噴出はほとんど起きていないようです。
全く余談ではありますが、最近の報道で目に付く『心肺停止』という文言について、少し解説しておきましょう。今回の噴火でも、意識不明→心肺停止→死亡という段階で報道されています。
まず『意識不明』とは、あくまで素人が見てそう見えるというレベルです。医学的な裏付けはありません。次に『心肺停止』とは、医師ではない有資格医療関係者、例えば看護師や救急救命士が診察して、脈も呼吸も停止しているという状態です。しかし、そこで死亡の判定はできません。
『死亡』を判定できるのは、医師だけなのです。『死亡』とは医学的だけでなく法律的な意味もありますから、医師以外の判定は禁じられています。しかし明らかに死亡しているような状態の場合、例えば消防では『社会的死亡』と呼んだりしますが、法的にはまだ死亡者ではありません。あくまで生存者と同様の『要救護者』なのです。
御岳山のニュースで、『心肺停止』者の数が増えて行くのは、山頂の現場に医師が入っておらず、救急救命士しかいないことを表しています。恐らくまだ噴火の危険があるからかと思われますが、DMATとして現場入りした医師は麓で待機していて、搬送されてきた『要救護者』を診察し、その時点で『死亡』が判定されて発表されているわけです。
死亡時刻については、明確に時刻が判断できる根拠が無い場合、すべての犠牲者が噴火時刻における同時死亡という形になります。これは大災害など個別の状況がわからない場合の通常の手続きで、民法でも定められています。
しかし過去の災害では、明確な根拠が無いまま状況によって死亡時刻に差がつけられた結果、相続などのトラブルが多発したことがあります。それを教訓に、その後は原則として災害発生時において同時死亡という形が取られるようになりました。例えば親子が死亡した場合、どちらが先に死亡したかで相続などが全く異なって来るため、根拠が示されなければ確実にトラブルになるのです。
こういう話も、災害死における現実のひとつではあります。
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