できもしないことが計画されていないか?(#1204)
上画像は、今朝(6月8日)、出先にあった読売新聞のトップ記事と、社会面の関連記事です。
国の指針は知らん顔?
熊本地震で、避難所などで“食料難”が発生したことを受け、47都道府県と20政令都市について、公的備蓄の調査をしたとのこと。
一面のリードを、一部引用させていただきます(太字部分)
食料3日分を確保するとの目標を定めているのは約3分の1の21自治体にとどまり、他の自治体は2日分以下とするなど備えが不十分なことがわかった。国は道路の寸断などが予想される大規模地震に備えて3日分程度の備蓄を促しているが、熊本地震では発生から2日間で各自治体の備蓄が底をついた。
注目すべきは、多くの自治体で3日分の備蓄が無いのではなく、3日分確保するとの目標も無かったということ。
自治体の責任?
国の指針では、各自治体で3日分備えて、4日目以降に“届くはず”の、外部からの支援まで自力で凌げ、ということになっていますが、その目標さえ無い自治体が多数派だった、というわけです。
では、これは自治体の怠慢なのか?何とかしろと責めれば済むのか?
でも、自力で3日分を確保していない自治体でも、決して手をこまねいているだけではありません。記事によれば、域内の民間業者が持つ食品の『流通在庫』、すなわち倉庫や大型店舗にある食品類を、災害時に放出してもらうような算段をしている所も多いそうです。
でも、それで量が確保できれば良いのか?
住民からは、「何をやっているんだ!」とか声が上がりそうですが、多くの自治体は財政難です。公的備蓄の不備を批判する人々にしても、保育園、病院や道路の整備など社会インフラ整備をさしおいて、災害時備蓄を優先せよと言う覚悟はありますまい。
備蓄食品は、あのいまいましいw賞味・消費期限が来たら入れ替えなければなりませんから、大変なコストと手間もかかるのです。
見えない部分に困難がある
実は、熊本でも民間業者とそういう協定は結ばれていたそうですが、現実には多くの場所で、3日以下で食料が底を突いたのです。
それは何故なのか?
では仮に、こういう調査をやった結果が、全ての自治体で十分な公的備蓄がありました、という結果だったとしたら?
災害時も食品は十分あります、良かったねと、問題提起はそこで終わりだったでしょうね。
これは、災害対策にありがちな、わかりやすいことだけやって、それで満足してしまうということの一例。防災知識が、面白味のあるトリビアだけ偏るのも、全く同じ理由です。
しかし、これは個人じゃなくて、行政の話です。そして、それを指摘する、メディアの話でもあります。
幸せは歩いてこない
こういうフレーズが出るだけで歳がバレそうですがw、被災時の“幸せ”である支援食品も、自分では歩いて来てくれないのです。
熊本地震でも、当たり前ですが県内の食品がすべて底を突いた訳ではありません。被災地へ、届ける手段が無かったのです。ロジスティクスの問題です。
具体的には、道路の寸断、トラック不足、燃料不足、ドライバー不足、そして、不要不急の車までが集まることによる大渋滞が、支援物資の輸送を阻みました。
ならば自衛隊のヘリでと、誰もが考えます。最大のCH-47型ヘリは、約10トンの貨物を積めるのです。しかし、都市部や山間部には、広さや地面強度、猛烈な下降気流などの問題で、満載の大型ヘリが下りられる場所が少ないのです。
でも、自衛隊のヘリは機外に貨物を吊ることもでき、CH-47ならば、7トンくらいは吊れます。じゃあそれを使えばという話も、航空法やらなんやらで、市街地上空はダメだとか、いろいろあるわけです。
しかし、このような事態は、事前に十分に想定できるものです。でも、その対策が存在しません。
民間の流通在庫に頼るにしても、その輸送方法や人員、機材確保は業者任せで、不安定な上非効率なことおびただしく、行政側も何がどのように動いているか、ほとんど把握できませんでした。
物資の量だけそこそこ確保していても、平時よりはるかに困難な状況での輸送方法は、ほとんど考えられていなかったのです。困難が事前に想定できるにも関わらず。
でも、そういったロジスティクス、平たく言えば輸送の段取りは、調整だらけでやたら手間がかかり、平時はその成果も見えないので、本当は誰もやりたくないし、住民だって気にしていない。
もっと言えば、行政にしっかりとしたロジスティクスを組める能力に欠けている例が、決して少なくない。
公的備蓄が3日分あるとされた自治体住民の皆様、ほっとされているかもしれませんが、それが本当に、3日以内にあなたの手元に届くのですか?
既に3日分の公的備蓄が完了している自治体でも、災害時の困難な状況下で、対象地域に3日以内に配布するためのロジスティクス計画まで持っているところは、どれだけあるのでしょうか?
計画があったとしても、果たしてそれは実効性のあるものなのでしょうか?メディアの取材は、そこまで突っ込んで、初めて本当の問題提起となるのです。
自治体が悪いのか?
