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2015年2月25日 (水)

【地震関連情報】三陸沖地震の誤報とその後(#947)

去る2月17日の午前8時6分頃、岩手県沖で発生して小規模の津波を発生させたマグニチュード6.9の地震の震源が、当初の発表よりずっと陸地に近かったという報道がありました。

【地震波の合成による誤解析】
当初は岩手県沖約210kmの海底とされましたが、実際には陸地から約134km沖の海底であり、陸地にずっと近かったのです。

原因としては、M6.9の地震の10秒程前に近くで小規模の地震が発生しており、ふたつの地震波が重なってひとつの地震として観測装置に捉えられたことにより、震源位置の解析に大きな誤差が生じたと説明されています。

気象庁のシステムによる震源位置の推定は非常に高い精度であり、かつて朝鮮半島で地下核実験が行われた際には、推定「震源」位置がピンポイントで核実験施設の場所を示していたほどです。

しかし、ハイテクにもこんな“想定外”の落とし穴もあるということがわかりました。今後、このような事態も想定した対策が進められるとのことです。

【津波到達時間の問題】
震源が海底の場合、震源までの距離を誤ることの最大の問題は、津波が発生した場合に、陸地への到達時間の予想が狂うことです。

今回も、予想到達時間より早く津波が到達した場所があったそうです。しかし、津波が小規模だったために事なきを得ました。

もっとも、津波の予想到達時間が発表されても、その時間までは安全という意味ではありません。大きな地震を感じ、津波警報や注意報が発表されたら、個人レベルでは最短時間で避難行動を始めるのが基本ではあります。

それに、大津波が発生するような大規模地震や、震源がもっと陸地に近ければ、今回のような条件による誤差はそれほど大きくならないはずです。

少なくとも、地震の規模、震源深さと方向は正確に解析されていますから、浅い海底で大きな地震が起きたら、とりあえず津波が起きるものと考えて、自分の判断で避難体制を取るべきです。

津波の危険がある時は、起きるかどうかの判断も含めて『津波てんでんこ』でなければならないと考えます。巨大地震になれば、避難行動を始めるまでのわずかな時間差が生死を分かつこともあるのですから。

今回の誤報は大きく報道されましたが、現実的にはそれほど大きな問題では無いのかなという気もします。ただし、行政などの対応には問題になりそうですが。

【アウターライズ地震だったのか?】
ところで、今回の地震は陸地から約134km沖の深さ13kmで発生した、『圧縮力による逆断層型地震』でした。

一般的アウターライズ地震ならば、プレート境界域より沖側(アウターライズ)で発生する、張力による正断層型地震のはずです。そこで、管理人は発表された震央と震源深さから、当初はそう予想して記事に書きました。

しかし実際は、約134km沖深さ10kmの逆断層型地震でした。少なくとも、かなり沖の浅い海底で発生した津波の起きやすい地震という意味では、アウターライズ地震と良く似た地震です。しかし、発生メカニズムと発生する場所が異なっています。

【比較的珍しいタイプの地震】
この地震は、当初の発表では日本海溝(プレート境界域)の沖側に当たる、太平洋プレートのアウターライズで起きたとされましたが、その場合には、張力による正断層型地震だったはずです。

しかし実際は、日本海溝より陸地側の、北アメリカプレート表層部で起きた、圧縮力による逆断層型地震でしたので、アウターライズ地震とは全くの別ものでした。三陸沖でのこのタイプの地震は、東日本大震災後にもそれほど多くはなく、小規模地震が散発的に起きている程度です。今回のマグニチュード6.9は、このタイプの地震としては震災後最大クラスかと思われます。

【今後どうなるか】
比較的珍しいタイプの地震がかなり大規模に発震し、その後も余震が続いています。かなり沖のために地上の揺れは大きくありませんが、マグニチュード6を超える余震も発生しています。

2月17日の本震後、余震の震源は本震震源から北へ移動しているように見えます。普通であれば、本震震源と同一かごく近くで余震が起きるものですが、この地震は明らかに異なっています。北アメリカプレートが日本海溝へ落ち込む、東向きの下り斜面の表層部に集中しているのです。

本震震央とその誤報の位置関係及び、2/24日までに発生した余震の震央を、簡単な図にまとめてみました。なお、余震の震源深さはすべて10kmと発表されており、発生メカニズムも本震と同一と思われます。
Photo
オレンジ色の点が、余震の震央です。

