箱根山の噴火警戒レベルが引き上げ(#982)
箱根山周辺規制図(気象庁ウェブサイトから転載させていただきました)
箱根山の火山活動が活発化の傾向を見せています。5月5日には、それまでより深い地下5km付近を震源とする震度1の有感地震が発生しました。
【箱根山の活動は“次の段階”に】
これは火山活動が活発化し、次の段階に入ったためと思われます。
当初は、地下で熱せられた水及び水蒸気の供給量が増えたために、その圧力によって地表近くで火山性地震が発生したものと思われます。
このため、想定される危険は普段より強い水蒸気の噴出程度の現象でしたので、噴火警戒レベルは「平常」のレベル1のままでした。
しかし、深さ5km付近で地震が発生したということは、それまでより深い場所で水蒸気の圧力上昇、もしくはマグマの発泡が起きている可能性が出てきたのです。
マグマへの地下水の供給量が増える、もしくはマグマが上昇して新たな水脈に触れるなどして水蒸気圧力が上がっているか、マグマが上昇して加わる地圧が下がることによって、マグマ内のガスが発泡して圧力が上がっていかのどちらかの現象が起きている可能性があります。
マグマの発泡とは、炭酸飲料の栓を抜いた時に発泡するのと同じ現象で、マグマに加わる圧力が下がると、とけ込んでいた火山ガスが泡状に気化する現象です。
ただし、5月6日時点では大規模なマグマの上昇を示す低周波地震などは観測されていません。
【水蒸気爆発以外もあり得る】
いずれかの理由によって地下の圧力が上昇していることが考えられるために、噴火警戒レベルは「火口周辺規制」のレベル2に引き上げられました。
現在最も懸念されるのは、噴気が強まっている大涌谷付近での水蒸気爆発です。地下の水蒸気圧力がさらに高まれば、現在噴気が強まっている大涌谷周辺、すなわち圧力の抜け道付近の地面を吹き飛ばすような爆発が起きる可能性が出てきました。
現時点では、最大でも大涌谷周辺2km程度に噴石が到達するかもしれないという規模が想定されています。その場合でも、風向きにもよりますが、はるか遠方にまで火山灰が降ることが考えられます。
今後さらに活動が活発化した場合は、別の懸念も出てきます。
地下のマグマがさらに上昇して来た場合、前記のように火山ガスの発泡による圧力上昇によって地表から噴出したり、さらに大規模になれば、噴火にまで発展する可能性があるのです。
その場合、現在噴気が上がっている場所はもとより、それとは全く違う場所で噴気や噴火が発生する可能性も出てきます。
地下の岩盤の状況によって、現在の噴気口とは別の『圧力の抜け道』ができてしまうかもしれないわけです。
ただ、一般的には最も圧力が抜けやすい場所、すなわち現在の噴気口付近から噴出する可能性が最も高いと言うことができますが、その他の場所での噴火の可能性も想定しておかなければなりません。
いずれにしろ、今後さらに活動が活発化するのならば、現在以上に火山性地震の増加、地温上昇、圧力による山体膨張などの兆候が出るはずです。
それらは継続的に監視されていますので、当面は気象庁など関係機関からの発表に注意してください。
もし新しい火口ができる場合は、過去数万年の間に噴火したことがある火口跡付近に加えて、全く別の火口が形成される可能性もあるということも頭に入れておく必要があります。
それは多くの場合、主な火口や火口跡を取り巻く山腹か山麓(山裾)と考えて良いでしょう。
【具体的に何をすべきか】
このような段階になっていますから、噴火によって直接の被害を受ける可能性のある範囲にいる方は、速やかに危険地帯から避難する備えを始めておかなければなりません。さし当たって、火口周辺の半径2キロに及ぶ現在の立ち入り規制区域には居住者はいないようですが、想定以上の噴火規模になる可能性も考えておくべきです。
避難時に必要な備品は地震避難時に必要なものと共通ですが、重点を置くべきは、火山灰対策です。目や呼吸器、コンピューターなどの電子機器を火山灰から守らなければなりません。その基本は、前記事でも触れています。
火山噴火の場合は、危険範囲から脱出できさえすればすぐに救援が受けられますから、地震避難よりはある意味で楽ではあります。
しかし、大量の降灰や付帯的な地震による避難道路の寸断や避難車両の集中による大渋滞も想定して、できる限りオプションの避難方法も考えておかなければなりません。
また、避難が必要な状況はいつ起こるかわかりませんから、ご家族などとそれぞれの避難方法、避難場所、集合方法なども打ち合わせしておきましょう。火山災害でも『てんでんこ』は必要です。
地震に比べて通信手段が失われる可能性は低いのですが、局地的にしろそれが起きないとも言い切れません。
