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2015年3月30日 (月)

これからの航空業界が孕む問題とは(#959)

Memorial
アルプスの墜落現場を望む場所に建立された慰霊碑

3月24日にフランスアルプスで発生したジャーマンウイングス航空機墜落事故は、副操縦士による『自殺飛行』であったことが確実になりました。この事実に対して、何も言葉はありません。ただ、巻き込まれた犠牲者のご冥福をお祈りするまでです。


【避けられない事態なのか】
このような事故は、できれば考えたくありません。しかし2005年に発生したJR福知山線脱線事故もこの類ですし、1982年に発生した日本航空350便羽田沖墜落事故のように、決して完全に他人事では無いという現実もあります。

後者の事故は、若い方はご存知ないことも多いでしょうが、【逆噴射】、【心身症】、【機長何するんですか!】という言葉が流行語にまでなった、考えられないような事故でした。24人が死亡、149名が負傷しましたが、着陸寸前の機体を自ら墜落させた機長は生還しました。

そのような苦い経験を経て、乗務員の健康やメンタルのチェック体制はより厳格になり、乗務の形態も見直されました。そのせいもあり、かなり長きに渡って、このような異常事態は起きなかったのです。しかし、また起きてしまいました。


【LCCの問題なのか】
1990年代の米国では、航空の規制緩和によって多くの新興航空会社が誕生しました。まだLCC(Low Cost Carrer)という言葉も一般的でなかった時代ですが、それまでの概念を覆す、低運賃エアラインが台頭してきたのです。

その中で、悪い意味で記憶に残るのが、バリュージェット航空です。画期的な低運賃を実現するためにコスト削減を徹底し、使用機体はかなり使い込んだ中古機で、整備はほとんど外注の上、無資格者による検査などが横行し、その保安体制は非常に劣悪でした。

そのため、年間数十回もの異常飛行や異常着陸を引き起こして航空当局から警告を受けていましたが、1996年にはついに、貨物室に積んだ危険物(酸素ボンベ)からの出火により、110名が死亡する墜落事故を引き起こしました。この事故でも、危険物積載時や火災発生時における安全対策が無視されたことが、間接的な原因でした。

やはりこのような苦い経験を経て、LCCでもコスト最優先で安全軽視の経営ができないように様々な規制が行われ、それは実際に効力を発揮しています。しかし、避けられない問題も浮上しています。


【LCC台頭の影に】
先進諸国の航空業界では、今やLCCが花盛りです。その裏では様々な問題もありますが、最大の問題は、パイロットが慢性的に不足しているということです。

今回のジャーマンウイングス機事故と直接関係するものではありませんが、パイロットの不足は、望ましいレベルに達していないパイロットの採用に繋がりかねないという危険を孕んでいます。

さらに、コスト削減のためのフライト回数の増加や、空港でのターンアラウンド(折り返し)時間の短縮による心身への負担の増加も懸念されています。しかも、LCCの賃金は一般に大手エアラインよりも低いのです。

しかし、今後LCCへの需要はますます増大することは確実ですので、パイロット不足はさらに深刻になって行くでしょう。

そのような現実が、磐石でなければならない空の安全に、僅かずつでもほころびを作り始めているという指摘もありますし、近年の航空機事故や、事故(accident)にまで発展しなかった異常事態(incident)を見るにつけ、それは否定できない事実のような気がします。

なお、パイロットのスキル不足などは決してLCCだけの問題ではなく、大手エアラインでも皆無では無いのですが、どうしてもLCCにおける比率が高くなってしまっているようです。

言うまでもなく、ほとんどのパイロットと関係者は十分なスキルと高い意識を持って業務に当たっています。事故ばかりが目立ちますが、その裏で膨大な数のフライトが安全に完結しているという現実も、忘れるわけには行きません。確率的に言えば、旅客機は地球上で最も安全性が高い乗り物なのです。

