【東京防災ってどうよ18】ここがダメなんだよ【14】(#1239)
『東京防災』にツッコむ14回目は、前回(#1238)から続く、落雷編です。
【155ページ】注意が必要な場所
グラウンドやゴルフ場、屋外プール、堤防や砂浜、海上などの開けた場所。さらに山頂や尾根などの高い所も注意が必要です。
すなわち、広くて平らな場所と高い所は、どこでも危険ということです。ただ、近年増えている落雷事故例からすれば、『木の下で雨宿り』することへの警告も、絶対に必要です。
一応、そういう意味合いのことは書いてありますが、雨宿りが危ないと理解できる方は少ないでしょう。
個別の例として、3つの場合が挙げられています。
【樹木などの高いものに近づかない】
雷は、樹木などの高いところや高く突き出た物に落ちやすいので、特に木の近くにいる場合は、最低でも木(幹・枝・葉)から2m以上離れます。
これは一応、側撃雷(そくげきらい)の危険を言っています。しかしこれを読んで、激しい雷の時は木の下での雨宿りをしてはいけないと理解されるでしょうか。
側撃雷は幹だけでなく、枝や葉の表面を伝って近くのものに飛び移ることがありますから(前記事#1238参照)、雨宿りできる場所は、すべて危険ゾーンなのです。
すなわち、激しい雷雨の時は、木の下で雨宿りなどもってのほか。他に安全な場所が無ければ、木から離れてずぶ濡れでいなければなりません。
基本的に、周りに地物が少ない大きな木ほど落雷の危険が大きくなりますが、過去には、市街地の街路樹に落雷し、雨宿りしていた子供が亡くなった実例があります。
森の中にいるような場合でも、現実には一番高い木に落雷するとは限らないのです。
安全距離について
『東京防災』では、『最低でも木(幹・枝・葉)から2m以上は離れます』とされています。
しかし、2m離れれば側撃雷を受けない、という意味ではありません。これは、側撃雷を受けた場合でも、死亡する可能性が小さくなるという距離です。
だから『最低でも』と表記されているのですが、そういうニュアンスは、わかる人にしかわかりませんね。2mでは、重傷を負う可能性があるのです。
最近の判断では、側撃雷を受けても軽傷程度で済むとされる距離は4mとされており、当ブログもそれを採用しています。
理屈はともかく、激しい雷雨の時に木の下で雨宿りをするのは危険である、という表記をせずに、さらには側撃雷という現象についても全く触れられていないのは問題です。
これなど、『専門家』が理論だけで書いて、しかし一般向けとして専門用語を避けた(しかも割当て文字数が足らない)結果、具体的に何をすれば良いのかわからなくなっているという、防災に限らずよくある失敗の典型でしょう。
ところで。
この記事のイラストにも、大問題があるんです。それは後ほど。
ひとつ飛ばして、3つめの項目へ進みます。
【安全な場所がないとき】
近くに安全な場所がない時は、電柱などの高い所から4m以上離れた場所に退避します。姿勢を低くして持ち物は高く突き出さないようにします。
言わんとすることは、高い場所の近くにいることで自分への直撃を避け、さらに側撃雷や地面を流れる電流の危険を避けるということなのですが、これも問題アリアリですね。てか、4m、出てきたでしょw
ここには『最低でも』と書いていないことが、2mとの危険度の違いなんですよ。でも、マニアじゃない素人は、そんなもの誰も読み取れませんよね。ほんと読者を無視した、『専門家』の理屈ごっこみたいなものです。
問題はまず『電柱などの高い所』という、ふんわりした表現。とりあえず、電柱以上の高さという理解をするにしても、じゃあ東京スカイツリーでも一緒なの?という話。
しかも、4m以上離れれば100mでもいいんかい、という。だから、これを読むのは、書いていないことも読みとれる専門家やマニアじゃないんだよ。
どうやったら安全なのか
まずそこからですが、屋内や車に退避できない場合、高いものの近くに寄ることで、自分への直撃を避けること自体は正しいのです。
ただ、『高いもの』の高さによって安全行動が変わりますし、距離だけでなく、角度も重要になります。そんな情報、この程度の文字数で書くなんて、最初から不可能なんですよ。
大地震より、何百何千倍も遭遇する可能性が高い落雷のことなんですけどね。
さておき、自分への落雷を避けるための『高いもの』の使い方は、実は過去記事にまとめてあります。
