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2015年9月18日 (金)

【関東・東北大水害】それでもあなたは長靴を履かないか?(#1058)

台風17号と台風18号崩れの温帯低気圧によって関東と東北を襲った豪雨は、各地に大きな被害をもたらしました。

特に関東地方では、堤防が決壊や水が堤防を超える『越水』によって、甚大な被害となりました。


【話題になったあるツイート】
管理人は見ていなかったのですが、災害の最中にあるツイートが話題になったそうです。

そのリプライには「それは知らなかった」とか「勉強になった」とか、好意的なものが大多数で、盛んにリツイートもされたとか。そのツイートとは。

それは、水害被災地域へ向けた、例のアレでした。
『洪水の中を避難する時は、長靴をはいてはいけない。水が入ると脱げやすいし動きづらく危険』(文面はオリジナルではありません)

これは大抵の『防災の専門家』も言いますし、消防や自治体の公式サイトなどにも載っている、ある意味で定番の内容です。それが、今回の水害でかなり広まった感じではあります。

そのことがまた話題となり、ネットニュースなどにも採り上げられていますね。


【それだけじゃダメなんだ】
しかし、当ブログをいつも読んでいただいている方はご存じかと思いますが、管理人はそれを鵜呑みにしてはいけない、何も考えずに従ってはいけないと、否定的な記事を何本も書いています。

もちろん、それは一面で正しいのです。長靴の高さを超える水位ならば中に水が入ってダブダブで重くなり、脱げやすくなる。さらに水に流れがあれば、かなり抵抗を受けるのは、考えなくてもわかります。

では、洪水=長靴禁止と単純に信じれば良いのかというと、現実には決してそうではない。少なくとも、実際にやったことが無い人間が、ネット知識とかの受け売りで“指導”することを信じてはいけない。

現実には、「長靴の代わりになにを履いて避難するか」という部分で、机上の空論がまかり通っているのです。


【メリットとデメリット】
長靴には、水が入ったら重く脱げやすく危険という、大きなデメリットがあります。それだけならば、捨て置けばいい。しかしその一方で、長靴でなければならない、大きなメリットも数多いのです。以下に列挙します。

・ソール(靴底)が柔らかく、加えてブロックパターンなど泥の中でも非常に滑りにくいデザインになっている

・底が見えない水中歩行時、くるぶしの上から膝くらいまでをケガから保護する

・水が入らなければ、保温性能が非常に高い

・泥が入っても少量の水できれいになり、脱いだ後も乾燥が早い

・水が引いた後、汚泥の中の移動や後片づけには必須。

そして最後に逆説的なメリット
・水が入らなければ、水や泥の中で最も快適で脱げづらい

ざっと考えても、これだけのメリットがあるのです。


【机上の空論大会だ】
水害時に長靴を履くなという“指導”は数あれど、じゃあその代わりに何を履いて逃げろという部分で、まあいい加減なことを言う輩の多いこと。特に、商業ベースで『防災の専門家』連中の言うことに酷いのが多い。

では、水中での脱げにくさと安全に関して、理想的な靴を挙げましょう。こんな奴です。管理人の私物です。
Annex_009
編み上げですからいかなる状況でも脱げず、ソールはブロックパターンで泥でも滑りにくく、土踏まず内には踏み抜きを防ぐプレートが入っていて、爪先もプラスチックカップで保護されていて、くるぶし周りのパッドがケガを防ぎ、排水孔もあるので、中に水が溜まったままにならない。

すごいですよね。要は自衛隊や警察、消防などの隊員が履いているのと同等品です。でも、こんなもの普通持っていないwハイカットの登山靴やトレッキングシューズもかなり良いのですが、それも一般的とは言えない。

それに、こんなに優れた靴でも、付着した泥は落としづらく、長靴よりはるかに乾きづらいのです。災害が冬場だったら、そんな靴いつまでも履いていられますか? 避難場所で一旦脱いだドロドロビショビショの冷たい靴、また翌日とかに履きたいですか?

第一、こういう靴はかなりお値段が高い。そういう趣味wを持っている方以外には、現実的ではありません。


こういう靴が一般的でないので、みなさん結構適当なことを言うわけです。その手の記事を見つけたら是非チェックを。こんな感じですよ。

・ひもで締められる靴
・履きなれたスニーカー
・運動靴

こんなの、水や泥の中を一度も歩いたことがない奴が頭で考えただけの、机上の空論そのものですよ。ただ、水中で水が入った長靴より脱げづらいというイメージだけの話。じゃ、脱げなきゃいいのか。

水や泥の中で脱げずに安全に歩くために必要な条件は、以下の通り。

・くるぶし以上の高さがあるハイカット型の靴で、紐やマジックテープでしっかり締められ、履いた後にくるぶしの上の部分まで確実に締められていること。普段履き程度の軽い締め具合では、ハイカット型でも少しの抵抗で簡単に脱げる。もしローカット型の場合は、足が痛いくらいに締めあげてあること。水に入ると、靴自体も紐も伸びて緩くなる。

・靴底がブロックパターンなど大きな目で深い溝になっていること。目が細かいスニーカーやランニングシューズのような底では、すぐに泥が詰まってツルツルになる。脱げる以前に、水中で転ぶ危険が非常に大きい。

さて、このような条件を満たす靴、あなたはお持ちですか?そして、水から上がった後のことを考えると、やっぱり長靴を履きたくなってきませんか?