ただ航空機の場合は、一旦事故となると致命的な結果になるので、ユーザーとしてはごく低い確率でも気にしないわけには行きません。


【ならばどうするか】
今回の事故のような異常事態を、乗客の立場から防ぐ手段はありません。

航空機を比較的多く利用される方には、LCCの低価格は特に大きな魅力です。ただ、ごく稀に航空機を利用する場合や長距離路線などの場合、LCCと大手エアラインが同じ路線を飛んでいるならば、確率論で考えれば大手を選ぶのもひとつの方法です。

これはあくまで個人的な意見だとお断りしておきますが、航空業界の中もヲタ的な視点で見てしまう管理人としては、コストはかかってもそうしたくなってしまうのです。


ジャーマンウイングス航空機事故に関する、航空関係の記事はこれで終了します。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。


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コメント

世の中お金を出して購入するものにはいろんなカタチがあります。もちろん形がないモノすらありますが、モノの値段って究極的には人件費に集約されるんですよね。超高級なダイヤモンドだって、売価100万円を細かく見ていくと、山に埋まってる時点ではダダの石ころですし、それを磨くための材料費、運搬代、加工賃、道具代・・・と分けていくと、最後は「売り手の手間賃」という漠然としたものが残ります。運搬代を細分化していっても結局は同じことになります。

この売り手の手間賃こそ「付加価値」というやつですが、お魚やボールペン、パソコン、タクシー料金、訴訟にかかる費用、住宅などなど本質はすべて同じで例外はありません。「付加価値」の核にあるのは売り手からすれば「自信を持っていいものを売る」、買い手にとっては「いいものを高くても買う」という双方のスタンスだったはずです。

残念ながら利益追求と言いつつ「付加価値」の本質を見失った経営者が多いのが実態のように思います。具体的な社名は挙げませんが、いいモノを作って世界を席巻した企業が、何も分かってない外資に乗っ取られて没落したのも、結局はそういうことです。飛行機で言えば「安全性よりも安さ追求」といったところでしょうね。経営者は絶対に認めないでしょうが、「ヒトにかけるコスト」を削りに削ってきた経緯を見れば、彼らの本音は明らかです。

日本も本気で付加価値の意味を考えてモノを売っていかないと、中身がスッカスカの欠陥品を大量生産していく斜陽の国になってしまうんじゃないでしょうか。恐ろしいことにそういう兆候はすでに見えてきてます。もっと「グローバル化していないこと」のプラスの面にこそ注目すべきだと思います。


雲をつかむような話ですが、単なる既製品の寄せ集めの組み立てに終始してるのか、人件費や人材育成にどれだけ手をかけてるか、はその会社が「いいモノ」を売ろうとしてるかどうかの目安になりそうですね。

>tntさん

私もまさにそういう点を危惧しています。企業の主眼が短期的に収益を上げることに偏り、それが最大の「成功」とされる風潮の中では、手間とカネをかけて、収益性が低くても良いモノやサービスを提供するという考え方は、むしろ愚かとされつつあるような。

良心的な経営で収益を上げている企業も、単に投資先としか見なしていないファンドとかに経営権握られたりとかもあって。それでさんざんかき回されて創業者とか追い出されて、儲からなくなったら売り転がしされたり。

tntさんが言われる没落した企業とは、大体どこだかわかります。まあ、そういう例多いですよね。一方で、創業者一族とかが旧態に拘って、時流に合わずに没落する例もありますね。

なんにしろ、我が国の「良さ」がどんどん失われているような。名前出しちゃえば、トヨタの例は非常にレアケースで、現状に危機感と解決策と情熱を持った創業者一族の社長という珍しい存在によってとりあえず良い形で回ってますが、某ライバルメーカーなど、合理主義の徹底で、本来の「良さ」がどんどん失われているような。

日本企業が欧米のような短期的利益至上主義になると、社会や労働者文化との軋轢もどんどん大きくなると思います。単純にマネできないですよね。でも、そういう方向へ進んでしまっているのかなあと。


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