ベルギー・ブリュッセルで連続爆破テロ(#1159)
ブリュッセル国際空港内の惨状。落下した天井パネルは金属製のようで、人的被害を拡大した可能性もある
2016年3月22日、ベルギーの首都ブリュッセルで、連続爆破テロが発生しました。
事件の概要
事件は、ブリュッセル国際空港の混雑する国際線チェックインカウンター付近で、まずAK47ライフル銃による無差別銃撃から始まりました。
その後に比較的小さな爆発が発生し、その直後、さらに大きな爆発が発生したとのことです。爆発は、ふたりの実行犯が運んでいたバッグに仕込まれた爆弾による自爆攻撃と思われます。爆弾にはスチール製ボルトが多数混入されて、殺傷力が高められていたようです。
空港への攻撃の約1時間後、ブリュッセル市内中心部の地下鉄駅構内(駅間との情報もあり)の車内で自爆攻撃と思われる爆発があり、こちらの爆弾にもスチール製ボルトが混入されていたようです。
外国人も多い国際空港と、EUなどの機能が集中する主要地域の地下鉄駅を、朝のラッシュ時間帯に狙うという手口は、まさにテロ攻撃の“セオリー”です。“敵”の中枢部や象徴的な場所を攻撃することの示威・宣伝効果と、人的被害をできるだけ拡大して心理的恐怖を植え付けるのが、このような攻撃の目的です。
我が国でもかつて、いわゆる「地下鉄サリン事件」が発生しましたが、あの事件も東京の霞ヶ関という中枢部へ向かう地下鉄車内で、朝のラッシュ時間帯に実行されました。手段が異なるだけで、あの事件と全く同じであり、それが無差別テロ攻撃の本質と言えるでしょう。
今後も、無差別テロ攻撃は同様の戦術で行われるでしょうが、警戒が厳重な場所を敢えて避け、警戒が手薄な、一見意外な場所を攻撃する、守備側の裏をかく戦術も無いとは言えません。
爆破テロへの対処法とは
爆破テロへの効果的な対処法は、存在しません。
唯一、事前にできる対処法としては、爆破テロの対象になりそうな場所には、なるべく近づかないということだけです。上記のように、テロ攻撃は大きな示威・宣伝効果と、大きな人的被害を与えられる場所で行われるのが“セオリー”であり、そのような場所はどこかを、普段から考えておかなければなりません。
そのような場所にいて爆破テロに巻き込まれてしまったら、自分の安全は運次第です。要はどこで爆発が起きたかで、状況は大きく変わります。
自動車爆弾などの大型爆弾ではなく、人間が運べる程度の量の爆薬の場合、爆弾の種類や状況によって一概には言えないものの、基本的には爆風による殺傷半径は10~15メートル程度かそれ以下であり、それ以上は爆弾ケースの破片や、仕込まれた金属片などの飛散による外傷で殺傷されます。
しかし、その程度の爆弾の場合、飛散した金属片などが人間の身体を貫通する可能性は小さいので、爆発地点から10メートル以上離れて「2列目」以降にいた場合、致命傷を受ける可能性はかなり小さくなります。爆風の大半も「1列目」が受けるからです。
致命傷を受けない場合でも、爆発による大音響と圧力波による鼓膜や聴覚器官の損傷、爆風による打撃及び強烈な負圧による呼吸器の損傷、吹き飛ばされた人やモノなどの衝突による負傷をすることが考えられます。
また、二次的には建物の損傷やガラスの飛散などによる殺傷効果も発生します。ビル街で爆発が起きた場合、爆風(圧搾空気界)が超音速で拡散して、一瞬真空に近い状態が形成されます。このため、衝撃で割れたビルのガラスの多くが負圧で吸い出され、屋内ではなく路上に落ちて来る可能性が高くなります。
爆発が起きた後の対処法とは
爆発に巻き込まれても、自分が移動できる状態であれば、速やかにその場を離れる必要があります。テロ攻撃による爆発の場合、二次攻撃の可能性があるからです。
爆弾テロの“セオリー”のひとつとして、最初の爆発後に、救護や警戒のために集まる人や野次馬を狙って2発目を起爆するというものがあり、実際に行われたことも少なくありません。
今回のブリュッセル空港爆弾テロでも、短時間差とは言え2人が2発の爆弾を起爆していますし、さらに、爆弾を持っていたと思われる3人目の実行犯も確認されていますから、状況によっては3発目が起爆された可能性もあるのです。
そうでなくても、火災の発生や建物の崩壊が起こる可能性がありますから、まずは一旦速やかに安全圏に退避して、状況が十分に掌握されるまで、その場を動かないでいるべきでしょう。
その際、周りにいる負傷者の救護を優先するかどうかは、状況次第としか言えません。今回の地下鉄の現場では、連続攻撃の可能性は小さかったと言うことはできます。
