【シリーズUDL08】水編6・水はとにかく重いということ(#1021)
■UDLとはUnder Disaster Lifeの頭文字。当ブログが提唱する被災生活の概念です。
今回と次回は水編の最終テーマとして、『水の運搬と保存』を 考えます。
【とにかく重い!】
水は1リットルで1kg。10リットルなら10kg。この当たり前のことが、UDLでは大きな問題となります。
水道が整備されていない時代や場所では、生活水を井戸や川に汲みに行かなければなりません。古代からずっと繰り返されてきた行為ですが、UDLにおいては、少なくとも水に関しては古代と同じ生活を強いられます。
現代のUDLにおいては給水車が井戸代わりですが、必ずしも近くに来てくれるとは限りませんし、古代には無かった高層住宅もありますし、普段から重量物を運ぶことも滅多にありませんから、より過酷とも言えます。
飲料水が備蓄で間に合ったとしても、下水道が無事ならば、水洗トイレ用や洗濯用の雑用水も必要になります。管理人は東日本大震災の被災者から直接伺いましたが、小規模の自主避難所では、周辺の自宅待機組とも協力して、雑用水を交代で川へ汲みに行っていたとのこと。
車が使えればまだしも、燃料の供給が止まっていたり道路が損傷していれば、それもままなりません。
いずれにしても、UDLでは「水を運ぶ」という作業が、どうしても必要になるのです。それもかなりの頻度で。
【人の振り見て我が振り直せ?】
被災地からの報道では、給水車から水を受け取る被災者の映像があります。テレビに映るのは、ペットボトルやバケツなどあり合わせの容器に水を入れ、それを重そうに運ぶ女性やお年寄りの映像が多いですね。
なぜなら、いちばん“大変そうな画になる”からです。そこでしっかりしたタンクに水を入れ、台車などで楽々運ぶ人の画など“テレビ的に台無し”ですから、まずカメラは向きません。
しかし、そういう人々もたくさんいるのです。あなたもそうなりましょう。
では、具体的に何が必要でしょうか。
【容器にもTPOがある】
誰にもわかることは、まず密閉できる水タンク。折りたたみ式などもありますから、備蓄しておくのも場所を取りません。容量は、重さを考えたら10リットルくらいが良いでしょう。UDLでは、給水車からひとり20リットルも水をもらえることは、まずありません。
飲料水用には、蛇口がついているタイプが水を使う時に便利ですし衛生的です(画像は参考)
特に飲料水用に必要な条件として、雑菌や不純物の混入を避け、中の水をできるだけ空気に晒さず、使用時にも他の容器に触れないようにしなければなりませんから、密閉できる蛇口付きは必須とも言えます。密閉してあれば、消毒用塩素の効果も長続きします。
そうではない「防災用」市販品があるのが信じられないのですが。
一方、雑用水用には蛇口は必要なく、できるだけ容量の大きなものが欲しいところですが、20リットルクラスだと力が無い人には水を移し変えるのも大変ですから、小分けできる5リットルくらいのタンクもあると便利です。
断水下の水洗トイレで便を流す時は、ある程度の勢いが必要です。バケツなどに水を移し変えなければなりませんから、水タンクは誰でも簡単に手に持てるサイズと重量でなければなりません。 満タンの20リットルタンクを楽に抱えられる人は、そうはいませんね。
【運搬手段は必須】
そして、重い水タンクを運ぶ方法。荷物用の台車ならば運搬能力が一番高いのですが、UDL用として家庭に装備するのは、あまり現実的ではありません。下画像は参考ですが、価格は3000円くらいからある、耐荷重100kgの小型のものです。このサイズでも、20リットルタンク3個を十分に運べます(しっかりした固定方法が必要です)
載っている水タンクは10リットルと5リットルのもの。これでも手で運びたくはありません。
台車でなくても、この際赤ちゃん用のバギーでもなんでも良いのですが、10~20kgの重量で長距離を耐えるものでなければなりません。重量物を載せてガタガタ走ると、フレームが折れたり溶接がはがれたりして、結構壊れます。
旅行用のキャスターバッグやスーツケースも使えないことはありませんが、大きな水タンクを入れたら、まずフタが閉まりません。
そこで最も手軽なのは、牽引式のカートです。これひとつあるだけで天地の差となります。しかし、1000円くらいで販売されている細い鉄パイプ製のものは、重量物を繰り返し運ぶと壊れることもあります。
画像のような頑丈なタイプならば、20kgのタンクを繰り返し運んでも、まず大丈夫でしょう。 下画像は、10リットルのタンクを載せた状態です。価格はちょっと張って、3000円台後半からになります(画像は一例)
ここに掲載した画像はすべて管理人の私物ですが、ご覧いただきたい部分は、荷物を押さえるゴムコードやネットも装備していることです。これが無いと、路面の段差などデコボコですぐに荷物が落ちるのです。それで水タンクが割れたりしたら、大変です。
カートに付属しているコードや、自転車用の細いコードではあまり力がかかりませんので、オートバイ用の太いコードを使っています。これならば、重い水タンクもしっかり固定できます。
さて、水が家に着きました。しかしあなたの家はマンションの上層階。もちろん、エレベーターは止まっています。どうしましょうか。10~20kgのタンクを手に持って上層階まで階段を上がるのは、筋トレ好きの管理人でもイヤです。
いろいろ考えた末、少しでも楽ができる装備は、こんなものではないかと(画像は参考)
アウトドア用の背負子(バックパックフレーム)です。水タンクだけでなく、背負える大きさのあらゆる荷物の運び上げに利用できます。これでも大変なのですが、あると無いでは天地の差でしょう。 価格は、3000円くらいから数万円まで各種あります。
