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2017年9月28日 (木)

【ミサイル攻撃の基礎知識08】シミュレーション・X day01(#1342)

【このシリーズ最後は、“その日”のシミュレーション小説形式にしました。登場人物は、過去シリーズで(一部の方には)おなじみのふたりです。言うまでもなく、フィクションです】


異変


201X年X月X日夜、岩城衛は西新宿の高層ビルにあるオフィスで、書類と格闘していた。時刻は午後8時を少し回り、それでも今日はそろそろ切り上げなけりゃなと思った、その時。

オフィスに残っている数人のスマホから、あの不気味な警報音が、一斉に鳴り響いた。でも、今年に入ってからも、もう何度目か忘れるくらいで、すっかり聞き慣れてもいる音だった。だからだれもが「ああ、またか」くらいで気にも留めず、仕事を続けていた。

なにしろ、この『頑丈な』高層ビルにいれば、もし本当に何かが降って来ても 、十分に安全な場所でもある。

しかし、フロアのスピーカーから突然流れ出した、これも聞き慣れてしまった無機質な男性の声に、皆が一斉に仕事の手を停めた。ミサイル発射が常態化した頃から、Jアラート警報が発表されると、自動的に館内放送にリンクされるようになっていたのだ。

その日は、“いつも”と違っていた。

『ミサイル発射。ミサイル発射。この地域に、着弾のおそれがあります』


標的


皆が一斉に、天井を見つめた。すぐに席を立って、窓に駆け寄る者もいる。しかし窓の外には、いつもと変わらない、きらびやかな新宿の夜景が拡がっていた。

衛も、デスクに近い東側の窓から思わず外を見た途端、あんぐりと口をあけたまま、固まった。

かなり離れた場所から、オレンジ色のまばゆい光の筋が、空へ向かって伸びて行ったのだ。最初の光から少し間をおいて、2本目、3本目、4本目と続き、6本目を数えたところで、誰かが叫んだ。

「市ヶ谷のPAC3だっ!」

東京、市ヶ谷の防衛省に配備されたペトリオットPAC3ミサイルが、迎撃射撃を始めたのだ。衛の脳裏に、何かの戦争映画で聴いたセリフがよみがえった。

《これは訓練ではない。繰り返す。これは訓練ではない!》

誰もが、自分の置かれた状況を悟った。東京が、狙われている。衛は、今までに何度も報道を聴いたり、関連のブログを読んだりしているうちに、すっかりと身についてしまった知識で、一瞬のうちに考えた。

『市ヶ谷のPAC3が発射されたということは、イージス艦のSM3ミサイルで撃ち漏らしたミサイルが、東京の中心部に向かっているということだ、PAC3が命中しなかったら、東京にミサイル、もしかしたら核弾頭が落ちてくるかもしれない!』

しかも、PAC3は合計6発も発射されたようだ。ひとつの目標に対して2発が発射されるそうだから、東京を焼き尽くそうとしているミサイルは、1発ではない!

衛は、ズボンのポケットからもがくようにスマホを取り出すと、家にいるはずの妻、玲奈のスマホにかけた。しかし全く無音のまま、繋がらなかった。Jアラート警報の発表と同時に発信が激増して、システムがパイルアップしているのだ。あの、巨大地震の時と同じだ。

それでも、衛にはわかっていた。陸上自衛隊出身の玲奈は、こういう場合の対処法は誰よりもわかっているはずだ。衛とも、折りに触れて“本番”ではどうするかを、話し合っていた。

だから、大丈夫だ。できることは、すべてやるはずだ。でも、状況はあまりにも厳しかった。

東京が、複数のミサイルに狙われている。すなわちこれは脅しではなく、本気の攻撃なのだ。となれば、弾頭も“本気”―おそらく核弾頭―が搭載されていると考えなければならない。


Take cover!


衛はすぐさま同僚に声をかけて、オフィスを駆け出した。

衛のいる高層ビルは、中心部が空洞になっている。何度も繰り返した避難訓練の通り、ビルの最も内側の廊下に駆け込み、空洞部に面した窓ガラスの無い壁に身を寄せると、ジャケットを丸めて頭を覆いながら、べったりと伏せた。

あちこちのオフィスからも皆が駆けだして来て、廊下はパニック状態になった。悲鳴と怒号が飛び交う。伏せる場所が見あたらず、呆然と立ち尽くす者もいる。

一部の者は、オフィスの頑丈なデスクをひっくり返し始めた。天板を窓に向けて、その後ろに伏せることで、爆風と破片から身を守ろうとした。

それができない者は、そのままのデスクの下に潜り込んだり、太い柱の陰に伏せたりして、とにかく窓から死角になる場所を探しては潜り込んだ。

ここは高層ビルの45階だ。かなり離れた場所で核爆発が起きても、強烈な爆風と熱線を受けるのは間違いない。

しかし、最初の爆風と熱線の直射さえ避けられれば、生き残れる確率は大きく上がる。その後の放射線や火災などのリスクも大きいが、とにかく頑丈なカバーをとって爆風と熱線の直射、さらには放射線の直撃を、できるだけ避けなければならない。頑丈な鉄筋コンクリート壁は、そのいずれをも効果的に遮蔽する。

広島と長崎の被害を大きくしたのは、原爆投下時には空襲警報が解除されていて、ほとんどの人が地上に出ていたからだ。もしあの時、皆が防空壕に避難していたら、少なくとも人的被害ははるかに少なくなっていたはずなのだ。

ビルの最も奥にあり、窓も無く外部と最も遮断されている非常階段室には、我を忘れた人々が殺到した。決して広くないドア前は我先に飛び込もうとする人で溢れ、怒号と悲鳴の中で、つかみ合いも始まった。

皆が、文字通り“必死”だった。


記憶


日本人ならば誰もが記憶の中に焼き付いている、広島と長崎の惨状。しかしそのほとんどがモノクロームの印象で、赤い血にまみれた本当のことはほとんど誰も知らないし、現実的なイメージは持てない。

ただ、とてつもなく恐ろしくおぞましく禍々しいことが、ついに我が身にふりかかる、それは世界のどこの人々より、よくわかっていた。


東京が、消滅する。残された時間はおそらく、あと2分もない。果たして我々は、生き残れるのか。


【つづく】


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。


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