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2016年2月12日 (金)

【再掲載】小説・生き残れ。【14/22】(#1135)

■この物語はフィクションです。登場する人物、団体、設定等は、すべて架空のものです。


その時、それと知らなければ、何かお知らせのチャイムにしか聞こえないような音が、波の音に混じってかすかに聞こえてきた。玲奈はびくっとして上体を起こすと、海の家を振り返る。すると開け放たれたガラス戸から、恵子が店のカウンターに置かれたマイクスタンドを引っつかむのが見えた。すぐに軒先に吊るされたラウドスピーカーから、恵子の声が大音量で叩き出される。
《緊急地震速報が出ました!すぐに海から上がってください!地震が来ます!すぐに海から上がってくださいっ!

真っ黒に日焼けしたライフガードの男が、監視やぐらの上から弾かれたように飛び降りて波打ち際へ駆け寄ると、海に入っている人に向かって大きく手を振りながら、トランジスタメガホンで叫び始める。
《地震が来ます!海から上がってください!すぐに!地震が来ます!》
続いて店のスピーカーからは、大音量のサイレンが鳴り響いた。

「玲奈…どうしよう…」
突然のことにうろたえる衛に、砂の上に片膝を立てて周囲をすばやく見回しながら、玲奈は言った。
「今はこのまま待機。砂浜にいる方が安全。荷物まとめて…」
玲奈が言い終わらないうちに、ズシンという衝撃を感じた。それがどんどん大きくなって行く。岬の崖から小さな岩がばらばらと落ちて、海面で水しぶきを上げる。玲奈は海の家の方に振り返ると、鋭い声で叫んだ。
「恵子!退避!」
すぐに大声で返事が来る。
「退避誘導中っ!」
恵子は店の中にいた数人の客を屋外に誘導しているようだ。

下からの突き上げが収まらないうちに、振り回すような横揺れが来た。
《近い…》
緊急地震速報から数秒で最初のたて揺れである初期微動が来た。それもかなり強い。しかもその後にやって来る横揺れ、主要動との時間差がほとんど無かった事を感じた玲奈は、震源地がここからそれほど遠くないと判断した。ということは、ついに“あれ”が来たのか…。玲奈の頭の中に、次に取るべき行動が電光のように走った。

横揺れが始まってから数秒後、最大の地震波が到達した。衛は、四つんばいになったまま動けない。砂浜が風をはらんだ巨大な旗のように波打って見える。並んだ海の家が揃って身もだえするようにねじれ、大きなガラス窓が鋭い音と共に砕け散った。周囲の空気を震わせるドーンという大音響に振り返ると、海の近くにまで迫った山の斜面が幅20mくらいに渡って崩れ落ち、濃い緑の山肌に赤茶色の爪跡が刻まれた。青空に、濛々と土煙が沸き上がる。

海の家の中で一番簡単な造りの一軒が、海に向かって開いた縁側に向かってメリメリと押しつぶされるように倒壊して行くのを、四つん這いのままの衛は口をぽかんと開けて見つめていた。現実感がまるでない。一分ほど経って、揺れが収まって来た。玲奈はさらに周囲の状況を観察する。ライフガードが、波打ち際で座り込んでしまった家族連れを励ましている。倒壊した海の家の周りでも、慌しい動きは無い。どうやらこの浜で重傷者は出ていないようだ。良かった。

Lifesaver

「衛、行くわよ!」
「え、どこへ?」
地震の揺れが収まったので、衛はもうすっかり危険が去ったものと息を抜いていた。
「津波が来るわ。すぐに高台へ避難するよ!」
半信半疑ながらビーチパラソルを畳もうとした衛に、玲奈は怒鳴るように言った。
「そんなのいい!持てるものだけ持って!時間が無いっ!」
ふたりが恵子の店まで砂浜を駆け上がって来ると、店の裏手の方から、ボリュームを一杯に上げたラジオの音が聞こえてきた。そこから流れる緊張した男性アナウンサーの声に、玲奈は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

『…ただいま、神奈川県、千葉県、静岡県、愛知県、三重県の太平洋沿岸に大津波警報が発表されました…巨大な津波が予想されます!命を守るために、すぐに高台へ逃げてください!』
ついに、この時が来た…。防災無線のスピーカーから、けたたましいサイレン音が鳴り響き始めた。砂浜の監視やぐらには大きな赤い旗が掲げられ、ライフガードがトランジスタメガホンで叫んでいる。
『大津波警報が出ました!すぐに高台に、山に避難してください。時間がありません!大きな津波が来ます!すぐに避難を…』

「恵子!」
玲奈が叫ぶと、店の裏手の駐車場から
「はいっ!こちらです!」
と返事が返ってきた。ラジオは恵子が持っているらしい。貼り付けたガムテープに“非常持出”とサインペンで書かれた、迷彩色の大型リュックを背負った恵子は、既に駐車場に店の客を集めていた。皆、水着の上にシャツなどを羽織っただけだ。着替えている時間は無い。衛と玲奈もすぐに水着の上にTシャツだけ着て、マリンシューズを履いた。玲奈はいつのまにか腰のパレオを外して、一本にまとめてTシャツの上から腰に巻きつけている。

衛は当然車で避難するものだと思っていたので、玲奈に言った。
「玲奈、早く車に乗って…」
言い終わらないうちに玲奈が言った。
「車はダメ!身動きが取れなくなる」
「でもおれの四駆なら水にも強いし…」
「渋滞したらどうするの!それに、車なんてタイヤ半分くらいの水で流されるのよ!」
初耳だった。
「じゃあ、車は水浸しに…?」
「バカっ!車と命のどっちが大事なの!」
玲奈が衛に初めて見せる、凄まじい剣幕だった。衛は玲奈に気圧されて、腹をくくるしかない。確かに、生き残れなければ車どころでは無い。しかしまだ、半信半疑でもあった。

恵子が玲奈の脇に駆けて来て、ピンと背筋を伸ばして言った。
「自分は先行して、目標地点までの経路を偵察します。班長はお客様の誘導を願います。目標地点は…」
「もちろん、わかっているわ」
「では、これを」
恵子は、玲奈に黄色い小電力トランシーバーを渡した。
「呼び出し符号は…」
そう恵子が言いかけると、玲奈はかすかに微笑みながら、言った。
「…当然、あれで」
「リョウっ!では」
「状況開始っ!」
玲奈が鋭く言うと、恵子は一瞬白い歯を見せて笑い、回れ右をして山へ向かって駆け出した。重そうなリュックをものともせず、大柄な身体からは想像できないリスのような機敏な動きだと、衛は思った。それにしても、さっきの妙な遣り取りはなんだ?

玲奈はすぐに、十数人ほど集まっている客に向かって、良く通る声で言った。
「これから津波避難所へ移動します。距離は約1キロ先の、山の中腹です。私について来てください!」
そして衛に向かって言う。
「衛は列のうしろにいて。途中、急な階段があるから、遅れる人がいないか、いたら手を貸してあげて」
「わ、わかった」
客の中には年配の夫婦や、小さな子連れの家族もいる。大津波警報発表から1分後、津波避難所に向かう隊列が動き出した。

海から県道に上がる途中では、古い木造の納屋がぺしゃんこに潰れていた。玲奈はだれかを見かけるたびに、
「大きな津波が来ます。すぐに山へ避難してください」
と声をかけている。そのまま玲奈たちの隊列に加わる者もいて、だんだん人数が増えて行った。

■当作品は、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。

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