落雷事故の発生を受けて書いた、2012年5月の緊急特集です。 ぜひそちらをご覧ください。目指すところは一緒ですが、『東京防災』とはだいぶ違うのがおわかりいただけるかと。
『東京防災』には、いかに必要な情報が無いかがお分かりいただけるでしょう。もし、地震がメインだから他の災害はホドホドで良いとか考えているとは信じたくないですが、内容を見ればそうとしか見えません。
【緊急特集・番外編】雷から生き残れ!【1】
【緊急特集・番外編】雷から生き残れ!【2】
【緊急特集・番外編】雷から生き残れ!【3】
【緊急特集・番外編】雷から生き残れ!【4】
ここでは、もうひとつの問題にツッコみます。イラストです。
イラストの人物、頭を抱えて体育座りみたく腰を下ろしていますが、これはとんでもないこと。
なお、雷に対して頭を抱える意味は、あまりありません。まあ、頭を手で押さえて、1cmでも低くなろうとする意識なら良いのですが。可能性としては、腕に落雷してくれれば、多少は頭部や体幹を流れる電流が減り、ダメージが軽減されるかもしれませんが、まあ理屈の世界です。
イラストは、激しい雷鳴などにビビっている様子なのかもしれませんが、誤解を招くだけの無意味な、いや有害な表現です。描く前にきちんと打ち合わせしようねw
とにかく低くなれ?
とにかくこの場合、せっかく高いものの近くにいるのですから、あなたは相対的にできるだけ低くなって、雷様から見つからないようにしなければなりません。
これは冗談ではなく、低ければ低いほど、落雷の可能性は小さくなります。しかし、ならばと地面に伏せたり、腰を下ろしてはいけないのです。
落雷した場合、避雷針にはアース線があるので、電流はそこから地面に流れます。それでも、一部が地表を流れることも考えられます。
これが立木などの場合、強い電流の大半が地表を流れることがあり、地面を稲妻が這うようなこともあります。
その場合、地面に触れている体の面積が大きいと、激しく感電してしまうのです。イラストのように腰を下ろしていたら、例えば電流が尻から入って足に抜けるというように『回路』ができやすくなってしまい、電流による体内のダメージが大きくなります。
ですから、この場合の正しい姿勢は、
『両足を揃えてしゃがむ』
のです。足が離れていると、『回路』ができやすくなりますから、できるだけぴったりと揃えて、可能ならば一点で地面と接するのが理想です。足を揃えられない場合でも、なるべく近くに。
上画像は、国立青少年教育振興機構のウェブサイトより、子供向けの『山で雷にあったら』編からお借りした記事イメージです。体験・遊びナビゲーター
画像では頭を抱えていますが、これは少しでも低くなるための姿勢であり、推奨されているわけではありません。テキスト部分も引用させていただきます(下記太字部分)
姿勢はなるべく低く!足を開いていると、電気が体の中を通りやすくなるので、両足をそろえてしゃがむのが良いです。※足を交差するよりそろえる方が電流がながれにくいです。
なお、靴のゴム底程度の絶縁効果では、雷の大電流大電圧には全く太刀打ちできません。簡単に絶縁破壊されるか、溶けて穴が空きます。
しかし、落雷地点と距離があるなど、電流がそこまで強くなかった場合には効果があるでしょう。
そういうことがわかると、体育座りしていたり、前掲のイラストのように、木の近くで突っ立っている人など、あり得ない行動なわけですよ。
これも、イラストレーターとの打ち合わせ不足ですね。
というか、毎度ながら『東京防災』ともあろうものが、こんな大ウソを平然とタレ流しているわけですよ。管理人がいつも「監修者出て来い」と書く気持ち、お分かりいただけますか。
ざっくりしすぎ
あ、上のリンク記事お読みいただけましたか?
『東京防災』の記事が、いかにざっくりしていて不十分か、良くおわかりいただけたかと思います。
『高いもの』に寄って危険を避ける場合は、実はもっと簡単なんですね。4mとかに寄って「落ちるなよー」と、
ドキドキする必要はあまりないのです。
最後に、リンク先記事にも書いてあるのですが、トリビア的な知識を。
高圧送電線の鉄塔は避雷針代わりになりますが、高圧送電線の真下も、実は落雷しないということが、経験的に知られています。
もし他に逃げ場が無い時は、管理人ならそこへ行きます。
■当記事は、カテゴリ【『東京防災』ってどうよ】です。
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