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2016年2月13日 (土)

【再掲載】小説・生き残れ。【15/22】(#1137)

■この物語はフィクションです。登場する人物、団体、設定等は、すべて架空のものです。


浜辺から海沿いの県道に出ると、道路はあちこちで大きく波打ったりアスファルトにヒビが入ったりしていて、普通の車はとても走れそうもない。車高の高い衛の大型四駆車でも困難だろう。渋滞が無くてもすぐに身動きが出来なくなっていたはずだ。

道路沿いの古い家が倒壊して道路を半分塞いでいたり、電柱が大きく傾いて、電線が垂れ下がっている場所もある。街の方からは、火災と思われる黒煙が上がり始めている。
その時、玲奈が手に持ったトランシーバーから恵子の大声が飛び出した。
《サクラカラナデシコ カンメイイカガ オクレ》
え、なんだ?
玲奈はすかさずトランシーバーを口許に寄せ、反応する
「ナデシコ感明良好 送れ」
玲奈…なんだそれ…?

《○○町郵便局付近、道路陥没のため通行不能 ××スーパー前を北進し、 東方より迂回されたし 送れ》
「ナデシコ了 送れ」
《なおラジオ情報により、当地への津波到達予想時刻は 現在時よりヒトマル分後、ヒトフタサンマル時を予期せよ なお予想高さにあっては5メートル以上 送れ》
それを聞いた皆がざわめくが、玲奈は全く意に介さずに返信する。
「ナデシコ了 自身の安全を最優先せよ 送れ」
《サクラ了っ! 終わりっ!》

妙な言葉を使うふたりのスピーディーで無駄の無い交信は、それが経験に基づいたプロのものであることは、衛にもわかった。これが玲奈が言いかけたナントカ国家公務員…なのか?すぐにでも聞いてみたかったが、列の先頭を歩きながら時々後ろを振り返る玲奈の姿はあの毅然としたオーラに包まれていて、余計な質問など跳ねつける緊張感に満ちている。

だがそれどころではない。5メートル以上の津波が10分後に来るという。しかし本物の津波など一度も見たことが無いし、台風で大波が堤防に当たってくだけるみたいなイメージしかない。海岸から山に向かって進み続け、もうだいぶ高度を稼いでいるが、ここでもまだ危険なのだろうか。

その時、衛の脳裏に今朝見た『想定津波浸水高さ5m』の標識が甦った。車の中から見上げた水深5メートルを示す赤線の位置…。これは只事ではない。一刻も早く、少しでも高い場所に逃げなければ。衛は先頭の玲奈に叫んだ。
「玲奈、急ごう!」

しかし玲奈は振り返りもせずに、左手を軽く上げて
《わかった》
というような合図を返しただけだった。でもその直後、突然振り返って叫んだ。
「みなさん走って!早く!」
突然の事に皆訳もわからず、それでも玲奈の真剣な声につられて走り出した時、地面が突然歪んだ様に感じた直後、縦横に振り回すような余震が来た。揺れに足を取られてよろめく者もいたが、強い揺れの中をなんとか転ばずに駆け抜けた。衛も目の前にいた幼児を抱え上げて走った。

Crush

すると今駆け抜けて来たまさにその場所で、道路脇の古い木造の商店が道路に向かってメリメリと傾き、道路の三分の二を塞ぐように倒壊して濛々と土ぼこりを巻き上げた。大音響に皆が立ち止まって振り返り、ついで皆が玲奈を見た。皆が呆然とする中、若い男が玲奈に声をかける
「お陰で助かりました。でも、なんであれがわかったんですか?」
玲奈はなおも周囲に視線を走らせながら答えた。
「感じたんです。たて揺れを。で、傾いた家があったから…」

その遣り取りを聞いていた老人が、衛を振り返って言った。
「あんたのお連れさんは頼もしいのぉ」
「いえ、まあ、あ、ありがとうございます…」
まるで自分が頼もしくないと言われているような気がしないでもない。でも確かに玲奈は時々、野性的とも言える鋭さを見せる。今がまさにそれだ。衛は、ふたりが初めて出会った、真っ暗な地下鉄の中を思い出した。あの時から、何回バカって言われたかな…などと余計な事を考える。

老人は言葉を続けた。
「しかしさすがに鍛え方が違うのぉ、自衛隊さんは」
「…じ…じえい…?」
「そうじゃろ?あの無線交信は、陸さんじゃろ?」
「え…は、は…はぃ…」

周りはかなり埋まっているものの、真ん中の部分だけがほとんど空白のジグソーパズルのピースが衛の頭の中で飛び交い、一瞬ですべて正しい位置にはめ込まれたような気がした。完成した画は、まだらの迷彩服にヘルメット姿でにっこりと微笑む玲奈の姿だ。今まで玲奈に感じてきた多くの疑問が、一瞬ですべて解けた。今も見せている毅然とした力強さと鋭い判断力は、自衛隊で積み重ねた訓練で培われたものだったのだ。でも、なんでそんなこと隠していたんだろう…。

衛は左右に視線を走らせながら列の先頭を行く、玲奈の後ろ姿を見つめた。
《玲奈、すげえよ…》
そう思ったとき、玲奈が半分だけ後ろを振り返りながら言った。
「避難所まであと200メートルくらいです。慌てなくても大丈夫で…」
言い終わらないうちに、玲奈が左手に持ったトランシーバーから、恵子のかすれ気味の声が流れ出た。
《サクラからナデシコ 送れ》
「ナデシコ感明良好 送れ」
《サクラ第一目標地点に到達するも、小規模の山体崩落により階段使用不能。目標地点第二に変更の要あるか? 送れ》

玲奈は一瞬考えてから、トランシーバーを口元に寄せた。
「ナデシコ了 山体の登攀は可能か? 送れ」
《…補助等あれば可能と判断する 送れ》
「崩落部分の状況はいかが? 送れ」
《さらに崩落の危険は小さいと判断する 送れ》
「ナデシコ了 目標は変更せず。サクラはそのまま待機、登攀補助に当たれ。本隊はふた分以内に到達する 送れ』
《サクラ了 終わり!》

玲奈は足を止めずに、後ろに続く集団を振り返りながら言った。表情が少し、険しい。
「お聞きの通りです。でも、我々…私たちが補助します。少し急ぎましょう!」
玲奈は前に向き直ると、歩みを速めた。


■当作品は、カテゴリ【ディザスター・エンタテインメント】です。

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