【東京防災ってどうよ35】今できる?防災アクション【2】(#1265)
『東京防災』の『今やろう!防災アクション』にツッコむ、本編に入ります。
この章は、
■物の備え
■室内の備え
■室外の備え
■コミュニケーションという備え
という4つのテーマで、自主的な災害対策を“指導”していますが、例によって机上の空論や詰めの甘さ、非現実的な内容が見られます。
コンセプトが正しくても、多くの人が実際にできて、災害時に役に立たなければ意味がありません。
『防災の専門家』のやっつけ仕事の場であってはならないのです。
では、始めましょう。
【084ページ】物の備え
災害対策の大きな柱のひとつが、物資の備蓄です。
防災というと、これが最優先というイメージがどうしてもありますが、これは災害から『生き残る』ためではなく、『生き延びる』ための行動です。
現実には、市販の『防災セット』を買って、そこで止まっている方も多いでしょう。
もし、もう十分に備蓄をしているから安心と、それ以上の対策をお考えではない方がいましたら、それも大きな間違いです。
いずれにしても、まず災害生き残らなければ、何の役にも立ちません。
さらに、世間の防災情報通りに備蓄をしていても、それが正しくないこともあるし、役に立たない防災グッズもあるということをお忘れなく。
シリーズ前記事で触れた、『非常持ち出しにカップ麺』のように。いや、もっと致命的な誤りもあるのです。
実際に備蓄をやろうとすると、何を備えたら良いのかわからない、意外におカネがかかる、収納場所を取る、入れ替えが面倒など何かと問題が出てきて、そのうちに放置されてしまうことも多いもの。
それを乗り越えて、効果的な備蓄を維持するためにはどうするか。『東京防災』にはその方法も示されていますが、果たしてそれは、本当にできるのか?
日常備蓄という考え方?
最初のページにあるこのイラスト、凄いですよね。大量の備蓄品が専用スペースにぎっしりという。
でも、これはどういう意図があるのでしょうか。理想の姿?できればこのくらいやれという“指導”?
誰もが考える理想は、自分専用の備蓄倉庫が家のすぐ近くにあって(家の中ではデッドスペースとなって邪魔だから)、中味の管理は他人がやってくれたらいいなとw
でも、自分で選び、買い、収納し、管理しなければならない。そして、備蓄の内容はできるだけコンパクトかつ無駄が無く、十分な量が無ければならない。
簡単なことではないのです。
そんなこんなでなかなか手をつけられない人にアピールするためなのか、最近現れたのが、『日常備蓄』という考え方。『ローリングストック』と呼ばれることもあります。
このイラストのイメージですね。テキストには、こうあります。
『これまでの災害用備蓄は、乾パンやヘッドライトなど普段使わない物を用意する特別な準備と考えられてきました。そのための管理や継続が難しいとあきらめてしまう人も多かったはず。しかし、日頃利用している食料品や生活必需品を少し多めに購入しておく「日常備蓄」なら、簡単に備蓄ができます。』
上記テキストの太字の部分をご覧になって、例えば日頃から家族などの食を預かるあなたは、「それなら簡単!」と納得できますか?
これぞ、やったこともない奴が頭で考えただけの、典型的な机上の空論なのです。
自宅で調理して食事をしている場合、少し多めに購入しておける、冷蔵庫を使わなくても保存が効く食材が果たしてどれだけありますか?