【モノは使いよう】
しかし、水はすでに膝丈以上。長靴は確実に浸水します。でも、ちょっとした対策でカバーできるんです。

それは当ブログ過去記事でも触れているのですが、まずは画像を再掲載します。
Annex_046
Annex_054
長靴を履いて、ガムテープでぐるぐる巻きしてしまうのです。二枚目画像のように、上にカッパのズボンをかぶせてガムテープで巻けば、さらに効果的です。

これだけで、かなり長い時間にわたって長靴がダブダブになって脱げやすくなることが防げます。主に女性用の細身の長靴ならば、さらに効果的です。

普段履きの靴の紐を締め上げている時間があるなら、長靴履いてガムテープ巻く方が、はるかに早くて簡単だと思いますが。

こうすることで、水中で重く脱げやすくなるという長靴のデメリットをほとんど無くし、前記のような多くのメリットを享受できるわけです。

だから、管理人は宣言します。もし自分が水害避難をする場合には、上記のような対策をして、長靴を履いて行きます。それが、後々を考えれば一番快適で合理的な選択だからです。別に、何時間も水中を歩くわけでなし。

もし何時間も歩くのならば、迷わず上画像の編み上げブーツにしますけどw

要は、適材適所ということです。


【自分で考えよう】
この長靴の話など、ちょっと聞くと「なるほど!」と感じる、実にトリビア的な話ですから、だれもが安易に引用するんです。テレビなどのメディアで偉そうに“指導”している、自称『防災の専門家』など、キャッチーなこと言ってナンボですから、とにかく適当なことを言う奴が多い。

でも、現場はそう簡単じゃないんですよ。使えないトリビアを信じて酷い目に遭うのがイヤならば、いかなる情報でもまずは自分の生活に落とし込んで、それが本当にできるのか、まずは自分で考えてみましょう。

基本は、過酷な災害下をいかに安全に快適に過ごすか、ということ。平時の目線で一面だけから見ていると、イザという時に酷い目に遭いますよ。


さて、水害に関してはもう一題、長靴の話よりさらに使えないけれど、あちこちでまことしやかに拡散されているネタを、次回記事でぶった切ります。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

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コメント

こんにちは。

スニーカーとかは役にたたんですね。
特に鬼怒川が決壊したような場面では。
泥土が相当量積ってると考えられますので、
足を取られて動けなくなりますね。
水抜き穴があればともかくすぐにぬげちゃって足を怪我しちゃいますね。

小さい頃に泥の中を歩いたことないんですかね?
私は都会生まれの都会育ちですけど体験的に知ってます。
少し想像力と経験を思い起こせば答えは出てきそうですけどね。

>whokiさん

この長靴話、誰が言い出したのかは確認できませんが、恐らく水が入った長靴が脱げて、避難中に靴を失ったどこかの被災者の話から出ているようです。

しかしあくまでレアケースであり、大人数が苦しんだとか、それで犠牲者が出たとかいう話は聞きません。教訓と言えば教訓でしょうが、ほとんどトリビアでもあります。

それが拡散するうちに、都市部でよくあるような結構澄んだ水の冠水、少なくともドロドロじゃない場合を想定したようなイメージが拡がっていった感じがします。ただ脱げる脱げないという話で、泥の中を安全に歩くというファクターが完全に抜け落ちて行きましたから。やったことも無い連中が受け売りで拡散しているんですから当然です。

ちょっと考えればわかることでも、ある意味でおいしいトリビアネタのために、細かいことは敢えて無視されている感じもします。まあ、現実をわかっていない低レベルの「防災の専門家」も多いですけどね。

今回、語弊を承知で言えば「本格的な水害」が発生し、水中も水が引いた後もドロドロという状況が起きたため、敢えてこの長靴ネタを採り上げた次第。

現実はこうなんだという膨大な情報を前に、こんな低レベルの話に拘っているのがどんなに愚かか、本当に必要なものは何かということを、皆様に考えていただけるチャンスだと思ったのです。

次回は、もっと役に立たない話です。

よそにない防災の情報、ときどき見ては納得しています。大雨とか、ほんとうの災害はほんとうにとつぜん来るので、こまかいことは考えないで行動できることが大切だと思います。雨の日は長靴が自然な考えでしょう。それをあえて別のことを考えていたら、もっと大事なことを忘れちゃうと思います。

