【シリーズUDL37】心理編9・『寄り添う』ということ(#1207)
しばらくお休みしていた、シリーズUDLを再開します。災害後に、被災者に『寄り添う』とはどいういうことかを考えている中で熊本地震が発生し、実際に被災者に寄り添うことが必要な状況になりました。そこで、実際の状況も取り入れつつ、改めて『寄り添う』ということを、考え直してみましょう。

熊本地震被災地では、日本赤十字社などの、心のケア専門チームが活動している(画像は日本赤十字社サイトからお借りしました)
■UDLとはUnder Disaster Lifeの頭文字。被災生活の概念です。
肉親や友人を失い、生活が破壊され、これからの先が見えない疲れきった人々に『寄り添う』こと。それはどういうことなのでしょうか。
正解は無い
いきなりですが、“寄り添うにはこうしろ”という、正しい答えはありません。
目的は行動ではなく、疲れきった人の心を少しでも軽く、楽にすることです。そのためには、たくさん話をすることも、黙って話を聞くことも、時には、ただ黙ってそばにいる、ということもあるでしょう。
場合によっては、その場からいなくなった方が良いこともあります。
心を助けること
災害被災地に支援に入ると、無意識のうちにヒエラルキーを作ってしまいがちです。
『かわいそうな人々を助けてあげている自分』というような。中には、それは当然だとばかりに、露骨に態度に出す人もいます。
それでも、具体的支援が必要な人々は、来てくれたことに感謝して、じっと助けてもらわざるを得ません。そんな支援によって水、食べ物、生活は助かっても、一方で心は傷んで行きます。
誰だって、できることなら助ける側でいたい。人の助けに感謝しながらも、惨めな気持ちも感じざるを得ないのです。
東日本大震災後、支援する人々は言いました。「今はどんどん甘えてください」と。それはまったく正しく、それが必要でした。しかし、否応なしに他に甘えなければならないことが、自分の心を削り取ることになることも、少なくありませんでした。
そしてそれは、熊本地震でも、一部で繰り返されているのです。しかしその一方で、東日本大震災の時には無かった、被災者に寄り添って心のケアを行う専門チームが活動するなど、教訓を生かした変化もあります。
一般のボランティアにしても、東日本大震災前より深く心のケアについて考え、行動しようとする人々も増えています。あの巨大災害は、被災地支援はモノだけでなく、心も大切なのだということを、大きな教訓として残したのです。
支援する側としては、とにかく被災者が目先の危機を乗り越える手伝いをします。そこから、復興へ向けて立ち上がってくださいという気持ちでしょう。
でも、巨大災害で失われるものはやはり巨大で、あまりにも『先が見えない』。立ち上がって歩き出したくても、どちらへ一歩を踏み出せば良いのかさえわからない。
これまで述べた通り、危機の時に、精神的に最もストレスフルなのが、『情報が無い』こと。そしてその次の段階では、『先が見えない』ことです。
そういう状態で必要なのが『心のケア』であり、その入り口となるのが、『寄り添う』ことなのです。
マニュアル化はできない
『寄り添う』ことは、心の問題です。
もし、あなたが助けられる側だったとしたら、どうでしょうか。支援を受け続けることでプライドが傷つき、しかも『先が見えない』という、強いストレスに晒されているかもしれません。
そんな状態でうるさい奴、押しつけがましい奴、横柄な奴などと一緒にいたり、話を聞いて欲しいとは思いませんよね。
この『話を聞いて欲しい』ということが、鍵となります。当シリーズでこれまで述べた通り、どんなことでも思いを言葉にすることが、心を軽くするための、自分でできる最良の方法なのです。
ですから、相手にとって『話を聞いて欲しい』存在になること、それが災害支援において、被災者に『寄り添う』ということの究極の目的であり、本質であると言えます。
しかし、その方法をマニュアル化などできないのです。では、実際にはどうしたら良いのでしょうか。
技術ではなく人としての力
基本は相手の立場に立つ、すなわち自分の身に置き換えてみることです。
もちろん、元気な自分ではありません。深く落ち込んだ、疲れ切った自分です。そんな時に、何が必要でしょうか。
少なくとも「ガンバレ」の連呼ではありませんよね。励ましてくれる気持ちは嬉しいけれど、繰り返されると確実にイラつきます。 もう、十分に頑張ってきたのです。
俗に、『悲しみを知るほど、人に優しくなれる』と言われます。悲しさや苦しさを多く知るほど、他の苦しみを我が身に投影して、“同化”しやすくなる。 そして同化、すなわち「この人はわかってくれる」と感じればこそ、人は口を、心を開くのです。
ひとつ確かなことは、それは技術だけでは決して成し得ません。最後には、“人間力”なのです。
でも、そんな禅問答のような話では何も解決しませんから、次回はある程度具体的に、『寄り添う』方法を考えてみましょう。
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