現実には、米、乾麺類、缶詰、レトルト・インスタント食品、ミネラルウォーターくらいしかありません。
しかも、上下水道が復旧するまでは米は事実上無洗米でなければならず、乾麺も茹でる水が確保できなければ、調理できません。
無洗米、使ってますか?管理人は使っていません。
さらに、それぞれの食生活スタイルに影響されるものの、缶詰やインスタント食品は普段の使用頻度が低いですよね。というか、家での調理が中心の場合、ほとんど使わない。
すなわち、『ローリング』(=回転)できるのは米や麺など主食とおかず少々であり、インスタント食品や缶詰は、普段生鮮品があっても意識して消費しないと『ローリング』できない、ということです。
しかも、備蓄量も米や麺などを除けばせいぜい2~3日分を余分にストックできるくらいなもの。普段遣いの食品収納スペースに、それ以上の余裕ありますか?ある方がうらやましいw
その程度の効果しかないものを、「簡単に備蓄ができます」などと言えるのですよ『防災の専門家』は。なぜなら、自分でやったことも無いか、メディア向けの形を表面だけ作っているだけだからです。
『日常備蓄』は、あくまで総合的な備蓄の一部を担うに過ぎないのです。
『日常備蓄』が推奨されるようになった裏には、商業ベースの『防災の専門家』が大好きな、今まで無かったトリビアを提示して目立ちたいという発想と、非常に親和性が高い考え方だと言うのが大きいかと。
行政としては、意識して災害用備蓄をしない層が少しでも備蓄を持つことで、発災害時の公的支援への負担を大きく減らせる、という意図もあるでしょうね。
でも、そこに現実の行動や経験から来る裏付けはろくに無い机上の空論が中心なので、実に薄っぺらな話でしかなく、いざ実際にやってみようと思っても、それほど大きな効果は上げられないのです。
驚きの自己否定w
もちろん、管理人は『日常備蓄』を否定するわけではありません。
管理人が批判している対象は、『東京防災』だけでなく各メディア上で、「こうすれば問題解決!」的なノリで扱われていることに対してと、そういうレベルで拡散している、口先だけの『防災の専門家』に対してです。
繰り返しますが、『日常備蓄』でできることは食品備蓄の一部に過ぎず、他の対策を補完するものに過ぎません。それだけで簡単に十分な備蓄ができるわけではないのです。
それでも、『今やろう、防災アクション』のトップを飾る記事でした。
でも、ページを一枚めくると、驚くべきことが起こるのです。
次回へ続きます。
■当記事は、カテゴリ【『東京防災』ってどうよ】です。
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誰もが考える理想は、自分専用の備蓄倉庫が家のすぐ近くにあって(家の中ではデッドスペースとなって邪魔だから)、中味の管理は他人がやってくれたらいいなとw
もしかしてこれ、管理人付き貸しスペース的な発想でビジネスを始めるヒントでは?
さらに、それぞれの食生活スタイルに影響されるものの、缶詰やインスタント食品は普段の使用頻度が低いですよね。というか、家での調理が中心の場合、ほとんど使わない。
行政としては、普段からもっと缶詰とかを食え、と言いたいんでしょうね。
投稿: N | 2016年9月19日 (月) 13時19分
そもさん、消費期限すら把握出来ない人が何を出来るというのか?
メモして冷蔵庫やカレンダーに貼る程度5分もあればできるでしょに。スマホアプリでもいいけど、スマホに機能や情報が集約され過ぎるとリスクが跳ね上がってヤバいと思う。大事な情報は手書き、はっきりわかんだね。
雨に強い屋外用ロッカーと鍵(紛失リスクを考えると暗証番号式が望ましいか?)だけで安くても1万は掛かりますから防災は本当に金がかかる
投稿: ブラウニー | 2016年9月19日 (月) 15時05分
>N様
なるほど。ビジネスという発想はありませんでした。正直、個人相手ではキツいかと思いますが、大規模マンション単位や富裕層向けならば、可能性はありますね。
日常備蓄、ローリングストックという考え方自体は、それなりに合理的ではあります。でも、日常の食材と非常用食品がほとんど重ならないという、根本的問題がありますね。
仮に缶詰を日常の食事に使ってローリングするための具体的な指導があったとしても、今度はハイコストという壁が立ちはだかるわけで。
つまるところ、防災備蓄はいろいろな意味で余裕が無ければ難しいということですね。
それを、「簡単にできます」なんて平然と言いやがるわけだ『防災の専門家』と、食い込まれた行政はw
投稿: てば | 2016年9月20日 (火) 09時05分
>ブラウニー様
そうなんですよね。備蓄も含めた災害対策は、災害時における自分の状況を想定して、それに合わせた物と行動を自ら策定し、定期的に対策状況を把握し、継続的にメンテナンスをするという、実はかなり高い労力と能力が求められるわけです。
能力があっても、ハイコストと面倒という壁があるので、やりたい意識はあっても、防災セット止まりだったり、防災本や帰宅地図読んで(下手すると買っただけでw)終わってしまう。
だから、その日常備蓄の勧めは、取りかかりのハードルを下げようという意図があるのはわかりますが、負担が増えるだけならば、継続されない。
実に面倒ですよね。
状況に合わせて備蓄内容をアドバイスして、メンテのタイミングやアイデアを教えてくれるアプリなんて、結構商売になりませんかねwあくまで平時用の。
非常時は、ローテクでバックアップですよね。最後は紙が無敵。
ベランダなどに置く小型の防災ロッカーなんて、意外にいいかも。内容物の定期メンテ付きでとかwまあ、私はそんなので商売する気はありませんけどねw
投稿: てば | 2016年9月20日 (火) 09時25分