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2015年3月 2日 (月)

これぞアオり記事というものを見つけました(#948)

当ブログでは、メディアの『アオり』というような表現を良く使うのですが、見事なまでに典型的なアオり記事を見つけました。その内容がこれまた「見事」なので、記事にさせていただきます。

【やはり出た連続地震絡み】
去る2月17日、東北沖で大きな地震が連続しました。朝方、まず三陸沖でマグニチュード6.9が発生し、津波注意報が発表されました。そして午後には岩手沖でマグニチュード5.7、最大震度5強が連続しました。

朝の地震が午後の地震のトリガーになった可能性はあるものの、連続発生した最大の理由は、気象庁の発表にもある通り「偶然」の可能性が最も高いものです。

しかし、小規模ながら津波と震度5強が同日に発生するという“おいしい”ネタに、やはり食いつきましたね。ここで採り上げる記事は、有名週刊誌『G』に掲載されていたものです。

【細かい印象操作も】
記事は3ページですが、見開きは半分近くが巨大見出しで埋められ、実質的には1ページ半程度の小記事です。
それでも表紙の一番上、つまりコンビニの棚で最初に目につく場所に記事見出しが入っています。やはりこういう記事、効果的に数字を稼ぐわけです。

タイトルは『これはこの国の宿命なのか?巨大地震がまた来るかもしれない』
サブタイトルは『311直前と似てきた』と。 まあ、巨大地震は疑問形にするまでもなく、この国の宿命ですけどね。

記事曰く、311直前にも連続地震があった。今回またあった。だからまたでかいのが来るかもという、付帯的条件を全部すっとばしたエセ科学的論法によるアオりです。

記事の一部を、要約の上引用させていただきます。

(以下引用)
『大地震が心配される理由は、2月17日に岩手沖で発生した2つの地震だ。(中略。以下2つの地震の詳細)

じつは、東日本大震災が起こる少し前にも、三陸沖で同じような地震が観測されている。

2011年3月9日、午前11時45分のことだった。M7.3、宮城県では震度5弱を観測した。(中略)気象庁の発表によると、2月17日の地震は「東日本大震災の余震と考えられる」というが、「余震だから心配ない」などと油断はできない』
(引用終了)

だそうです。なお、上記記事にはありませんが、後に震災本震の前震と考えられた地震は、3月8日にも震度4が起きています。前震が連続していたのです。何故かそれに触れないのは、日付が違うからか文字数の関係かw

ちなみに、気象庁は「余震だから心配ない」とは一言も言っておらず(何故か「」で囲んで気象庁発言のような印象ですね)、『・・・などと油断はできない』という文言は地の文、つまりこの週刊誌側の見解にすぎません。

【本当に311前に似ている?】
結論は明白。全く似ていません。東日本大震災の前震とされた地震は、震災本震震源の北側で発生した、プレート境界型(海溝型)地震でした。つまり、震災本震と同じメカニズムで発生した前兆地震です。震源域が大きく動く前に、イメージ的には「ミシミシ」と動き出したことによるものです。

それに対し2月17の地震ですが、まず津波を発生させた朝の地震は、太平洋プレートに押し込まれた陸側の北アメリカプレート表層部(震源深さ約13km)で起きた浅いスラブ内地震で、同日午後の地震は、同じく太平洋プレートに押し込まれた北アメリカプレート深部(震源深さ約50km)で起きたスラブ内地震です。

いずれも、東日本大震災後の地殻変動により、移動速度が上がった太平洋プレートの圧縮力によって発生したものであり、広い意味において震災の余震です。今回たまたま大きめに連続しただけで、震災後には何度も発生しているタイプの地震に過ぎません。

2つの地震とも震災の前震とは発生場所もメカニズムも全く別ものであり、さらにその2つも異なる場所とメカニズムというわけで、同日に連続したからと言ってプレート境界型(海溝型)地震と繋げる要素は全くありません。

【事実とアオりの見事なコラボ】
ところが、記事には『東日本大震災震源域のエネルギー蓄積量は、震災前レベルに戻っている可能性がある』とか『プレート境界型巨大地震震源域近隣で、M8クラスの余震が起こる可能性がある』というような学術的に裏付けのある情報を併記することで、すべて同列の信頼度があるような印象操作がなされています。

発言者として明記されている『○○教授』の発言と、根拠が無いアオりの見事なコラボです。地震のメカニズムなどわからない人には、実にもっともらしく見えてしまいます。

ついでに言えば、巨大地震震源域近隣で誘発地震が起きる可能性が高いという話は、この記事のテーマとは全く関係無い話なんですけどね。 他のM9クラス地震の後にはほとんど起きている現象であり、311前と似ているとかいう話ではありません。

【さらに追い打ちも】
加えて、311前には深海魚である「リュウグウノツカイ」が引き上げられたとか、昨年から日本海で「ダイオウイカ」の引き上げが増えたとか挙げた後に、生物学者の『電磁波の変化に敏感な魚介類が影響を受けている可能性がある』というコメントも。

「リュウグウノツカイ」は、震災前でなくても(記事には場所も時期も無し)結構上がってます。地震と絡めて報道された時だけが印象に残っているだけ。普段は地方ニュースの小ネタ程度にすぎません。

「ダイオウイカ」も、確かに捕獲は増えているものの、地殻内からの電磁波との関係を示す根拠は全く無し。それ以前に、海棲生物の分布変化は海流、海水温、塩分濃度の変化や補食行動の変化の影響の方がはるかに大きいという事実を無視して、いきなり地震だの電磁波だのというのはナンセンス。それ以前に地球高温化の影響を心配しろという話。

巨大地震の直前に魚介類など動物の異常行動が見られることがあるのは事実ですが、中長期的に地震と関連がありそうな異常を示すデータは皆無と言って良いでしょう。要は、いつもと違うからなんとなく不気味、というイメージのアオりに過ぎません。

記事の生物学者も、魚介類が地殻内からの電磁波の影響を受ける可能性はあると言っていますが、深海生物が上がるのがその影響だとは、一言も言っていないのです。

【ついに断言までした】
ここで、もう一度記事を引用させていただきます。

(以下引用)
『現在、日本列島に起きている様々な異変。これはまさに「311の直前と同じ状態にある」と言っていい。』
(引用終了)

と、「」つきで断言までしています。「○○教授」の見解の後ですから、まるでだれかの公式見解のような印象ですが、これも地の文、つまり週刊誌側の見解に過ぎません。じつにあざとい。誰かの発言、例えば前の発言者の言葉ならば「」の後に(同)などと表記するのが作法です。

【そして東京も巻き込む】
最後は、“巨大市場”である東京にも言及しています。

東日本大震災の誘発地震が千葉沖で発生する可能性が比較的高いという専門家の見解の後、そうなると東京も大被害を受ける、東京湾に5~6メートルの津波が来るかもという想定を挙げて、最も「お客様」の多い東京も他人事じゃないぞということで。

なお、震災の影響で誘発地震が起きる可能性があるのは、千葉沖だけでなく北海道の太平洋岸から岩手・青森沖も同じです。しかし千葉沖だけをピックアップするのも、“巨大市場”東京を意識したものでしょうね。東京を征する者は、商売を征すのですw

というわけで、典型的なアオり記事をネタにさせていただきました。ある意味で、見事な“プロの仕事”ではあります。

こんなのでも、「防災意識を高める」という美名を冠すれば、なんでもアリなのでしょうか。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

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