【調布墜落事故】この報道の意図とは?(#1332)
過日、読売新聞ネット版にこんな記事が掲載されました。ちょっと長くなりますが、全文を引用させていただきます(下記太字部分)
【調布墜落機は速度不足…機首上げ過ぎも重なる】
2017年07月05日 08時55分 読売新聞
東京都調布市で2015年7月、5人が乗った小型プロペラ機が墜落した事故について、運輸安全委員会が、機体の速度が通常より遅かったことや、機首が上がりすぎていたことなどが重なり、墜落した可能性があるとの調査報告書をまとめたことがわかった。近く報告書を公表する。
事故は同年7月26日午前11時頃に発生。小型機が調布飛行場を離陸直後、同市内の住宅に墜落、炎上し、機長ら男性2人と、全焼した住宅に住む女性1人の計3人が死亡したほか、同乗の3人と住民2人の計5人が重軽傷を負った。
関係者によると、同委員会は、現場周辺で撮影されていた事故直前の機体の映像など、様々なデータを分析。その結果、〈1〉通常より速度が遅い状態だった〈2〉過度な機首上げの状態だった――などの可能性が浮上したという。同委員会では、こうした要因が複合的に重なり、墜落した可能性が高いと結論づけた模様だ。
だからなんだという話?
管理人はかなりの航空機ヲタで、特に航空機事故には強いこだわりを持っており、航空機事故関連の記事もかなりアップしております。
2015年7月に東京の調布飛行場で発生したこの事故に関しても、下記リンクの関連記事をアップしております。コメント欄では、コメントを頂戴したプロの方々と、原因についてかなり専門的な、マニアックなやり取りもしておりますので、興味のある方はご覧ください。
東京・調布で小型機が住宅街に墜落(#1036)
【調布墜落事故】おかしな専門家が現れた(#1037)
【調布墜落事故】当ブログとしてのまとめ(#1038)
ところで、上記の記事はあくまで伝聞形式で、関係者からの情報を元に書かれたようです。報告書はまだ(2017年7月16日時点)公表されておらず、運輸安全委員会のウェブサイトでも、『調査中の案件』とされています。
記事には『近く報告書を公表する』とあるので、その内容が関係者から事前リークされた、ということなのでしょうが、肝心の事故原因については、全く言及されていません。記事では、事故原因として
機体の速度が通常より遅かったことや、機首が上がりすぎていたことなどが重なり、墜落した可能性がある
とされていますが、問題はなぜそうなったのか?ということなのです。
一体なぜ?
事故機に関しては、離陸滑走中や離陸直後の映像が残っています。
それを見た管理人の印象は、少なくとも離陸直後は「遅い、低い、エンジン音がおかしい」というものでした。埼玉県の桶川飛行場で軽飛行機の離着陸をたくさん見てきた管理人はそう感じ、それは現地で事故機の離陸を実際に見た人の印象とも重なるものでした。
ただ、事故機の映像という先入観を持って見たために、「きっと異常があるに違いない」という先入観に影響されていることも否めず、それは現場からの証言も一緒です。それでも、映像を何度見返しても、やはり普通の離陸とは違う、という印象は拭えません。
しかし、離陸滑走中の映像では、離陸距離も速度も、特に異常は認められなかったのです。となれば、浮揚直前または直後に何かトラブルが発生した、と考えるのが普通です。
なお、事故機は満席の5人搭乗で、理由は不明ながら飛行に必要な量よりはるかに大量の燃料を搭載していてかなり重かったこと、事故当日は非常に暑く、エンジン出力が上がりにくい状況であったこともわかっていますが、あくまで飛行可能な許容範囲内であり、それが直接的に事故に繋がる原因ではない、ということは明らかになっています。
その機体が、異常な低速で機首上げ角度が大きすぎるという状態に陥るには、それなりの理由が必要です。大まかに分ければ、エンジントラブルかパイロットミス、ということです。しかし、それについては、少なくとも報道では一切触れられていません。
何か隠されているのか?
とりあえず正式な報告書の発表を待ちたいとは思いますが、伝聞による報道でも、あまりにも意味が無い報道内容です。
上記リンクの過去記事コメント欄では、プロパイロットの方のご意見として、『離陸後に破裂音が聞こえた』という証言から、エンジンの異常燃焼(デトネーション)が発生し、エンジンが損傷して出力が急激に落ちたのではないか、というご意見を頂戴しました。これは、明らかになっている状況すべてと整合性のあるもので、管理人としてもその説を支持しています。
とにかく、パイロットが離陸直前または直後に全開状態のエンジンを絞るなどどいう異常な行動を取らない限り、離陸直後に飛行が維持できないほどの低速になることの説明にはなっていないのです。
残された映像からは、事故機は上昇どころか水平飛行も維持できず、何度も頭上げ操作(操縦輪を手前に引く)操作を繰り返しながら墜落に至った、ということもわかります。速度が足りなくて頭が下がってしまうのを、なんとか水平を維持しようとしているパイロットの必至の努力が伺われます。
そんな失速直前の状態では、ある意味過度な機首上げに陥ってしまうのは当たり前とも言えます。とにかく、そんな低速状態に陥った理由こそが、この事故の主原因ということに疑いはありません。
そして、それはエンジントラブルによる可能性が最も大きいと、管理人は考えています。
もしエンジンの異常燃焼が原因で、それが大幅な出力低下をもたらしたのならば、エンジン内部には確実にその痕跡が残りますので、エンジンを分解してみればすぐわかります。
事故機のエンジンは、米国の製造メーカーに送って分解調査されているので、それも明らかになっているはずです。
しかし、関係者からと思われるリーク報道には、まるでパイロットが操縦ミスをしたかのような印象さえ受ける、あくまで現象面の原因しか触れられていません。そこに、何か意図はあるのでしょうか。