では、このような状況は国の指針に従わない、調整能力に劣る自治体が悪いのでしょうか。
過去記事にも書いたのですが(文末にリンクします)、国の指針も無茶苦茶ですよ。
自治体で3日分の食品を備蓄せよというのも、被災地外部からの支援が4日目には届くというのが前提なのです。それは、太平洋岸の広大な範囲に被害を及ぼすであろう『南海トラフ地震』の場合でもです。
国の計画では、発災初日に被災地以外での支援物資集積を開始、2日目には被災地へ向けて輸送、3日目に被災地周辺の集積拠点に到着、4日目には避難所などへ届けるというもの。
その前提となっているのが、高速道路や幹線道路が使えること、災害時優先道路(一般車通行止め)が機能すること、トラックのドライバーと燃料が確保できること、被災地内の道路が通行できることなどです。
すなわち想定、いやすべてが”計画通りに”行った場合に機能するというわけですが、「これなら大丈夫だ」と思った方、いらっしゃいますか?
はっきり言って、おめでたい
東日本大震災で、東北自動車道が復旧したのは、発災から7日後でした(それでもとんでもない早さですが)。
熊本地震では、九州自動車道が全線復旧したのは、発災から15日後でした。
かつて、東京都内で幹線道路の災害時通行止めの社会実験をやったら、収拾のつかない大渋滞となりました。なにせ、通行止めと言われても、他に行く道も場所もありません。
車がいなくなったらなったで、帰宅困難者の大行列が道路を塞ぐでしょう。
幹線道路沿いの建物は耐震強度を高くして、倒壊による通行不能を防ぐという方針もまだ完全ではなく、1カ所で倒壊が起きれば終わりです。
被災地では、土砂崩れ、地割れ、段差などが多発し、家屋や電柱が倒壊し、あちこちで火災も起き、津波の被害もあります。特に海沿いでは、海岸部の道路がダメになると、到達困難な場所が急増します。
これらは決して『想定』ではなく、すべて現実に起きていることなのです。
これに対し、大災害時には指定道路上の放置車両や残骸などは、持ち主の許可なく消防や自衛隊が撤去できるように法整備がなされたり、東日本大震災時にも大活躍した国土交通省の道路啓開部隊の整備も進んでいます。
しかし、道路支障はどこで起きるかわからず、その場に機材や人員が到達することも困難で、道路啓開に大きな力となる、民間の重機もどこにでもあるわけではありません。
そんな状況で、4日以内に救援物資が全被災地に確実に届くと計画する方も、さらに言えばそれを信じる方も、“オメデタイ”としか言えません。
結論はやはりここ
語弊を承知で言えば、比較的限定された地域の災害である熊本地震でも、発災3日以内の救援ロジスティクスは、まともに機能しなかったのです。
それが、さらに広範囲の大災害になったら?
ならば、我々はどうしたら良いのか。
もう、結論は言うまでもありませんね。
■関連記事■
政府が南海トラフ地震災害応援計画を発表(#960)(2015年3月31日)
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熊本在住の知り合いが言ってたのですが、今の法律(というか地方財政の仕組み)では、例えばさいたま市が川口市に何かを買って贈与する、といったことが出来ないのだそうです。災害時に支援物資を融通しあう協定というのはあるものの、それは「既にあるもの(=備蓄品)」をやり取りする取り決めであって、備蓄がないものを買って融通します、ということではないようです。
私も今回言われて初めて知ったのですが、熊本県内の被災地では極度に品薄状態の食料や水なども、隣の市区町村に行くと普通に店頭に並んでいる、という状態だったようですが、これを近隣の行政が買い上げて支援物資として被災地に回す、といった臨機応変で機動的な対応は残念ながら出来ない、ということです。
国が仕切って自衛隊が運ぶ、という遠回りで物資のやり取りをするよりも、今回のような局地的な災害ではご近所同士でモノのやり取りができた方がもしかすると早いですね。想定外のことだったのでしょうが、これができたらいろいろと小回りが効くようになるのかもしれません。
投稿: tnt | 2016年6月 9日 (木) 01時43分
>tntさん
なるほど、やはり税金を他地域のために転用するということはできないのですね。
でも、被災時は近隣の無事だった場所から支援するのが最も早くて効果的なのは想定できますから、とりあえず近隣が緊急支援して、あとから国が補填するような、非常時の仕組みも考えられないこともありませんね。ただ、実務上はかなり複雑になりそうですが。
税金でなければ、他の自治体が支援金を募り、それで買った物資などの支援をするということは行われていますね。
熊本地震で特徴的だったのは、福岡市の対応でしょう。熊本に調査隊を送り込んで、不足しているものをリアルタイムで把握し、製品や銘柄を限定して福岡市民から募集し、福岡市内の集積地点に直接運んでてもらい、仕分けした上で被災地へ輸送するという、ユニークで効果的な方法でした。市長の発案らしいですね。
不足しているものを優先して集められるので無駄が少なく、集積拠点で仕分けして、物品ごとに輸送するので、現地に仕分けの手間をかけないという、非常に優れた方法でした。
この方法に税金が投入できれば、さらに効果的になるかと思います。
投稿: てば | 2016年6月11日 (土) 22時02分