【東京防災ってどうよ10】ここがダメなんだよ【6】(#1222)
『東京防災』にツッコむ6回目ですが、まだ終わりははるか先ですw今回のネタは、1本のみ。とても大切なことなのに、またもややっつけ仕事なので。
【054ページ】在宅避難のすすめ
自宅で居住の継続ができる状況であれば、在宅避難をしましょう。避難所では、環境の変化によって体調を崩す人もいます。事前に自宅の耐震化を行い、食料や水など必要な物を日頃から備え、可能な限り在宅避難できる準備を備えておくことが大切です。
これ、ごもっともなんですけどね。
まず大前提として、特に東京都を始めとする大都市圏の多くで、『住民全員が必ずしも避難所に入れるわけではない』ということ、ご存じでしたか?
人口密集地では、地域の人口に対して災害時に避難所となる学校やホールなどのキャパシティが足らないことが多いので、耐震性の高い家が多い新興住宅街や、マンションなどの住人は、最初から避難所に収容する人数にカウントされていないことが、かなりあります。
でも、被災時に避難所へ行っても追い返されたりはしないでしょうが、避難所が溢れてしまったら、在宅避難か他所への移動を要請されることもある、ということです。ご自宅が避難所収容対象地域かどうかは、お住まいの自治体の防災課などに確認してみてください。
大都市圏では、多くの場所で避難所が足りないという現実があるので、こういう内容が書かれているわけです。言うまでもなく、東京都は“日本で一番避難所が足りない”地域なのです。
それでも避難所へ行く
1995年の阪神・淡路大震災後から指摘されていましたが、地震であまり被害を受けなかった家の人も、多くが避難所へ入りました。それは、その後の地震災害でも同様のことが起きています。
その最大の理由は、「余震が怖いから」
損傷を受け、部屋の中はぐちゃぐちゃで、しかもインフラが止まった家で、多発する余震に堪えるのはとても恐ろしいことですし、二次的な倒壊の危険もあります。 非常にレアケースではありますが、熊本地震のように震度7が2連発ということも、現実に起きています。
家にあまり被害がなく、在宅避難が可能な人でも、余震が怖いからと自宅駐車場の車の中や、庭にテントを張って生活していたことも多かったのです。それくらい、大地震で被害を受けた後の余震は、精神的にキツいわけです。
それに、周囲で居住不可能の家の人は避難所へ行って近所の人口が減り、水もガスも電気もなく、夜は真っ暗。火事場泥棒や性犯罪者に遭遇する危険もある。
そんな中で堪えるのは、仮に余震が無くても、できれば誰もやりたくありません。テキストでは、避難所では環境の変化で体調を崩す人もいるから、慣れた居場所で落ち着いて過ごせ、だからできるだけ避難所来るな、というニュアンスですが、災害後は自宅が全然落ち着けないから避難所へ行きたくなるという、実は逆の話なのです。
でも、多くの場所で避難所が足りません。そんな現実に一切触れずに、できるだけ避難所来るなと言うのも、どうなのでしょうか。
行政の不備や後手は、隠匿するということでしょうかね。でもこれは行政の手抜きとかじゃなく、人が多すぎるんだからしょうがない、ということなのですが。
在宅避難のデメリット
在宅避難は、慣れた居場所であるという以外に、メリットがかなり少ないのです。列挙しましょう。
■インフラ停止下では、情報が入ってこない。特に、地域の情報がわからない。
■町内、マンション単位などで在宅していなければ、人が減って話し相手も減り、互助体制ができず孤立することもある(災害後は、話し相手の有無がとても重要なのです)。
■街を監視する人目が減り、治安状態が悪化しやすい。
■避難場所が行政に把握されず、避難所に集約される支援物資、水などが分配されないことがある。分配されても、避難所から運搬する手間がかかる。
■家の中で体調を崩したりケガをしたりしても、発見されない可能性がある。
ざっと考えても、こんなにあります。『東京防災』のテキストでは、避難所は居心地が悪い→在宅避難は備蓄があればできる→だからやっとけ、という話ですが、避難所へ入りたくなるのは、備蓄の問題ではないことがおわかりいただけるかと。
その裏に、避難所不足という問題があることを隠しているのがイヤらしいのですが。
ともあれ、避難所はプライバシーが保てず、ストレスが多いのは確かなものの、情報や支援物資の到着が早く、何よりも、同じ体験をした人がたくさんいる場所です。
被災後で不安な時は、人がたくさんいる場所が安心、という心理が働きます。だから、人は駅前とかにも集まる。
備蓄にしても、自力でまかなえるのはせいぜい3日間から1週間。その後は公的支援を受けながらということになると、在宅避難の困難さが増して行くのです。
そういう現実を無視して、備蓄さえあれば在宅の方が楽、みたいに思わせるような内容を、管理人は糾弾します。
これは監修者だけの問題ではなく、避難所の不足という現実を書かないようにという、“天の声”が降りて来ているのを感じます。
実は自分が避難所の収容人数にカウントされていないということを都民に知られると、対応不可能なのに苦情が増えるという“不都合な真実”なのでしょう。
ならばどこへ行こうか
いくら備蓄があっても、家が危険になれば、避難所へ入るしかありません。それは、堂々と主張できる権利です。
しかし、大都市圏の多くの避難所は、キャパシティを超える人数が詰め込まれることは間違いありません。一時的には、帰宅困難者まで面倒を見ることになるかもしれませんし。
つまり、かなり劣悪な環境になるということです。特に、当初のトイレはルールも秩序もなく、掃除する人もいないとなれば、どうなるか。
自宅ならば、ビニール袋を使うだけで快適な環境が保てますし、便所理剤やマンホールトイレなどがあれば、さらに快適です。それに何より、人目を気にしなくて良いのです。
家が損傷していても、トイレだけは自宅へ帰るという例も多いのです。
こんな話もあります。阪神・淡路大震災では、断水下で損傷した無人の家のトイレに侵入して用を足し、タンク内に残った最後の水で水洗して去るという、後に『トイレハンター』と呼ばれた人も多かったとか。
もちろん、それは不法侵入と水の窃盗に当たる犯罪行為ですが、どこか憎めない話ですね。なにしろ、それくらい清潔なトイレを渇望する状況になるということなのです。それを考えただけでも、在宅できるならする、という選択肢を取りたくなります。
しかし結局のところ、居場所がなければ避難所のお世話になるしかありません。
なにしろ、在宅避難の現実的なメリットもデメリットも明らかにせず、体調がどうのというくらいの理由で在宅を勧める『東京防災』、都民をバカにしているんじゃないかと考える管理人は埼玉県民ですがw
まずは、ご自分が本当に避難所に入れるのか、入るならばどこなのかを、お住まいの自治体に確認されてはいかがでしょうか。
■『東京防災』は、東京都防災ホームページからデジタル版が閲覧できます。また、PDF版や電子書籍版も無償で配布されています。詳しくは下記リンクからご覧ください。
東京都防災ホームページ
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