もちろん、パイロットが何らかのミスをした可能性も捨てきれません。それにしても、記事はあまりに不十分であり、偏向したものに感じます。
まだ追いかけます
なにしろ、近いうちに正式な事故調査報告書が発表されるということなので、それを見てから判断しましょう。
専門の方、お詳しい方に限らず、またこの事故に関してのご意見を頂戴できれば幸いです。
■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
ご無沙汰しております。2年前、報道機関に抗議を行った際、しつこく長文を書かせて頂いた者です。
大変失礼ながら、こちらのブログタイトルも失念しておりましたが、貴殿であれば必ず記事をお書きになると思って検索してたどり着きました。
既にご承知のようにJTSBから当該事故に関する報告書が公開されました。
小型機の事故としては異例のボリュームでしたが熟読いたしました。
結果から言えば非常に残念な内容の物だと言わざるを得ません。
余り長文になると、ブログをご覧の皆様のご迷惑になると思いますので、技術的な部分を省いたコメントになりますが、調査書の中で当該機の緒元を基にした物理学的なデータ解析があり、これによればエンジン出力が50%程度まで下がっていなければ、今回の事故のような挙動には至らないという、非常に重要な指摘がありながら、調査の結果、エンジン出力の低下(もしくは何らかの原因で飛行継続のための出力が得られなかった事)については原因が不明であったと結論しています。
そしてココが最も憤りを感じる部分なのですが、2t近い最大離陸重量を僅かに50kg程度超過していた可能性を指摘し、あたかもこれが墜落に至った主たる原因であったかのように結論したことです。
当然ですがマスコミは「人為的ミスが原因」と報道を行いました。
おそらく、調査に当った担当官も、重量オーバーが主たる原因とは考えていないと思います(報告書を熟読すれば、明らかに違う原因を探ろうとしたアプローチはハッキリと伝わってきますし、かなり確信に近い分析データも多く掲載されています)が、国土交通大臣も早期公開を求めた事や、関係各所がうまく纏まるためには、このような形で公開しなければならなかったのかも知れないと思いました。
おそらく、これで二度と世間が注目する事もなければ、ガバナーについて再調査が行われる事もないと思いますが、せめて貴殿の公明なブログをお借りして「違うものは違う!」と記さなければ、亡くなった機長が浮かばれません。
願わくば、僅かな人数の方でも、興味を持ってお考えいただければと思います。
投稿: えぐ | 2017年7月21日 (金) 00時30分
>えぐ様
ご無沙汰でございます。私としましても、この事故の記事を書いたら、必ずやまたえぐ様からコメントを頂戴できるものと考えておりました。
私はまだ事故調査報告書を読んではいないのですが、えぐ様のコメントを拝見するに、やはり意味不明の内容だったようですね。
原因不明と断定しているわけでもなく、しかしたった50kgの重量超過が重大な原因であるかのように示唆するなど、ともかくもエアボーンした機体が水平飛行さえも維持できない速度に陥った原因としては、到底納得できるものではありません。
エンジン出力が50%程度でないと起きないシミュレーション結果であること、破裂音がした後にエンジン音が聞こえなくなったことなど、原因に繋がると考えられる重大なファクターが全く無視されていますね。
画像からは、エンジンは激しく焼けているものの、内部まで破壊されている状態には見えません。分解後の画像もすべて公開すべきではないでしょうか。
ガバナーも、きっと調査されてはいるのでしょう。でも、事故後の状態が飛行時にセットされたものか、事故の衝撃でそうなったものか判断できない、という理屈ではないでしょうか。しかし、そのことには言及さえされていないのですね。
この調査報告は、1966年の全日空727型機羽田沖墜落事故の調査報告を思い起こさせます。
ご存じ無い方のために敢えて書きますが、あの事故は、エンジンの異常燃焼によるコーンボルト切断に起因するものと考えるのが合理的です。それも、グラウンドスポイラーの異常操作に起因するエンジン吸入気流の乱れによるコンプレッサーストールの可能性が高い。
しかし事故調は、当初から高度が通常より低く速度も遅かった、空中で炎が上がるのを見たなどの目撃証言、回収された機体の損傷部位もそれを示唆していたのに、一切無視されました。
さらに、回収されたスポイラー操作レバーがセットを示唆する中間位置にあったものの、墜落の衝撃や回収時の接触によるものか判断できない、という理屈で無視されました。
加えて、明治大学の山名教授の実験による、エンジン異常燃焼説を補完する完璧とも言える接水姿勢の再現検証結果も、人格攻撃までして否定するという異常さで、結局のところ「マレのマレ」のケースとして原因不明とされたという経緯と、この事故の調査報告はなんとも似た臭いを感じざるをえません。
そして、お約束のメディアによる「パイロットミス」説大会。
あの事故では、当時再新鋭の「リアジェット」727型機の、大AOAにおける構造的危険を指摘させまいとする政治力が働いたのは、想像に難くありません。
調布事故では、調布飛行場の存続にも関わる問題になっていますので、またもやいろいろな力が働いたのかと。しかし、羽田沖事故の教訓から、常設の航空事故調査委員会が発足したはずです。
でも結局、日航123便事故でも今回でも、何らかの政治力が働くと、「本当のこと」を言えるほどの独立性は無い、ということなのでしょうか。人為ミスの可能性を示唆して『原因不明』とすることが、最良の”落としどころ”だった、そんな報告にしか見えません。
もちろん、事故調のメンバーも決して納得はしていないでしょう。でも、言えない。もし、羽田沖事故での山名教授のような人が出て来たら、”誰か”が全力で潰しにかかるのでしょうね。
そしてまた、忘れ去られて行くのでしょうか。
投稿: てば | 2017年7月23日 (日) 14時42分