【希望的観測は一旦捨てよう】
管理人は、以前の記事で『富士山より箱根山系の方が・・・』などとつぶやいたこともあるのですが、現実を直視していれば、それは当然のことなのです。
何百年も噴火していない、兆候も見えない富士山に対して箱根山は活発に活動している活火山ですし、以前から若干ながらも噴火に繋がるかもしれない兆候は出ていました。
とはいえ、今回の活動活発化が大規模噴火に発展する可能性は、現時点では高くありません。それは今後の推移次第であり、このまま収束して行く可能性が高いのかもしれません。現実に、箱根山は活発化と収束を過去から何度も繰り返してきました。
しかし、ここは一旦希望的観測を捨てて、巨大噴火が起きるかもしれないという前提で、できる備えを進めておくべき状況でもあります。
『最悪の状況を想定する』ことが危機管理の鉄則であり、それに従って備えを進めておくことが、”その時”にあなたと大切な人を救うのです。
■当記事は、カテゴリ【火山災害】です。
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半年前(昨年暮れ)に強羅温泉に一泊してきました。旅館の窓からは早雲地獄がよく見えました。当時はあれが大涌谷かと思ってましたが、googleMapで確認したところどうやら違ったようです。
地図を見た限りでは大涌谷は小田原方面から見ると山の反対側ですが、当然地下は繋がってるでしょうから、こっち側に突き抜けて噴火することもあるんでしょうね。噴石の飛来範囲は2kmと聞くと意外と狭い範囲のようにも思いますが、大涌谷の半径2kmには芦ノ湖もロープウェイも強羅からのケーブルカーも全部含まれてしまいますので、観光への影響は相当のものですね。。。
昨日の記事を拝見して家族用にゴーグルタイプの花粉症メガネを買うことにしました。モタモタしてると売り切れそうですが、私自身花粉症ではないので結構高いこともあり躊躇ってしまいます。
死都日本では「火山灰の影響下に入る前に精密機械類をラップで包んでしまえ!」というシーンがありましたが、確かに有効そうではあるのですがその間は仕事ができないということですよね。空気清浄器も精密機械ですしどこまで効果があるものでしょうか?
投稿: tnt | 2015年5月 6日 (水) 21時31分
>tntさん
私もかつてバイクに乗っていたので、箱根は定番のツーリングコースでした。箱根新道がまだバイク通行可だった頃を知っているなんて言うと、歳がバレますねw
でもそのせいで、箱根の道はやたらと詳しいものの、いわゆる観光地へ行ったことがほとんどありません。山へ上がって大観峰で富士山眺めるくらいで。でも、大涌谷は家族と一度だけ行きました。こんなにガンガン噴いているところ入ってヤバくね?と思いましたわ。硫化水素とか大丈夫なんだろうかとか。
仮に箱根が大規模に噴いても、火砕流、溶岩流は北側斜面へ下る可能性が高いようです。ハザードマップではそうなっています。約3000年前の噴火では、大規模な溶岩流が川をせき止めて芦ノ湖ができたそうですが、大涌谷からは西方向です。
南側で噴く可能性も皆無とは言えないかもしれませんが、さし当たって心配することは無いのかなと思います。
火山災害に限らず、大規模災害では粉塵に悩まされることが多いので、何かしら目を守るゴーグル類は必要かと。花粉症用ならば、かなり効果高いですね。ビジュアル的にもそれなりですし。とりあえずホームセンターで作業用防塵ゴーグルを入手しておくのも良いかもしれません。安いものなら300円くらいからあります。実際に火山灰が降ったら、カップ型の防塵マスクも是非欲しいところです。
火山灰は導電性があるので、電子機器に吸い込まれると回路基板などに貼りついてショートさせてしまう可能性が高いのです。微細な粒子でも起こりますから、少なくとも家の中には入れないように、入ってもPCなどに吸い込まれないような対策が必要かと。
一般的な家電は、ホコリが電子回路基板にまでは入りにくいのですが、PCは筐体内で基板がむき出しですし、冷却風を吸い込んでいますから、かなりヤバイわけで。下手すると一発でチップが逝きます。状況によっては、完全に守るためにラップで包む必要もあるかと。
あと、火山灰が濃密な環境では、スマホなども使わない方が良いでしょうね。車の場合は「死都日本」のカリブ号のように、エアクリーナーエレメントの掃除が必要ですね。
投稿: てば | 2015年5月 7日 (木) 00時25分
中型バイク通行禁止は箱根新道じゃないや箱根七曲りだった。えらい昔なんで間違えたw
投稿: てば | 2015年5月 7日 (木) 10時59分