ちょっと特殊なものですが、引っ張って階段を上れるカートもあります(画像は参考)
力があまり強く方には、こちらの方が使いやすいかもしれません。積み替える必要もありませんし。価格は2500円くらいからありますが、なるべく頑丈なものを選びたいもの。
そして、上記ふたつをハイブリッドしたタイプ。UDLの「高層難民」対策には、これが究極かもしれません(画像は参考)
背負いと引っ張り上げのどちらにも対応できます。価格は8000円弱とちょっと張りますが、便利さは群を抜いています。
【運ぶだけじゃない】
現実のUDLでは、荷物を楽に運べれば良いというわけでもありません。気持ちも体も疲れている中で、なんとかしてもっと楽をするという工夫も大切です。
水に限らず、UDLでは支援物資の配給や開いている商店には、長蛇の列ができます。ほとんど一日中並んでいたというようなことも、実際に起きています。
そこで欲しいのが、アウトドア用の折りたたみ椅子。何時間も立ちっぱなしは大変です。せめてグラウンドシートがあれば、汚れた地面でも座って待てますし、雨が降ったら荷物を守れます。
もちろん、自分の防水も大切です。悪天候の中で行列しなければならないかもしれません。そんな場合には、片手をふさぐ傘など邪魔モノ以外の何物でもないですから、ポンチョやカッパでなければなりません。
強い日射がある場合でも、日傘など持たずに、帽子など被りもので対応すべきです。
そんなことを諸々考えると、それなりの装備を運べて、帰りはたっぷり荷物を積めて、しかも休憩にも使えるこれは使えるなと(画像は参考)
お年寄り用の買い物カート(シルバーカート)です。もちろんお年寄りがいる家庭にしか無いでしょうし、UDL用に買うのも現実的ではありませんが、かなり使い勝手は良いでしょう。ちなみに、価格は1万円くらいからあります。
何しろ、UDLで水や物資の配給、買い物に出る時は、長時間でも座って待てる装備と日射や悪天候対策は必ず持って出かけるべきでしょう。
【エクイプメント ディバイド】
小見出しは管理人の造語です。「装備格差」とでも言いましょうか。極端に不自由なUDLでは、有用な装備の有無が、生活の質を大きく変えるのです。
しかし大げさな話ではなく、雨の日に傘があるかないか、基本的にはその延長線上です。問題は、だれもが雨=傘と知っているのに対して、UDLで「本当に役に立つ」ものが、正しく知られているとはあまり言えないことです。「被災者の声を反映」などと謳っている商品でも、疑問だらけのものも少なくありません。
水は必ず必要になる、しかし一番運びにくいものです。できるだけ楽に効率良く運ぶための装備は、UDLには必須と言えるでしょう。
『水の保存』は次回へ続きます。次回が水編の最終回となります。
■前回記事への追記 ■
読者の方からのご指摘により、当シリーズ前回記事に関して追記させていただきます。
前回記事では、『最悪の場合』に、川の水を次亜塩素酸ナトリウムで消毒して飲用するケースを考えましたが、北海道を中心に分布するエキノコックスなどの寄生虫卵は、次亜塩素酸ナトリウムだけでは除去できません。
煮沸すればそれも死滅させることができますし、中空糸膜フィルターならば濾過することもできますので、川の水を飲まなければならない場合はどちらかの方法を優先し、どうしても水が必要だけれども他の消毒方法が無い不場合に、次亜塩素酸ナトリウムで消毒して細菌とウイルスを除去するとお考えください。
もちろん、併用すればより安全度が高まります。
※当ブログ及び管理人は、記事で紹介した製品の製造元、販売元等とは一切の関係はありません。
■当記事は、カテゴリ【シリーズUDL】です。
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コメント
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管理人さんこんばんは
色々有益な情報ありがとうございます。
エキノコックスは北海道近辺に限られますが、全国的に注意が必要なのはクリプトスポリジウムとジアルジアでしょう。
どちらも原虫で河川水などに棲息し、次亜塩素酸ナトリウムでは除去出来ません。
対策はエキノコックスとおなじく、中空糸膜フィルターと煮沸ですがもう一つ、ヨウ素剤による消毒が有効だったはずです。
私が用意している浄水器はソーヤミニで、フラッシングによる洗浄が出来るので、フィルターの寿命が長いようです。
記事もですが小説も面白く拝見しました。
これからもよろしくお願いします。
投稿: 二日酔いの猫 | 2016年2月 8日 (月) 23時15分
>二日酔いの猫様
コメントありがとうございます。当ブログがお役に立てていれば幸いです。
クリプトスポリジウムやジアルジアについては、浅学にて認識がありませんでした。有益な情報をありがとうございました。
原虫やその卵の危険を考えたら、やはり煮沸に勝る消毒はありませんね。一般の防災情報では、カセットコンロはUDLの調理として推奨されているくらいですが、もっと飲み水対策備品として考えられるべきかと。
まあ、そこいらの『防災の専門家』には期待していませんがw
スーパーデリオス派の私は、ソーヤーミニについてあまり知らなかったのですが、フィルターの洗浄ができるのは魅力的ですね。ちょっといろいろ調べてみようと思います。
小説は、まあ素人の手慰みみたいなものですが、いろいろなシチュエーションでの知識や行動を織り込んで書いてみたものです。箇条書きとかより、印象に残りやすいかなと。
お楽しみいただければ幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: てば | 2016年2月10日 (水) 09時27分