このことから、本震震源付近だけでなく、三陸沖の北アメリカプレート表層部には、比較的広範囲に圧縮ストレスがかかっていることが考えられます。

さらに、震源がだんだん北方へ移動するような傾向が見られることから、もし仮に今後このタイプの地震が大規模に発生するならば、岩手県北部から青森県の沖辺りで発生するかもしれません。もちろん、このまま収束していく可能性も大きいので、しばらくは推移を見守る必要があるでしょう。

なお、このタイプの地震はプレート境界型(海溝型)地震のような巨大地震となる可能性はありませんが、最大でマグニチュード7超クラスが発生する可能性はあり、何より海底の浅い場所で発生するので、マグニチュード6台後半以上の規模になると、津波が発生しやすくなります。

その場合、日本海溝より沖側で発生するアウターライズ地震よりもはるかに陸地に近くなるので、津波が陸地に到達するまでの時間が短くなります。

あまり多いタイプの地震ではありませんが、2月24日現在、余震はまだ収束していないようですので、しばらくの間は、特に津波警戒レベルを上げておく必要がありそうです。


■当記事は、カテゴリ【地震関連】です。

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コメント

少し前の記事ですが、
http://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/8/9/8985.html
この記事を見てゾッとしてしまいました。なんでも震災により解放されたと言われていたプレートの歪みが、すでに震災前の水準に戻っているかも、という研究結果です。「大地震と大地震の合間は【安全】なのか?」という素朴な疑問を研究したということですね。
大地震の痕跡から「数百年に一度」ということになっているんだと思いますが、歪みというか地盤のストレスがあっという間に蓄積されても、それが「解放」されるまでに数百年かかるということはあり得るんでしょうか?

それと、地震が来るたびに速報で「津波の心配はありません」と瞬く間に報じられますが、沖合の海の底での地震なのに「津波が来る・来ない」「波の高さがいくら」の判断ができるのはなぜなのでしょうか?単純にその地震のパワーの差による経験的な判定なのでしょうか?

>tntさん

とりあえず人類の観測史上では、プレート境界型のM9クラスがごく近隣で短い期間のうちに連続発生したことは無いのですが、震源域レベルまで広げると、M8クラスが続けて起こることはあります。

その場合は、本震震源域の大きな変動によって、「隣の」震源域に蓄積されていたエネルギーが解放されています。東日本大震災以降は、そのような地震が起きていないので、震災震源域の「隣」に当たる、北海道沖から青森沖辺りと、千葉沖辺りが危ないと言われる訳です。

東日本大震災の場合、東北沖で大きな地震を起こすプレートの固着域(アスペリティ)の存在はほぼ把握されていて、場所と周期性もかなりわかっていました。しかし、実はその沖側に未知の巨大固着域が存在していて、それが「約1000年ぶりに」動いたことで、陸側の固着域が連鎖して超巨大地震に発展したものです。

つまるところ、巨大地震が起きるのはエネルギーの蓄積量はもとより、固着域が大きくはがれるかどうかにかかっていると言えます。つまりエネルギーの蓄積が事実ならば、固着域の状態によっては、比較的短期間で再び解放される可能性もあると言えるでしょう。

東日本大震災では、地殻内の水分が固着域に浸透してすべりやすくなった結果、大きな動きを誘発したと言われています。エネルギーが蓄積されていて、また同様の現象が起きたりしたら、M9クラスまでは行かないまでも、比較的短期間のうちに大規模地震が起こる可能性はあるでしょう。

但し、地質的時間軸では数年後も数百年後もあり得ることですし、その可能性はあまり高くないとは考えられます。それよりも、可能性で言えば震災震源域周辺の誘発地震や、各地の直下型地震の方がはるかに高いのは間違いありません。

津波の有無の判定方法については、実は私も良く知りませんでした。私は自分の経験則から、海底10km程度より浅く、マグニチュード値が6台後半になると津波が発生しやすいと判断しています。

そこで気象庁の判定方法を調べてみたのですが、やはり
地震の震央、震源深さ、マグニチュード値を『津波データベース』と照合して、発生の可能性がある場合に注意報や警報を短時間で発表しているとのことです。

津波データベースとは、『津波を発生させる可能性のある断層を設定して津波の数値シミュレーションを行い、その結果を津波予報データベースとして蓄積したもの』(気象庁ウェブサイトより抜粋)だそうです。


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