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2017年10月 1日 (日)

【ミサイル攻撃の基礎知識09】シミュレーション・X day02(#1343)

【ミサイル攻撃の基礎知識08】シミュレーション・X day01(#1342)からの続きです。


呼集


玲奈は、その時東京郊外の自宅にいなかった。

現在は米軍軍属となって米空軍横田基地に勤務している陸自時代の友人を訪ねて、東京の福生市内にいた。

彼女の部屋があるマンションの三階からは基地こそ見えないが、航空機の離発着音がほど近くから聞こえるくらいの場所だ。

そこで玲奈と彼女、そして彼女の友人の米空軍女性メディック(衛生兵)の三人で彼女の手料理を堪能したあと、食後のコーヒーを楽しんでいた。

午後8時過ぎ。基地の方角から、腹の底に響くような重々しいサイレンの音が突然、沸き上がった。三人には、それが何を意味しているのか説明の必要は無かった。皆が弾かれたように立ち上がると、それぞれの行動を始めた。

ほぼ同時に、玲奈以外のスマホから聴き慣れないアラームが鳴り響いた。ふたりは自動配信されたメールを開いて文面を一瞥すると、それでも息を呑んだ。彼女が叫ぶように言う。
「非常呼集だわ!」

メディックは目をむくと、普段の可憐は雰囲気とは似つかない、下品な言葉が口をついた。
「Shit! The command said this is not a drill! What's a hell!」(くそっ!司令部は『これは訓練ではない』って!なんてことなの!)

数秒後、玲奈のスマホからはJアラートの警報音が鳴り響いた。玲奈は文面を見ることもせず、衛の携帯へ何度目かの発信をしたが、やはりもう、繋がる気配もなかった。

でもそれは想定されていた事態であり、衛とは普段からどう行動すべきか話し合っている。だから、衛もやれることはすべてやっているはずだ。


轟音


米軍人であるメディックは、すぐに基地へ向かわなければならないが、軍属の彼女は、その必要はない。

コーデュラナイロン製のグリーンの大きなダッフルバッグを肩にかけて、厳しい表情で玄関に向かうメディックの背中に、玲奈は思わず、日本語で言った。
「どうか、ご無事で!」

すると彼女は靴を履きながら半分だけ振り向くと、軽くウインクをして日本語で言った。
「アナタタチモネ!」

その時、基地の方角から、雷を何百もまとめて落としたような轟音が押し寄せてきた。彼女が基地の方角のカーテンを開けると、思ったよりはるかに近い場所から、オレンジ色の光跡が真っ暗な西の空に向かって伸びて行くのが見えた。

それは数秒おきに次々に輝き、6発を数えた。メディックは玄関のドアを開けながらまた振り向くと、轟音に負けずに、叫ぶように言った。
「That's our patriots.It will save us!」(米軍のペトリオット(ミサイル)よ。私たちを守ってくれるわ!)

でも、最後にひとこと付け加えると、きびすを返して駆け出して行った。
「May be!」(たぶん、ね!)

残された玲奈と彼女は、状況を整理した。横田基地のペトリオットが発射されたということは、ミサイルの迎撃可能範囲からして、基地から半径約30kmの範囲にミサイルが着弾する可能性があるということで、それは核弾頭である可能性が高いのだ。

極東における米空軍の拠点である横田基地は、相手にしてみれば“最優先目標”のひとつだから、最初に狙われて当然だ。だから防御体制も厳重を極めているが、果たして。

弾道ミサイルの命中精度がどれほどのものかわからない以上、下手に逃げ回っても安全性が高まるとは限らないし、それ以前に、そんな時間は無い。ミサイルが迎撃をすりぬけて着弾するとしたら、残された時間はもう3分も無いのだ。


待避


“最悪の事態”になったら、もう何をしても手遅れかもしれない。 でも、生き残れる可能性がある限り、今できることを全力でやるだけだ。怖れおののいている暇は無い。

ふたりはリビングからバスルームに向かった。地震でも竜巻でも、そしてミサイル攻撃でも、この家の中でそこが一番安全であることは、普段から想定している。

重要なポイントは、爆風が突入してくるはずの窓からの動線に対して、バスルームの入り口は横を向いているということだ。

もしここが一般家屋で地下室でもあれば、そこが一番安全だ。しかし爆風による建物の倒壊と、その後高い確率で起きる火災を考えると、脱出できなくなる可能性も高い。

彼女はバスルームに入る前にエントランスへ行ってレインブーツを二足とリュックサックを、クロゼットから取り出した。そして玄関ドアを開くと、ドアクローザーで閉まらないように、ドアと枠の間にスニーカーを押し込んだ。このマンションを爆風が襲ったら、部屋の中を吹き抜けさせて圧力を逃がすためだ。

彼女はリュックサックとレインブーツを、バスルームに持ち込んだ。緑と茶がまだらになった陸自迷彩色のリュックの中には、ふたりで節約すれば2日分になる水と食品やトランジスタラジオ、強力なLEDライトなど通常の防災備品に加え、放射線環境下を移動しなければならない場合に備えて、ツナギタイプのレインウェアと大型の防塵マスクが、それぞれふたり分入っている。

もしここから脱出できなくなってもしばらくは持ちこたえられるし、脱出する際のリスクも、多少は抑えられるかもしれない。

ふたりは、風呂の残り湯が張ってあるバスタブの脇に、身を寄せて伏せた。 残された時間でできることは、ここまでだ。


祈り


玲奈は、すぐ隣で唇を噛んで蒼白な表情の彼女に、少し微笑みながら、言った。
「いろいろ、ありがとね」

彼女は、玲奈の眼をじっと見つめ返したが、言葉が出ない。それでも、しっかりと大きく、頷いた。玲奈の言葉から、深い意味を汲み取ったのだ。

それは覚悟の言葉でもあったが、決して諦めた訳ではない。玲奈は続けた。
「きっと、大丈夫。幸運を、祈りましょう」


【つづく】


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

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コメント

いつも参考にさせていただいております。
小説形式で書かれているところ申し訳ないのですが、小説が苦手なので通常のスタイルの解説記事もあると助かります。管理人さんの小説がどうというのではなく、小説全般が苦手なのです。。

>一読者様

ご愛読ありがとうございます。小説形式の後に、小説の内容について個別に解説をいたしますので、もう少しお待ちください。

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