最近知ったのですが、最近の女子の長靴、とっても履きやすく、歩きやすく、ぬかるんだ道でも脱げたりしません。これを履いたあとで、ホームセンターで売っているような長靴と履くと、これでは避難はとてもムリだと思います。値段も高いですが、おしゃれなものの方が良いって意外に思いました。膝丈で、水深30cmくらいまでなら歩けますし、さらに中が速乾性の素材で、もし水が入っても半日くらいで乾きます。

たしかに長靴より深い水に入ると重くなりそうです。でも、災害はいつ起こるかわかりませんが、準備はいつでもできるのだから、水が入ったらどうなるかとか、川や海辺に行ったときに、安全な場所で経験しておいたら良いんじゃないかと思います。

>あめこさん

返信が遅くなりまして申し訳ありません。
「よそに無い」と言っていただけるのは、大変うれしく思います。でも、決して他との差別化を図ろうと思っているのではなく、「本当に大切なこと」を追求したらこうなったというだけでして、それだけ防災の世界は受け売りとコピペと優先順位の低いトリビアでできているということでもあります。

そういう現状に微力ながら一矢を報いたいとの思いから、三年半前にこのブログを始めた次第です。

長靴のこと、本文でもちょっと触れていますが、最近の女性用のスリムな長靴は、仮に水が入っても大した量は入りませんし、テープで巻くのも簡単です。避難用には是非お勧めしたいですね。確かに、ブログに掲載したような大きな長靴を履く時は、防水対策は必須です。かなり重くなりますからね。でも、その性能を考えたらなんとか履いて行きたいわけです。

なかなか機会も無いでしょうが、確かに一度長靴に水を入れてみてどうなるかというのを体験しておくのは良いと思います。なんなら、風呂場で履いて水入れてみるとか。それだけでも実感しておくと、いざという時の余裕が違ってきますし、どう対策すれば良いのかもわかってきます。

問題は、「専門家」を名乗る連中が、やったことも無いようなことを上から目線で“指導”していることなんですよ。

お返事ありがとうございます。お礼がとても遅くなりました。

まず報告ではないですが、最近、市や町の防災訓練で、浸水したドアを開ける体験とか、長靴で水の中を歩く体験とかしているのを見つけました。体験することの大事さがわかってきたのかもしれませんね。

わたしは川に行って歩いてみました。ちなみに、川を渡渉するのが苦にならない、ぬかるみや、雪が積もっていても気にならないので、野山歩き、トレッキングに長靴を活用する人がけっこういらっしゃるみたいです。

さて、長靴で水の中を長い距離歩くと、膝まであるような長靴で、水没するほどの深さでなくても、波をかぶったりしてだんだん水が入るので、カッパで防水するとか大切なことがわかりました。

でも、水が入るのはしかたない、というか長靴の活用ってそういうことだと思って、ものの選び方、どうやって乾かすか、リカバリーするか考えるのも必要かもしれないと思いました。

スニーカーなどは、水没することは考えられていないので、なかなか乾かないでしょうし、素材的に濡れたらダメになってしまうかもしれませんし、暑い季節だったら悪くするとくさってしまうと考えると、水没することがあったとしても長靴の方が良いことになりそうです。

本当はこれが役に立つみたいなお話をこれからも楽しみにしています。

>あめこさん

防災訓練で現実的な体験訓練が行われているのは知りませんでした。そういうのが必要なんですよね。そんな発想が出てくる陰に、このブログの存在が少しでもあればうれしいなと思います。

世間の防災情報は、無理に単純化して「これがあれば安心」みたいな方向に持って行こうとするものがまだまだ多いのですが、実際の災害時は何をやっても大変なわけで、それを知ってこそ、備えの大切さがわかるかと思います。

私は深い泥の中を歩く経験から、長靴の有効性と泥や水の侵入対策を主張しているわけです。受け売り情報ではなく、本当に優れたものだということを実感しているからなのですが、そういう裏付けが無い不十分なコピペ情報が、それも「防災の専門家」が拡散しているというのが許せないのです。

対策しても浸水することもありますし、対策できないこともある。それでも、長靴があることのメリットは大きいのです。避難して終わりじゃなくて、その後がありますからね。「長靴を履くな」という連中は、後片づけとか全く想定していませんし。

スニーカーとかはソールが全然ダメですし、おっしゃるように水に浸かることを考えていないので、全く不向きです。なのに「紐できつくしめられる」というだけで水害避難向きとするなど、全くのナンセンスなのです。

しかも、実際に水中で脱げないという目的のためには、水で伸びる分も考えて、ものすごく強く締め上げなければなりません。やったことも無い連中はそんなことも知らんでしょう。あんなトリビアなど、その程度です。

多くの人が持っているスニーカーがこんな風に使えるですよ、という裏技的なトリビア演出のために、本当に大切なことがないがしろにされている好例ですね。防災情報には、そんなの山ほどありますけど。

これからも、そのような不良情報をチクチクやりつつw、「本当に役に立つ情報」をお伝えして行きたいと思います。

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