テロ遭遇時のセオリーとは
ここからは一般論です。
例えば英国内では、英国からの独立を標榜するアイルランド系民族団体による爆弾や銃撃テロ事件が昔から起きており、そのような経験から導き出された対処法が一般にも指導されていて、それはテロ攻撃に遭遇した場合の基本として、あらゆる場合に有効です。
それは、以下の3つのワードで表されます。
Run
Hide
Call
Runは、ただ走れではなく、走って速やかに危険地帯から離れろ、ということ。
Hideは、安全地帯まで逃げ切れなかったら、安全と思われる場所に隠れろ、ということ。
Callは、状況と居場所を速やかに警察などに通報せよ、ということ。
先のパリでのテロの後、どこかの『専門家』が週刊誌の記事で、テロに遭遇したらRun、Hide 、Fight、すなわち逃げ切れなかったら戦えなどという、噴飯ものの“指導”をしていましたが、それは戦闘のプロの話。素人は、武器を持った相手と、決して戦おうなどと考えてはいけません。結果は明白です。
ところが、今回のブリュッセルテロ事件の後、ブリュッセル市内では長い時間に渡って携帯電話が使えなかったようです。これは、携帯電話を使った遠隔起爆装置を無力化するための措置と考えられます。
可能性としては、前記したように、二次攻撃のために空港や地下鉄内に先に爆弾を仕掛けておき、そこで銃撃や自爆を行った後、警察、軍隊、救急隊など、そしてテレビ局が集結した時点で遠隔起爆させるという戦術もあり得るわけです。厳重な警戒の中で先に爆弾を仕掛けるのが無理ならば、旅客に扮した人間が、逃げる振りをして爆弾入りキャリーバッグを現場に放置してくる方法もあります。避難した一般客の遺留荷物と区別はできません。
実際に、3人目の実行犯が持っていた爆弾とライフル入りバッグが、現場に放置されている状態で見つかっており、遠隔起爆式で二次攻撃を行う目的だったと考えられます。
その時点では実行犯は現場にはいられませんが、遠隔起爆式ならば現場からのテレビの生中継をどこかで見ながら携帯電話のボタンを押せば良いわけで、それを防ぐために電波を止めていた訳です。
なお、携帯電話を使った遠隔起爆装置は、中東や北アフリカ地域におけるIED(Improvised Explosive Device =即席爆弾)の起爆装置として、頻繁に使われる方法です。すなわち実行犯側は、そのための技術を持っているわけです。
いつかはどこかで
ヨーロッパ域内でのテロ攻撃が続いています。では、他の地域ではどうなのでしょうか。
中東や北アフリカを主な居住地とする民族が、北米やアジア地域で大規模テロを起こすことは、想像以上に困難です。しかし、不可能だとは全く言えまえん。
ヨーロッパでテロが多発する理由は、実行側の本拠地と地理的に近く渡航が容易であり、訓練を施した実行犯を送り込むのも比較的容易であること、各国内に実行側と同質で現状に不満を抱えたコミュニティが多く、準備のカムフラージュがしやすいこと、武器弾薬の闇マーケットでの調達が比較的容易であり、国境を越えた輸送も簡単ということなどによるものです。
すなわち、場所も人も資金も道具も揃っていて、何よりそのその民族を攻撃するための強い理由が存在する、ということなのです。
それに対し、そのような条件が無いか、または十分ではない地域でテロ攻撃の準備を長期間に渡って秘密裏に行うことは、想像を絶する困難があります。
しかし、繰り返しますが、不可能ではありません。そして、今までと同様のテロが起こされるとも限りませんし、小規模のテロならば、その気の人間が少しいれば、いつでも起こせると言っても過言ではありません。
我が国の国内でもその可能性はある、ということを忘れてはなりませんし、海外に渡航する際には尚更、「どこで何が起きてもおかしくない」くらいの考え方で、対処法を考えておく必要があると言えるでしょう。
■3月24日追記
トルコ国内で、イスラム過激派に参加するためにシリア入りしようとした、日本人青年が拘束されました。この人物は、フェイスブックなどで過激派側と連絡を取り合い、当地への渡航を勧められていたそうです。
ここで注意しなければならないことは、このように実際に行動に移す人物がひとりいる裏には、かなりの数のシンパが存在しているということです。我が国の状況からして、実際の行動に移すのは困難ではありますが、小規模ならば具体的行動を行うのは容易である、ということは疑いありません。
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