政府が南海トラフ地震災害応援計画を発表(#960)
3月30日、政府から南海トラフ地震発生の際の応援計画が発表されました。
【72時間以内の展開を目指す】
それによると、南海トラフ地震が想定される最大規模で発生した場合、津波被害が予想される静岡から宮崎にかけての沿岸10県を、巨大地震の際に必ず応援を要する地域と定め、残る37都道府県から最優先で応援部隊を派遣するとのこと。
その規模は最大で警察が約1万6000人、消防が約1万6600人、自衛隊が被災10県の部隊も含めて約11万人を投入するそうで、まさに国を挙げた総力戦計画です。
それらの応援部隊を、負傷者の生存率が大幅に低下する72時間以内に被災地に展開することを最重点としています。
また、発災直後から全国規模で支援物資の調達を始め、2日目には緊急交通路や船舶による輸送を開始、3日目までに被災地近隣の支援拠点まで輸送して、『4日目には被災者に支援物資が届くようにする』計画になっています。
このような巨大作戦の遂行能力に関しては、我が国は世界最高レベルということができましょう。ただ、気になる部分もいくつかあります。
もちろん計画はされているのでしょうが、報道には国土交通省の名前が出てきません。いかに優秀な部隊も支援物資も、現場に到達できなければ意味がありません。
【どこまで行き届くか】
こと津波災害に関しては、沿岸部で内陸からの到達が最も困難な場所が主な被災地域となります。そこで何よりも重要なのが、そこまでの道路啓開及び端末輸送なのです。
東日本大震災では、国土交通省の道路啓開部隊が、内陸の国道4号線から沿岸の各被災地へ向かう各道路を、あたかもくしの歯のように啓開して行く『くしの歯作戦』を展開しました。
重機をトラックに積んで崩落した土砂や瓦礫を撤去しながら被災地までの道路を確保したことで、救援部隊が被災地に早い段階で到達できたのです。
しかし、最後の段階では瓦礫の中にご遺体が見つかって、重機での撤去ができなくなった場所もありました。その重機も、多くが近隣や地元の契約建設業者の協力でした。自らも被災しながら、作業に従事した方も多かったそうです。また、津波で浸水して使い物にならなくなった重機も多かったのです。
さらに広域の被害が予想される南海トラフ巨大地震の場合、果たして道路啓開や損傷個所の修復がどれだけ機能するか、機能しても『72時間以内』にどれだけ間に合うのかは、未知数の部分が多いと言わざるを得ないのではないでしょうか。
一方、支援物資を集積拠点までは運べても、そこから沿岸部に点在する各被災地へ届ける最後の輸送、端末輸送が最も困難となります。沿岸部の道路は、津波で寸断されている可能性が高いのです。
大きな町ならまだしも、沿岸部の小さな集落などが孤立する事態は、東日本大震災でも多発しました。町の中でも指定避難所だけではなく、自主的に作られた小さな避難所があちこちに点在し、そのような場所へは、早い段階で支援物資が届くことはほとんどありませんでした。
津波災害の場合、指定避難所へ支援物資を受け取りに行こうとしても、道路の寸断で身動きできないことも多いのです。
【やはり自助が最重点】
そのような状況を考えると、『4日目』までに支援物資が届く可能性が低い場所は、かなり多いと言わざるを得ません。状況によっては、大きな町でも困難になる可能性もあります。
そうなると、やはり最低でも1週間分程度の備蓄を自力で備えておかなければならないでしょう。しかし、津波災害の場合は、備蓄ごと家を流されてしまうことも多くなりますから、できることなら安全な場所に備蓄をまとめておくような対策も必要になります。集落や町内単位以上ならば可能でしょう。
特に重要な水分に関しては、雑用水や川の水なども飲めるようにする、『飲み水を作る』装備も必須です。
【災害対策は備蓄だけではない】
救助の目安とされる『72時間以内』とは、人間が水を飲まずに生存できるとされる期限から来ています。つまり、閉じこめられたり挟まれたりした状態での『最良の期限』であり、ケガをしたり寒さや暑さの中では、その時間はさらに短くなることもありますし、その人の気力・体力にも左右されます。
ですから我々が目指すべきは、発災後最初の72時間に救助隊の世話にならなくても良い状態でいること。そして、1週間程度は自力で生き延びられることです。
それには、まず発災時にケガをせず、動ける状態を保つことが何より大切です。そのために必要なことは、まず自分の居場所で何が起きるかを知り、その危険を避ける行動を知り、周りの危険要素をできるだけ取り除いておくことです。
その次に水分を確保し、寒さ、暑さや悪天候から身体を守り、栄養を採って救援を待つための備蓄が必要となります。
世界最高レベルの救援体制が期待できる我が国であっても、まず自助無くしては『生き残る』ことができないことも多いということを現実の問題として考えられるか、まずはそこからです。
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