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2015年1月 6日 (火)

【エアアジア機事故】おかしな報道と深まる謎

遭難したエアアジア機の捜索が、荒天のために難航しています。

事故の原因はどうやらテロやハイジャックとは無関係のようですが、報道されている内容には大きな疑問が残ります。


【機体着氷の可能性】
事故の原因として、冬季にはマイナス80℃にも下がることがある高空の雲中飛行で翼やエンジン周りに氷が付着し、それがエンジンに吸い込まれてフレームアウト(エンジン停止)を引き起こしたのではないかという見解も出てきました。

他に、事故機は未認可のフライトスケジュールだったとか、パイロットが最新の気象情報を受け取らずに飛んでいたなど、にわかに信じられないようなお粗末な情報もありますが、直接的な事故原因とはあまり関係無いでしょう。


通常、低温の雲中飛行では機体への着氷を防ぐためにアンチアイス(防氷)装置を作動させ、特に凍りやすい翼の前縁やエンジンカウリング周りなどをヒーターで保温します。

それが適切に行われていなかったら機体に着氷して、剥がれた氷塊の衝突によって機体が破損したり、エンジンが停止することもあり得ます。 氷塊が大きければ、エンジン内部を破損して再始動ができなくなることもあり、過去に同様の事故も起きています。

もし機体着氷が原因ならば、機体の上昇レートが非常に低かったことの説明もつきます。主翼に氷が厚く付着して気流が乱れ、翼の効率が落ちていた可能性です。

その状況から脱出するために雲の上に出ようと、アンチアイスを作動させて上昇をリクエストしたものの、その途中で両エンジンに剥がれた氷塊が吸い込まれて破損、再始動ができなかったということは考えられます。

しかし、もしそうであっても緊急事態が全く報告されなかったという謎は残ります。


【テールスライドしたのか?】
報道で疑問を感じるのは、上昇中にエンジン停止もしくはその他の理由で速度が維持できなくなって失速、機体尾部から落下しはじめたという見解です。

固定翼機は、急上昇中に失速すると、尾部から先に落ちるように落下します。これをテールスライドと呼び、アクロバット飛行や戦闘機の機動では意識的に行われることもあります。

1994年に名古屋空港で発生した中華航空機墜落事故では、パイロットの操作ミスで極端な急上昇に入った機体が失速し、尾部から先に地面に激突しました。失速によるテールスライドの典型的な例です。


しかし、エアアジア機は異常発生当時通常の65%程度というゆっくりとした上昇レートであり、急上昇と言えるような機首上げ姿勢ではなかったとされています。

その状態で失速した場合にはテールスライドとはならず、自然に機首下げ姿勢となるはずなのです。機首が下がれば加速するので失速から脱出でき、エンジンが生きていれば十分にリカバリが可能ですし、エンジン無しでも安定した滑空降下に移行することは可能です。

仮にテールスライド状態に陥ったとしても、高度が十分にあれば、落下する途中で頭下げ姿勢に自然に移行するのが普通です。アクロバット飛行や戦闘機の機動では、そのようにテールスライドから脱出するのです。


場合によっては、機体が水平や垂直に回転するスピンと言われる操縦不能状態に陥ることもありますが、そうなれば空中分解するか、そのまま地面や海面に激突することになります。しかし、エアアジア機は最終的にそれなりに安定した不時着水をしたのは間違いありません。

つまり異常姿勢からのリカバリが出来て、機体のコントロールが取れていたということです。

一部に、積乱雲を避けるために『信じられない高度』まで急上昇をして失速、そのままテールスライドに陥ったという説(ロイター)もあるようですが、それでもエンジンが生きていればリカバリして飛行継続は可能だったはずで、やはり何らかの理由で全エンジンが停止し、再始動できなかったという理由もありそうです。


【意図なのか無知なのか】
しかし、一部メディアは機体は尾部から落下をはじめ、そのまま墜落したようなニュアンスで報じています。低空ならともかく、高度1万メートル付近からですから、尾部下げ姿勢のままで落下を続けることはあり得ませんし、何より最終的に不時着水に成功しているという事実と完全に矛盾します。

恐らく、記者が『航空の専門家』の一般的な見解をそのまま引用した結果だと思われ、意図的というより無知の結果なのでしょう。もし、緩上昇中に失速するとテールスライドに陥ると言う『航空の専門家』がいたら、それは間違いなくニセモノです。


とりあえず、直接の事故原因は機体着氷によるエンジン停止から失速状態に陥ったということで、整合性のある説明ができそうです。しかしその後どのような降下をしどのようにリカバリしたのか、その間に一切の発信が無かったのは何故なのかという点が、大きな謎として残ります。

最終的に海面に激突しているのなら、パイロットが気を失っていたというような説明もできるのですが。


この点は、事故機体からデジタルフライトデータレコーダーとコクピットボイスレコーダー、いわゆるブラックボックスの中身が回収されれば、かなり明らかになるでしょう。

でもたった30mの水深で、機体位置も把握されているのに、ブラックボックスからの位置通報ビーコンが受信されないということがあるのでしょうか。落着時の衝撃が小さくとも、水没すれば自動的に発信されるはずなのです。


【“ハドソン川の奇跡”との類似】
ところで、A320型機の両エンジン停止からの不時着水というと、多くの方が『ハドソン川の奇跡』と呼ばれた事故を思い起こされるかと思います。

2009年1月、ニューヨーク上空で離陸直後のUSエアウェイズのA320型機の両エンジンに大型の鳥が吸い込まれて破損、再始動ができないまま滑空降下し、ハドソン川に不時着水を成功させた事故です。

この事故では、エンジンは事実上停止していたものの風圧で空転しており、接続された発電機からの電力供給が多少はあったことと、エンジン停止時に胴体下から自動的に引き出される風車(ラムエアタービン)による発電機と油圧ポンプの駆動で最低限の電源と油圧が確保されていたために、最後まで操縦が可能でした。


仮にラムエアタービンが作動しなくても、機体尾部にある補助動力装置(APU)は生きており、それを起動させることで電源と油圧は確保できますし、実際にハドソン川事故でも作動させています。

そして、パイロットの技術によって速度や姿勢が完璧にコントロールされ、理想的な不時着水が成功しました。低空での事故のため時間的余裕はほとんど無い中で、やりなおし不可能の一発勝負を成功させたのです。

そんな状況でもパイロットは管制と頻繁に交信し、状況はリアルタイムで把握されていました。


もしエアアジア機が同様の両エンジン破損に陥ったとしても、機体システムは同じように作動したでしょう。現在わかっている状況からも、それが裏付けられます。

しかし、トラブル発生前から、音声だけでなく自動応答装置も含めた一切の交信が絶たれたという事実が、あまりに不可解なのです。


トラブル発生直後は状況の把握と再始動などのプロシージャに忙殺またはパニックに陥っていたとしても、再始動不可能とわかった段階で、音声またはATCトランスポンダのスコーク設定で緊急事態を宣言「しなければならない」のです。

規定以前に、緊急事態に陥ったならば、すばやい救難活動を要請するのはあまりに当然のことです。

高度1万メートル付近からの滑空降下ですから、時間的余裕は十分にあったはずで、電源があって機体破損が無ければ、無線もレーダーもGPSも生きていたはずです。

そして、最終的には不時着水を成功させているのですから、最後の段階でパイロットの意識があったのは間違いないでしょう。


しかし、パイロットからも機体からも乗客からも、何も発信されなかった。それが何を意味するのか、謎は深まります。

過去いくつもの航空事故例で登場するような、“信じられないくらいお粗末なパイロット”による事故ではないことを祈りたいと思います。

■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

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